<2>コンポジターとしてハリウッド大作から社会派作品まで、大好きな映画に関わる毎日
――海外での就職活動はいかがでしたか?
アメリカでは「いかに積極的に自分を売り込めるか」が重要になります。僕とCrafty Apesの関係も、僕がまだAAU在学中に、たまたまLinkedInでDMを送ったCrafty Apesのスーパーバイザーの1人が僕のことを覚えていてくれ、プロジェクトで人出が必要になったときに声をかけてもらったことから始まりました。
実は、そのときに勤めていたスタジオでの契約がまだ残っていたので、泣く泣く断ることになったのですが、そのスタジオの契約が終わるタイミングでこちらからコンタクトをとったところ、LAのオフィスが拡大するから人出が必要とのことで、移籍することになりました。
おそらく過去のインタビューでも様々な方が言われていることだと思いますが、面接の準備に関しては「とにかく良いデモリールを準備すること」が重要です。とりわけ、僕のようなジュニア・ポジションでは、「いかに基礎を幅広くカバーできるか」が求められます。そして、とにかく1ショット毎の完成度を高めることです。
面接そのものに関しては、この採用プロセスの中でおそらく一番簡単な部分ではないでしょうか。僕は基本的にあがり症なので、面接自体はかなり苦手な部類なのですが、こちらの面接はとにかくカジュアル。今思い返せばテクニカルなことはほぼ聞かれず、雑談が90%を占めていました。例えば自分の生い立ちや、どうしてアメリカに来ることになったのか、なぜVFXを職業として選んだのか、などです。これも面接という感じではなく、バーでたまたま隣に座った人と会話するような感覚ですね。面接で、自分の母親はすでに定年退職していて、日々卓球に明け暮れているという話をしたのを今でも覚えています(笑)。
――現在の勤務先であるCrafty Apesは、どのようなスタジオでしょうか?
Crafty Apesは、僕が勤務するLAに加えて、アトランタとNYにオフィスを構える会社です。僕が気に入っている点は、ハリウッドのメジャー・スタジオのブロックバスター作品から、社会派のインディペンデント・ドラマまで、幅広い作品に携わることができることです。
2018年の例を挙げると、大作では『アントマン&ワスプ』や『デッドプール2』、『クリード 炎の宿敵』など。小規模の作品では『ヘイト・ユー・ギブ』、『ビール・ストリートの恋人たち(原題:If Beale Street Could Talk)』などです。TVドラマでは『宇宙探査艦オーヴィル シーズン2』や『スター・トレック:ディスカバリー シーズン2』などです。
会社の雰囲気は、ピーク時や締め切り日の前以外は、とにかくリラックスしていますね。オフィスでは常に誰かがDJで音楽を流していて、誰かの誕生日にはみんなでハッピーバースデーの歌を歌ったりしています。また比較的オープンなオフィススペースで、スーパーバイザーと気軽にコミュニケーションがとれるのも気に入っているところです。
――最近参加された作品で、印象に残っているエピソードなどはありますか?
関わった作品の1つに『スター・トレック:ディスカバリー シーズン2』がありますが、こういう大きなファンベースのあるフランチャイズのワークフローでは、とにかくスーパーバイザー達はルック・デベロップメントに苦労しているのを見てきました。他のシリーズとどのようにルックやガジェットを共有するかや、『スター・トレック』のエコシステムと、どのように共存させるかなどです。そういう部分を現場で経験できたのは面白かったですね。
Crafty Apesでは『スター・トレック』シリーズで頻繁に登場するトランスポーテーション装置のショットを数多く手がけて、他にも惑星のルックやホログラムでの交信のルックなども担当しています。
LAオフィスがメインで担当した『宇宙探査艦オーヴィル』でもユニークなガジェット(『ドラえもん』のどこでもドアのようなワープ装置など)が出てきたのですが、こちらは比較的自由にアイデアを提案してクライアントとつくり上げていく感じでした。
――現在のポジションの面白いところはどんな点でしょうか。
コンポジターの面白いところは、やはりショットの完成形に近いところで作業するところですね。もちろん、編集時のクロップやDIでの色調整などはありますが、基本的にショットを完成形までもっていくのはコンポジターの役目です。
そして、それをスクリーンで観るときの醍醐味は、なによりの喜びです。また上記に関連して、自分が作業をして、あまり時間が経たない間に映画が公開され、記憶が比較的フレッシュなうちにスクリーンで観ることができるのも、コンポジターならではの特権ではないでしょうか。
この会社でこれから楽しみにしているところは、さらに複雑なショットをまかされるようになることですね。自分がスキルアップしていくにつれて、より複雑なショットをまかされるようになるのはやはり嬉しいです。そういうショットは苦労も多いので、後々冷や汗をかくことになるのですが(笑)。
――英会話のスキル習得はどのようにされましたか?
高校は、東京都内では珍しい外国語コースがある学校に通ってはいましたが、アメリカに来た当初は到底話せるレベルではありませんでした。ただ、育った街が観光名所だったこともあり、比較的外国人慣れはしていました。話せるレベルではなくとも、臆さずに対応できていたことはこちらに来てかなり役に立ったと思います。日本の多くの人は、語学のレベルよりも「話すことを恐れてしまいがち」だと気づいたのはこちらに来てからですね。
語学力とは直接関係ないかもしれませんが、VFX業界人の会話内容は、とにかく現地のポップカルチャーについてが多く、また「どういうカートゥーンやTVショウを見て育ったか」や、そこからのリファレンスを会話の中でかなり頻繁に使います。ここのギャップはいまだに僕の中で大きな壁として立ちはだかっていますね。なのでそういった知識も会話をする上でかなり大事な要素だと思います。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
どうしても不安で一歩を踏み出せないという人や、すでに業界経験豊富な人などはネット上でコネクションをつくり始めることをオススメします。先にも述べましたが、今の僕があるのはLinkedInでDMを送りつけたスーパーバイザーが僕のことを覚えていてくれたからです。
このように、少なくともアメリカでは日本のように履歴書を会社に送って......という決まった手順でなくとも採用されることを強調しておきたいですね。レジュメすら僕は送っていないと記憶してます(笑)。とにかく、何かしらの繋がりをつくり始めるのは、誰でも簡単にできる第一歩ではないでしょうか。
試写室にて、スーパーバイザーのティム・レドゥ氏と
【ビザ取得のキーワード】
1.成城大学文芸学部芸術学科を卒業
2.アカデミー・オブ・アート・ユニバーシティのアニメーション&ビジュアル・エフェクツ専攻に留学、卒業
3.OPTを利用して Ingenuity Studiosにインターンとして入社
4.Crafty Apesに移籍し、現在就労ビザを申請中
info.
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【Kindle版】海外で働く映像クリエーター
ーハリウッドを支える日本人 [プリント・レプリカ] 日本を飛び出し、海外で職を得、さらに高みを目指す。個性あふれる海外在住日本人クリエーターたちは何を考え、誰と出会い、どのような生活をしているのだろうか? ハリウッドの著名スタジオに所属する映像クリエーター、開発・サポートスタッフとして映像制作を支える現地スタッフなど、総勢48人に、自らも映像クリエーターである著者がインタビュー。実際の制作現場での裏話、海外へ出たきっかけ、就労ビザ取得での苦労、海外での就職を目指す人へのアドバイスなど、将来海外で働きたいと思っている人たちへのメッセージが凝縮されている。
価格:1,296円(税込)
総ページ数:368ページ
発行・発売:ボーンデジタル
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