海外での就職活動は時間がかかるものである。応募しても全く返事がなかったり、連絡が来るのに数ヵ月以上かかることも珍しくない。今回、登場いただいた高橋氏も、活動のなかでそういった様々なルールを学んでいったという。そんな高橋氏は「就活は、時の運。どんどん応募した方が良いです」と語る。それでは、さっそく高橋氏に話を伺ってみることにしよう。
TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Artist's Profile
高橋達也 / Takahashi Tatsuya(DIGIC Pictures / シニア ライティング&コンポジット・アーティスト)
東京都出身。2003年にWAOクリエイティブカレッジ 東京校を卒業後、フリーランスとして活動を開始。2008年に株式会社アニマに入社し、9年間勤務。2018年にハンガリーのDIGIC Picturesにシニア ライティング&コンポジット・アーティストとして入社、現職
<1>専門学校卒業後アニマで9年間働き、スキルアップ
――日本での学生時代の話をお聞かせください。
高校生の頃に3Dソフトで遊んでいたのですが、友人が「Mayaが映画・映像業界ではスタンダードらしいぞ」と、教えてくれたんです。そこでMayaに触ってみたんですが、Sphereを画面に出したはいいが、さて一体どうすればいいのか全く分からず......。すぐに学校で学ぼうと思い、専門学校を探して1年のコースを受講しました。
また、その頃にデジカメを購入しました。FUJIFILMの薄いやつです(懐かしい......)。撮った写真に考察を加えたアルバムをつくって専門学校の事務局に見せたりと、積極的に意欲をアピールして、受講料を少し割り引いてもらいました。そのお金で学生版のMayaを購入して、朝から晩まで毎日CG漬けでした。
授業ではしっかりと基本から教えてもらえたので、Mayaに関しては基礎スキルが完璧に身についていると思います。ただ、表現力があったとか、絵づくりが得意だったというわけではなく、ソフトウェアを仕組みから探求するのが楽しくて、それでスキルを伸ばした感じでした。
今にして思えば、この頃にしっかりと美術の基礎力も身につけて、表現力を磨いておけば良かったと痛感しています。
――日本でお仕事をされていた頃の話をお聞かせください。
卒業して数年間はテクニカルアーティストをしながらフリーランスとして仕事をしていました。その折、ちょうど『CAT SHIT ONE -THE ANIMATED SERIES-』を自社企画としてつくっていたアニマに魅力を感じて入社しました。その後、9年間勤めたので、日本での経験はほとんどがアニマの仕事です。
その頃は、主に遊戯機の仕事が会社の柱で、数多くのプロジェクトに携わりました。たまにアニメーションやオリジナル作品の案件もあって、少しづつスキルアップし、ライトコンポの重要なポジションも任されるようになりました。ちょうど自分が入社した頃に、アニマでも分業化が進んでいたようで、入社当時は社員みんながアニメーションからコンポジットまでを手がけていました。
自分はもともとオリジナル作品をやりたい人間でしたので、希望もあり、その後ディレクターとしても数件の仕事に関わらせていただき、貴重な経験をさせてもらえました。 しかし徐々に自分のスキルアップが難しく感じ始めてもいたんです。
そんな中で、トンコハウスさんの『ダム・キーパー』の映画化に向けてのパイロットムービー制作に関わる機会に恵まれました。このときにカリフォルニアまで出張して、海外のスタジオで活躍されている方々と会って強く影響を受けました。
プロジェクトはものすごく大変でしたが、自分のスキルアップの方向性を見つけて先へ進むことができたので、本当に幸運だったと思います。
――海外での就職活動はいかがでしたか?
