記事の目次

    ポートフォリオをつくってみて「コレじゃない」「どうもパッとしない」と感じるものの、「何をどうすれば良くなるか、見当がつかない」という人は少なくないと思います。特にイラストレーションや3DCG制作を専攻している学生さんは、自分の作品をどうレイアウトすれば「ポートフォリオとして映える」のか判断に迷っているケースがよくあります。1枚絵の見映えをよくするのと、ポートフォリオとしての見映えをよくするのとでは、配慮するポイントがちがってきますから、勘所をつかめないのも無理からぬことです。

    今回はそんな学生さんたちのポートフォリオを事例に、具体的な改善方法を提案していきます。ご協力いただくのは、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 高度グラフィックアート専攻に所属する7人の学生さんたちです。ポートフォリオのコンセプトや編集自体には触れず、レイアウトの観点からのみ、今ある要素だけで改善できる点を提案しています。今回は表紙のみ、中面は次回とします。掲載順番に意図はなく、順不同です。

    SUPERVISOR&TEXT_斎藤直樹 / Naoki Saito(コンセント
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    取材協力_東洋美術学校

    Case01:五十嵐 礼さん

    Before
    肝心の名前やタイトルが完全に埋もれてしまっています。絵の邪魔にならないように......という意図はわかるのですが、色オビの右端が人物の足にかぶっているのは少し配慮が足りなかったようです。また文字自体の配置があっさりとし過ぎです。文字列を補強する意図だとは思うのですが、文字列右側のタテ線もあまり活きていません。


    After
    閲覧者視線の起点となりそうな人物の顔や視線の向きを基準とします。そして画面のおよそ三分の一を目安に、タイトルを配置するベストな位置を探りました。左上の明るい部分も候補のひとつでしたが、龍の神秘性を表したこの絵のキモだと思いますので候補から外しました。

    色オビが画面手前の橋柱のさらに手前に感じられるように、人物の膝頭や欄干の空間に注意しながら配置しました。コントラストはより強めに、色味は入れないようにしました。ここまでくれば透明感は必要なかったかもしれませんね。

    文字は横幅を揃えるようにしました。こうすることで色オビの四角をより強調します。文字の間のケイ線は、名前に小文字を使ったので行間を締めるため。また色オビの右端を明確にする役割ももたせています。

    右下の花びらと併せて逆三角形の構図が明確となり、結果として画面の動きやリズムが強調できたように思います。いかがでしょうか。

    Case02:飯島 千瑛さん

    Before
    閲覧者の視線が自然と集まる場所に文字を配置した好例です。文字列を適切に組み合わせることで存在感を増す工夫(いわば「ロゴ化」ですね)に加えて、絵の躍動感や画面の奥行きを邪魔しないよう、浮き出して見えるようにした配慮も高ポイント。表紙としての完成度は高いと思います。


    After
    本当に細かいところですが1点だけ。「P」がお尻に微妙に引っかかっているのが気になったので、文字列全体を3ミリほど下げました。元PDFが編集不能だったため、画像のレタッチで調整しています。少し作業が荒っぽかったのはご勘弁。

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    Case03:杉山 舞さん

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    Case03:杉山 舞さん

    Before
    文字が大きめにも関わらず、絵柄に溶け込んでしまっています。世界観に合わせたフォント選択や、人物の髪色などと同系色の文字色を選んだところまでは良かったのですが、肝心の文字配置に迷いが感じられます。特に2本の文字列を「左から/右から」と振り分けるのは、素人臭いレイアウトの典型ですので避けましょう。また白フチ文字にするなど、苦し紛れの部分も目立ちます。


    After
    名前を配置した位置の根拠が薄く、右端も狭すぎました。まずここから決めていきましょう。画面左上はセオリー的には一等地。絵的にも空が光り、ヌケを感じさせたい部分ですので、ここを大きな文字で塞いでしまうのは勿体ないです。大きな文字は右下に移動してもらいましょう。

    名前のサイズはわずかに小さくしました。ただし狭いスペースに押し込むとかえってヌケが悪くなりますし、文字も小さくなり過ぎるので、あえて屋根の角に引っ掛ける程度にしました。文字色はそのままだと空のコントラストに負けてしまうので濃色に、赤味を強くしています。

