>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:海外での就職活動は「運とタイミング」。第56回:小谷松 星子(Snap Inc. / Senior VFX Artist)
海外での就職活動は「運とタイミング」。第56回:小谷松 星子(Snap Inc. / Senior VFX Artist)

海外での就職活動は「運とタイミング」。第56回:小谷松 星子(Snap Inc. / Senior VFX Artist)

筆者自身も痛感することだが、海外のVFX業界での就活は「運とタイミング」に左右されるところが大きい。たまたま募集がかかっていてポジションを獲得できたこともあれば、既に締め切られてタイミングを逃したこともある。今回ご登場いただいた小谷松 星子氏によると、どうやらゲーム業界も同じであるらしい。ということで、さっそく小谷松氏に話を聞いてみることにしよう。


TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



Artist's Profile

小谷松 星子 / Oyamatsu Hoshiko(Snap Inc. / Senior VFX Artist)
大阪府出身。京都教育大学教育学部特修美術専攻(現・美術領域専攻)卒業後、カプコンで背景デザイナーとしてキャリアをスタート。その後、VFXデザイナーに転向し『ロストプラネット』、『Devil May Cry 4 』などの開発に参加。1年間のイギリス生活の後、LAのゲームスタジオSpark Unlimited、Double Helix Games、Amazon Game Studio等を経て、2018年4月にSnap Inc.に移籍し、現職。「Bitmoji」のARレンズ制作に携わっている。

<1>海外での就職活動は「運とタイミング」

――学生時代のお話をお聞かせください。

教育大学の美術科でグラフィックデザインを専攻していました。IllustratorやPhotoshopで作品を制作したり、印刷や写真の基礎などを学んでいましたが、もっぱら趣味で漫画やイラストを描いたりゲームで遊ぶ日々でした。元々教職に就くことは頭になく、趣味の絵を活かせる仕事に就きたかったので、イラストのポートフォリオをつくってゲーム会社に就職活動をしました。

新卒でカプコンに入社し、背景デザイナーとしてチームに配属されたのですが、そこで初めて3DCGソフトを触り、最初に関わった『鬼武者』ではプリレンダーの背景を担当しました。実は『鬼武者』の名付け親でもあります。チーム内でタイトルを募集してもなかなか決まらず煮つまっていたところ、私がチームに入ってど直球な案を出したら、それが採用されました。

その後、VFXセクションの拡充を図っていたリードに誘われてVFXデザイナーに転向し、PlayStation 2やXbox 360、PlayStation 3のゲームタイトルの開発に携わりました。当時は、各チームのVFXデザイナーとツール開発担当エンジニアが定例でミーティングを設けていて、デザイナーの要望をツールに実装していくという良好な関係が築けていたので、内製のゲームエンジンのVFXツールはかなり使い易かったです。後にいろいろな開発環境を経験して、いかに恵まれていたかを思い知りました。

――留学時代のお話をお聞かせください。

カプコン退職後はまったく別のキャリアに進むつもりで、まずは「語学を身に付けつつ外国で暮らしてみたい」という憧れを叶えようと、イギリスのブライトンで1年間語学学校に通いました。今思えば語学だけのために1年というのは長く、3ヶ月くらいで十分だったかも知れませんが、半分は休暇のようなつもりで、旅行したり、サッカーやラグビー、テニスの試合を見に行ったりして楽しみました。

その後は進学することを考えていましたが、「学生はお金を払って滞在させてもらっているお客さんで、仕事をしなければ本当にその国で生活することにはならない」と思い、休んでいる間にクリエイティブな仕事へのモチベーションが甦ったこともあって、ゲーム開発に戻ることにしました。

――海外の映像業界への就活はいかがでしたか?

何度か就職活動をした中で強く感じたのは、「運とタイミング」が大きく影響するということです。そのポジションに求められる実力を備えておくことは大前提ですが、そもそも空きがなければどうしようもありません。私は実力的には「並」な感じですが、かなり運が良かったと思います。

最初に働いたスタジオは、いろいろな会社のWebサイトをチェックしてVFXアーティストの募集をしている数社にコンタクトしたところ、5時間くらいで返事があったLAのSpark Unlimitedです。その週のうちにVFXリードと電話インタビューをして、「アメリカのスタジオではこのスピード感が普通なのか」と驚いたのですが、次にアートディレクター他数名とSkypeインタビューをして、カプコンでかつて自分が関わったゲームの続編のプロジェクトを手がけるのだと知らされました。どうりでレスポンスが速かったわけです。その後、すんなりオファーをもらいました。


▲お仕事中:リモートワーク

現在、H1-Bビザは抽選になるほどの膨大な申請数ですが、当時はリーマンショック後の不況の影響で発給枠が余っていて、9月に申請して1ヶ月程度で取得でき、オファーをもらってから1ヶ月半で渡米して働き始めました。 1年半ほどSparkで働いて、プロジェクトが終わりに近づいたころに次の仕事を探し始めました。

