今回はハリウッドの老舗VFXスタジオDigital DomainにてエフェクトTDとして活躍中の大久保博幸氏を紹介する。日本でファームウェアの開発者としてキャリアをスタートし、後にロサンゼルスに留学してVFX業界に転職したというユニークな経歴をおもちの大久保氏は、「チャンスがあれば、挑戦してみる事が大切」と語る。それでは、さっそく大久保氏にお話を紹介していこう。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Artist's Profile

大久保博幸/Hiroyuki Ookubo(Digital Domain / Effects TD)
鹿児島県出身。2000年に長崎大学大学院工学研究科を卒業後、日本航空電子工業株式会社に就職。2年後に退職し、デジタルハリウッド・サンタモニカ校(DHIMA)※に留学。その後、Luma PicturesにTechnical Directorとして就職しキャリアをスタート。その後、Method StudiosRhythm & Hues Studiosなどを経て、2015年にDigital Domainに移籍し、現職。
※デジタルハリウッド・サンタモニカ校 DHIMA(DH Institute of Media Arts):1997年に設立されたデジタルハリウッドのUSA校。後に閉校となったが、多くの卒業生をDigital Domain、ILM、Rhythm & Hues Studiosなどハリウッドの現場に輩出した実績を残している。

<1>未経験でアメリカに留学し、Mayaを学ぶ

ーー日本では、どんな学生時代を過ごされたのですか?

大久保博幸(以下、大久保):日本の大学では機械工学科を専攻し、熱伝導の研究をしていました。3DCGとはまったく無縁で、熱伝導の数値シミュレーションのプログラムを書いていたので、CやC++を勉強していました。ちょうどその頃から『ターミネーター2』、『ジュラシックパーク』、『マトリックス』などの視覚効果に3DCGを使った映画が公開され始め興味はもち始めていましたが、まさか最終的にその業界に就職するとは微塵も思っていませんでした。

ーー日本ではどんな仕事をされていたのでしょうか。

 

大久保:大学院卒業後、日本航空電子という会社に就職してタッチパネルなどのファームウェアのプログラムを書いていました。また、所属していた事業部で産業機械用のジョイスティックを開発しており、その操作のデモ用にDirectXを使ったプログラムを書いていました。このことも、3DCG業界に進みたいと思ったキッカケの1つだったと思います。

ーーアメリカに留学されたそうですが、何か転機があったのでしょうか。

大久保:当初は留学は全く計画にはなく、会社を辞めて大学院の博士後期課程に進学し、リモートセンシング(人工衛星などから地球表面付近を観測する技術)という分野で画像処理の研究に進むことを考えていました。しかしその計画がなくなり、映像関係の学校の情報を集めていたときにデジタルハリウッド・サンタモニカ校(以降、DHIMA)のことを知りました。会社を辞めていきなりアメリカに留学するのは不安でしたが、ハリウッド映画の映像制作に携わるという自分の本当にやりたいことを諦めきれなかったのです。

ーー留学されていた頃の話をお聞かせください。

大久保:DHIMAで、1年間のMayaのクラスを専攻し、同時に語学学校にも通いました。ホームステイ先に3DCGが使える高性能マシンがあるはずもなく、放課後は学校でマシンを自由に使えたので、遅くまで残ってほとんどの時間を学校で過ごしていました。当時は社会人時代の貯金を切り崩して生活していたので、貯金が底をつくまでというタイムリミットもあり、卒業後の1年間で具体的な進路が見えていなければ、帰国する予定でした。


仕事中の大久保氏

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<2>R&Dからレンダリングまで、エフェクト・アーティストとして様々な仕事に携わる

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<2>R&Dからレンダリングまで、エフェクト・アーティストとして様々な仕事に携わる

ーー海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

大久保:卒業後はDHIMAでティーチング・アシスタントとして学校に残りつつ、デモリールの質を上げていきました。卒業作品としてつくったデモリールは、就職活動用のデモリールと言うよりは、自分の作りたかった作品に近かったので、Web上のありとあらゆるデモリールを参考に、就職活動用に作り直していく必要がありました。モデリングからテクスチャ、アニメーション、ライティングまで1人でつくったデモリールだったのですが、就職が決まったのはライティングTDを募集していたLuma Picturesでした。

