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    長寿シリーズ企画「海外で働く日本人アーティスト」シリーズが、時流に合わせてCGWORLD.jpへ! 心機一転、CGWORLD.jpとしての第1回目はLola Visual Effectsにてコンポジターとして活躍中である山際一吉氏のキャリア遍歴を紹介しよう。最近のハリウッド映画で欠かせないテクニックとして脚光を浴びている「ビューティー・ワーク」。そのパイオニア的な存在として、業界をリードしているのがロサンゼルスに拠点をかまえるLola Visual Effectsだ。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe

    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
    著書に「海外で働く日本人クリエイター」(ボーンデジタル刊)、「ハリウッドVFX業界就職の手引き」等がある。

    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」



    Artist's Profile

    山際一吉/Kazuyoshi Yamagiwa(Lola Visual Effects)
    東京都出身。2003年に東海大学工学部光画像工学科を卒業後、スタジオスリーエイトにて映像業界のキャリアをスタート。デジタルエッグにてFlameアーティストとしてキャリアを重ねた後、2009年にロサンゼルスのLola Visual Effectsに入社。『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、『ヒューゴの不思議 な発明』、『ソーシャル・ネットワーク』、『クラウド アトラス』、『ザ・ウォーカー』などの様々な映画作品に携わる。2013年に日本に帰国し、フォートンを経てフリーランスに。NHKにて『生命大躍進』や『精霊 の守り人』の制作に参加。2016年4月に再渡米、Lola visual Effectsに復帰しSenior Flame Compositorとして活躍中。



    <1>映画好きが昂じて、映像のプロフェッショナルへ

    ーーまずは、日本での学生時代について、お聞かせください。

    山際一吉氏(以下、山際):中学生の頃から映画が大好きで、足繁く映画館に通っては、1日に2〜3本の映画を観るほどでした。そして気に入った映画などはレンタルビデオ屋さんで何度も借りて、あのショットはどのように撮影されてるんだろうとか、どんな機材があったらこんな映像をつくれるんだろうと考えたりして、気に入った作品は何度も見返していました。そうしたことから、漠然といつかはハリウッド映画の仕事に携わりたいと考えるようになりましたね。

    大学は工学部の画像処理系の学部に進学し、映画サークルに所属しました。そこでAfter EffectsやPremiere(現Premiere Pro)の存在を先輩に教えてもらい、そこから実際に自分で映像つくりはじめました。最初はサークルの仲間たちとショートフィルムなどを制作していたのですが、AEを使っているうちに、モーショングラフィックスにも興味が湧きはじめて、趣味ベースでそっち系の映像もつくるようになりました。ちょうどその頃、タイミング良く「クラブでVJをしてみないか?」と大学の先輩に誘われ、少しずつクラブイベントでVJをやるよ うになり、大学4年生の頃には有名アーティストの音楽祭などにも声をかけてもらってVJをさせていただきました。同じ頃、高校時代の同級生がロサンゼルスの映画学科に留学をしていたことがキッカケで、日本の企業さんから資金提供をうけるかたちで、アメリカでショートフィルムを撮影したりもしましたよ。そうしたながれから「いつかは海外で映像制作の仕事がしてみたい」と考えるようにもなりましたね。

    ーー最初に就職されたのは日本の映像制作会社とのことですが?

    山際:はい。スリーエイトというポスプロを経て、デジタルエッグでポストプロダクション業務に携わりました。当時は主にTVCMのオンライン編集を担当していたのですが、仕事をつうじて様々な知識と経験を得られたことが現在も役だっています。私のFlameアーティストとしての原点は、ここにあると確信しています。その後、様々なCM案件をチーフエディターとして担当させていただき、28歳の頃には以前からの夢であった「海外で挑戦したい」と決意し、単身でロサンゼルスに渡ったのです。

    ーーそのときの就職活動についてお聞かせください。

    山際:2008年のことでした。最初は英語がとても苦手だったので、まずは半年間アメリカでの生活自体に慣れることも必要だと考え、語学学校に通いました。その後は、ひき続き語学学校へ通いなから就職活動をはじめました。VFXのリクルートサイトなどをチェックしては、Flameアーティストの仕事を探して、応募メールを何通も送りましたね。ですが、なかなかインタビュー(面接)までたどり着くことができずにいました(苦笑)。
    そんなときに、Hydraulx Visual Effectsに勤めていた知人の方が、当時同社の関連会社だったLola Visual Effects(以下、Lola)がFlameアーティストを募集していることを教えてくださり、その方の紹介でインタビューを受けさせてもらえることになりました。面接時に就労ビザの話もしなくてはいけなかったので、事前にインタビューの特訓をして、本番に臨んだことを今でも鮮明に覚えています。あのときは無我夢中でしたね。

    ーー晴れてLolaへ入社されたわけですね。

    山際:最初にLolaに入ったときはスタッフは8名と少なく、Dayシフトが5名、Nightシフトが私を含めて3人という、とてもアットホームな職場でした。同僚たちもみんな親切で、様々なことを細かくアドバイスをしてくれましたし、わからないことがあれば丁寧に教えてくれるなど、とても良い環境でしたね。
    1年ほどNightシフトで働きましたが、同僚たちと週末に寿司パーティをしたり、ドジャース・スタジアムへワールド・ベースボール・クラシックを観に行ったり、自分たちが携わった映画を鑑賞したりとオンでもオフでも一緒に過ごすことが多かったですね。金曜日は仕事が始まる前に食事がてらバーに行ったりもしました。
    Dayシフトに移ってからも、比較的スケジュールに余裕のあるときや、サーバがダウンしてしまったときには午後にはビールを買いに出かけて飲み始め、夕方5時頃にはそのままバーへ繰り出したことを、今でも思い出します。そしてLolaに4年間在籍した後、日本へ帰国しました。3年ほど日本の各スタジオで活動した後、今年4月に再びLolaへ戻ってきました。現在も、公私共にとても充実したアメリカ生活を送っています。

