ニュージーランドのウェリントンには、世界的に有名はWeta DigitalWeta Workshopがあるが、ここでRoto Artistとして活躍しているのが、今回、お話を伺った箕浦正育氏である。高校を卒業後、CM業界で働き始めキャリアをスタートさせたという箕浦氏の、現在にいたるまでのキャリアについて紹介しよう。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

Artist's Profile

箕浦正育/Masayasu Minoura(WETA DIGITAL / Roto Artist)
鳥取県倉吉市出身。1990年に高校を卒業後、ロボットにプロデューサー・アシスタントとしてアルバイトで参加。2000年にロサンゼルスに語学留学した際、特殊メイク・アーティストのスクリーミング・マッド・ジョージ氏に出会う。2006年にWeta Workshopからオファーを受け、ニュージーランドへ移住。2015年にWeta digitalへ移籍。主な参加作に『ホビット 思いがけない冒険』、『ジャングル・ブック』、『ゴースト・イン・ザ・シェル』などがある。
Weta Workshop wetaworkshop.com
Weta Digital www.wetafx.co.nz
箕浦氏のインスタグラムのアカント masa_at_mars
「同僚とのランチ、思いついたことなどを、1分動画という形で毎日インスタに投稿しています」(箕浦氏)

<1>Weta Workshopの社長に2年間猛アピールを続け就職

ーー学生時代はどんな学生でしたか?

箕浦正育(以下、箕浦):高校時代からアートに興味を持っていました。ですが僕が通っていた高校には美術部がなかったので、他校へ出向き、そこの生徒達と一緒に美術を学んでいました。その高校の美術部は精力的に活動していて、週末に東京の美術予備校の講師を呼び、人物などの絵を描き、学生達が制作した作品の講評会をしていました。当時、僕が専攻していた分野は油絵でした。

高校を卒業すると、上京してロボットにアルバイトとして参加し、チーム・アシスタント(プロデューサー・アシスタント)としてキャリアをスタートしました。CM業界は激務で、撮影中やプレゼンの時期は睡眠時間が減って大変でしたが、当時はまだ10代でしたので「変わった仕事をしている」という感覚と、仕事がただただ面白かったので、苦にはなりませんでした。撮影現場に行く度にたくさんの芸能人に会えたことが、ちょっとしたボーナスでしたね(笑)。

その後、2000年にロサンゼルスに語学留学しました。僕が通った語学学校はWhittier College付属の学校で、キャンパスで地元の大学生に出会う機会がたくさんあり、ネイティヴの人達と頻繁にコミュニケーションが取れる良い環境だったと思います。

ーー留学中、スクリーミング・マッド・ジョージ(谷 譲治)氏と知り合ったそうですね。

ハリウッドで有名だった日本人特殊メイク・アーティストのスクリーミング・マッド・ジョージ氏(以下、マッド・ジョージ氏)のことは高校生の頃から雑誌やテレビで知っていたのですが、留学中に日本で活躍する特殊メイク・アーティストの梅沢壮一氏にお会いしたときに、マッド・ジョージ氏の会社を教えていただくことができました。ちょうど、マッド・ジョージ氏が自主作映画『Boy in the Box』の制作を開始したころのことです。それが縁でマッド・ジョージ氏の会社に訪問し、その後、スタジオにも出入りさせていただくようになりました。この時期に、マッド・ジョージ氏の仕事ぶりを目の当たりにしながら、自分なりに特殊メイクや彫刻の腕を磨きました。

『Boy in the Box』という作品は、特殊メイク、彫刻やエアー・ブラシといったSFX技術がたくさん活用されているのですが、リアリズムを追求することで作品に命を吹き込み説得力のある映像に仕上げるとともに、シュルレアリズムの要素を加えることで、鑑賞する人々を楽しませる魅力的な作品に仕上がっています。

ハリウッドには、絵が上手くて彫刻も上手いアーティストはたくさんいます。そんな中、マッド・ジョージ氏からいただいた「ただ上手いだけではなく、艶のある作品制作を心がけよう」というアドバイスには感銘を受けました。僕は今でも、作品に参加する度にこのアドバイスを思い出し、リサーチを重ねて作品のクオリティを高めるように努めています。

ロサンゼルス時代は様々な先輩に彫刻を教えていただきました。その中でも、特にお世話になった先輩が片桐裕司(かたぎり ひろし)氏です。当時からハリウッド映画業界の第一線で、キャラクターデザイナーとして活躍されています。現在は映画監督という肩書きもあり、エフェクト業界では彼の名前は知らない人はいません。氏から彫刻の技術などをたくさん教えていただきました。教わった言葉で印象深いのは「才能という言葉はあるけど、才能を持つ人間はいない」ということでした。つまり、1つのことに集中して鍛錬を積むと、その分野の知識、経験、能力が鍛えられます。何か大好きなものを1つ見つけて没頭すれば、高い目標や大きな夢が叶えられる。 私も目標や夢があったことで、どのような状況下であれ、沈むこともなく、さらに上を目指していくという行動力が培われたことは、ロサンゼルス時代に出会った片桐氏の指導や言葉のおかげだと思っています。

