記事の目次

    北米の映画VFX業界では、カナダの複数の州が実施している大規模な補助金制度の影響を受け、非常に多くのプロジェクトがカナダに流出してしまっているという実情がある。そのため、アメリカ合衆国内での就職は、大変狭き門となっている。そんな中、新卒ながらも見事にポジションを獲得した日本人もいる。今回は、ロサンゼルスのVFXスタジオCrafty Apesで活躍中の、福田誠彦氏に話を伺った。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
    著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

    Artist's Profile

    福田誠彦 / Tomohiko Fukuda(Crafty Apes / Compositor)
    東京都出身。2013年に成城大学文芸学部芸術学科を卒業後、株式会社松竹撮影所で制作進行を経て、2014年アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコにあるアカデミー・オブ・アート大学へ留学。2017年にアニメーション&ビジュアル・エフェクツ専攻で卒業し、同年OPTを利用しIngenuity Studiosにインターンとして入社。2018年2月にCrafty Apesへ移籍し、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『アントマン&ワスプ』『クリード 炎の宿敵』などに携わる。現在、同社にて就労ビザを申請中

    <1>大の映画好きが高じてVFXの道へ

    ――日本ではどのような学生時代を過ごしてきたのでしょうか。

    子供の頃からとにかく映画を観るのが好きで、TVでオンエアされていた映画は片っ端から録画して観ていました。その影響で大学は成城大学 文芸学部 芸術学科で、「映画学」というどちらと言えば分析に徹底した学部を専攻しました。また映画好きが高じて映画研究部に所属し、自分たちでショートフィルムを撮るなどしていました。

    ――日本にいた頃はどのようなお仕事をされていたのですか?

    日本ではVFXの仕事に就いたことはなく、大学卒業直前に先輩から誘いがあり、短い間でしたが松竹撮影所でPAの仕事をしていました。松竹時代にVFXに関わったこと言えば、携わった作品の1つでグリーン・スクリーンステージでの撮影を経験したことぐらいでしょうか。そこで3本の映画作品の現場を経験した後に、留学準備を始めました。

    ――留学されたときの話をお聞かせください。

    留学先として僕が選んだのは、サンフランシスコにあるアカデミー・オブ・アート大学(以降AAU)という4年制の大学で、そこで第2学士を取得しました。英語力もなく、VFX経験もほとんどなかった僕にとっては、英語のサポートがあること、VFXを基礎から学べること、そして卒業後にOPT※というアメリカでの労働許可が最長で3年間おりるのは大きな決め手でしたね。

    ※OPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング)アメリカの大学を卒業すると、自分が専攻した分野と同じ業種の企業において、実務研修を積むため1年間合法的に就労できるオプショナル・プラクティカル・トレーニングという制度がある。専攻分野によっては1年以上の就労が認められるケースもあるので、留学先の学校に確認してみるとよい

    最初の1年間は英語での授業や聞き慣れない専門用語のオンパレードで、とにかく苦労したのを覚えています。授業の合間に、学校の提供するサポートクラスなどに通い、とにかくいろいろなことに追いつくので必死でした。

    このころの授業内容は、とにかく「広く浅く」なものが多く、ドローイングやVFXソフトウェア(MayaAfter EffectsPhotoshopなど)の基礎クラス、そして写真のクラスもありました。実際にNUKEを使っての授業をとれるようになったのは第2学士取得の折り返し地点である1年半が過ぎたあたりでしたね。それまでは学校にある「ラボ」と呼ばれる生徒が自由に使っていいパソコン部屋でfxphdDigital Tutorsなどのチュートリアルを見ながら、とにかく自学をしていました。

    そのおかげもあり、NUKEのクラスを実際にとるころには基礎が身についていたので、このときにはすでにデモリールような作品をつくり始めていました。もちろん、当時のショットはまだデモリールに使えるような代物ではなかったのですが、早めに考え始めていたことは、確実に後々の助けになりました。

    ――AAUはどんな学校でしたか?

    AAUはサンフランシスコという立地条件もあり、ILMに所属している・所属していた講師による授業など、上級のクラスに行けば行くほど、ほかの学校には真似できないような高いレベルのクラスもとることができました。

    例を挙げると、NUKEの上級のクラスではNUKEの使い方だけではなく、1つの方法がうまくいかないときに別のノードを組み合わせて細かいコントロールを自分で設定するなど、「いかにUIの裏に隠された機能を活用するか」というディープなトピックまで学ぶことができたのは非常にありがたかったですね。


    ハロウィーンでのオフィスパーティー

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    <2>コンポジターとしてハリウッド大作から社会派作品まで、大好きな映画に関わる毎日

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    <2>コンポジターとしてハリウッド大作から社会派作品まで、大好きな映画に関わる毎日

    ――海外での就職活動はいかがでしたか?

    アメリカでは「いかに積極的に自分を売り込めるか」が重要になります。僕とCrafty Apesの関係も、僕がまだAAU在学中に、たまたまLinkedInでDMを送ったCrafty Apesのスーパーバイザーの1人が僕のことを覚えていてくれ、プロジェクトで人出が必要になったときに声をかけてもらったことから始まりました。

    実は、そのときに勤めていたスタジオでの契約がまだ残っていたので、泣く泣く断ることになったのですが、そのスタジオの契約が終わるタイミングでこちらからコンタクトをとったところ、LAのオフィスが拡大するから人出が必要とのことで、移籍することになりました。

    おそらく過去のインタビューでも様々な方が言われていることだと思いますが、面接の準備に関しては「とにかく良いデモリールを準備すること」が重要です。とりわけ、僕のようなジュニア・ポジションでは、「いかに基礎を幅広くカバーできるか」が求められます。そして、とにかく1ショット毎の完成度を高めることです。

    面接そのものに関しては、この採用プロセスの中でおそらく一番簡単な部分ではないでしょうか。僕は基本的にあがり症なので、面接自体はかなり苦手な部類なのですが、こちらの面接はとにかくカジュアル。今思い返せばテクニカルなことはほぼ聞かれず、雑談が90%を占めていました。例えば自分の生い立ちや、どうしてアメリカに来ることになったのか、なぜVFXを職業として選んだのか、などです。これも面接という感じではなく、バーでたまたま隣に座った人と会話するような感覚ですね。面接で、自分の母親はすでに定年退職していて、日々卓球に明け暮れているという話をしたのを今でも覚えています(笑)。

    ――現在の勤務先であるCrafty Apesは、どのようなスタジオでしょうか?

