今回はフランスからお届けしよう。久しぶりに日系人アーティストのご登場である。Netflix映画『クロース』をご覧になられた方も多いと思うが、この作品でアニメーション・スーパーバイザーを務めたのが、フランス生まれの日系2世、田村義道氏である。今回のインタビューは英語で行われ、筆者の意訳によって紹介しているが、田村氏の独特のニュアンスや、英語ならではの言い回しなども含めてみた。そういう部分もお楽しみいただければと思う。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
田村義道 / Tamura Yoshimichi(Animation Supervisor)
フランス生まれの日系フランス人。高校在学中に数学と科学の学士号を修了した後、CFT Gobelinsに入学しアニメーションを専攻。卒業後、1991年にディズニー・テレビジョン・アニメーションのパリ・スタジオに『クマのプーさん』のクリーンアップ・アシスタントとして採用され、キャリアをスタート。同スタジオが長編アニメーションのスタジオに移行、『ノートルダムの鐘』(1996)を始めとする長編アニメーション映画作品に参加。2001年にロサンゼルスのドリームワークス・アニメーションへ移籍し、『シンドバッド 7つの海の伝説』(2003)などに参加し4年間を過ごし、一旦フランスに戻った後、再度渡米しウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにて『プリンセスと魔法のキス』(2007)に参加。その後フランスやイスラエルでのプロジェクトを経て、スペインのSPAスタジオにてNetflix映画『クロース』(2019)にアニメーション・スーパーバイザーの1人として参加、主人公ジャスパーのディレクションを手掛ける。現在はフランスで複数のプロジェクトに参加している
IMDB:www.imdb.com/name/nm0848799
<1>高校卒業後、進路を考えアニメーション教育で有名な学校へ
――フランスでお生まれだそうですね。
私はフランスで生まれ育ちました。両親が日本人で、父が大阪、母は東京の出身です。私は幼稚園から大学まで、フランスの教育課程とカリキュラムに沿って育ちました。高校時代の17~18歳の間に2種類のカリキュラムを勉強しました。まず最初にプロダクト・デザインを勉強した後、一般的な教育課程を学び、ここで、数学と科学の学士号を取得しました。
高校を卒業する頃、自分が将来のために何をすべきか、実はまだ、あまりよく分かっていませんでした。ただ1つハッキリしていたのは、自分は科学の方面には進まないだろうということです(笑)。その一方で、絵を描くのが好きで、映画業界にも興味をもっていました。
そこで見つけてきたのが、ゴブラン(CFT GOBELINS)でした。ここは、フランスの商工会議所が人材育成のために立ち上げた学校で、アニメーション教育でも有名です。私にとっては、アニメーションを勉強できる特別な場所、という存在でした。
この学校を見つけることができて幸運でしたし、そして入試に見事パスできて、とても幸せでした。入試の最中から、これが自分の人生を賭けるに相応しい分野であること、そして自分はアニメーション業界に進むのだということを、感じていました。
――ゴブランでの学生時代は、どのような感じでしたか。
それは、まるで夢のような時間でした。ゴブランでの全てが、私にとって全く新しい経験でした。信じられないかもしれませんが、先生がいません。代わりに、あなたの習得を手助けする各分野の専門家がいます。あなたは自分が好きなことを学ぶために、必要な全ての資料にアクセスできます。それは、まるで映画『フェーム』(1980)に出てくるような学校なのです。あなたは、自分が本当に好きなことができて、しかも学べるのです!!!!
私はフランス南部の田舎から来ました。そして学校のすぐ近くに、屋根裏部屋の小さなアパートを借りて、日中はゴブランで学び、夜は日本食レストランで働いていました。翌年、私のガールフレンドが一緒に住み始め、彼女は働いていたので、私はそれまでバイトに費やしていた分の時間を、もっとアニメーションに割くことができました。
ゴブランはドローイングのクラスがあまりなかったので、カフェなどで実際の生活を観察しスケッチする時間を増やしました。この頃はアニメーションに関する書籍はそれほど多くありませんでしたが、結果としてそれがプラスに転んだと思います。試行錯誤を重ね、テクニックを自分で分析し、得られた結果を実践していくことで、多くのことを学びました。もちろん、すぐに良い結果を得ることは常に困難でしたが、最後には自分の中に「何か」が得られたのです。
ゴブランは、「アニメーションは何でも表現できる」という可能性の幅を、私に与えてくれました。そして、私はプロフェッショナルとして仕事を始め、名実共にアニメーターになることができたのです。
――アニメーション業界への就職活動はいかがでしたか?