ーー海外の映像業界での就職活動はいかがでしたか。

僕自身、ロサンゼルスの特殊メイクやエフェクト業界へのコネクションが全くなかったので、毎日作品を制作しては写真を撮り、自分で探し当てたスタジオに写真を添付したメールを送り続けました。そんな中で、ニュージーランドのWeta Workshopからオファーをいただくことができました。オファーに漕ぎ着けたのは、社長のリチャード・テイラー氏に約2年間、作品と自己アピールのメールを毎週送り続けた努力の賜物でした。社長はよく「マサみたいにタフな人間は見たことがない」と言ってましたね(笑)。

ーーWeta Workshopではどのような仕事をされたのですか?

Weta Workshopは、CGではなく、映画に登場するアナログなオブジェクトを制作するスタジオです。手作業なのでコンピュータとは異なり、完璧に左右対象なオブジェクトをコピペしてつくることはできません。なのでオブジェクトを制作するときは、作品に背を向け、鏡越しに作品を見ながら左右を対象に整えるといった作業を行なっています。コンピューターではコピペで同じ物を量産できますが、アナログの場合は、型取りを行ないます。この工程では、シリコンという材料を使用しますが、とても値段の張る材料なので失敗のないよう気をつけていました。

2010年にセット・デザイン部でコンセプト・モデルメイカーとして『ホビット 思いがけない冒険』に携わった際、Zbrushを使い始めました。もともとCGにも興味があったので、この頃からZbrushとMayaでデジタル・モデルを制作し始めたことがキッカケとなり、Weta Digitalへ移籍しようと決めました。

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<2>将来は役者として活動も......?

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<2>将来は役者として活動も......?

ーー現在、働いているWeta Digitalはどのような会社ですか?

僕が所属している部署は様々な国の出身アーティストから成る多国籍チームで、オフィス全体がワイワイと賑やかでリラックスできる雰囲気です。好きな時間に休憩がとりやすく、仕事の進み具合により朝早く来たり遅く来たりと、自分で働く時間をコントロールできるフレキシブルな環境です。

ーーRoto Artistとしてお仕事をされているそうですが、どのようなながれで作業を進めていくのでしょうか。

Roto Artistはロトスコープを担当します。メインツールはSilhouette(シルエット)です。Silhouetteで囲ったオブジェクトは、次にペイント・アーティスト、そして、Nukeコンポジットの部署へとながれます。新しいシーンに携わる度に、コンポジット・アーティストと連絡をとり、どの部分をロトスコープする必要があるのかをメールでやり取りします。後で発生する追加作業を未然に減らすためにも、コンポジット・アーティストとのやり取りは重要です。

ーーニュージーランドでの生活はいかがでしょうか?

僕が住んでいる街、ウェリントンはどちらかと言えば小さい街で、様々な場所にアクセスしやすいと思います。日本食レストランもありますし日系スーパーの品揃えも充実していますが、輸入品なので、日本で売られている約2倍くらいの価格ではないでしょうか。

街の規模が小さいと知り合いがあちこちにできやすいですね。たとえば、カフェでコーヒーをつくってもらってる間に店員やお客さんと話をすることがあるのですが、それがキッカケで友達が増えることもあります。そんな僕を受け入れてくれるニュージーランドの方達は、とても心が広いんだろうなといつも思います。

週末が近づくと、まず映画情報を検索します。アニメーションは子供と一緒に鑑賞できるので、最新のアニメーション作品は片っ端から観ています。話がちょっとずれますが、『ゴースト・イン・ザ・シェル』では、エキストラとして出演もしたんですよ。あるシーンで日本人が必要だったそうで、社長のリチャード・テイラー氏が僕を推薦してくれたようです。僕が出演したシーンの尺が割と長くて、多くの同僚や友達が僕だと気づいくれました。この経験以降、演技は自身にとって新しい表現方法だと感じ、今後も続けてみることにしました。ピーター・ジャクソンがプロデューサーを務め、現在制作中の映画『MortalEngines』では、目立たないですが役をもらいました。今後、映画に限らず、CMや様々なメディアにも積極的に出ていきたいと思っています。

ーー英語の習得はどのようにされましたか?

僕の場合は、まず「欲求を伝えること」から勉強しはじめました。具体的に言うと、「~が欲しい」、「~がやりたい」といったことです。はじめのうちは会話をつなげることが難しかったので、まず意思を相手に伝えることを優先したわけです。そこから少しづつ、英語力を高めていきました。

ーー将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

「あのとき、あれをやっておけば良かった」と思う人生よりも、まずはやってみて、思う通りにいけば最高で、仮に失敗したとしてもスッキリすると思います。なのでもし、将来海外で働きたいと思っているのであれば、絶対に行動に移した方が良いと思いますよ。


Weta Digitalの同僚と

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