前回の表紙編と同様、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 高度グラフィックアート専攻に所属する学生さんに協力いただき、実際に学生さんが作成したポートフォリオを事例に、具体的な改善方法を提案していきます。予告通り、今回と次回の2回に分け、ポートフォリオの中面を見ていきます。なお前回と同じく、ポートフォリオのコンセプトや編集自体には触れず、レイアウトの観点からのみ、今ある要素だけで改善できる点を提案しています。
SUPERVISOR&TEXT_斎藤直樹 / Naoki Saito(コンセント)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
取材協力_東洋美術学校
作例提供_五十嵐礼、小見山沙彩、坂見こずえ、杉山舞、三井柚佳(前後編併記)
Step01:マージン設定を見直す
Before
マージンに対する認識があいまいなのかな......という印象です。画像のトリミングに大きく制限があるなか、できるだけ作品を大きく見せたいという要件を満たし、なおかつ要所をきっちりと揃えてあるところは好感がもてるのですが、それがいまひとつ上手に機能していないようです。
After
一見どこがちがうのか......というくらいの微妙な差異ですが、配置した要素をきちんと機能させる......という視点で、各要素を整えてみました。具体的には各要素の間隔=いわゆる「アキ」をきちんと確保するようにしています。
特に、作品を並べたレイアウトエリアと、下段のデータエリアとを分ける線に注目です。Beforeではこの線が作品を見る際の邪魔になっているように思います。しかしこの線はデータエリアを示す重要な役割があり、簡単に取り去るわけにはいきません。少し間を空けただけですが見え方のちがいは歴然です。ほんの少しの差が印象に大きく響く場所ですね。
ページ単位では劇的な改善にはいたらないかもしれませんが、何ページも同じ形式が並ぶ場合にはこうした配慮がじんわりと効いてくるのではないかと思います。
まずはページ設計のいろはのい=マージン設定です。マージンは「余白」と説明されることが多いですが、単に「余った白い部分」ではないようです。「額縁効果」という言葉がありますが、これは枠で囲むことで眺めているものの印象が強まる......といった心理的な作用のこと。いわばマージンとは、単なる画像を「作品」に変える見えない枠と捉えることができるでしょう。
ここではマージンに「ジャンル」エリアや「データ」エリアを含めるという考え方で整理をしています。レイアウトエリア内は自由にレイアウトし、作品の魅力を伝える主役の場所。それ以外は作品の理解を助ける場所......というふうに役割を明確に分けることが主眼です。
さらに「ジャンル」エリアや「データ」エリアの中にも、小さなマージン設定=アキの設定があります。Webデザイン界隈では「パッディング」と言いますが、紙系デザインでは明確な用語がなく「カコミ内のアキ」などと言います。これらはグローバルなマージン設定と別の設定ではあるものの、グローバル設定に従うべき部分も出てきますので、作例をよく見比べてみてください。
(余談)パソコン上での作業は画面にいくつもの枠が付いた状態で見ているので、自動的に額縁効果が働いている状態にあると言えましょう。プリントアウトしてみるとなんだか思っていたのとちがう......という現象は、画面上では何割か増しで見えていたから......そんな理由があるのではないかと思います。
Step02:行間を整える
Before
見出しと本文との間隔が気になります。Illustratorでは特に、複数の文字列を精密に配置するのが結構難しく、どうにも面倒ですよね。とはいえ場当たり的/直感的に配置してそのまま......というのも考えものです。操作性だけを理由にはできません。ページものは特に、同じ役割をもった要素が繰り返し現れるために、細かなディティールが悪目立ちしやすいのだと思います。
After
まず見出しと本文との間隔を広めにしました。わずかな差ですが見た目は歴然ですね。さらに左脇のタテ線との間隔もわずかに広めにしています。下図のように文字列をグレーのオビに置き代えてみると、両者の差はよりわかりやすくなるでしょう。
文字列を「かたまり」として見ることが肝要です。本文の「かたまり」を保ちつつ、見出しを適切な距離をもって配置する。両者を組み合わせた大きな「かたまり」を、さらに強調するために傍に線を置く。そんなふうに、ひと目で「かたまり」感がわかるように配置していくことを心がけましょう。これをこなれた言葉で言い換えるならグルーピングは順序立てて......となります。
基本的なセオリーはとても簡単。見出しと本文との間隔は、本文の行間より広めにとる......これさえ押さえておけば、そうそう失敗は起こらないはずです。さらに、同じ役割をもたせて配置したかたまりは同じ条件で置くようにする。これもまた重要です。
Before
STEP 1と同じように全体のバランスを整えてみました。Beforeの段階でもよくまとまっていて、要所もおおむねきちんと揃っているのですが、ディティールで損をしているな......という印象でした。
After
右上カドをしっかりと整え、左側をオビで押さえる基本方針です。全体に重心が上目に寄っていたので、安定感が出るようにスマートフォンの画像を少し大きく、少し下に移動。本文が1行減るように文字組みの横幅を増やすことで調整しています。
細かなディティールの積み上げと、大枠から見たバランスと......画面レイアウトはそれら双方から成り立っています。意識的に両立を心がけていきましょう。
具体的にはぎゅ〜っと拡大して細部を調整したら、ぱっと縮小して全体を見る。何度でも繰り返して確認しましょう。席から離れて、画面を遠くから見てみるのも良いですね。
今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
(第12回の公開は、2019年1月22日を予定しております)
プロフィール
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斎藤直樹(グラフィックデザイナー)
株式会社コンセント
神奈川県横浜市生まれ。1987年東京造形大学造形学部デザイン科I類卒。広告企画制作会社、イベント企画運営会社を経て、1991年株式会社ヘルベチカ(現コンセント)入社。HUMAN STUDIES(電通総研)、日経クリック、日経パソコン(日経BP社)などの制作に関わる。東洋美術学校ではグラフィックデザインの実習を担当。
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尾形美幸(編集者)
株式会社ボーンデジタル
CG-ARTS(公益財団法人 画像情報教育振興協会)、フリーランス編集者を経て、2015年よりボーンデジタル所属。CGWORLD関連媒体で記事の執筆編集に携わる。東洋美術学校ではポートフォリオの講義を担当。東京藝術大学大学院修了 博士(美術)。著書に『ポートフォリオ見本帳』(2011)。共著書に『ポートフォリオアイデア帳』(2016)などがある。
Information
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採用担当者の心に響く
ポートフォリオアイデア帳
発売日:2016年2月3日
著者:中路真紀、尾形美幸
定価:2,000円+税
ISBN:978-4-86246-293-0
総ページ数:128ページ
サイズ:B5判
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