>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:チャンスがあれば「まずは挑戦してみる」。第16回:大久保博幸(Digital Domain / Effects TD)
チャンスがあれば「まずは挑戦してみる」。第16回:大久保博幸(Digital Domain / Effects TD)

チャンスがあれば「まずは挑戦してみる」。第16回:大久保博幸(Digital Domain / Effects TD)

<2>R&Dからレンダリングまで、エフェクト・アーティストとして様々な仕事に携わる

ーー海外の映像業界での就職活動は、いかがでしたか?

大久保:卒業後はDHIMAでティーチング・アシスタントとして学校に残りつつ、デモリールの質を上げていきました。卒業作品としてつくったデモリールは、就職活動用のデモリールと言うよりは、自分の作りたかった作品に近かったので、Web上のありとあらゆるデモリールを参考に、就職活動用に作り直していく必要がありました。モデリングからテクスチャ、アニメーション、ライティングまで1人でつくったデモリールだったのですが、就職が決まったのはライティングTDを募集していたLuma Picturesでした。

Luma Picturesは中規模サイズの会社だったのでライティングTD以外の仕事もやらせてもらうことができ、学生や社会人時代のプログラミング経験を活かして、Mayaのプラグインなども開発しました。VFXのポスト・プロダクションではスケジュールによってはプロジェクトとプロジェクトの間が空くことがあるのですが、ライティング以外にもパイプラインTDとして働くことで、H1-Bビザをサポートしてもらうことができました。その後、永住権の申請を始めたのですが、エフェクトのポジションに移行したいという自分の意見と会社の意見が合わず、永住権は断念し、過去にLuma Picturesのプロデューサーだった方に誘われて、RIOTという会社にエフェクトTDとして転職しました。

その後、そのRIOTとMethod Studios(以下、Method)が同じ親会社だった関係で合併し、Methodの名前だけが残りました。RIOTではMayaを使ってエフェクトを担当していましたが、MethodはHoudiniを使っていたので、それからHoudiniをメインツールとして使うようシフトしていきました。

慣れ親しんでいたツールから別のツールに変えていくのは大変でしたが、このことが、後にRhythm and Hues Studios(以下、R&H)、Digital Domain(以下、DD)へのキャリアUPする際に、大きなプラス要素となりました。その後、Methodで永住権をサポートしてもらいましたが、Houdiniの経験を別の会社でも積んでみたいという思いもあり、R&Hに移籍しました。

永住権があれば、移籍先の会社も自分自身も、就労ビザのトランスファーに時間とお金を費やすことはなくなり、移籍がスムーズにできるのでフットワークが軽くなります。なので永住権を取得できたということも、移籍の大きなキッカケの1つでしたね。移籍してから3年後にR&Hは倒産しましたが、すぐに前職のMethodに戻ることができました。アメリカのCGプロダクションではレイオフや倒産は頻繁にありますが、ネットワークを広げておくことで、選択肢を増やすことができたと思います。それからMethodに一年間在籍した後に、2015年にDDに移籍し現在に至ります。

ーー現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

大久保:DDはアメリカはロサンゼルスに本社を置き、映画、コマーシャル、ミュージックビデオのVFX、またVR用のカメラ、コンテンツ制作を手がける会社です。映画の代表作としては、『アポロ13』、『タイタニック』、『フィフス・エレメント』などで、僕が最近制作に携わった映画作品には『美女と野獣』『X-MEN: アポカリプス』『パワーレンジャー』などがあります。

ーー現在の仕事の面白い点はどんなところでしょうか。

大久保:DDではエフェクト・アーティストとして働いています。プロジェクトによってはエフェクトのR&D(研究開発)を任されることもあり、自分のつくったエフェクトのツール、セットアップを同じチームのアーティストに使ってもらうことがあります。そのツールによって、プロジェクトの全体の進行具合やエフェクトの見た目などが変わってくるので、責任が重く、やり甲斐を感じます。『美女と野獣』では、ビーストの最後の変身シーンにおける魔法のR&D、『パワーレンジャー』では敵キャラ群の岩男のデストラクション・システムの開発を担当しました。また、ヒーローショットなどではエフェクトの全て(R&D、デストラクション、煙、パーティクル、ライティング&シェーディング、レンダリングなど)を任されることもあるので、1つの作業にとらわれることがなく、飽きません。

ーー英語の習得はどのようにされましたか。

大久保:アメリカに渡る前は、NHKラジオの英会話などを聞いて勉強していました。アメリカに渡ってからはDHIMAに通いつつ、語学学校に同時に通いました。1年間語学学校に通いながら勉強すれば、最低限の英会話はできるようになると思います。その後は会社で働きながら、職場で学んでいきました。会社の中で仕事をしつつ英語を学んでいくのが、一番効率良く英語を習得できた方法だと思います。またWebのCG専門の掲示板などでは、CGに関する質疑応答などが英語で行われているので、実際に仕事で使えるフレーズなどを勉強することができました。

ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

大久保:日本で学生をしていた頃は、自分が海外で働くということはまったく想像できませんでした。アメリカに来て留学から始まり、何社か転々として今に至ります。実力やスキルももちろん大切ですが、周りの仲間に助けられたり、タイミング良く自分の行きたかった会社が募集していたりと、実際に海外に来てみないとわからないことも多いです。人間関係など、自分の能力意外の部分も海外での就職では大きな要素になるので、チャンスがあれば「まずは挑戦してみる」ということが大切だと思います。


Digital Domainの同僚と

【ビザ取得のキーワード】

1.長崎大学大学院工学研究科を卒業
2.デジタルハリウッド・サンタモニカ校(DHIMA)に留学
3.Luma Picturesで就労ビザH1-Bを取得
4.Method Studiosにてグリーンカード(永住権)を取得

info.

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