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    6月29日(金)から、日本でも公開される『スター・ウォーズ』シリーズの最新作『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』。この作品にゼネラリストとして参加しているのが、ILMの谷 雅彦氏である。日本で活躍していた頃から一貫して特撮&VFX作品に携わり続けてきた谷氏に、サンフランシスコでインタビューを行なった。

    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。
    著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」


    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

    Artist's Profile

    谷 雅彦/Masahiko Tani(Industrial Light & Magic / Senior Generalist)
    岡山県出身。1989年からフリーランスでレインボウ造型、マーブリング、円谷プロ、東宝映像美術、ヌーヴェルヴァーグなどの会社と契約し、TVCM、映画『ガメラ』、『ゴジラ』シリーズなどの特撮、本編美術を担当。1996年SpFX STUDIOに入社。2000年に渡米し、2001年よりILMにてゼネラリストとしてマットペイントを担当。第1回VESアワードで団体受賞、その後2回ノミネートされる。2012年写真集『Silent Force』を出版し、映画制作の傍ら写真家としての活動も続ける。マットペイントを担当した最新参加作品に、映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(6月29日公開予定)がある。

    『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』
    6月29日(金)公開
    配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
    starwars.disney.co.jp/movie/hansolo.html
    ©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

    <1>大道具からCGまで、美術制作に関する様々な経験を積みながらマットペインターを目指す

    ――日本での学生時代のお話を教えてください。

    私は映画が好きで、高校3年生の頃にはすでに映画の世界で働こうと決めていました。高校卒業後は、東京映像芸術学院 特撮クリエーター科(現在は廃校)に入学しました。そこで撮影、照明、美術、演出、特殊造型、スペシャルメイクアップなどを学び、どの分野に自分の興味があるのかを考えましたが、すぐに結論が出なかったため、まずはひと通りのことを勉強しました。

    卒業制作の際にミニチュア用のホリゾント(※)に背景画を描く機会があったのですが、そのときは時間や飲食を忘れて夢中になって描きました。それを機に「マットペインターになる」と決め、働きながらチャンスをうかがっていました。

    ※ホリゾント:背景用の幕や壁のこと

    ――日本でお仕事をされていた頃のことを聞かせてください。

    19歳の頃から映画、CMの現場でアルバイトをして、現場の人たちと知り合いになりながら、次の仕事へとつなげていました。日本で担当した仕事の多くは、特撮や本編(※)を中心とした美術制作です。その当時から技術者が少なかった石膏でミニチュアをつくる技術を習得し、映画『ゴジラ』や『ガメラ』シリーズの特撮現場で、様々なミニチュアをつくり、ディテールを足す飾り付けをしていました。

    ※本編:メカや怪獣が登場する特撮シーンに対して、俳優が演技をするシーンのこと

    しかし特撮映画の製作は年間に1、2本と少なく、コンスタントに仕事を続けるのが難しい現場でした。そのため映画の仕事がないときは造形会社に行き、ラテックスやFRPなどを扱った着ぐるみや、甲冑などの特殊造形を制作する仕事をしたり、東映から手描きのマットペイントの仕事をいただいていました。東宝映像美術ヌーヴェルヴァーグ(現NVC)に所属していた頃は、東京ディズニーランドのパレードカーの制作や、CM、映画ではスタジオマンやセット付きの大道具の仕事もしていました。その頃から、徐々にCGの技術が日本の映像界に導入される様になり、SpFX STUDIOに入社し、初めてCGでマットペイントを中心としたVFXの仕事ができるようになりました。

    ――海外の映像業界への就活はどのようにされたのですか?

    日本で3年半ほどCG制作をした経験を基にデモリールをつくり、いくつかのハリウッドのポストプロダクションに送りました。運良く、映画『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)の制作が始まるタイミングでILMからオファーをいただき、当時、働いていたハワイのSQUARE USAから転職しました。

    就労ビザについては、E-2ビザ(※)からH-1Bビザに変更する手続きが大変だったことを覚えています。そのときに支援してくださった方々には本当にお世話になりました。現在はグリーンカードを取得し、就労ビザの心配をすることなく働くことができています。

    ※E-2ビザ:投資駐在員(E-2)ビザ。日米両国間で締結されている通商条約に基づいて承認される。申請者は日本の国籍があること、勤務先で投資がすでに行われているか、投資過程であること、投資は実態のある企業へのものでなければならないなどの規定がある。申請者が投資家本人でない場合は、管理職または役員、あるいは「その会社に必要不可欠な知識を要する職種」として雇用される必要がある。H-1Bなどの就労ビザは、配偶者の就労が認められていないが、Eビザの場合は配偶者にも労働資格が与えられる。詳細は移民弁護士に確認を

    ――英会話のスキル習得は、どのように取り組まれたのでしょうか?

    ILMに入社して2年目に、会社の協力もあって平日の昼間に3時間ほど近くの大学で英語の授業を受けることができました。ですが私の英語のスキルは低く、今でも苦労しています(苦笑)。毎日が練習で勉強だと思い「間違っても良いから、積極的に話をしてみよう」という意気込みでがんばっています。同僚たちの優しさのおかげもありますが、私の英語力でもなんとか言いたいことを伝えることができていますね。これから海外で仕事をするには英語のスキルは必須です。仕事のスキルと同時に、鍛えておくべきスキルではないでしょうか。


    作業中の谷氏

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    <2>最先端の現場で"CG"ではなく"映画"をつくる

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    <2>最先端の現場で"CG"ではなく"映画"をつくる

    ――世界的に著名なVFXスタジオであるILMで働いてみて、いかがですか?

