今回は、スウェーデンのゲーム・スタジオで活躍している日本人アーティストを紹介しよう。学生時代からアルバイトでゲーム制作現場に参加し、そのままプロになったという池田 亘氏。日本で経験を重ねてスキルを磨き、海外にチャレンジした経験から「海外就活は日頃から準備を行うことが大切」と語る。それでは、その貴重な体験談をスウェーデンでの生活情報も織り交ぜながら紹介していこう。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
池田 亘/Wataru Ikeda(EA Digital Illusions CE / VFX Artist)
学生時代からアルバイトでスクウェア(現スクウェア・エニックス)にて背景アーティストとして参加し、そのまま同社に入社。プリレンダリングの背景制作や『ファイナルファンタジーXI』の背景モデラーなどを経験後、カプコンへエフェクト・デザイナーとして移籍。『ロストプラネット2』でリードVFXデザイナーを務めたほか、テクニカル・アーティストとしてツール開発や技術研究を行う。2016年にスウェーデンのEA DICEヘ移籍し、現職。『バトルフィールド1』ではVFXアーティストとして貢献した。
<1>学生時代からゲーム会社で働き始める
ーー学生時代の話をお聞かせください。
池田 亘氏(以下、池田):大学2回生のときにPerformaという比較的安価なMacを買い、Strata 3Dというアプリで3DCGに目覚め、毎日、夢中で何かをつくっていました。やがてそれだけでは物足りなくなって、WindowsPCとLightWaveを買って、大学の課題制作として3DCGの動画を制作していました。3回生の夏休みに、大阪のIMAGICAウェストでアルバイトとして『バイオハザード2』のオープニングムービーの仕事に携わり、これが私にとって初めてゲーム業界に関わる仕事となりました。バイト代は全て3DCG制作のためのPCパーツに消えましたが(笑)。4回生になり、今度はスクウェア・エニックスでアルバイトを始めました。学生の頃からお金を貰いながら3DCGの勉強ができて、制作現場に入れたことは、とても幸運でしたね。
ーー日本で仕事をしていた頃の話を教えてください。
池田:アルバイトがきっかけで入社したスクウェア・エニックスではもともと背景の担当でしたが、プリレンダーのムービー制作でVFXにも携わったことから、エフェクトに興味をもち始めました。その後、移籍したカプコンではVFXデザイナーとして『ロストプラネット』などのエフェクト制作に携わり、リードVFXデザイナーを経験後はアーティストの環境向上や技術推進のためにテクニカル・アーティストになりました。内製ゲームエンジンのエフェクトツール開発や技術開発、シェーダをアーティストに教えるといったことが業務の中心で、この頃にワークフロー構築やプログラミングに関する知識、経験を積みました。社外のUXデザインワークショップにも参加し、そこで学んだことをツール改善に役立てる、といったこともありました。
ーーその後、海外に渡られたわけですが、海外での就職活動で重要なのはどんなことだと思いましたか?
池田:日頃から準備しておくことがとても大切です。なのでデモリールは常に最新にしておくことをおすすめします。また、面接を受けるタイミングも重要です。事実、私はEA DICE(以降、DICE)の求人へ2回、応募しています。1回目はすでに誰かに決まっていたため書類選考止まりでしたが、2回目に応募した際に、私のことを覚えてくれていたようで、すぐに面接に進むことができました。一度で諦めず、よいタイミングで応募できるように準備をしておいて良かったと思っています。
ーー実際にはどのような経緯でDICEへの就職が決まったのでしょうか。
まずはLinkedinという就活のコミュニティ・サイトに参加して海外の知り合いを増やし、デモリール作成の際にアドバイスをいただいたりしていました。DICEでの面接は、1次がSkypeを使ったものでした。モニター越しに6人くらいに囲まれて、スウェーデンやDICEについて知ってることは? 家族と移住しても大丈夫? など一般的な質問がほとんどで、テクニカルな内容ではなく人柄チェックとコミュニケーション力の確認という印象でした。
その後、実技テストを受けることになり、2週間という期間で仕事をしながら作品を制作するというハードな状況の中、極度の睡眠不足になりながらも何とかテスト作品を仕上げました。幸いにも作品を気に入ってもらえ、最終面接に呼ばれてスウェーデンへ。ほぼオファーが決まっていたのか、その際に現地のリロケーション・グループの方にストックホルム案内や現地のアパートを見せてもらい、移住後のイメージをしっかりともつことができました。