アニマでは、その後も映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』など、海外へアピールできる作品に関わることができ、なんとかデモリールを完成させました。ただ、8年くらい前の作品もリールに入れていたので、本当なら自主制作作品などがあれば、さらに良かったかもしれません。
レジュメも人に見てもらい、修正を重ねながら、わかりやすくシンプルなフォーマットにしました。
自分はワーキングホリデーが使えない年齢だったので、ビザのサポート前提で応募しましたが、そのおかげでオファーを得られる機会が減っていたと感じます。とにかくフルCGをつくっている会社に送ったのですが、反応は全くありませんでした。
数ヵ月後、ありがたくDIGIC Pictures(以下、DIGIC)から返答をいただき、Skype面接をして、ほぼその場で決まったと記憶しています。後日正式にオファーされ、給料の交渉をして、ビザがなかったので仮の契約を書類で結びました。ハンガリーは日本よりも物価が安く、お互いの折衷案で合意できた点は良かったです。2度ほど額を提示したのですが、2週間返事が来なくなったときは断られてしまうかもと不安になりました。
その後、ビザ取得のために日本で手続きを進めていたのですが、ビザ申請に必要な書類が送られて来ず、これは予定日に間に合わないとなったのですが、結局ビザなしでハンガリーに行き、現地移民局で人事の方に付き添ってもらってビザ申請をしました。シュンゲン協定に助けられた形です。
後に聞いた話では、書類が送られてこなかった理由は、手続きをお願いしていた弁護士さんが音信不通になってしまったからだそうです。早々に気を引き締められる事件でした。
こういう事務手続きは、とくに海外と日本の感覚で大きく異なるな、と感じた点です。自分からアピールしていかないと、意思が感じられずに=問題ない、と忘れられてしまいます。
毎年全員で行くddayというイベントで、借りるカヌーを待ちながら
[[SplitPage]]<2>ハンガリーの実力派CG企業で活躍
――現在の勤務先は、どのような会社でしょうか。
DIGICは主にフルCGのゲームシネマティックを制作している会社です。最近では手広くモーションキャプチャや3Dスキャンの仕事も単体で請け負っています。
整備された公園の中に建っていて、周辺環境が良く、散歩していてとても気持ちがいいです。台風も地震もなく、夏はカラッとしていて気候は最高です。ちなみに四季もあります。
DIGICはハンガリー内でもCGのトップ企業です。そのため開発力もアートのレベルも高く、良い人材が集まっていると感じます。聞いた話ではハンガリーにはCG学校がなく、アーティストは美術学校で学んで、CGは独学だそうです。
会社としては近年人数を増やしていて、それに伴い目下組織づくりに力を入れているという状況です。大所帯になったために課題も多いですが、解決に向けて人員を割いているところです。海外からの人材も積極的に探しているので、入社を希望する人にはチャンスかもしれません。
社員は8割程がハンガリーの方なのでベースの言語はハンガリー語です。その点では苦労していますが、英語が話せる人も8割程いるので、仕事自体は英語でやりとりしています。
――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?
幼少期に7年ほどカナダに住んでいたことが一番大きいです。幼稚園から現地の学校にも通っていて、いわゆる国語の授業を受けていました。その後は日本で中高の英語教育を受けたという感じです。
日本ではほとんど英語を使うことはなく、CGの英語記事を読んだりといったことはしていましたが、20年ほど忘れていました。仕事でポリゴン・ピクチュアズさんに出向する機会があり、外国人が多い環境だったので、英語を久しぶりに聞いて話して、それが思い出す良いきっかけになりました。
その後、アニマにも外国人が入り、英語で密にコミュニケーションしたことが良い勉強になったと思います。彼らの真似をする形で表現力をつけることができました。
自分が分かる簡単な単語で「こういう感じなんだけど」と話すと、「これのこと?」と返してくれるので、「あ! そう、それ」という感じで。
――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。
自分が一番苦労している点なので恐縮ですが、先ずはクリエイティブの実力を磨いて欲しいと思います。観察力と表現力を養って欲しい。DIGICでも何か具体的に指示をもらうことは少なく、作品に必要とされている表現は資料を集めたりしながら、自分で探していきます。もちろん大まかな指示はありますが、具体的な形にする力として基本が最も重要だと思います。
就職活動ではもちろん準備も必要ですが、時の運もあるので、どんどん応募した方が良いです。本当に相手とのマッチング次第なので! 応募を繰り返している中でも発見があったりします。自分の場合も応募しながら海外の会社のルールなどを勉強していきました。
文化の差や、もしかしたら差別などもあるかも知れませんが、海外でも結局のところは同じ日常です。飛び込んでみても大丈夫です。新しい経験をして、視野を広げられる良い経験になると思います。
ショットの相談中
【ビザ取得のキーワード】
①WAOクリエイティブカレッジを卒業
②日本国内のVFX業界での経験実績を積む
③DIGIC Picturesからジョブ・オファーを受ける
④DIGIC Picturesのサポートを受けハンガリーの就労ビザを取得
あなたの海外就業体験を聞かせてください。
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