記事の目次

    アメリカを代表するアニメーション・スタジオの1つ、ドリームワークス・アニメーションで、リード・ライターとして活躍する原口宇内氏。原口氏がアメリカに留学し、ハリウッドのVFX・アニメーション業界に入った経緯を聞いた。


    TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
    著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


    EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



    Artist's Profile

    原口宇内 / Haraguchi Udai(Dreamworks Animation / Lead Lighter)
    東京都出身。1998年に米・ウィリアムズ大学物理学科を卒業後、スクウェアUSAにて研究開発部のテクニカル・アシスタントとしてキャリアをスタート。その後、同社にてモーションキャプチャー・エンジニアを担当。2002年にドリームワークス・アニメーションにテクニカルディレクターとして移籍し、2004年にライティングに転向。現在リードライターとして活躍中。

    <1>憧れの企業を前に、履歴書を渡す手にも力が入った

    ――日本での学生時代のお話をお聞かせください。

    厳しい高校受験の反動から高校では趣味と部活ばかりに時間を費やし、3年生になって大学受験を視野に入れる頃の成績はかなり酷いものでした。英語だけは得意だったので、悩んだ末にアメリカに留学することに決めました。高校時代の趣味はアニメ、プラモデル、コンピュータ等で、今の仕事に通じる傾向はあったものの、当時はCGの存在すら知りませんでしたね。アメリカの高校に学年を下げて編入して勉強し直して、何とか志望する大学に合格することができました。

    漠然と研究職に憧れて物理専攻を決めていたのですが、3年生の半ば頃には「自分の頭で研究職はとても務まらない」と悟り、2重で専攻していた美術の方向にキャリアを模索し始めます。当時、ゲームCGが流行り始めていた頃で、私もその可能性に魅せられて独学でCGの勉強を始めました。インターネットはまだあまり実用的ではなかったので、書籍を頼りに試行錯誤の日々でした。

    大学はマサチューセッツ州のすごく田舎だったのですが、VFXスタジオのクライザー・ウォークザック・コンストラクションが隣町にオフィスを構えていたことを知り、そこで学べないか画策しました。そこで「インターンをしながら、美術の卒業課題をCGで制作する」という無謀な案を思いつき、何とか双方に承諾してもらいました。

    日中は大学の勉強をなるべく早く終わらせ、午後からはインターン、業務終了後はSGI(シリコン・グラフィックス)の機材を使わせてもらって卒業課題制作に勤しみました。Mayaは当時まだベータ版でしたが、その斬新さに驚かされて必死に勉強しましたね。

    ――海外での就活はいかがでしたか?

    大学4年生のときボストンで日本企業のキャリア・フォーラムが開かれて、スクウェアUSAもそこにブースを出していたので応募しました。スクウェアのゲームの大ファンだった上、2ヶ国語が活用できる環境でオフィスがハワイ(笑)ということもあり、履歴書を渡す手にも力が入ったのを覚えています。

    面接は終始カジュアルな雰囲気で、私の持参した作品に丁寧なアドバイスをいただきました。あれだけ苦労して制作した卒業課題も、尺にして30秒足らずでかなりお粗末な出来だったので、批評しづらかったと思います。幸い、作品そのものよりも制作過程を評価して下さったのか、憧れのスクウェアUSAにテクニカル・アシスタントとして就職することができました。

    そこでは、映画『ファイナルファンタジー』(2001)のプロモーションビデオを制作するにあたり、モーションキャプチャ・エンジニアとしてスクウェアの東京オフィスに1ヶ月ほど出向させてもらいました。L'Arc〜en〜Cielによるエンディング・テーマ、「Spirit dreams inside -another dream-」の演奏をフルCGで再現するためにバンドメンバー全員を個々にキャプチャしたのですが、戦闘服を着た映画のキャラクターが曲を演奏する様子はとてもシュールで、バンドの皆さんと一緒に大いに盛り上がりました。

    スクウェアUSAは、残念ながら映画『ファイナルファンタジー』の興行収入の不振が響いて2002年にハワイのスタジオを閉じてしまったのですが、同じ頃、映画『シュレック』(2001)で大ヒットを飛ばしていたドリームワークスがハワイまで集団面接に来てくれたのです。ディズニーのながれを汲むドリームワークスは、モーションキャプチャを使わないことを信条としていたのであまり期待していなかったのですが、幸いテクニカル・ディレクターとして採用されました。

    ――現在の勤務先は、どのような会社ですか?

