世界的な大ヒットとなったディズニーの長編アニメーション映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』。この作品でアート・ディレクターに大抜擢されたのが、大阪生まれの日系カナダ人、アミ・トンプソンさんだ。どのような経緯でアミさんがこの大作と巡りあうことになったのか、お話を伺ってみることにしよう。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
アミ・トンプソン / Ami Thompson(Walt Disney Animation Studios/ Art Director)
大阪府出身の日系カナダ人。カナダの高校Victoria School of Performing and Visual Artsを卒業後、2008年にスタジオジブリでアニメーター研修生としてキャリアをスタート。その後、2012年にMicrosoft StudiosでCGアニメーター研修生、Walt Disney Animation Studiosで2Dアニメーター研修生となる。2013年にカナダのSheridan大学を卒業後、スタジオ4℃でアニメーターとして作画を務める。2014年にWalt Disney Animation StudiosにVisual Development Artistとして入社し、現職。『シュガー・ラッシュ:オンライン』ではアートディレクターに抜擢され、第46回 Annie Award(2019年2月)では、『シュガー・ラッシュ:オンライン』で名前入りでOutstanding Achievement for Character Design in an Animated Feature Production部門ノミネートを果たした。またVarietyでは2018年、10 Animators to Watch 2018に名前入りで受賞している
www.imdb.com/name/nm8606506/?ref_=fn_al_nm_1
<1>スタジオジブリ、スタジオ4℃など、日本でも経験を積みディズニーへ
――小さい頃は日本で過ごされたそうですね。
実家はカナダですが、小学生までは大阪に住んでいました。子供の頃から絵を描くのが大好きで、毎日アニメやディズニーの絵を真似して描いていました。あまりにもたくさん絵を描くのでスケッチブックだと高くついてしまい、安いコピー用紙に描くほどでした(笑)。母が言うには3歳の頃は毎日、白雪姫を、5歳の頃は仮面ライダーとウルトラマン、そしていつしかセーラームーンばかり描くようになったらしいです(笑)。
カナダに移住してからは高校までアート・スクールにいたので、毎日絵を描いたり、CGを勉強しながらディズニーで働きたいという夢をもっていました。そんな頃、母に「そんなに絵を描くのが好きなら、アニメーターを目指してみたら?」とアドバイスされました。しかしその頃、まだアニメーターがどんな仕事かわからなかったので、勉強のためにスタジオジブリにポートフォリオを送ってみたんです。すると研修に参加できることになり、そこで初めて宮崎 駿監督と稲村武志さんからアニメーションを学びました。短い研修期間でしたが、アニメーションの世界がとても面白く、シェリダン大学に進学してもっとアニメーションを勉強したいと思ったわけです。
――日本の会社での勤務経験もあるそうですね。
スタジオ4℃で劇場映画、『ムタフカズ -MUTAFUKAZ-』の作画の仕事をしました。『鉄コン筋クリート』や、『下妻物語』のアニメーションを手がけた憧れの西見祥示郎監督と一緒にお仕事をさせていただけたので、とても嬉しかったです。西見監督はとても優しい方で、ムタフカズのアートスタイルがとても好きだったので、監督の表現方法をたくさん勉強しました。毎日が楽しくて、あっという間に時間が過ぎていきましたね。仕事が終わって、自分へのご褒美にミスタードーナッツを買いにいくのが楽しみだったのもいい思い出です。ポンデ(ポン・デ・リング)が美味しかった(笑)!
――ディズニーへは、どのように応募されたのでしょうか?
仕事はしていましたが、いつかはディズニーで働きたいと思っていたので、アメリカのWalt Disney Animation Studiosにポートフォリオを送りました。最初のころは「返事がいつ来るか」と首を長くして待っていましたが、連絡が来たのは忘れた頃でしたね。夜中の4時に突然電話が鳴り、ビックリしました。寝ぼけていましたので、そのとき何を答えたのかもよく覚えていません(笑)。それからアメリカで働く準備にとりかかったのですが、それは大変でしたよ。日本からカナダに帰って、すぐまたアメリカに引っ越しですからね。家具を処分し、また新しいのを買ったりと本当にバタバタでした。
――映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』でアートディレクターに抜擢された経緯を教えてください。
Walt Disney Animation Studiosに入社してすぐ、短編アニメーション『インナー・ワーキング』のキャラクター・スーパーバイザー(作画監督)や、アニメーターとしてお仕事をさせていただきました。それが終わった頃、『ズートピア』のアートディレクターのコリー・ロフティスさんと監督のリッチ・ムーアさんから、『シュガー・ラッシュ:オンライン』のキャラクターアートディレクターのオファーをいただきました。その日が丁度、エイプリル・フールだったので「嘘なんでしょ?」と失礼なことを言ってしまい、大恥をかきました(笑)。今でも、あの日のことは忘れられません。
『ズートピア』がアカデミー賞を受賞した後、オスカー像と記念撮影。キャラクターチームの同僚と
©2019 Disney. All Rights Reserved.
