>   >  ガンプラをデジタルデータ化し、新たな遊びを提案する......逆転の発想で挑んだ「RAPID SCAN DIGIRAMA THEATER SYSTEM -Take off from a catapult-」制作秘話
ガンプラをデジタルデータ化し、新たな遊びを提案する......逆転の発想で挑んだ「RAPID SCAN DIGIRAMA THEATER SYSTEM -Take off from a catapult-」制作秘話

ガンプラをデジタルデータ化し、新たな遊びを提案する......逆転の発想で挑んだ「RAPID SCAN DIGIRAMA THEATER SYSTEM -Take off from a catapult-」制作秘話

©創通・サンライズ

自分が作ったガンプラがCGムービーとなって動き出す...。ガンプラファンならずとも心が躍るイベント「RAPID SCAN DIGIRAMA THEATER SYSTEM -Take off from a catapult-」が実現した。2019年7月20日より9月1日まで、お台場「ガンダムベース東京」で開催された「ガンダム夏祭り2019」の一角で実施されたのだ。逆転の発想で挑んだ制作陣に話を聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

ガンプラを基に発進シークエンスのムービーを作成

「RAPID SCAN DIGIRAMA THEATER SYSTEM -Take off from a catapult-」の会場風景

来場者は自宅から持ち込んだり、イベント会場に設置された特設店舗のビルドルームで制作したりしたガンプラを、専用のシステムでスキャンしてもらう。すると、その場でCG映像素材向けのデジタルデータに変換され、カタパルトデッキからの発進シークエンス映像が制作される。こうして作られたオリジナルムービーは、会場の大型モニタで鑑賞できるほか、その場で発行される2次元バーコードからダウンロードすることもできる。ユーザー自身のスマートフォン端末で視聴したり、SNSなどでムービーを共有したりすることもできるのだ。イベント会場には自慢のガンプラを携えた参加者が連日詰めかけ、大きな話題を呼んでいた。

来場者が持ち込んだガンプラを専用システムでデジタルデータ化する

もっとも、ガンプラのような小型で複雑な立体構造物のデジタルデータ化は、相当な困難を要する。本分野について、少し知識がある人であれば、すぐに想像ができるだろう。イベント会場でオリジナルムービーを生成し、その場で来場者向けにダウンロード可能にするというのであればなおさらだ。そこにはバンダイナムコ研究所ならではのユニークなアイデアがあった。イベントの企画から試作・制作の舞台裏について、バンダイナムコ研究所の高子佳之氏と、冬寂フレイムの北田能士氏に取材した。

「ガンダム夏祭り2019」に向けた新提案

2019年に放映40周年を迎えて、なお大勢のファンに支えられる『機動戦士ガンダム』。それと共にガンプラ人気も絶えることはない。累計出荷数が2019年4月に5億個を突破した今も、なお販売数を伸ばし続けているのは、その証明だ。

それどころか、プラモデルの製造・販売を手がけるBANDAI SPIRITSでは工場を拡張中で、2020年秋から生産能力を現在の1.4倍に引き上げる計画だという。ガンプラ40周年の2020年には、横浜・山下ふ頭で実物大のガンダムを動かすイベントも予定。東京オリンピック2020に向けて、ガンダムとシャアザクを宇宙に打ち上げ、宇宙から応援メッセージを発信する計画も進められているほどだ。

その一方で、ガンプラを使った新しい取り組みや体験が常に求められているのも間違いない。特にガンダムをあまり知らない若い世代や、新規ユーザーに魅力を知ってもらうことが非常に重要だ。BANDAI SPIRITSではガンプラの魅力を幅広く発信するため、様々なイベント等を毎年行なっている。

こうした中、ガンプラの新しい遊び方を創出するために、2018年秋頃からBANDAI SPIRITS ホビー事業部担当者と、バンダイナムコスタジオ(バンダイナムコ研究所設立前、所属会社)とで、新企画のディスカッションが進められていた。そこで「ユーザーが制作したガンプラをデジタルデータに変換してバーチャル空間に取り込み、アニメ作品と同じような映像演出を実現できないか」という企画案がもち上がった。ガンプラファンにとって、積年の夢の実現とも言える企画だ。実現化する上で技術的ハードルが高いことは最初からわかっていたが、ガンプラファンの期待値は高いはず。そこで、2019年夏のイベントでのリリースを目標に、まずは技術研究を進めることになった。

開発ディレクターを務めたのは、スキャンシステムの基本アイデアを提案した髙子佳之氏だ。2000年にナムコに入社し、ビジュアルアーティストとして『リッジレーサー』シリーズ、『エースコンバット』シリーズなど、数々のプロジェクトに参加。その後、先端技術のリサーチや、それを基にした研究や開発支援を行う部署に異動し、AR技術の評価や研究開発に取り組んできた。2019年度にバンダイナムコスタジオから分割新設されたバンダイナムコ研究所に移籍。ゲームエンジンを活用し、ARエンターテインメントの新しい表現についてプロトタイピングを続けてきた。

高子氏はスキャンシステムの技術研究と並行して、ガンプラが置かれる時代背景に関しても、BANDAI SPIRITSの担当者と深くディスカッションしていったという。

前述のように、ガンプラは40年近い歴史を誇るロングセラー商品だ。これまで様々な販売施策が行われ、その度に多くの話題を集めてきた。ただ、その裏でプラモデル玩具という商品特性ならではの課題も抱えていたという。

