Netflixで配信中のアニメーション映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が全世界でヒット中だ。今回、紹介するのはこの作品にアニメーターとして参加し、2月に開催された第53回アニー賞で最優秀キャラクターアニメーション賞(長編部門)を受賞された古屋隆介氏だ。古屋氏に、海外就職までの道のりと現在のお仕事状況について話を伺った。

記事の目次

    Artist's Profile

    古屋隆介 / Ryusuke Furuya(Senior Animator / Sony Pictures Imageworks)
    福岡県出身。2010年に九州大学大学院芸術工学府を修了後、株式会社サイバーコネクトツーでCGアニメーターとして入社。その後、exsa株式会社Animation Cafeを経て、2021年にSony Pictures Imageworksに入社。今年2月の第53回アニー賞では『KPop Demon Hunters(邦題:KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ)』で最優秀キャラクターアニメーション賞(長編部門)を受賞
    www.imageworks.com

    友人の創作ノートからはじまった、海外アニメーターへの道

    ――子供の頃や、学生時代のお話をお聞かせください。

    中学生までは、アニメや怪獣映画を好んで観ているだけの子供でした。大きな転機となったのは、現在、アニメーション作家として活動されている山元隼一くんと高校で同級生になったことです。

    きっかけは思い出せませんが、何かのタイミングで彼の創作ノートを見せてもらいました。そのノートには、オリジナルのキャラクターデザインやストーリーボードのような絵がびっしりと描き込まれており、とても衝撃を受けたことを覚えています。

    彼と話すうちに、自分もアニメーションをつくる側になってみたいという思いが芽生え、それがこの業界へ向かう最初のきっかけになりました。

    その後、彼と同じ九州大学芸術工学部に進学し、在学中もよく彼の作品のCGパートを手伝っていました。私の在籍した学科では当時CGを専門的に扱う授業がほとんどなく、周りでもCGをやっている人は少数でした。なので、学生生活の中でCGへのモチベーションを保ち続けられたのは、彼の存在が大きかったと感じています。

    ――日本でお仕事をされていた頃の話をお聞かせください。

    大学院修了後、福岡にあるゲーム会社のサイバーコネクトツーにアニメーターとして就職しました。最初に参加した『Asura's Wrath(アスラズ ラース)』ではシネマティクスに携わり、絵コンテの作成、3ds Maxでのアニメーション制作、Unreal Engineを使用してのインゲームシネマティクスの構築など、多岐にわたる工程を経験し、多くのことを学ぶことができました

    その後、exsa株式会社での勤務を経て、Animation Cafeへの入社を機に上京しました。Animation Cafeではアニメーションスーパーバイザーとして、映像やゲーム案件を幅広く担当させていただき、責任ある立場での制作を経験することができました。

    ▲映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』 アニメーションチームのランチ風景

    ――海外の映像業界への就職活動は、いかがでしたか?

    海外スタジオへの応募は、日本で働きながら並行して行いましたAnimationAidの受講や自主制作を通じて、デモリールに載せられる作品がある程度たまったタイミングで、Sony Pictures Imageworks(以下、SPI)へ応募しました。

    最初の返信は「今は募集がないので、数ヵ月後にまた連絡してほしい」という内容でした。その後、何度か定期的に連絡を続けてみましたが、しばらくは「まだ募集はない」という返事が続いていたように思います。最初に応募してから約2年が経った頃、LinkedIn経由でようやくオファーをいただき、カナダへ渡ることになりました。

    渡航のタイミングがちょうどコロナ禍だったため、書類の準備だけでなく、ワクチンの接種証明や隔離施設の予約、居住先探しなどが非常に大変でした。特に、就労ビザがなかなか発行されなかったことには焦りました。「この時期までには出ているだろう」と予測して、入社まで1ヵ月ほど前の日程で飛行機を予約していたのですが、当日までにビザが下りず、結局キャンセルすることに。当時、住んでいた部屋もすでに退去していたため、2~3週間ほどカプセルホテルを転々としながらビザが出るのを待つことになりました。

    「これ以上は待てない」というギリギリのタイミングでようやくビザが下り、翌日の便を予約して飛び乗るという、非常に慌ただしい渡航でした。

    また、隔離期間中はホテルから一歩も出られないため、先にバンクーバーへ渡っていた日本人アニメーターの方々に多大なサポートをいただきました。特に、現在ディズニーで働かれている園田大也さんと土田優花さんには大変お世話になりました。お二人が私より1週間ほど先にカナダへ渡航されていたため、渡航前の必要書類の準備や、隔離中のCOVID-19自主検査の対応方法などを詳細に教えていただくことができました。

    他にも、隔離用のホテルの情報をくれた染野成美さん、隔離中の食材の買い出しをしていただいた大竹惇也さん、私の代わりにアパートの内見に行っていただいた小宮健太郎さんなど、多くの方々の助けがあったおかげで、無事に仕事をスタートすることができました。今ふり返っても、周囲の支えがなければ渡航すらままならなかっただろうと感じています。

    海外は選択肢であって、ゴールではない

    ――現在の勤務先は、どんな会社でしょうか。

    SPIは主に映画のVFXや3DCGアニメーション映画を制作しているスタジオです。手がける作品のスタイルは非常に幅広く、フォトリアルなものからデフォルメされたカートゥーン調、そして『スパイダーマン:スパイダーバース』のように複数のスタイルを混合させたものまで多岐にわたります。

    作品によってアニメーションのルールがガラリと変わるため、その都度、適応していくのは大変ではありますが、1つの会社にいながら多様な表現スタイルを経験できるのは、アーティストとして非常に刺激的な環境だと感じています。

    ――最近参加された作品で、何か印象に残るエピソードはありますか?

