>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:突然のキャンセルと迫る失効期限の中、あがき続けて勝ちとった採用。第17回:傘木博文(Atomic Fiction Montreal / Lead Crowd Effects TD)
突然のキャンセルと迫る失効期限の中、あがき続けて勝ちとった採用。第17回:傘木博文(Atomic Fiction Montreal / Lead Crowd Effects TD)

突然のキャンセルと迫る失効期限の中、あがき続けて勝ちとった採用。第17回:傘木博文(Atomic Fiction Montreal / Lead Crowd Effects TD)

筆者自身も身をもって経験してきたことだが、海外での就活は決して容易ではない。この体験が後に『ハリウッドVFX業界就職の手引き』の出版へとつながった訳だが、今回、ご紹介する傘木氏も、ハリウッドでの就職活動で大変苦労された経験をおもちだ。今回はそんな傘木氏の体験から、就活部分にフォーカスして紹介しよう。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Artist's Profile

傘木博文 / Hirofumi Kasagi(Atomic Fiction Montreal / Lead Crowd Effects TD)
長野県出身。2009年に会津大学コンピュータ理工学部を卒業後、サンフランシスコにある美大Academy of Art Universityに入学。卒業後、同じベイエリアにあるVFXスタジオAtomic Fictionに就職。『ゲーム・オブ・スローンズ』で群集シミュレーションを担当したのを機に、以降「群集(Crowd)」のスペシャリストとして、同社の群集シーンを全て担当している。2016年、新スタジオのオープンに伴いカナダのモントリオールに移住。主な参加作品に『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』『トランスフォーマー 最後の騎士王』『ゴースト・イン・ザ・シェル』など。
www.atomicfiction.com

<1>仮契約まで進んでいた就職先が、まさかの倒産

ーー日本では、どのように学生時代を過ごされたのですか?

傘木博文(以下、傘木):高校時代に友達から借りたゲームがきっかけでCGに興味をもち、会津大学コンピュータ理工学部に入学後は、研究室に3ds Maxが入ったマシンがあったので、時間を見つけては独学で3DCGの勉強をしていました。また、会津大学は教授の半数近くが海外出身の方なので、普段から英語を使ったコミュニケーションに親しんでおり、その影響もあってか在学中から海外留学を強く希望していました。

ーー海外での就活では、多大なご苦労をされたそうですが。

傘木:現在、カナダで永住権を申請中でして、留学→就職→永住権とスムーズに来ているように見えますが、実際は何度も失業と帰国の危機を乗り越えての海外生活でした。

Academy of Art University(以下、AAU)に留学中から、就職活動のためSIGGRAPHのジョブフェアに参加していました。ある年、たまたま自分の渡したデモリールがDigital Domain(以下、DD)の方の目に留まり、その場で面接をしていただけることになりました。その方の話では、DDのフロリダ・オフィスでトレーニング・プログラム(数ヶ月トレーニングの後、実際にアーティストとしてプロジェクトに参加するプログラム)を募集しているので、ぜひ参加してみたらどうか、と言うものでした。当時はまだ在学中でしたし、サンフランシスコからフロリダとなると、かなりの長距離移動となるため少し悩みましたが、DDは目標の1つでもあったので、その場で2つ返事で参加を決めました。仮契約をまとめ、意気揚々とサンフランシスコに帰って来たのですが、数週間を過ぎても何の連絡もなく......不思議に思っていたところ、ある日、突然DDの倒産とフロリダ・スタジオ閉鎖の話が舞い込んできました。せっかく決まった就職先がなくなってしまったのは残念だったのですが、これがもしフロリダに移住した後だったらと考えると、時間や費用のロスは相当なものだったので、引越し前に白紙になった自分は運が良い方なんだと考え直すことにしました。

ーーその後、一度、Atomic Fictionに就職されたのですね。

AAUを卒業したことでOPT(Optional Practical Training)を取得することができ、同じベイエリアにあるVFXスタジオAtomic Fiction(以下、AF)に、プロジェクト契約ですが就職することができました。当時のAFはまだ十数人の小規模スタジオで、社長のライアンやケビンを始め、スタッフ全員と気軽に話ができる、非常に居心地の良い会社でした。 そんなAFでの契約も終わりに差し掛かり、このまま契約延長の交渉をしようか考えていた矢先、なんとIndustrial Light & Magic(以下、ILM)とPDI/Dreamworks(以下、DW)の2つから同時にオファーをもらうという、まさに奇跡のような出来事が起きました。

OPT(Optional Practical Training):学生ビザ(F-1)で就学中・卒業後に学んだ分野の関連職種で仕事すること

ちょうどその頃、OPTの失効期限が迫っており、このままアメリカで働き続けるには就労ビザ(H1-B)を取得するか、OPT Extension(理工学系の学生向けのOPTの延長プログラム。以下、OPTex)に申請する必要がありました。 そこで贅沢な悩みだとは思いつつ、両社と同時に交渉を重ねたところ、ILMはAFと同じで「今回はプロジェクト契約なので、就労ビザを出すことはできない」と言われた一方で、DWは2年契約の上、移民弁護士を付けて就労ビザの申請費用も全部払ってくれると、まさに夢のようなオファーをもらうことができました。 ILMのプロジェクトも魅力的でしたが、少しでも長くこの業界でキャリアを積むことを考えると、この段階で就労ビザがもらっておいた方が良いと思い、DWと契約することにしました。


群集(Crowd)シュミレーションの作業中

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<2>ビザ失効期限間近で打つ手なし!?

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