「アニメーターになろう」と決意したのは、ゴブラン在学中でした。就職活動では、幸運なことに自分から作品を応募することなく、最初の仕事に就くことができました。
なぜなら、学校に各スタジオのリクルーターが来てくれるのです。その際にリクルーターと出会い、自分のプロモーション作品を見せたところ、その結果2社からオファーをいただきました。
選択肢の1つはイギリスへ行ってユニーバーサル・スタジオのプロジェクトに参加する仕事、もう1つは当時パリにあったディズニー・テレビジョン・アニメーションのパリ・スタジオにおけるクリーンアップ・アシスタントとしての仕事した。そこで、私はディズニーのオファーを受けることにしました。
まず、テレビ・シリーズのアニメーションに参加し、『クマのプーさん』や『グーフィー・ムービー ホリデーは最高!!』(1995)などに参加しました。『グーフィー~』はアニー賞にノミネートされ、私はその直後にシニア・アニメーターに昇格しました。丁度この頃、スタジオがテレビ用アニメのスタジオから劇場用長編アニメのスタジオへと移行し、当時世界に3ヵ所あったディズニー・フィーチャー・アニメーションの1つ、フランス・スタジオ(現在は閉鎖)になりました。
ここで長編アニメーション映画『ノートルダムの鐘』(1996)、『ヘラクレス』(1997)、『ターザン』(1999)、『アトランティス 失われた帝国』(2001)、『ジャングル・ブック2』(2003)などに参加しました。
『ターザン』が終わったとき、私はドン・ハンから『アトランティス』でヘルガというキャラクターのスーパーバイジング・アニメーターを務めるように、とのご進言をいただきました。私は現場で学び続け、私達が取り組んでいるさまざまなプロジェクトを通じて、より良いパフォーマンスを発揮するように努めました。この頃にジェームズ・バクスター、グレン・キーン、マイケル・サリー、アンドレアス・デジャ、ジョン・リパ、ジョン・マスカー、ロン・クレメンツなどの多くの素晴らしいアーティストに出会って学ぶことができたのは、とても幸運でした。
その後、ロサンゼルスのグレンデールにあるドリームワークス・アニメションへ移籍するために、2001年にアメリカに渡りました。ここで3Dのコンピューター・アニメーションを、仕事を通じて習得しました。ドリームワークスでは4年間に渡り、『シンドバッド 7つの海の伝説』(2003)、『シャーク・テイル』(2004)、『マウス・タウン ロディとリタの大冒険』(2006)、『森のリトル・ギャング』(2006)などに参加しました。その後、フランスに戻って映画やテレビ作品のアニメーション、スーパーバイズ、ストーリーボードなどを手がけ、そして再び海を越えてロサンゼルスはバーバンクーにあるウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで『プリンセスと魔法のキス』(2007)で再びディズニーと仕事をしました。
それからフランスに戻り、数々のアニメーション作品に参加しました。その中には、アニメーション・ディレクターとして参加した、少年とキリンの友情を描いた作品『Zarafa』(2012)や、『ドフス 第一巻「ジュリス」』(2015)などが含まれています。
2016年の終わりに、私はスペインのマドリードにあるSPAスタジオにて、Netflix映画『クロース』(2019)のプロジェクトを開始しました。まず映画のストーリーボードを作成し、2017年の初めに主人公ジェスパーをディレクションしました。
Netflix映画『クロース』のアニメーション・スーパーバイザー達、左から、チャールズ・ボニファシオ、田村氏、セルジオ・マーティン、ビクター・ヘンズの各氏
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<2>学生は「常にオープンマインドである」ことが大切
<2>学生は「常にオープンマインドである」ことが大切
――Netflix映画『クロース』でVESアワードにノミネートされましたね。おめでとうございます。
どうもありがとうございます。この作品の中で、私にとってチャレンジだったのは、メイン・キャラクターたちを映画本編の中に入れ込んでいく際、うまく均質性をもたせることでした。これらは、見た目だけでなく、キャラクターの個性やパフォーマンス(演技)にも言えることなので、そのバランスをとるのが難しかったです。
2月のVESアワードでは、最優秀キャラクター・アニメーション賞(アニメーション映画部門)で私を含む4名が連名でノミネートされ、大変光栄でした。今回ノミネートされたことに対して大変感謝しているのは、それに値する才能のあるアーティストたちがたくさんいて、この作品を支えてくれたことにあります。今回のノミネートは、そんな彼らの素晴らしいチームワークの賜物と言えるでしょう。
第18回VESアワード授賞式にて(筆者撮影)
――現在の勤務先は、どのような会社でしょうか?
現在は、新型コロナウィルスによる世界的な影響を受けながらも、アニメーション・スーパーバイザーとして複数の作品に携わっています。残念ながら、参加中の新しい作品や勤務先などについては、現時点ではまだ何もお話しすることができないのですが、ぜひご期待ください。
――フランスのアニメーション教育と、日本とアメリカに、何かちがいのようなものはありますか。また、学生が勉強しておいた方が良いと思うことはありますか?
正直なところ、フランス、日本、アメリカのアニメーション教育にどのようなちがいがあるか、私にはわかりません。しかし私が1つ言えることは、学生さんは「常にオープンマインドであるべき」だと思います。そして、常に一生懸命、鍛錬を積むことが大切です。
私は今でも、ドローイングのスキル向上に時間を割いています。なぜなら、ドローイングのスキルを深めている、多くの素晴らしいアーティスト達に出会ったからです。私がアート全般(画家、彫刻家、写真家、俳優など)の勉強を始めたとき、自分の仕事とパフォーマンスを向上させるためには、ドローイングのスキルは非常に有益であるということに気がつきました。
全ては皆さん次第です。これから、あなたがいかにオープンマインドに鍛錬を積んでいくかにかかってくるのです。
――将来、海外を目指したい方に、アドバイスを頂けますか?
4つの大切なポイントがあると思います。
Always trust on yourself:つねに自分自身を信じること
Analyse life:生活や過ごし方、勉強方法などを分析すること
Work hard:一生懸命に努力すること
Never give up:絶対にあきらめないこと
ぜひ、夢に向かって頑張ってください。
田村氏のデスクにて。先述のアニメーション・スーパーバイザー達に加え、リード・キャラクター・デザイナのトルステン・シュランク氏(後列右)と
【ビザ取得のキーワード】
①フランスに生まれ、フランス国籍をもつ
②パリのディズニー・フィーチャー・アニメーションで経験を積む
③アメリカ滞在中は、アメリカで就労ビザを取得
④フランス国籍があればEU加盟国での就労も可能
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