今回は、日本の大手ゲーム会社で経験を積んだ後、バンコクにスタジオを設立し、現在は社長という立場でスタジオ運営に携わっている石川圭介氏を紹介する。学生時代から映像業界への就職を意識していたわけではなかったという石川氏が、どのようにして海外で制作会社を設立するに至ったのか。バンコクでの生活ぶりも交えて、紹介していく。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Artist's Profile

石川圭介/Ishikawa Keisuke(Studio Porta President / Managing Director)
神奈川県出身。2007年6月に株式会社スクウェア・エニックスに入社。同社ヴィジュアルワークスのプロダクション・コーディネーターとしてキャリアをスタート。2014年3月に退職するまでに『ファイナルファンタジー』シリーズや『ドラゴンクエスト』シリーズなどの数多くのプロジェクトに携わる。その後、2014年に株式会社アティックへ移籍。同年11月、タイのバンコクにStudio Portaを設立しPresident/Managing Directorとして就任。2018年4月からは株式会社アティックの取締役も兼任。

<1>入社後、はじめて映像制作の仕事に触れる

――日本では、どのような学生時代を過ごされましたか?

ゲームは人並みにプレイしていたと思うのですが、どちらか言えば部活やバイトをしていた時間の方が長かったです。ほぼ間違いないのは、他の学生の模範になるような学生ではなかったということです(笑)。学生時代の私を知っている人からすると、私が現在この仕事をしていることを、不思議に思うかもしれません。

――日本で仕事されていた頃の話を教えてください。

スクウェア・エニックスへ入社したのを契機に、映画やゲームなど、エンターテインメントに関する情報へ意識的に目を向けるようになりました。私が同社のヴィジュアルワークスに入社できたのは、特に何か突出したスキルがあったわけではなく、ちょうど面接したのが人手不足だった時期だったためです。そのため入社したばかりの頃は、映像制作の仕事が初めてで必要な専門用語すら全くわからず、先輩のコーディネーターやディレクターには大変お世話になりました。ただ私が所属していたチームは、年間に数多くのプロジェクトを抱えていたため、1~2年もすれば映像制作のフローやゲーム制作に必要な基本的な知識を学ぶことができました。入社後、3年後に携わった大きなプロジェクトが完了してからは、全体の仕事を把握できるようになり、他部署との連携も問題なくこなせるようになっていました。私にとって、20代をスクウェア・エニックスで過ごせたことは、本当に大切な財産になっています。

――その後、別の会社に移籍され、タイにスタジオを設立されたそうですね。

スクウェア・エニックスからアティックに移籍した後、同社の代表と海外スタジオ設立の話を進めました。当時は具体的に設立する国を決めていたわけではなかったので、マレーシアとタイにスタジオ視察に行きました。私が入社する前から、代表がベトナム、インドネシア、フィリピンなどに視察に行っていたので、その情報と合わせて、最終的にバンコクに設立することを決定しました。大きな決め手となったのは「設立しやすいこと」、「アーティストが集められるかどうか」、「治安」の3つです。現在は、およそ30名の現地採用スタッフと、私を含めた3名の日本人が勤務していますが、設立当時はとにかく人材集めに苦労し、現地の専門学校や人材紹介会社からアーティストを紹介していただいてました。また当たり前ではありますが日本と異なる点も多く、設立から1年ほどは「聞いていた話とちがう!」と、驚くことが多かったですね。就労ビザについては、日本での実績が一定の年数以上あればタイの規定はそこまでうるさくありませんので、必要な書類を提出することで取得できました。

――バンコクのスタジオ Studio Portaは、どのような会社でしょうか。

主にゲームや映像作品に使う、モデルやモーションなどを制作する会社です。レンダリング環境も構築されていますので、案件によっては最終映像の出力まで担当させていただいてます。現在は、設立から3年半経ち、アーティストも増えています。

――Studio Portaの特長はどんな点ですか?

弊社は東南アジアにある日系の企業の中では、マネジメントに割いている人員が多い方だと思います。またコミュニケーション面で時間をロスしないように、アーティストに指示するときは、日本人がディレクターの場合、プロダクションコーディネーター兼通訳担当のスタッフを間に入れ、日本語で指示を伝えることで、間違った指示の伝達がないようにしています。社外のクライアントと直接取引させていただくこともありますが、海外スタジオだからといって、コミュニケーションの不便を感じさせないワークフローが実現できていると思います。現在、弊社ではバンコクで働きたいデジタルアーティストを募集していますので、国籍問わず、「タイで働いてみたい」という方がおられましたら、ぜひご連絡ください。もちろん、タイの方も歓迎です。職歴書とポートフォリオを添えてのご応募をお待ちしております。日本語かタイ語か英語のどれかでコミュニケーションがとれれば、特に語学力のスキルは求めていません(※募集要項は詳細はコチラ)。