そもそもプラモデル玩具には「つくる工程」があり、つくること自体に玩具としての魅力の源泉がある。ユーザーが自由にカスタマイズできる要素もあり、初心者から上級者まで可能性は無限大だ。その一方で、デジタルテクノロジーの進化や、インターネットの普及による社会の高速化など、過去40年間で時代が急速に変化してきた。それに合わせてユーザーの玩具に対する価値観や遊び方が急速に変化しているのは間違いない。

多種多様なエンターテインメントコンテンツが乱立し、それぞれのコンテンツが、顧客のわずかな隙間時間までも奪い合うような現代社会において、それなりの時間をかけてガンプラをつくるという楽しみ方を重荷に感じてしまうユーザーがいるかもしれない。また、これからガンプラ制作を始めたいと思っている初心者にとっても、いつの間にか敷居が高い存在になっているのではないか? というものだ。

このことはハイクオリティな完成品フィギュア市場が年々拡大していることからも推察される。本来楽しいはずのガンプラ制作が、ユーザーにとって手間がかかるだけの作業だと誤解されている可能性がある......。この課題解決に向けて、ガンプラでは過去40年近くにわたり、様々な技術革新が行われてきた。接着剤不要で組み上げられるスナップキット化や、塗装をしなくてもリアルな仕上がりが楽しめる多色成形はその一例だ。完成したガンプラを公開することも、つくるモチベーションにつながる。BANDAI SPIRITSが毎年開催するコンテスト「GUNPLA BUILDERS WORLD CUP」をはじめ、様々な展示会が公式・非公式に開催中だ。ネット上で自分の作品を公開している愛好家も多い。

こうしたガンプラを巡る現状と課題の共有の中から、浮かび上がってきたキーワードが「ガンプラユーザー同士のコミュニケーションの活性化」だ。苦労して作ったガンプラだからこそ、みんなに見せて自慢したいという気持ちが湧いてくる。それは、ベテランユーザーであってもライトユーザーであっても同じのはずだ。ただ、コンテストなどでは非常にレベルが高い作品が集まるため、ライトユーザーにとっては敷居が高い存在になっている点は否めない。もちろん、素晴らしい作品を生み出すガンプラユーザーは賞賛されるべき存在であるが、一方で、制作スキルの優劣によって一握りのユーザーにしかスポットが当たらない環境では、コミュニティの広がりは限定的なものになってしまい、将来的には縮小していく可能性もある。

そこで、もっとライトユーザーが気軽に参加できる場を提供するために、コンテストとは違う、まったく新しいアプローチの環境づくりが必要になると考えられた。その核となるのが、アナログと最新のデジタル技術の融合だ。これまで、アナログの世界でファンを拡大してきたガンプラだが、そこに大胆にデジタル技術を組み合わせることによって、アナログだけでは実現できなかった新しい表現や遊び方や、ネットを介したユーザー同士のコミュニケーションが生まれる可能性があるからだ。

「近年では自作したプラモデルを撮影し、別途CGで用意した背景と合成する『デジラマ(デジタル+ジオラマ)』というジャンルがあり、SNSなどに公開して楽しんでいるユーザーもいます。中にはガンプラをコマ撮り撮影して、CG映像と合成した、本格的なムービー作品をつくるユーザーもいるほど。しかし、この分野でも本格的なCG映像作品が作れるのは、知識と技術をもった一部の人に限られてしまいます」(高子氏)。この溝を何らかの手段で解消し、ファン同士の交流につなげられれば、ガンプラの魅力発信につながるのではないか......と、具体的な手法が検討されていった。

ネットを介したファン同士のコミュニケーションの拡大は、BANDAI SPIRITS側の意向にも沿っていた。同社では2011年から戦略的にガンプラの海外市場開拓を推進。専用サイトで無料のアニメ番組を配信し、知名度の向上に合わせてガンプラの販売体制を進めている。2012年からスタートした公式ネット販売に加えて、中国・韓国・台湾で13店舗(2020年2月現在)の直営店も展開。その結果、ガンプラの海外シェアは4割にのぼるという。

一方で、世界中のガンプラファンの同士のコミュニケーションを考えた場合、アナログ展示だけでは限界がある。コンテストなどの特別イベントに限られる上、国を超えた交流も難しくなるだろう。もちろん、現状でもネット上で世界中のユーザーが制作したガンプラの写真が大量にアップされており、そうしたコミュニケーション方法も有効だ。その一方で、それ以上の手段や体験が待ち望まれていることも、容易に想像された。

こうしたディスカッションを経て、イベントで実現したいイメージが次第に固まってきた。「ガンプラ制作が有する『つくる楽しさ』と、カスタマイズなどを通した『無限の可能性』を、ライトユーザーに発信すること」、「世界中に広がるガンプラファンのコミュニケーションを、ネットを介して活性化させること」、「デジタル技術を用いて、未来に向けた新しい遊びの提案を行うこと」だ。そのためには前述の通り、ガンプラのデジタルデータ化とインターネット上での共有が必須条件となる。要は、世界中のユーザーが制作したガンプラをデジタルデータに変換してバーチャル空間に取り込み、ユーザー同士が自由にコミュニケーションできる場所をつくる必要があるということだ。それこそが、ガンプラユーザーが待ち望んでいる未来なのだから......。こうして髙子氏のプロトタイプ制作が始まった。

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1分以内にガンプラをデジタルデータにするための秘策

Profileプロフィール

高子佳之(バンダイナムコ研究所)✕北田能士(冬寂/フレイム)

高子佳之(バンダイナムコ研究所)✕北田能士(冬寂/フレイム)

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