友人の紹介で別のスタジオの偉い人たちと食事をしたときに、iPadでデモリールを見てもらったのをきっかけにインタビューを受けることになりオファーをもらったのですが、入社して半年後にスタジオがAmazonに買収され、いつの間にかAmazon Game Studios(以下、AGS)で働くことになっていました。

AGSでは内製ゲームエンジンでPC向けのゲームを開発していました。結局このゲームはペンディングになってしまったんですけどね。会社にサポートしてもらってグリーンカードを取得した直後だったのですが、また就職活動を始めました。たまたまSnap Inc.(以下、Snap)のリクルーターからLinkedInを通してコンタクトがあり、その縁で現在はSnapで働いています。

――現在の勤務先であるSnapはどのようなスタジオでしょうか?

若い世代に支持されている写真共有アプリ「Snapchat」をつくっている会社で、私が所属するチームは「Bitmoji」というカートゥーンスタイルのアバターを使ったARレンズを制作しています。「Bitmoji」をゲームキャラクターとして使えるSDKもサードパーティ向けに提供される予定です。

Snapは若い会社で、「新しいものを産み出そう」という勢いがあります。様々なバックグラウンドをもつ人々が集まっていて、ダイバーシティやインクルージョンへの取り組みにも積極的です。競争の激しい業界なためか社員への待遇も手厚いです。今は新型コロナウイルス・パンデミックの影響でリモートでの業務ですが、サンタモニカのオフィスには無料のカフェテリアやコーヒー・バーがありますし、オープンスペースや集中するためのコンパートメントなどもあり、フリーアドレスで仕事ができるようになっています。

最近では、ファッションブランドとのコラボレーションで、アバターのファッションやARレンズをいくつか手がけました。自分と同じ服装のアバターは「自分の分身」という気持ちが高まります。つくるのは大変なんですけどね......。


<2>相手を理解し、自分を表現する手段を手に入れよう

――現在のポジションの面白いところは、どんな部分でしょうか。

リアルタイムVFXをつくるだけでなく、各アセットやアニメーションを組み立ててARレンズとしてパッケージングするなど、様々な工程を担当しています。ゲームに比べてプロジェクトのサイクルが速いこともあり、「ものをつくってユーザーに届けている」という実感が得られ、前の会社で4年近く関わっていたゲームがペンディングになったダメージを癒してくれました。

「Lens Studio」という一般公開されているARレンズのツールを使っているのですが、開発のスピードが速く新しい技術が追加されていくので、それを採り入れたレンズを考えるのも楽しいです。

ユーザーに楽しんでもらうと同時に、「自分を表現するツール」としてのレンズの役割をどう実現していくか、ゲームとはちがったアプローチは新しいチャレンジです。


▲同僚と:オフィスでのスナップ

――英会話のスキルはどのように習得されましたか?

留学前に日本で勉強していた方法としては、日本語を介さずに英語を学習することです。高校レベルの語彙があれば、『Oxford Advanced Learner's Dictionary』という3,000語で説明された学習者向けの英英辞書が使えるので、それで複雑な概念をシンプルな単語で表現することを覚えました。

スピーキングは、フォニックスで個々の音を発音できるようにした後、歌を覚えるイメージで抑揚や強弱を意識してシャドウイングをしていました。こういった基礎練習をコツコツ積み重ねながら、「練習試合」として週1回ネイティブスピーカーに個人レッスンを受けていましたね。

――最後に、将来海外で働きたい人へアドバイスをお願いします。

私はCGの技術が特別に高かったわけではなく、最適なタイミングで必要とされている場所にコンタクトした結果、海外で働きはじめることができました。職探しはマッチングなので、結果が出なくても「今はそういうタイミングだったんだ」と次に向かって行くと、そのうち良い出会いがあると思います。

英語を身に付けてコミュニケーションができるようになると、仕事をする場所の選択肢が一気に増えます。「この人となら一緒に働いてものをつくっていける」と思ってもらえるように、相手を理解し自分を表現する手段を手に入れましょう。

また、私はずっと条件面に関して無頓着だったのですが、Glassdoorなどのサイトをチェックしたり、人に聞いたりして給与の相場を把握しておかないとかなり損をすることもあるので、気をつけてください。職種によってかなりちがいます。


【ビザ取得のキーワード】

① 京都教育大学教育学部特修美術専攻(現・美術領域専攻)を卒業
② カプコンで経験を積む
③ LAのゲームスタジオからオファーを受け、H1-Bビザを取得
④ H1-Bビザでの転職を経て、グリーンカードを取得

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