    ドリームワークス・アニメーションはアメリカの大手アニメーションスタジオで、これまでヒット作を多く手がけてきました。それでも続編に頼りきったりせず、常に新しいスタイルの作品に挑戦し続けている点は特筆に値します。

    2016年にNBCユニバーサルに吸収されて以後は、関連グッズの販売やユニバーサル・スタジオとのタイアップ等にも力を入れています。また、ここ数年はリスクの大きいCG映画とは別に、ストリーミング用のシリーズの比率を増やして競争の激化に対応しています。

    雇用の面では従業員の長期雇用を心がけています。プロジェクトが終わるたびに人員を削減するスタイルの会社とは対照的で、生活の安定を重視する人に人気がありますね。現在、2児を育てている私もその点に強く共感し、人と強運にも恵まれて勤続19年を迎えました。


    ▲ライティング・チームのみなさんと


    <2>英語が苦手なら、「コミュ力」を強化して突破するのもアリ!

    ――最近参加された作品について、印象に残るエピソードはありますか?

    『ボス・ベイビー』(2017)の日本語ローカライズのお手伝いをしました。おそらく、ドリームワークスとしては初の試みだったと思うのですが、日本公開にあたり、映像の英語表記を可能な限り日本語にレンダリングし直したんです。

    その際、日本語が話せる人を社内で募集していたので立候補しました。『ボス・ベイビー』を観て日本語表記にまちがいや違和感があったら、それは私のせいかもしれません。


    ▲自宅でテレワーク中

    ――現在のポジションの面白いところはどんなところですか?

    リード・ライターはライティングのリグを自由につくれるので、その場面に合ったものを自分の好みに合わせて、試行錯誤しながらつくっていく楽しさがあります。肝となるショットをスーパーバイザーと相談しながら煮詰めていき、監督からOKが出た後は複数のライターと一緒にシーケンスを完成させていくので、ライティングの全工程に関わることができます。自分の作業が完了したら、その映像がそのまま映画館のスクリーンで観ることができるし、何年経っても完成した映像を観ると、当時の努力や苦労が蘇って誇らしくなります。

    ――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    父親の仕事の都合で小学校3年生からアメリカで過ごし、現地校に通って学びました。通常の授業以外に、アメリカの学校にはESL(English as a Second Language)という英語が母国語ではない生徒のための特別なクラスがあり、ゲームなどを通して楽しく英語を教えてくれます。英語の勉強をゼロから始めて、ヒアリングに自信がつくまで約1年。自由に発言ができるまでもう1年ほどかかりました。大人だと多少事情が異なりますが、英語だけの環境に飛び込んでみるのも1つの手かもしれません。

    ――最後に、将来海外で働きたい人へアドバイスをお願いします。

    言語の習得はもちろん大切ですが、「上手にコミュニケーションをとる」というのは少しちがったスキルで、こちらの方が重要だと常々感じます。アメリカは様々な国籍の人が働いているので、英語が不得意な人や凄い訛りがある人も大勢いますし、それ自体はあまりハンデにはならないでしょう。

    もし、アメリカでの就職を考えているけど英語が得意ではないという理由で躊躇している人がいたら、「コミュ力強化」で突破を目指してみてはいかがでしょうか。



    【ビザ取得のキーワード】

    ① ウィリアムズ大学物理学科を卒業
    ② 同校在学中にクライザー=ウォルザック・コンストラクションにてインターンを経験
    ③ 米・ハワイ州のスクウェアUSAに就職、 就労ビザを取得
    ④ 米・カリフォルニア州のドリームワークスに移籍。就労ビザに続き永住権を取得

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