VISAに関しては、必要書類(英訳の戸籍謄本や、家族全員分のパスポートコピーなど)と委任状をPDFで送信したあとはほとんどまかせきりで、DICEが手厚くサポートしてくれました。書類がスウェーデン語の場合も、リロケーションのエージェントが英語に訳して伝えてくれましたので、困ることはありませんでした。2ヶ月もしないうちに就労ビザをもらうことができたと思います。
仕事中の池田氏
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<2>マスターアップ前でも長期休暇? 健康志向の高いスウェーデンでの働き方
<2>マスターアップ前でも長期休暇? 健康志向の高いスウェーデンでの働き方
ーー現在の勤務先であるDICEはどんな会社でしょうか。
池田:とてもフラットな環境で、年齢や経歴などに関係なく、皆が話し合うことができる会社です。個々のスキルがとても高いと感じていますが、それ以外にもマネージメントに力を入れていて、効率よく仕事を回せていると感じます。
スウェーデンは健康志向が強く、仕事中にジムに行く人も多いです。あとは机の高さを電動で自由に調整できるので、仕事中も座りっぱなしにならずにすみます。また、月に一度のペースで会社内のキッチンで息抜きのためのパーティーがあったりと、とにかく従業員の健康にとても気を遣っていることが感じられます。
他にも、スウェーデンの法律で年間25日は有給を取らなければいけないことや、病欠や育児休暇に対する給与保障がとてもしっかりしていて、多くの人が気軽に休暇を取ります。『バトルフィールド1』のマスターアップは秋頃でしたが、それでも7月や8月に2週間ほど休む人が多いのに驚かされました。なので私も便乗して休みをいただきました......恐る恐るでしたが(笑)。
ーー現在の仕事の面白いところは何でしょうか。
池田:いまの仕事は、アートとプログラムの狭間にあるものと捉えています。学ぶべきことが多く、ツールも多種多様に使いながら目指すべき表現のために問題を解決していくため、常にやり甲斐を感じられるポジションです。毎秒60フレームで動作しなければならないゲーム上で、いかにVFXでプレイヤーに強い印象を与えるか、といった工夫や最適化も楽しく感じています。特にシェーダのコードを自分で書いて実験しながら実際のゲーム上に乗せていき、うまく最適化と表現の両立ができたときは、喜びも大きいです。またDICEではFrostbiteという内製エンジンを使っていますが、カプコンや市販のゲームエンジンとのちがいや、メリット&デメリットなどを学べることも、エフェクトツール制作に深く携わっていた自分にとって楽しい部分になります。
ーー英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?
池田:英語は、日本にいるときにオンライン英会話で1年ほど勉強しました。私が学んだオンライン英会話は、ヨーロッパ系の先生が多く所属していたことが選ぶポイントとなりました。スクールに通うよりも安いですし、家で勉強できるのが何より魅力です。会話や文法などの学習だけでなく、英語の面接練習や英文履歴書の添削もしてくれました。それと並行して、TOEICの目標点数を定めて、筋トレのように単語やリスニング、リーディングを独学で鍛えていました。また、積極的に海外出張(GDCやSIGGRAPH)などへの参加希望を伝え、英語が必須な状況をあえてつくり、モチベーションを維持していました。
まだまだ英語には苦労していますが、ペラペラにしゃべれなくとも仕事のスキルさえあれば海外での仕事は可能です。もちろん流暢に受け答えできるに越したことはないのですが、下手な英語でも何かを伝えたいときに同僚はしっかり聞いてくれますし、内容が複雑になる場合は、それを伝えるための書類をつくって正確に伝達するようにしています。
ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
池田:海外のスタジオは「日本には、高いスキルをもった人が多い」ということを認識しています。なので英語ができないというだけで海外で働くことを断念しているのは、大変もったいないことだと思います。私の場合、36歳を超えてから英語に取り組み、実際に海外で仕事を始めることができましたので、どうか年齢を理由に諦めることはしないで欲しいです。それにオンライン英会話は始めようと思ったその瞬間、その日から開始することができます。「やるかやらないか」、それだけです。若い人にはぜひ留学して海外で3DCGと英語を同時に学ぶことをおすすめします。
DICEの同僚と
【ビザ取得のキーワード】
1.大阪芸術大学芸術学部デザイン学科を卒業
2.スクウェア・エニックスやカプコンなどで実績を重ねる
3.「わざわざ海外から雇用する価値がある」と思われるまでスキルを磨きつつ、英語を鍛える
4.スウェーデンのEA DICEに就職、就労ビザを取得
info.
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