映画『君の名は。』(2016)から3年。今夏、新海 誠監督待望の最新作『天気の子』が公開された。「新海ワールド」の特徴でもある、美しい色彩で描き出される作品世界は、本作でさらに磨きがかけられている。そんな観る者全ての心を掴む「新海ワールド」の秘密を暴くべく、メインスタッフへのインタビューを敢行。全3回にわたって、本作を支えた凄腕アーティストたちの本音をお届けしていく。第1回となる今回は「色彩設計」にフォーカス。「色」を組み立てるという作品の根幹に関わる工程だけに、その道のりは一筋縄ではいかないものだった。クリエイターにしか語れない、苦悩の舞台裏に迫る。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 254(2019年10月号)からの転載となります。

TEXT_草皆健太郎 /Kentaro Kusakai(BOW)
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)、野澤 慧 / Satoshi Nozawa
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

映画『天気の子』
全国東宝系にて公開中
原作・脚本・監督:新海 誠
音楽:RADWIMPS
声の出演:醍醐虎汰朗/森 七菜/本田 翼/吉柳咲良/平泉 成/梶 裕貴/倍賞千恵子/小栗 旬
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村 篤
美術監督:滝口比呂志
tenkinoko.com
©2019「天気の子」製作委員会

演出的なアプローチも考えて、ひとつひとつ色をつくる

新海監督がイメージした世界観と演出意図を基に、色を組み立てていく「色彩設計」を一手に引き受けたのが三木陽子氏だ。三木氏は『雲のむこう、約束の場所』(2004)で撮影補佐、その後『星を追う子ども』(2011)では色彩設計補佐・撮影、『言の葉の庭』(2013)は色彩設計・撮影チーフとして新海監督作品に参加し、本作では色彩設計と、さらに助監督としても携わっている。「以前から2Dデザインの貼り込み素材のディレクションなどもやっていて、色彩設計も新海さんのアシスタントの延長線上という気持ちが強いです。このアシスタント的な立場をどう明確化するか考え、本作では"助監督"の肩書きとなりました。企画会議に近いところから入り、新海さんがこの映画で込めたいというメッセージに、今までの作品の中で一番共感したことを覚えています」(三木氏)。


新海監督といえば「鮮やかな色彩」が特色のひとつで、これまで色彩設計の主要な判断は監督自身が担ってきた。三木氏によると、新海監督は最初に指示を出すのではなく、つくった色を見せると「こういう風にした方が、こういう気分が出る」と丁寧に説明してくれたという。そこで「新海さんの色のつくり方を見て、やり方を盗む」という職人的な方法で、新海監督の意図を探りつつ、自らの手法を組み上げていったそうだ。


色彩設計のプロセスは、一般的に美術ボードに合わせてカラーモデルをつくるが、新海監督はOKとなった美術背景に合わせてカットごとにセル(作画のキャラクターや小物)の色をつくるという。「長年新海さんの作品に携わっている渡邉 丞さん(美術チーム)が"新海さんはライブ感が大事だと言っていた"と話してくれました。美術ボードは設定なので、最終的な画面(映画)には映りません。求めるのはカメラを覗いて"あっ!"となるような画づくりです。仕上がった美術背景に対して、どこに光の重きを置くか、色の面積はどれくらいか、どんな気分を出すのか、計算してセルの色をつくることで、やっと本番の色が出せます。新海さんだったらどう色を置くか考えながら、自分の中でもこうしたいというアイデアが出てきて、新海さんと相談しながら色を決めていきました。答えは監督の中にあるので、打ちのめされることもありますけど(苦笑)」(三木氏)。


▲主人公・森嶋帆高のカラーモデル(ノーマル色)



▲実際の場面カット。登場人物の心情までも表現するような色遣いをしている

色彩設計のポイントは「そのカット、そのシーンに求められている気分、演出的なアプローチを色でどう表せばいいかという思考が必要です。夕方のシーンだからこうではなく、そう印象づけるためにどんな色が必要か考えることが、面白さでもあり、やりがいでもありますね」と三木氏。また本作では、色指定チームがスタジオ内に編成されたことにより、コミュニケーションがとりやすく、経験豊富なスタッフから新海監督作品以外の現場における色指定の仕事の仕方などを見ることもでき、三木氏自身も勉強になったそうだ。それでは、奥深い色彩設計の世界をみていこう......と、言いたいところではあるが、Webではここまで。実際の制作事例は本誌(『vol.254』)でご覧いただきたい。

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.254(2019年10月号)
    第1特集:映画『天気の子』
    第2特集:デザインビジュアライゼーションの今
    定価:1,512 円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2019年9月10日

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