――『シュガー・ラッシュ:オンライン』のお仕事で印象に残っているエピソードを教えてください。
一番大変だったのはオファーをもらったときに、アートディレクターとはどんな仕事なのか、どんなプロセスが必要なのか、そんなことすらわかっていなかったことです。ですから、1からの勉強になりました。さらにアートディレクターの仕事は自分だけではなく、他のスタッフたちともコミュニケーションをとって進めていくので、そこが難しかったです。
クリエイティブな部分で難しかったのは、インターネットをどう表現するかという点でした。なんでもアリの世界なので表現に制約がないのが逆に大変でしたね。その上、ものすごくたくさんのキャラクターが出てくるものですから、その1人1人のキャラクターづくりも大変でしたよ。
やりがいがあったことと言えば、やはりディズニープリンセス達をデザインできたことですね。まさか本当に、子供の頃に描いていた白雪姫を仕事で描くことになるなんて思っていませんでしたから......本当に嬉しかったです。
また、インターンシップとして働いていた頃に、前作『シュガー・ラッシュ』の制作をしていたのですが、制作現場を見たかった私は会議室に潜り込んで、リッチ・ムーア監督が話してるのを見に行ったことがありました。その頃、いつか私も監督と仕事をしたいと思っていて、その後、『シュガー・ラッシュ:オンライン』のオファーが来たので、とても嬉しかったです。
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『シュガー・ラッシュ:オンライン』
4月10日(水)先行デジタル配信開始
4月24日(水)MovieNEX(4,000円+税)、4K UHD MovieNEX(7,800円+税)発売
MovieNEX初回版は可愛いアウターケース付き(両面仕様)
先着購入特典:シュガー・ラッシュ:オンライン オリジナル・カレンダー
© 2019 Disney
https://www.disney.co.jp/movie/sugarrush-ol.html
――『シュガー・ラッシュ:オンライン』のディズニープリンセス総出演シーンでは、「シンデレラの耳が見えているデザインは珍しい」とファンの間で話題になっていたようです。このデザイン設定には、何か理由があったのでしょうか?
たしかに『シンデレラ』のオリジナル長編アニメーション映画では耳が隠れていました。でも、カチューシャは耳の後ろに掛けてつけることもできるので、今回は耳を見せることにした、というのが理由です。
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<2>憧れのディズニーで、アート・ディレクターとして活躍中
<2>憧れのディズニーで、アート・ディレクターとして活躍中
――ディズニーでお仕事をされていかがですか? 印象に残るエピソードなどがございましたら、教えてください。
最初のインターシップに就いたときに、メンターがマーク・ヘンさんだとわかったときは衝撃でした。マーク・ヘンさんは、歴代のプリンセス達、ベル(『美女と野獣』)やムーラン(『ムーラン』)を描かれてきた方で、私の尊敬するアーティストだったので、インターンシップの期間中、緊張の連続でした。ヘンさんからは大好きなスティッチ(『リロ&スティッチ』)のアニメーションを教わり、嬉しかったです。
――アート・ディレクターというお仕事の面白い点は何でしょうか?
やはり、頭の中で描いたキャラクターたちが実際に映画のなかで動くことでしょうか。仕上がったシーンを見たときは、本当に感動します。それから、『シュガー・ラッシュ:オンライン』では、1つのスタイルにこだわらず、様々なスタイルのキャラクターデザインを描けたことがとても面白かったです。たとえばスローター・レースに出てくるシャンクはリアル系に描きましたが、ノウズモアというキャラクターはマスコットなので、カートゥーンっぽく描きました。ほかにもパンケーキとミルクシェイクというウサギとネコのキャラクターは、日本的なかわいさをもつデザインに仕上がり、大好きなキャラクターです。実は、私が飼っている猫をモデルにしたんですよ(笑)。
――アミさんは大阪生まれですが、英会話のトレーニングはどのようにされましたか?
英語はカナダで暮らすうちに自然と身についていきました。しかし、文化のちがいに戸惑うことはありましたね。
――将来、海外のアニメーション業界やVFX業界で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
私は普段、絵を描くことが仕事ですが、時間があるときはできるだけ座ってばかりいないように心がけています。ほかの人や、ほかの世界からインスピレーションを受けることも大切だと思うので、みなさんもできる限り様々なことに挑戦してみてください。私の場合は映画を観たり、旅行も大好きなので、絵の勉強のためにも外に出て、様々なことを吸収しています。
「頭の中で描いたキャラクターたちが、実際に映画の中で動いているのを見ると感激します」とアミさん
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【ビザ取得のキーワード】
1.カナダのアート系の高校を卒業後、スタジオジブリ、Microsoft Studios、Walt Disney Animation Studiosで研修を積む
2.カナダのシェリダン大学でアニメーションプログラムを卒業する
3.2Dアニメーターとして就職、Walt Disney Animation Studiosの研修生プログラムに応募
4.同プログラムに合格し、入社と同時にアメリカの就労ビザを取得
info.
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