クルーのランチ風景

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<2>日本本社のマネジメントも兼任しながら、バンコクのスタジオで社長として働く多忙な日々

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<2>日本本社のマネジメントも兼任しながら、バンコクのスタジオで社長として働く多忙な日々

――現在のお仕事で、おもしろいと感じる点はどんなところでしょうか。

日本と異なることが日常茶飯事なので、「海外で働いているな」と実感できる点がおもしろいですね。とは言え、大変なこともあります。たとえば言葉の壁がありますので、クライアントからいただく指示をタイ人のスタッフに伝えるのにとても苦労しますね。通訳に間に入ってもらって話をしていますが、たまに日本人でも理解が難しいような日本語の資料があり、その内容をクライアントの意図とずれることなく、うまく説明するのが大変です。また、会社の代表として会社のルールを決めていますが、タイ人スタッフのモチベーションが上がるようなルールについて相談しているときなどにも、文化のちがいを感じます。今後は他の会社にはない就業規則や福利厚生などを取り入れて、社員の定着率アップや新入社員募集に力を入れていきたいです。

――日本本社でもお仕事されているそうですね。

現在は、日本にあるアティック本社のマネジメント業務も兼任していますので、毎月1回、日本に戻り、本社の管理業務にも携わっています。アティックにいるリーダーやマネージャーに協力していただきながら、企業としてより良くなるよう、日々取り組んでいます。最近では東京とタイで作業の効率を上げられるよう、パイプライン制作に力を入れています。また、アティックでもデジタルアーティストとプロダクションマネージャーを募集していますので、興味をもっていただける方がいましたら、応募をお待ちしております(※詳細はコチラ)。

――バンコクでの生活はいかがですか?

バンコクは毎日暑いです。最高気温は日本の真夏日と変わらないと思うのですが、暑いのに室内に入るとエアコンが効き過ぎで、とにかく寒いです(笑)。毎年、雨季になると道路の冠水がすごく、大人の膝くらいの高さまで水が溜まります。

――タイ語や英語はどのように習得されましたか?

現在はタイに住んでいますが英語を全く使わないという日はなく、3割ほどは英語で会話しています。英語については高校を卒業した後に、数ヵ月アメリカに住んでいたことがあるので、昔の記憶を頼りに簡単な言葉でコミュニケーションしています。日本にいた頃よりも、英語を聞く&話す機会が増えたので、日常生活の中でも英語は勉強できます。ただ、特定のシュチエーションで使う機会が多く、話す内容に偏りがありますし、もともと高い英語力をもっていたわけではないので、今でも苦労することが多く「英語力をアップしたい」といつも思っています。タイ語については、最初は日常生活と弊社のスタッフに教えてもらうことで何とかなると思っていたのですが、なかなか勉強する時間をつくれなかったため、知り合いの日本人からタイ語学校を教えてもらい、その学校に通いました。今では、英語でどのように伝えれば良いかわからないときも、タイ語だと伝え方がわかるときがあるので、話す相手と話す内容によっては、英語だけ、タイ語だけ、もしくは、英語とタイ語を交えて話をするときがあります。

バンコクに来てからもうすぐ4年が経ちますが、最近になって少し業務が落ち着き、時間をつくれるようになりましたので、現在は、オンラインスクールでタイ語の勉強をしています。上達する一番の近道は、現地でタイ語または英語を話す友達をつくることだと思いますが、全く話せない状態で仕事を始めるとコミュニケーションを取れる機会が少ないので、海外に行く前に少し勉強してから行くのが良いかと思います。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

海外で働くことを考える場合、欧米を思い浮かべる人が圧倒的だと思います。私は欧米のVFXスタジオのことはわかりませんが、日本から東南アジアに仕事を発注している企業も多いと思いますので、東南アジアで働く日本人は重宝されるのではないでしょうか。また、日本からの発注だけでなく、VFXスタジオによっては、欧米の仕事も受注していますので、様々な国のプロジェクトに関わることができます。働いているアーティストは英語が話せる人も多いので、英語を話すことができれば、コミュニケーションは苦にならないと思いますよ。海外で働いてみたいと考えている人は、欧米だけでなく、ぜひ東南アジアも候補に入れて、就職先を探してみてください。


スタジオ責任者として多忙な日々を送る石川氏  

【ビザ取得のキーワード】

1.日本で一定年数以上実務経験を積む
2.タイのバンコクにスタジオを設立
3.現地の従業員を採用する
4.自分自身の実績や会社の情報をタイ国に提出し、就労ビザを取得

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