>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)
第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)

第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)

海外市場を視野に入れ全国規模の組織を構築したい

野口京都スタジオ(※2) はどういう意図で設立されたのですか?

※2:京都スタジオ
2012年7月に設立した、サンジゲンとライデンフィルムの京都スタジオのこと。

松浦:全国規模でスタッフを集めるためです。京都はその第 1 号で、今後 7 ヶ所につくりたいと考えています。1 年くらい前から計画してきたことですね。

野口:東京に出て来られない、地方の優秀な方を発掘するためですか?

松浦:そういう意図もあります。加えて、リスクの低さも要因ですね。最初は海外スタジオの設立も考えたのですよ。2011年には毎月のようにベトナムに行って現地の状況を確認して、中国も検討しました。そうやって色々と検討していく中で、何で海外ばかりをみているのだろうと気がついたのです。

野口:地方という可能性があるじゃないかと?

松浦:そう。海外の前に、日本中からスタッフを集めるのが一番良いんじゃないかと。地方であれば月々のスタジオ維持費は数万円で済みますし、治安などのリスクは非常に低い。そこで僕と縁のあった京都出身のプロデューサーが中心となって、まずは第 1 号の地方スタジオを設立することにしました。

野口:スタジオの規模はどの程度を予定していますか?

松浦:地方は 1 ヶ所につき最大で50 人ですね。全国 7 カ所で350人、東京スタジオは650人まで拡張して、全体で1,000人規模にしたいというのが現時点での目標です。地方に関しては、管理が難しくなるので50人が上限だと思っています。

野口:それだけの人数がいれば、相当数のラインを併走させることできますね。

松浦:20ラインをつくってやろうと思っています(笑)。その内、1/2〜2/3は海外の案件にしたい。サンジゲンに加えて、ウルトラスーパーピクチャーズ全体で考えると、今後は海外の市場にも目を向けるのが必然だと思っています。日本市場向けの作品をつくることも大切ですが、海外でできる可能性があるのに実践しないのはおかしいだろうと感じています。常にチャンスはあるので、それを活かせる環境を整備したいのです。これからのアニメ制作は、CG・世界・マーチャンダイジングの 3 つが肝になるので、それらを総合的にやっていきたい。

野口:世界市場への展開は、日本のアニメ業界全体が抱える課題ですね。日本市場を主なターゲットにすることで存続していて、海外では思ったほど売れていないのが現状ですから。

松浦:海外に打って出る際のひとつの目標として、ピクサーと共同制作ができたら面白いなと思っています。12月中旬(2012年)にね、ピクサー社内での『009 RE:CYBORG』の上映会を実施したんですよ。

野口:それは凄い。日本のアニメ業界では、スタジオジブリ以来の快挙ですね。

松浦:ピクサーは、CG アニメをつくりたい人の多くが意識している憧れの存在ですからね。いずれは彼らと一緒に仕事をしてみたい。そうすれば、日本で CG アニメをつくっている人たちも希望を持てると思うし、楽しい経験ができるはずです。僕らは監督の作家性に応じた制作体制をとっているので、『009 RE:CYBORG』のようなリアルテイストから『はなまる幼稚園』のようなデフォルメまで対応できますし、カートゥーンテイストだってつくれます。海外のプロダクションと手を組む可能性は充分あるだろうと思っているのです。

松浦裕暁ポートレイト4

 

野口:『009 RE:CYBORG』の場合は一部の制作を海外に発注したと伺っていますが、どのような作業を依頼したのですか?

松浦:ベトナムの SAO SANG DESIGN Co., LTD(※3) に背景モデリングやプロジェクションマッピング作業を手伝っていただきました。現地の社長さんとは何度もお会いしていましたし、すごく協力的で仕事も速かったですね。日本でつくる場合と比較しても、まったく遜色がありませんでした。

※3:SAO SANG DESIGN Co., LTD
『009 RE:CYBORG』制作に参加した ラークスエンタテインメント のベトナム子会社である、ホーチミン市に拠点を置くアニメーション・スタジオ。
http://saosangdesign.com

野口:海外のスタジオに依頼する場合、画づくりにおけるニュアンスのちがいが一番の問題になりますが、その点はいかがですか?

松浦:モデリングやカメラワークだけなら、大きな問題はないと思います。ただしアニメーションに関しては、僕らも伝えきれない部分が多いので当面は国内で制作することになるでしょうね。

野口:そうすると、今後はアニメーションを量産できる体制を国内に構築していくと?

松浦:そうですね。僕としては、フリーランスの CG アニメーターを増やすことは阻止したいのです。スタッフ管理ができないし、仕事の配分、方向性の統一、クオリティの維持、ブランディングなどもやりづらくなる。作画アニメの世界は大量のフリーランスに支えられているため、すごく苦労しています。そうならないために制作環境を整えて、効率良く組織的につくる体制を定着させていきたいと考えています。加えて、誰かがつくれるものは価値が下がっていくのが世の常です。そんな中でスタッフの待遇や制作環境を良くしていこうとすれば、新しいものを作り続ける必要がある。そのためにも、大規模な組織で立ち向かった方が良いのですよ。

松浦裕暁ポートレイト5

 

野口:つまり、サンジゲンは次の時代の画づくりを始めているわけですね。それが世に出るのは2015年くらいでしょうか?

松浦:ええ。僕の中には次のイメージがあるので、それを実現したいと思っています。今のセルルックの CG アニメは作画の再現に留まっていますが、それだけでなく、作画では不可能な表現にも挑戦したいのです。ユーザーも新しい画を期待していると思いますし、アニメではあるけれど、作画ではできない発想の新鮮な画をお観せしたいです。

野口:その画を拝見できる日を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

Supported by Enhanced Endorphin
INTERVIEWER_野口光一(東映アニメーション
EDIT_尾形美幸(EduCat)、沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
LOCATION_サンジゲン

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