Luma Picturesは中規模サイズの会社だったのでライティングTD以外の仕事もやらせてもらうことができ、学生や社会人時代のプログラミング経験を活かして、Mayaのプラグインなども開発しました。VFXのポスト・プロダクションではスケジュールによってはプロジェクトとプロジェクトの間が空くことがあるのですが、ライティング以外にもパイプラインTDとして働くことで、H1-Bビザをサポートしてもらうことができました。その後、永住権の申請を始めたのですが、エフェクトのポジションに移行したいという自分の意見と会社の意見が合わず、永住権は断念し、過去にLuma Picturesのプロデューサーだった方に誘われて、RIOTという会社にエフェクトTDとして転職しました。

その後、そのRIOTとMethod Studios(以下、Method)が同じ親会社だった関係で合併し、Methodの名前だけが残りました。RIOTではMayaを使ってエフェクトを担当していましたが、MethodはHoudiniを使っていたので、それからHoudiniをメインツールとして使うようシフトしていきました。

慣れ親しんでいたツールから別のツールに変えていくのは大変でしたが、このことが、後にRhythm and Hues Studios(以下、R&H)、Digital Domain(以下、DD)へのキャリアUPする際に、大きなプラス要素となりました。その後、Methodで永住権をサポートしてもらいましたが、Houdiniの経験を別の会社でも積んでみたいという思いもあり、R&Hに移籍しました。

永住権があれば、移籍先の会社も自分自身も、就労ビザのトランスファーに時間とお金を費やすことはなくなり、移籍がスムーズにできるのでフットワークが軽くなります。なので永住権を取得できたということも、移籍の大きなキッカケの1つでしたね。移籍してから3年後にR&Hは倒産しましたが、すぐに前職のMethodに戻ることができました。アメリカのCGプロダクションではレイオフや倒産は頻繁にありますが、ネットワークを広げておくことで、選択肢を増やすことができたと思います。それからMethodに一年間在籍した後に、2015年にDDに移籍し現在に至ります。

ーー現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

大久保:DDはアメリカはロサンゼルスに本社を置き、映画、コマーシャル、ミュージックビデオのVFX、またVR用のカメラ、コンテンツ制作を手がける会社です。映画の代表作としては、『アポロ13』、『タイタニック』、『フィフス・エレメント』などで、僕が最近制作に携わった映画作品には『美女と野獣』『X-MEN: アポカリプス』『パワーレンジャー』などがあります。

ーー現在の仕事の面白い点はどんなところでしょうか。

大久保:DDではエフェクト・アーティストとして働いています。プロジェクトによってはエフェクトのR&D(研究開発)を任されることもあり、自分のつくったエフェクトのツール、セットアップを同じチームのアーティストに使ってもらうことがあります。そのツールによって、プロジェクトの全体の進行具合やエフェクトの見た目などが変わってくるので、責任が重く、やり甲斐を感じます。『美女と野獣』では、ビーストの最後の変身シーンにおける魔法のR&D、『パワーレンジャー』では敵キャラ群の岩男のデストラクション・システムの開発を担当しました。また、ヒーローショットなどではエフェクトの全て(R&D、デストラクション、煙、パーティクル、ライティング&シェーディング、レンダリングなど)を任されることもあるので、1つの作業にとらわれることがなく、飽きません。

ーー英語の習得はどのようにされましたか。

大久保:アメリカに渡る前は、NHKラジオの英会話などを聞いて勉強していました。アメリカに渡ってからはDHIMAに通いつつ、語学学校に同時に通いました。1年間語学学校に通いながら勉強すれば、最低限の英会話はできるようになると思います。その後は会社で働きながら、職場で学んでいきました。会社の中で仕事をしつつ英語を学んでいくのが、一番効率良く英語を習得できた方法だと思います。またWebのCG専門の掲示板などでは、CGに関する質疑応答などが英語で行われているので、実際に仕事で使えるフレーズなどを勉強することができました。

ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

大久保:日本で学生をしていた頃は、自分が海外で働くということはまったく想像できませんでした。アメリカに来て留学から始まり、何社か転々として今に至ります。実力やスキルももちろん大切ですが、周りの仲間に助けられたり、タイミング良く自分の行きたかった会社が募集していたりと、実際に海外に来てみないとわからないことも多いです。人間関係など、自分の能力意外の部分も海外での就職では大きな要素になるので、チャンスがあれば「まずは挑戦してみる」ということが大切だと思います。


Digital Domainの同僚と

【ビザ取得のキーワード】

1.長崎大学大学院工学研究科を卒業
2.デジタルハリウッド・サンタモニカ校(DHIMA)に留学
3.Luma Picturesで就労ビザH1-Bを取得
4.Method Studiosにてグリーンカード(永住権)を取得

info.

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