    Crafty Apesは、僕が勤務するLAに加えて、アトランタとNYにオフィスを構える会社です。僕が気に入っている点は、ハリウッドのメジャー・スタジオのブロックバスター作品から、社会派のインディペンデント・ドラマまで、幅広い作品に携わることができることです。

    2018年の例を挙げると、大作では『アントマン&ワスプ』『デッドプール2』『クリード 炎の宿敵』など。小規模の作品では『ヘイト・ユー・ギブ』『ビール・ストリートの恋人たち(原題:If Beale Street Could Talk)』などです。TVドラマでは『宇宙探査艦オーヴィル シーズン2』『スター・トレック:ディスカバリー シーズン2』などです。

    会社の雰囲気は、ピーク時や締め切り日の前以外は、とにかくリラックスしていますね。オフィスでは常に誰かがDJで音楽を流していて、誰かの誕生日にはみんなでハッピーバースデーの歌を歌ったりしています。また比較的オープンなオフィススペースで、スーパーバイザーと気軽にコミュニケーションがとれるのも気に入っているところです。

    ――最近参加された作品で、印象に残っているエピソードなどはありますか?

    関わった作品の1つに『スター・トレック:ディスカバリー シーズン2』がありますが、こういう大きなファンベースのあるフランチャイズのワークフローでは、とにかくスーパーバイザー達はルック・デベロップメントに苦労しているのを見てきました。他のシリーズとどのようにルックやガジェットを共有するかや、『スター・トレック』のエコシステムと、どのように共存させるかなどです。そういう部分を現場で経験できたのは面白かったですね。

    Crafty Apesでは『スター・トレック』シリーズで頻繁に登場するトランスポーテーション装置のショットを数多く手がけて、他にも惑星のルックやホログラムでの交信のルックなども担当しています。

    LAオフィスがメインで担当した『宇宙探査艦オーヴィル』でもユニークなガジェット(『ドラえもん』のどこでもドアのようなワープ装置など)が出てきたのですが、こちらは比較的自由にアイデアを提案してクライアントとつくり上げていく感じでした。

    ――現在のポジションの面白いところはどんな点でしょうか。

    コンポジターの面白いところは、やはりショットの完成形に近いところで作業するところですね。もちろん、編集時のクロップやDIでの色調整などはありますが、基本的にショットを完成形までもっていくのはコンポジターの役目です。

    そして、それをスクリーンで観るときの醍醐味は、なによりの喜びです。また上記に関連して、自分が作業をして、あまり時間が経たない間に映画が公開され、記憶が比較的フレッシュなうちにスクリーンで観ることができるのも、コンポジターならではの特権ではないでしょうか。

    この会社でこれから楽しみにしているところは、さらに複雑なショットをまかされるようになることですね。自分がスキルアップしていくにつれて、より複雑なショットをまかされるようになるのはやはり嬉しいです。そういうショットは苦労も多いので、後々冷や汗をかくことになるのですが(笑)。

    ――英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

    高校は、東京都内では珍しい外国語コースがある学校に通ってはいましたが、アメリカに来た当初は到底話せるレベルではありませんでした。ただ、育った街が観光名所だったこともあり、比較的外国人慣れはしていました。話せるレベルではなくとも、臆さずに対応できていたことはこちらに来てかなり役に立ったと思います。日本の多くの人は、語学のレベルよりも「話すことを恐れてしまいがち」だと気づいたのはこちらに来てからですね。

    語学力とは直接関係ないかもしれませんが、VFX業界人の会話内容は、とにかく現地のポップカルチャーについてが多く、また「どういうカートゥーンやTVショウを見て育ったか」や、そこからのリファレンスを会話の中でかなり頻繁に使います。ここのギャップはいまだに僕の中で大きな壁として立ちはだかっていますね。なのでそういった知識も会話をする上でかなり大事な要素だと思います。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    どうしても不安で一歩を踏み出せないという人や、すでに業界経験豊富な人などはネット上でコネクションをつくり始めることをオススメします。先にも述べましたが、今の僕があるのはLinkedInでDMを送りつけたスーパーバイザーが僕のことを覚えていてくれたからです。

    このように、少なくともアメリカでは日本のように履歴書を会社に送って......という決まった手順でなくとも採用されることを強調しておきたいですね。レジュメすら僕は送っていないと記憶してます(笑)。とにかく、何かしらの繋がりをつくり始めるのは、誰でも簡単にできる第一歩ではないでしょうか。


    試写室にて、スーパーバイザーのティム・レドゥ氏と

    【ビザ取得のキーワード】

    1.成城大学文芸学部芸術学科を卒業
    2.アカデミー・オブ・アート・ユニバーシティのアニメーション&ビジュアル・エフェクツ専攻に留学、卒業
    3.OPTを利用して Ingenuity Studiosにインターンとして入社
    4.Crafty Apesに移籍し、現在就労ビザを申請中

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