    ご存知の通り、ILMは『スター・ウォーズ』と共に始まったスタジオです。常に新しいSFXやVFXの技術を映画制作に取り入れ、多くの名作を産み出してきた会社です。また、世界中から素晴らしい人材が集まる場所でもあり、人種や性別、国のちがいを感じさせず、自分の培ってきた文化や個性を発揮できる環境は、本当に素晴らしいです。社員同士が敬意をもち、尊重しあう風土が昔からあるように思います。

    ILMではゼネラリストとして働いていて、基本的にはマットペイントの制作を行なっています。通常はレイアウト・カメラをインポートし、モデリング、テクスチャマッピング、ライティング、レンダリング、コンポジットと、幅広く作業をしています。ときにはコンセプト、レイアウトなど、かなり初期の段階から始めることもあります。最終段階まで自分のアイデアを反映させることができます。映画のショットを自分の手で生み出すことに等しいため、それなりの責任感をもって仕上げることが求められる仕事です。


    『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』より谷氏の担当ショット。役者、頭部のスケルトン、手前の岩と階段は実写プレートを使用。実写プレート手前に元々入っていた岩のレイアウトが気に入らなかったため、ゲート部分と共にCGの岩で修正。中景よりバックをCGセットで立て込むことで、無駄な作業がなくスムーズに終えることができた
    ©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

    コンセプトが決まった段階で、完成までのワークフローを自分で全て把握でき、その間に起こりうる問題も予測可能です。それらの問題に対して「今回はこの新しい方法で解決し、さらに、この段階ではこの方法も試してみたい」などのいくつかのオプションをもつことができます。こういったことが事前に想像できれば、そのショットの制作の8割は終わったも同然だと思っています。あとは、いかにそれを最適化し無駄なく作業を進めるか、だけです。

    つまり、この仕事には経験値がかなり問われます。また映画とは何か、どのように物語を描くのかという知識も当然必要です。自分のこだわりたいところと、映画で必要なところはちがうので、そのちがいも把握しつつ制作しなければいけません。

    プラニングが曖昧で最終イメージが想像できなければ、時間だけ浪費してそのショットは成功しない、という結果になります。私にとってこの仕事は「CGを制作している」というより、「映画を制作している」という感覚が強いので、興味深く、非常に面白い仕事だと感じています。


    『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』より
    ©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

    ――将来、海外で働きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    今の時代、海外で働くことは特別なことではないです。その様な機会があれば、ぜひ思いきって日本を出て、働いてみてください。長期旅行やホームステイではなく、その国に腰を据えて数年住んで、納税をするという経験はとても貴重です。

    それは日本という島国を、一歩引いた目で見ることができる初めての機会でもあります。また他国の人を知ると、日本人のことをもっと知ることができます。つまり複眼を鍛えることができます。私の視点で言うと、日本はとても便利な国、ひとりひとりの常識的な感覚、教養の平均は高いと思います。しかも安価な食事でも、とても美味しい。その点、海外では食事のストレスを感じることが多々あります。

    また、その土地の水のクオリティと生活のクオリティは比例していると思います。東京の水道水は飲料水として使用できますが、海外ではそうはいきません。生活面の多くのことで不便を感じることも多くあります。そのことを踏まえても楽しめる人は、海外の生活でも大丈夫だと思います。海外で生活するということは、仕事だけではありませんので、自分の生活のこだわりのこともよく考えた上で決めてください。

    今後は自動でコンピュータにさせることと、手動でCGを作成することとの棲み分けが、より明確になるでしょう。最近はCGのプロセスの各段階において、より専門的で高機能なソフトや素材集が多く出回るようになりました。当然それを統括して使いたいと思うのが効率的な考え方であり、より最適化されたパイプラインができると思います。今までのCGの知識以外の思考とプロデュース的な考えを養うことが必要になってきました。

    またVFX、AR、VRといった映像分野は依然としてより多くのコンテンツを必要としていますが、旬の時期はすでに過ぎています。技術的にはまだ進歩するでしょうが、それも想定の範囲内のことです。今後はCG表現をどう現実に変換するか、そういった技術やアイディアが注目される時代になると思います。

    これからの若者たちには私たちのような先人をどんどん超えて、新しいことに挑戦し、もっと面白い世界をつくってほしいと思います。


    ILM創業時から43年間勤続しているポール・ヒューストン氏と。「私に映画制作の姿勢をいつも示してくださる方で、ILMで最も信頼している先輩のひとりです」(谷氏)

    【ビザ取得のキーワード】

    1.東京映像芸術学院 特撮クリエーター科卒業
    2.映像美術会社で大道具からCGまでの美術全般の経験を約10年にわたって積む
    3.E-2ビザ取得後、ハワイに渡米。SQUARE USAに所属
    4.H-1Bビザ取後ILMに転職、現在はグリーンカードを取得

    info.

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