>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:第14回:池田 亘(EA Digital Illusions CE / VFX Artist)
第14回:池田 亘(EA Digital Illusions CE / VFX Artist)

第14回:池田 亘(EA Digital Illusions CE / VFX Artist)

<2>マスターアップ前でも長期休暇? 健康志向の高いスウェーデンでの働き方

ーー現在の勤務先であるDICEはどんな会社でしょうか。

池田:とてもフラットな環境で、年齢や経歴などに関係なく、皆が話し合うことができる会社です。個々のスキルがとても高いと感じていますが、それ以外にもマネージメントに力を入れていて、効率よく仕事を回せていると感じます。

スウェーデンは健康志向が強く、仕事中にジムに行く人も多いです。あとは机の高さを電動で自由に調整できるので、仕事中も座りっぱなしにならずにすみます。また、月に一度のペースで会社内のキッチンで息抜きのためのパーティーがあったりと、とにかく従業員の健康にとても気を遣っていることが感じられます。

他にも、スウェーデンの法律で年間25日は有給を取らなければいけないことや、病欠や育児休暇に対する給与保障がとてもしっかりしていて、多くの人が気軽に休暇を取ります。『バトルフィールド1』のマスターアップは秋頃でしたが、それでも7月や8月に2週間ほど休む人が多いのに驚かされました。なので私も便乗して休みをいただきました......恐る恐るでしたが(笑)。

ーー現在の仕事の面白いところは何でしょうか。

池田:いまの仕事は、アートとプログラムの狭間にあるものと捉えています。学ぶべきことが多く、ツールも多種多様に使いながら目指すべき表現のために問題を解決していくため、常にやり甲斐を感じられるポジションです。毎秒60フレームで動作しなければならないゲーム上で、いかにVFXでプレイヤーに強い印象を与えるか、といった工夫や最適化も楽しく感じています。特にシェーダのコードを自分で書いて実験しながら実際のゲーム上に乗せていき、うまく最適化と表現の両立ができたときは、喜びも大きいです。またDICEではFrostbiteという内製エンジンを使っていますが、カプコンや市販のゲームエンジンとのちがいや、メリット&デメリットなどを学べることも、エフェクトツール制作に深く携わっていた自分にとって楽しい部分になります。

ーー英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

池田:英語は、日本にいるときにオンライン英会話で1年ほど勉強しました。私が学んだオンライン英会話は、ヨーロッパ系の先生が多く所属していたことが選ぶポイントとなりました。スクールに通うよりも安いですし、家で勉強できるのが何より魅力です。会話や文法などの学習だけでなく、英語の面接練習や英文履歴書の添削もしてくれました。それと並行して、TOEICの目標点数を定めて、筋トレのように単語やリスニング、リーディングを独学で鍛えていました。また、積極的に海外出張(GDCやSIGGRAPH)などへの参加希望を伝え、英語が必須な状況をあえてつくり、モチベーションを維持していました。

まだまだ英語には苦労していますが、ペラペラにしゃべれなくとも仕事のスキルさえあれば海外での仕事は可能です。もちろん流暢に受け答えできるに越したことはないのですが、下手な英語でも何かを伝えたいときに同僚はしっかり聞いてくれますし、内容が複雑になる場合は、それを伝えるための書類をつくって正確に伝達するようにしています。

ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

池田:海外のスタジオは「日本には、高いスキルをもった人が多い」ということを認識しています。なので英語ができないというだけで海外で働くことを断念しているのは、大変もったいないことだと思います。私の場合、36歳を超えてから英語に取り組み、実際に海外で仕事を始めることができましたので、どうか年齢を理由に諦めることはしないで欲しいです。それにオンライン英会話は始めようと思ったその瞬間、その日から開始することができます。「やるかやらないか」、それだけです。若い人にはぜひ留学して海外で3DCGと英語を同時に学ぶことをおすすめします。


DICEの同僚と

【ビザ取得のキーワード】

1.大阪芸術大学芸術学部デザイン学科を卒業
2.スクウェア・エニックスやカプコンなどで実績を重ねる
3.「わざわざ海外から雇用する価値がある」と思われるまでスキルを磨きつつ、英語を鍛える
4.スウェーデンのEA DICEに就職、就労ビザを取得

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