    新・海外で働く日本人アーティスト 第1回:第1回:山際一吉

    Flameで作業を行う山際氏。ハリウッド映画の制作ではNUKEをコンポジットワークに採用しているスタジオが多いのだが、LolaではAutodesk Flameが主力だという

    ▶次ページ:
    <2>Lola Visual Effectsの社風

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    <2>Lola Visual Effectsの社風

    ーーとても居心地が良いように感じるLolaですが、スタジオとしての特色を教えてください。

    山際:Lolaは、ハリウッド映画のフェイシャル&ビューティーワークのパイオニア的な存在のスタジオです。北米では今年4月に公開された『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にて、トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)の若かりし頃のシーンを担当したり、ヴィジョン(ポール・ベタニー)のフェイシャルを担当しています。
    Lolaが世界的に注目をあつめるきっかけは、デビット・フィンチャー監督の『ベンジャミン・バトン』でブラット・ピットの若返りシーンを担当したことだったと思います。この作品を皮切りに、現在では登場人物の若返りや老化などを描く際は特殊メイクをベースにするのではなく、デジタル・ビューティー・ワーク(デジタル特殊メイク)を用いるケースが着実に増えています。
    『キャプテン・アメリカ / ザ・ファースト・アベンジャー』では、序盤のシーケンスで主人公スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)が痩せた貧弱な体型で登場するのですが、実際の俳優はボディ・ビルダーのような体型なので「デジタルで、痩せさせる」という作業を担当しました。最近では体型の変形や、LightStageを用いたフェイス・リプレイスメント、メイクアップ・エフェクト等を担当することが多いですね。現在Lolaは、LAに加えてロンドンにもスタジオがあります。本社のLAスタジオも拡張中で、最近では50〜100名体制でプロダクションを進めています。ロンドンの方にはまだ行ったことがないので、いつか行ってみたいと思っています。

    fxguidetv #202: The art of Lola VFX

    ーー現在のお仕事では、どんなところに醍醐味を感じますか?

    山際:私自身は以前から継続して、「De-Aging(若返り)」「Aging(老化)」のルックを、そのなかでも一番最初にクライアントのチェックを受けるルックを担当することが多いのですが、今後のプロダクションワークの鍵をにぎる重役を担当できることに大きなやりがいを感じています。この作業では、リファレンスを見比べながら人物の造形をとらえ、顔をはじめとする身体的な特徴をくずさないようにしつつ、若返らせる、老化させるといった処理が求められます。些細なバランスのちがいで別人の顔になってしまうので、常に困難との戦いですが、それゆえに奥が深くおもしろいですね。クライアント(監督)から一発OKをもらったときや、実際に映画館で自分が担当したショットがながれたときに観客の反応が良かったときには、映画の仕事していることがとても誇らしく感じられる瞬間です。

    新・海外で働く日本人アーティスト 第1回:第1回:山際一吉

    Lolaの同僚たちとのスナップ。みんなで一緒にランチをとることも多いとか

    ーー将来、海外で働きたい人たちへのアドバイスをお願いします。

    山際:私の場合は多くの方々のお世話になりました。現在Lolaで働けているのも周りの方々のサポートの賜なので感謝してもしきれません。最近は、SNSやブログの浸透によって海外で働かれている方が身近にいらっしゃるケースも多いと思います。経験上、最も効果があるのは、自分がやりたいと思っていることを周りの人たちに話すことだと思います。もしかしたら、ちょっとしたきっかけで「そういえば海外で働きたいって言ってたよね」などと、周りの人たちが手をさしのべてくれる可能性が確実に高まっていくので。
    それに加えて、行動することが大切だと思いますね。国が変わると何もかもが変わってくるので、ちょっとしたことでもひと苦労だったりします。ビザを取るにしても、どのビザが最適なのか、すぐに取れるのか、ビザの申請に必要な書類や手順について弁護士と話したりする必要にもせまられます。情報収集はもちろんのこと、具体的なアクションが数多く求められるはず。ですが、一歩踏み出してみると、意外となんでも「やればできるものだ」と実感するものです。一歩踏み出す勇気と、周りへの感謝の心を忘れずに活動を続けることが大切だと思いますよ。

    【ビザ取得のキーワード】

    1.東海大学工学部光画像工学科を卒業
    2.デジタルエッグにてAutodesk Flameアーティストの経験を積む
    3.Lola visual Effectsで就労ビザ「H-1B」を取得後、一度帰国
    4.2016年4月に再渡米し、就労ビザ「H-1B」を取得



    info.

    • 新・海外で働く日本人アーティスト 第1回:第1回:山際一吉
    • 【PDF版】海外で働く映像クリエーター 〜ハリウッドを支える日本人 CGWORLDで掲載された、海外で働くクリエイターの活躍を収めた記ことを見やすく再編集しました。「ワークス オンラインブックストア」ほかにて購入ができるので、興味のある方はぜひ!
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      総ページ数:369ページ
      発行・発売:ボーンデジタル

      www.borndigital.co.jp/book/648.html