カナダのモントリオール在住のデジタルアーティストを紹介しよう。ハリウッドのVFX業界への就職を果たした日本人は、海外留学してから就職した「留学派」と、日本で働きながら経験を積んだ後、海外で就職した「叩き上げ派」に大別できるだろう。そうした中、日本の美大を卒業後と同時に渡航して比較的短期間でポジションを獲得できたという土田優花さんは、希有な存在かもしれない。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
土田優花 / Yuka Tsuchida(Moving Picture Company / Animator)
東京都練馬区出身。2016年に武蔵野美術大学 映像学科を卒業後、カナダ バンクーバーへ渡る。3ヶ月の語学学校と3ヶ月の就職活動を経て、Hydrualx VFXにてキャリアをスタート。『Death Note/デスノート』 、『ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン2』(ともにNetflix)に参加した後、2018年2月にモントリオールのMoving Picture Companyへ移籍し、現職。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年5月31日公開予定)や、ティム・バートン監督の『ダンボ』(2019年3月29日公開予定)などに参加している
<1>美大で映像を学び、カナダへ。ビザのルール改正に帰国の危機も
――日本では、どのような学生時代を過ごされましたか?
ジブリ映画に憧れて、かつ実写映画にも興味があったので、様々な分野の映像をつくることができる武蔵野美術大学映像学科に進学しました。やりたいことが定まっていなかった分、自分の知らない世界を知ろうと、幅広く課題や自主制作に取り組む学生でした。その中でも主に2Dアニメーションや、ドキュメンタリー制作に力を入れていました。
3DCGアニメーションに出会ったのは3年生のときです。1タームだけ3ds Maxの授業があり、「漫才」、「一騎打ち」などをテーマに、短いアニメーションをつくりました。難しいモデリングはなく、丸や四角のオブジェクトだけでストーリーを伝えられることに感激し、どんどん3DCGの魅力にハマっていきました。
その後も、Google検索やYouTubeなどにアップされたチュートリアル動画を参考に独学で3DCGを学んでいきましたが、アニメーションについては大学外での活動から多くを学びました。プロのアニメーターの方が開いていたワークショップに参加したり、海外で活躍されている方のセミナーに参加して勉強するなど、楽しくて仕方なかったです。
――美大卒業後、すぐにカナダに渡り就職先を決めたそうですが、就職活動はどのようにされたのですか?
カナダに行ってから周りを見渡してみると、自国でアニメーターとして経験を積んできたプロの方や、こちらの学校で、アニメーションと英語力を鍛錬してきた人がほとんどでした。そういった人たちと同じポジションを争わなければいけなかったので、とにかくたくさん応募しました。ジョブフェアや、業界のミートアップにも参加し、LinkedInを利用して直接メッセージを送ることもしていました。そうして、やっとの思いでゲットした面接の機会は、たったの2回でした。
最初の就職活動の成功のカギは、ワーキングホリデービザをもっていたことだと思います。ビザをもっていない人をサポートしている会社は少なく、書類審査で弾かれてしまいます。初めて仕事をした会社はHydraulx VFXという会社で、ワーキングホリデービザに切り替えた直後に決まりました。また、デモリールについて「多くの新人は、ポリッシュ(仕上げ)がおろそかになりがちだが、あなたのデモリールはポリッシュまでよくできている」と面接時に評価していただき、それまでにプロの方々に作品を見ていただき、もらったアドバイスに基づいて修正を重ねていたことも重要だったと思いました。
Hydraulx VFXで1年間働いた後、契約延長について話がありました。休日も同僚と出かけたり、仕事でも良いショットをまかされるようになってきていたので、とても嬉しかったです。ですが、その間にカナダでの就労ビザのルールが改正されてしまい、その影響でビザの延長ができなくなりました。おかげで、カナダに残るためのビザが切れてしまうことになったんです。
帰国まで2ヵ月ほど猶予があったので、働きながら、ビザをサポートしてもらえる大きなスタジオへの転職活動を始めました。ルール改正の影響を受けていない、ケベック州のモントリオールで仕事が見つかったのは、ビザが切れて「帰国してください」というメールが届いたその日でした。
――どのようなルール改正が行われたのでしょうか?
「ビザは生もの」とよく言われていて、ルールが頻繁に変わります。なので気になったキーワードはご自身で検索していただきたく思います。
私が影響を受けたビザの改正は2017年の夏頃に実施されたものです。バンクーバーのあるブリティッシュコロンビア州では、規定の実務経験と年収を満たしていないと、ビザ申請が難しくなりました。既定の経験年数に足りていなかった私は、会社と協力して、厳しくなったルールに従いビザの取得を試みたのですが、大変会社の負担が大きくなってしまい、断念せざるを得ませんでした。
また、最近の話になりますが、新しくCPTPP(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)という制度がスタートしたようです。これはビザを得るために、会社側に行なってもらう必要がある手続きのLMIA(Labor Market Impact Assessment)が、既定の条件を満たしている場合、免除されるというものです。この改正によってさらに経験豊富な技術者にとっては、チャンスが広がったと思います。
しかし、ここで注意しなければいけないのは、カナダでは州ごとに法律が異なるので、ビザのルールも州ごとに異なるということです。2017年の変更で、私がバンクーバーでビザを取得できなかった際、モントリオールで仕事を見つけられたのは、その改正がモントリオールのあるケベック州では適応されていなかったからです。バンクーバーでお世話になった移民弁護士の方も「ケベック州のビザの話は、異なる免許がいるのでお話できません」とおっしゃっていました。カナダのビザなのに、取得のルールがちがうのは不思議ですよね。
アニメーション・チームの同僚と