>   >  新・海外で働く日本人アーティスト:『ゴジラ』の美術制作からILMのゼネラリストへ 第24回:谷 雅彦/Masahiko Tani(Industrial Light & Magic / Senior Generalist)
『ゴジラ』の美術制作からILMのゼネラリストへ 第24回:谷 雅彦/Masahiko Tani(Industrial Light & Magic / Senior Generalist)

『ゴジラ』の美術制作からILMのゼネラリストへ 第24回:谷 雅彦/Masahiko Tani(Industrial Light & Magic / Senior Generalist)

<2>最先端の現場で"CG"ではなく"映画"をつくる

――世界的に著名なVFXスタジオであるILMで働いてみて、いかがですか?

ご存知の通り、ILMは『スター・ウォーズ』と共に始まったスタジオです。常に新しいSFXやVFXの技術を映画制作に取り入れ、多くの名作を産み出してきた会社です。また、世界中から素晴らしい人材が集まる場所でもあり、人種や性別、国のちがいを感じさせず、自分の培ってきた文化や個性を発揮できる環境は、本当に素晴らしいです。社員同士が敬意をもち、尊重しあう風土が昔からあるように思います。

ILMではゼネラリストとして働いていて、基本的にはマットペイントの制作を行なっています。通常はレイアウト・カメラをインポートし、モデリング、テクスチャマッピング、ライティング、レンダリング、コンポジットと、幅広く作業をしています。ときにはコンセプト、レイアウトなど、かなり初期の段階から始めることもあります。最終段階まで自分のアイデアを反映させることができます。映画のショットを自分の手で生み出すことに等しいため、それなりの責任感をもって仕上げることが求められる仕事です。


『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』より谷氏の担当ショット。役者、頭部のスケルトン、手前の岩と階段は実写プレートを使用。実写プレート手前に元々入っていた岩のレイアウトが気に入らなかったため、ゲート部分と共にCGの岩で修正。中景よりバックをCGセットで立て込むことで、無駄な作業がなくスムーズに終えることができた
©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

コンセプトが決まった段階で、完成までのワークフローを自分で全て把握でき、その間に起こりうる問題も予測可能です。それらの問題に対して「今回はこの新しい方法で解決し、さらに、この段階ではこの方法も試してみたい」などのいくつかのオプションをもつことができます。こういったことが事前に想像できれば、そのショットの制作の8割は終わったも同然だと思っています。あとは、いかにそれを最適化し無駄なく作業を進めるか、だけです。

つまり、この仕事には経験値がかなり問われます。また映画とは何か、どのように物語を描くのかという知識も当然必要です。自分のこだわりたいところと、映画で必要なところはちがうので、そのちがいも把握しつつ制作しなければいけません。

プラニングが曖昧で最終イメージが想像できなければ、時間だけ浪費してそのショットは成功しない、という結果になります。私にとってこの仕事は「CGを制作している」というより、「映画を制作している」という感覚が強いので、興味深く、非常に面白い仕事だと感じています。


『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』より
©2018 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

――将来、海外で働きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

今の時代、海外で働くことは特別なことではないです。その様な機会があれば、ぜひ思いきって日本を出て、働いてみてください。長期旅行やホームステイではなく、その国に腰を据えて数年住んで、納税をするという経験はとても貴重です。

それは日本という島国を、一歩引いた目で見ることができる初めての機会でもあります。また他国の人を知ると、日本人のことをもっと知ることができます。つまり複眼を鍛えることができます。私の視点で言うと、日本はとても便利な国、ひとりひとりの常識的な感覚、教養の平均は高いと思います。しかも安価な食事でも、とても美味しい。その点、海外では食事のストレスを感じることが多々あります。

また、その土地の水のクオリティと生活のクオリティは比例していると思います。東京の水道水は飲料水として使用できますが、海外ではそうはいきません。生活面の多くのことで不便を感じることも多くあります。そのことを踏まえても楽しめる人は、海外の生活でも大丈夫だと思います。海外で生活するということは、仕事だけではありませんので、自分の生活のこだわりのこともよく考えた上で決めてください。

今後は自動でコンピュータにさせることと、手動でCGを作成することとの棲み分けが、より明確になるでしょう。最近はCGのプロセスの各段階において、より専門的で高機能なソフトや素材集が多く出回るようになりました。当然それを統括して使いたいと思うのが効率的な考え方であり、より最適化されたパイプラインができると思います。今までのCGの知識以外の思考とプロデュース的な考えを養うことが必要になってきました。

またVFX、AR、VRといった映像分野は依然としてより多くのコンテンツを必要としていますが、旬の時期はすでに過ぎています。技術的にはまだ進歩するでしょうが、それも想定の範囲内のことです。今後はCG表現をどう現実に変換するか、そういった技術やアイディアが注目される時代になると思います。

これからの若者たちには私たちのような先人をどんどん超えて、新しいことに挑戦し、もっと面白い世界をつくってほしいと思います。


ILM創業時から43年間勤続しているポール・ヒューストン氏と。「私に映画制作の姿勢をいつも示してくださる方で、ILMで最も信頼している先輩のひとりです」(谷氏)

【ビザ取得のキーワード】

1.東京映像芸術学院 特撮クリエーター科卒業
2.映像美術会社で大道具からCGまでの美術全般の経験を約10年にわたって積む
3.E-2ビザ取得後、ハワイに渡米。SQUARE USAに所属
4.H-1Bビザ取後ILMに転職、現在はグリーンカードを取得

info.

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