今回はニュージーランドからお届けしよう。ハリウッドのVFX業界におけるキャリア構築では、人と人との繋がり、つまりコネクションがとても大切である。今回、ご登場いただいた畑中氏も「オーストラリアで働く先輩の元に遊びに行ったことが、すべての始まりになった」と語る。それでは、畑中氏の人脈がどのようにキャリア構築に繋がったのか、話を伺ってみることにしよう。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Artist's Profile

畑中 誠/Makoto Hatanaka(Weta Digital / Senior Crowd TD)
愛知県出身。デジタルクリエイターカレッジWAO!名古屋校(現在は閉校)Maya 3DCG映像クリエイション専攻を2002年に卒業。地元愛知県や都内のスタジオで3年間経験を積む。その後2006年にシドニーのPostmodern Sydney(現Method Studios)に移籍しTVCMなどのCG全般を担当。そこからオーストラリアの各スタジオをプロジェクト毎に渡り歩く。2017年にニュージーランドのWeta Digitalに移籍し、現職。最近の参加作に映画『ランペイジ 巨獣大乱闘』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』などがある。

<1>CGの仕事を諦めかけたときに訪れたオーストラリア

――日本では、どのような学生時代を過ごされましたか?

少中高と学業の目的を見出せなかったため、勉強はあまり好きでなく、大学受験も甘く見ていて、その当時では珍しいメディア系の学科があった志望校に落ちました。かといって他の大学に行く気も浪人する気にもなれなかったので、高校卒業後は専門学校に入学しました。

デジタルクリエイターカレッジWAO!名古屋校(現在は閉校)へ入学したのですが、そこではクラスの中で最年少だったこともあり、先生やクラスメイトから可愛がっていただきました。授業ではデッサンを学んだり、アートスキルの教育にも力を入れていたんですが、僕はデジタル技術ばかりに興味が行ってしまい、結果、技術自慢のような作品をつくっては、よくダメ出しされていました。......当時お世話になった先生方には報告しづらいのですが、僕の傾向は現在もあのときから全く変わっていません。むしろ悪化しています(笑)。

――日本でお仕事をされていたころのお話をお聞かせください。

専門学校を卒業後、上京してゲームのシネマティクス用モデル、CGアニメのショット制作などをしていましたが、初めての制作現場ということもあって上手く立ち回ることができず、1年ほどで挫折し愛知に戻りました。愛知では建築パースなどを制作する会社に勤めたり、印刷店のWebサイトや3D素材の制作担当として働いていて、CGの仕事にギリギリ携わってはいましたが本格的とは言えず、当時はCGの仕事を諦める寸前だったかもしれません。

――その後、オーストラリアへ渡るわけですが、就職活動について体験談をお聞かせください。

最初に勤めた会社で知り合った先輩とずっと交流があり、その方がオーストラリアのシドニーにある会社で働いておられたので「ゴールデン・ウィークを使って、遊びにいきます」と先輩を訪ねたのが全ての始まりでした。

旅行が決まってから少しだけ駅前留学で英語を勉強してからオーストラリアに行き、先輩の働いている会社を見学させてもらいました。そこで、日本とは違った働き方に感動し「こんな会社でCGをやってみたい」と感想を漏らしたところ、後日先輩から「空きがあるので応募するだけしてみたらどうか」と提案をいただきました。

そこからトントン拍子に話が進み、電話面接となりましたが、英語を少し勉強した程度では、やはり上手く聞き取れませんし喋れません。大変不安な状況でしたが、なんとVFXスーパーバイザーの奥様が日本人で同時通訳をして下さり、面接を通過することができました。当時は就労ビザ取得にIELTSスコアが必要なかったため、そのままビザも取得でき、無事就職というとても幸運なながれでした。

そこでの経験を元に、次のスタジオへとキャリアをつなげていった訳ですが、思い返すと、働いたスタジオほぼ全て、過去に一緒に働いた方に紹介してもらったので、コネクションには本当に恵まれていたと思います。

オーストラリアでは最初の会社で3Dゼネラリストとしてモデリングからテクスチャ、アニメーション、ライティングなどをひと通り担当しました。Massiveは別のシニアアーティストの方が担当していたのですが、その方が別の会社に移る際に担当を引き継ぐことになり、そのときに初めてMassiveに触れました。そのときから群衆シュミレーションに興味を惹かれ、Weta Digitalへの憧れをもつようになりました。もう10年も前のことになりますが、今こうしてWeta Digitalで働いていると思うと感慨深いですね。