    現在、Netflixで配信中の『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』の冒頭に、古代のハンターたちがデーモンを討伐するアクションシーンがあります。そのショットの制作過程が非常に印象に残っています。

    まず私が大まかなアイデアを出し、ラフな2Dブロッキングを兼ねたレイアウトのような作業を担当しました。その後、そのショットは中国人のアニメーター(Xin Juさん)へと引き継がれ、最終的に韓国人のアニメーター(Changsik Leeさん)の手によって完成されました。

    このバトンタッチの際、Xinさんが「このショットのアニメーションは、東アジアのチームワークだね!」と言ってくれたんです。カナダの地で、近しい文化圏を出自にもつアニメーターたちが、韓国文化を題材にした映画で手を取り合い、1つのショットをつくっている。その事実に熱いものを感じたのを覚えています。

    ――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

    最近はアクションシーンを任されることが増えてきたのですが、演出を含めたアイデアを求められる機会が多く、それが苦労する点でもあり、一番楽しいところでもあります。

    『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』では、ストーリーボードに近い段階からアイデアをピッチ(提案)させていただく機会がありました。

    銭湯を舞台に主人公3人がアクションを繰り広げるシーンがあるのですが、リード・アニメーターから「アイデアは全てオープンだ。君のカッコいいと思うものを見せてほしい」と言われた際は、責任の重さを感じると同時に、アニメーターとして信頼されていることを非常に嬉しく思いました。

    背景モデルの銭湯が意外と狭く、キャラクターを激しく移動させすぎると画面が破綻してしまうといった難しさもありましたが、迫力を出すために試行錯誤を繰り返しました。最終的にディレクターにも気に入っていただけたようで嬉しかったです。

    ▲第53回アニー賞で最優秀キャラクターアニメーション賞(長編部門)を受賞
    画像提供:ASIFA-Hollywood

    ――英語の習得は、どのようにされましたか?

    カナダ行きが決まったのが急だったこともあり、英語に関しては事前の準備がほとんどできていませんでした。基本的な英会話もままならない状態で渡航し、現在も仕事をしながら少しずつ学んでいる状況です。

    実務では監督や上司とのレビューにGoogle Meetを活用しているのですが、毎回、字幕機能をオンにして、その画面を録画しておきます。レビュー後に動画を見返すことで、聞き取れなかった指示を正確に把握できますし、仕事に直結したリスニング教材としても役立ちます。また、業務の中で出てきた知らない単語は都度メモし、現場で使われる語彙を増やすよう努めています。

    英語ができないと、めちゃくちゃしんどいです。英語ができるに越したことはありません。しかし、なんとかなっています。もし「英語力がないこと」が海外挑戦をためらう一番の理由になっているのであれば、まずは応募してみても良いのではないかと感じています。

    ――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします。

    まず「いつか海外で」と漠然と考えている方へ。まずは具体的に行ってみたい会社を絞り込み、そのスタジオの作風に合ったデモリールをつくることから始めてみてください。質の高いデモリールをつくるためには、AnimationAidやAnitoon Academiaといったオンラインスクールを受講するのも有効な手段です。

    実際、私の日本人の同僚も、いずれか、あるいは両方のスクールの受講生ですし、私自身も大変お世話になりました。私がSPIへ応募した際のデモリールの半分以上は、アニメーションエイドの課題で作成したものでした。

    次にすでに行きたいスタジオがある方へ。一度、反応がなくても諦めず、リールを更新するたびに「更新したので観てください」と連絡を送り続けることが大切だと思います。採用はタイミングに左右される部分も多いため、継続してアピールし続けることでチャンスを引き寄せることができます。

    最後に、海外で働くことは1つの選択肢ではありますが、それがゴールではありません。海外に行くにせよ、日本で仕事をするにせよ、大切なのは「つくり続ける意識」をもち続けることです。その姿勢こそが、結果としてアーティストとしての地力を上げることに繋がると感じています。

    ▲第53回アニー賞にて、映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』 監督のマギー・カン(左)とクリス・アペルハンス(右)と
    画像提供:古屋隆介氏

    【ビザ取得のキーワード】
    ①九州大学大学院芸術工学府を修了
    ②サイバーコネクトツーやexsaなど、ゲームから映像まで幅広く経験を積む
    ③上京し、Animation Cafeでアニメーションスーパーバイザーに
    ④Sony Pictures Imageworksに就職し、就労ビザを取得

    連載「新・海外で働く日本人アーティスト」では、海外で活躍中のクリエイター、エンジニアの方々の海外就職体験談を募集中です。

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    TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
    ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
    公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
    EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada