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復刻・第31回:液体窒素

復刻・第31回:液体窒素

STEP 03:「バラの破壊」を考える ~破壊の動きとシルエットを再現する~

物理シミュレーションとPFを使い分けて破壊のシルエットをつくる

STEP 03ではバラの破壊を制作します。液体窒素によって凍ったバラは衝撃を加えるとガラスのように粉々に砕け散ります。制作では破壊シミュレーションツールRayFire Toolを主に使用して再現していきたいと思います。シミュレーションを行う前に、リファレンス動画を参考にしてバラのオブジェクトを[RayFireVoronoi]で任意の大きさに分割しておきます。その際、バラに直接衝撃が加わる部分はより細かい破片になることを想定して、平均よりさらに細かくオブジェクトを分割していきます。


シミュレーションを行う前に、バラのオブジェクトを分割しておきます

さて、おおまかな破片の分割が終わったら次にお待ちかねの破壊シミュレーションを行います。破壊作業は何度やってもワクワクしてしまいますよね。今回RayFireを用いてシミュレーションを行いますので、まずは破壊オブジェクトに影響を加えるためのオブジェクトを[Static&Kinematic Objects]に、実際に影響を受けるオブジェクトは[Sleeping Objects]に追加し、影響を受けるオブジェクトと接触した際に物理シミュレーションがスタートするようにしておきます。後はバラ全体のオブジェクトが散りやすいよう[RF Bomb]を補助に使い、シミュレーションをくり返してリファレンス動画に近い挙動を目指します。


RayFire Toolを使用して、衝突用オブジェクト、衝突の影響を受けるオブジェクトをそれぞれ指定します

大きな破片のシミュレーションが終わったら細かい破片をPF Sourceを用いて制作します。細かい破片を加えることで、物理シミュレーションでは表現しきれない細かな動きや量のバランスをとり、より自然な破壊のシルエットを得ることができるからです。発生させる箇所は大きく分けて3つ。バラ全体に満遍なく発生するタイプがひとつ。次にバラへ直接衝撃が加わる入口部分と出口部分で計3つの発生箇所となります。破片の動きはオペレータ[Speed By Surface]で全てをコントロールし、1つのPF Sourceで異なる発生源から出る破片の方向、スピード、散り具合を設定します。破片の動きができたら量とサイズの微調整を行い自然な破片のシルエットを目指していきます。


シミュレーションで表現しきれない細かい破片をパーティクルフローで3箇所に分けて追加していきます

そうしてできた大きな破片と細かな破片を組み合わせたバラの破壊が下の【4】です。画像の大きな破片のみのバラの破壊と比べて情報量の多さはもちろん、どこに衝突の力が多く加わっているかが細かな破片の発生箇所や量、スピードによって表現されていると思いますがいかがでしょうか。ちなみにバラの破壊制作は、書籍にも掲載している連載第15回「電球の破壊」の制作方法を応用しております。もし機会がありましたら見比べてみるのも面白いかもしれません。


細かい破片を追加する前後での比較図です

  • 今回の破壊では第15回「電球の破壊」を参考にしています

STEP 04:「バラ破壊時の白煙」を考える ~質感と動きの変化を再現する~

STEP 02の白煙と異なる特徴を見つける

最後のSTEP 04では吹き飛ぶバラの破片から発生する白煙を制作します。STEP 02では発生源が動かず周囲の空気の流れも穏やかな中に白煙が漂っていたため、筋感のあるディテールのはっきりとした煙が出ていました。STEP 04で制作する白煙はバラの破片が吹き飛び空気が乱されている中で発生する煙ですので、シルエットはもちろんのこと質感や動きも大きく変化しています。発生源はSTEP 02と同様にバラの破片をObject Sourceで選択します。


STEP 02の白煙とSTEP 04の白煙を比較し、ちがいを把握します


白煙の発生源となる花びらのオブジェクトを選択します

次に煙の質感と動きの設定です。バラが吹き飛んだ中の空気は激しく乱されており、煙にもその影響が見て取れます。このような場合はFumeFXパラメータのX,Y,Z TurbulenceとTurbulence NoiseScaleにグリッドサイズに適した数値を入れることで煙にうねりを加えることができ、STEP 02とは同じ白煙でもシーンの状況に合わせた質感と動きを表現できます。STEP 02とSTEP 04の白煙の最終結果を並べたものが【4】です。


X,Y,Z TurbulenceとTurbulence Noise Scaleを用いて煙のうねりと質感を調整します


STEP 02の白煙とSTEP 04の白煙の最終結果です

完成

液体窒素より冷たい液体シリーズはないかと調べてみたところ、液体ヘリウムなるものを発見。その沸点はなんと-269℃! 最も低い温度である絶対零度が-273.15℃ということを考えるといかに冷たいかがわかるかと思います。ちなみに医療やロケットの噴射の補助剤などに利用されているそうですよ。


白煙で冷たさを表現するためには見た目だけではなく、動きや速さも大切な要素。シミュレーションでの微調整に四苦八苦したのは良い思い出です



Profile.

  • 近藤啓太(ジェットスタジオ)
    エフェクトを中心に映像制作をしております


  • JET STUDIO
    ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
    www.jetstudio.co.jp


  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.
  • イラストでわかる物理現象 CGエフェクトLab.


    定価:3,000円+税
    サイズ:B5変型/フルカラー
    総ページ数:288
    ISBN:978-4-86246-395-1

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