Weta Digital Crowdチームとのランチ風景

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<2>大規模スタジオならではの充実した環境

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<2>大規模スタジオならではの充実した環境

――現在の勤務先であるWeta Digitalは、どんな会社でしょうか。

ハリウッド映画の大作を数々手がけているだけあって、ワークフローも大手スタジオらしい余裕があり、施設も充実しています。また、独自の技術も多く、入社して約1年経ちますが、まだまだ学ぶことがたくさんあります。ここで働いている人たちは優秀な方ばかりですし、特にスーパーバイザーの絵に対する厳しい目には毎度驚かされますね。

ウェリントン(Wellington)というニュージーランドの首都にスタジオがあるんですが、Weta Digitalの名前はやはり有名で、業界以外の人にも知られています。大規模なクリスマス・パーティーはニュースで報道されたりするそうです。

――現在のお仕事の面白いところはどんな点でしょうか。

Weta DigitalのCrowd部門は、有名な群衆シミュレーションソフト Massive発祥の地でもあります。そこで、Massiveを開発段階から使っているアーティストの方々と肩を並べて働けるのは大変光栄です。先日、Massive SoftwareのCEOでもある開発者のスティーブン・レジェラス(Stephen Regelous)氏がチームを訪問された際、お話しさせていただくこともできました。

チームの皆さんはCGを根本から理解されている方ばかりで、技術的な話をするのがとても楽しく、難しいショットに対するアプローチなども、時間がかかることを理解してくれていて、充分な時間、自由にR&Dをさせてもらえるためストレスなく働けています。

――英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

大して喋れない状態でオーストラリアに行き、その場で周りの人から少しずつ教わりました。一番上達したなと感じたのは、親切な同僚が僕の興味ある分野のことを根掘り葉掘り聞いてくれたときですね。自分の好きなことに興味をもってもらえたのが嬉しくてあれこれ説明したくて、必死で言葉を捻り出してたんですが、あのときが一番英語を喋っていたと思います。自分の好きな分野なら知ってる言葉も多いし、話も組み立てやすいじゃないですか。考えた所から口に出るまでのプロセスが簡単なんですよね。きっとその同僚は上手く会話を誘導してくれていたんだと思います。

おかげで英語を話すことに少し慣れて、会話する機会も増えていき、テンポだったり言い回しを覚えていきました。そうこうしている間にリスニングも発音も少しずつ慣れていった感じです。

しかしオーストラリアに来て数年経ったころ、自分の主張をうまく伝えられないことで壁を感じ、仕事を辞めて英語学校に通う決心をしました。順序が逆になりましたが、おかげで自分が何を学ぶ必要があるのかが明確だったので、勉強しやすかったと思います。また、仕事をしていると会話の頻度もそこまで多くなかったんですが、学校に行ってからは英語を喋る機会が増えたのも良かったです。そうしてある程度、文化や会話のテンポに慣れた状態で英語学校に行ったので、語彙力があまりなくてもながれにすぐ乗れて、授業に参加しやすかったです。

――ニュージーランドでの生活はいかがですか?

今住んでいる地域は大都市ほど人が多くないので、一軒家を借りてゆったりした生活ができています。ウェリントンはコーヒーがおいしいことで有名らしく、どのカフェに行ってもクオリティの高いコーヒーを楽しめるのが良いですね。また、オーストラリアにいた間はインターネットがADSL方式のものしか使うことができなかったので、ニュージーランドで光回線を使えることが個人的には何よりも嬉しいです(笑)。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

自分が慣れ親しんだ常識や、生活から抜け出して知らない所に飛び込むのはきっと怖いでしょうし、周り人から様々な意見を聞くと思います。失敗するかもと心配かもしれません。でも失敗なら海外に出た後もきっと山ほどしますので安心してください。英会話に慣れない間は恥ずかしい思いも数え切れないほどするでしょう。それを経て海外で働くコツみたいのを掴んでいくはずです。今は海外就労のキッカケが沢山あるので、行きたいと思っていて、環境的、経済的に可能なら心配事は横に置いておいて、どんどん失敗していきましょう。


スタジオの近所にあるWeta Caveというミュージアムの前にあるクリーチャーと

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