    白フチ文字はやるなら大胆に。ただしフォントを痩せさせないように注意しましょう。同じ文字列を2つ重ねるか、アピアランスパネルで重なり順を操作するなどしましょう(具体的なやり方は「イラレ/文字の縁取り/袋文字」などのキーワードから検索してみてください)。

    Case04:山田 萌未さん

    Before
    白地を活かして印象的な仕上がりになっていると思います。なんとなく天地方向に狭苦しい感じがするのは名前とウサ耳とが干渉しているからでしょうか。またイラスト自体も気持ち小さくした方がバランスは良くなったと思います。


    After
    A4サイズの地に対して図柄が縦長に間延びしてしまっている。そこをいかに解消するかがポイントです。何よりチャームポイントであるウサ耳を目立たせたいので、あえて文字に乗せてはどうかと思いつきました。そうすることで天地も圧縮できるはずです。

    少々可読性が損なわれても問題ないであろう「Portfolio」の文字を下側に置き、フォントのウエイトもより太めにしました。横幅要素を文字列によってできるだけ稼ぎたいのと同時に、ウサ耳のぷっくりとした形も意識しています。

    イラストは8%ほど縮小しました。縮小率はある程度キメ打ちです。文字と絵柄とのかかり具合は、主に文字サイズと字間とを調整することで決定していきました。可変要素をどれにするのかは場合によりますが、覚悟を決めて「ここは動かさない」という基準をひとつ定めてしまうのもレイアウトに迷わない秘訣です。

    点線は横幅をさりげなく稼ぎつつ、名前とタイトルとを分ける意図で置いています。さらに天地のマージンをしっかりと定めましょう。右下のアキが少し寂しいので、ひとまず適当な数字を入れました。ここはマークでもなんでも構いません。優先度は低いものの、角を締める意味があるのでレイアウト的には何気なく重要なポイント。文章におけるピリオドのようなものですね。

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    Case05:小見山 沙彩さん

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    Case05:小見山 沙彩さん

    Before
    センターに置いたアイテムとその余白に対して、タイトルが大き過ぎでしたね。先の飯島さんと同様にロゴ化する意図は感じられるものの、その強さがかえって息苦しさを募らせている感もあります。「P」が小文字のため、名前との間が広くなってしまったのも気になります。


    After
    名前の可読性が良くなかったので、タイトルに似合うフォント選びからスタートしました。ちょっと細かったかもしれませんが、ここは趣味もありますのでまぁ適当に。

    単純に「P」を大文字にしてみたところ、原案の雰囲気が出なかったので小文字のままにしました。そのぶん名前の上下を挟むケイ線を注意深く配置しましょう。タイトルのフォントサイズを小さくするとともに、ケイ線の左右のはみ出し部分も含めてきっちりセンター揃えにしました。なおかつ左端をタチキリにすることで、アイテムより前方に位置している感を強めるようにしています。

    センターに置いたアイテムは、左下に約3ミリずつ移動しました。完全なセンターは避けスマートフォンの画面側をわずかに広くとることでヌケ感が良くなるかな......というおまじない的な操作です。さらに右上のカドに適当な要素を置くことで、外側のフレーム感を強調し、奥行きを意識させるよう配慮しました。これも同じくおまじないのようなものですが、いかがだったでしょうか。

    Case06:三井 柚佳さん

    Before
    まず画面の奥行きを考えましょう。左上から右下へと対角線に配置するのは基本的セオリーではありますが、絵柄がそれを許さない場合があります。今回はまさにそれ。文字はオブジェクトより確実に前方にある......2Dではありますがその意識で配置することが重要です。3Dモデリングはできてもシーン配置は苦手なのではないか......そう思わせてしまうのは損ですね。


    After
    単純に一番距離のとれる空間に文字を移動しただけです。

    結果として左上が寂しくなるのも確かなので、場所を食わないワンポイント要素(マーク的な/イラスト的な)を追加しても良いかもしれません。そこから発展して『わたしがモデリングした自動車です』を超えたアピールを、表紙に盛り込めるよう工夫してみるのはいかがでしょう。大事にしたいのは、閲覧者はもちろん、自分の作品にもサービスするような気持ちだと思います。

    Case07:坂見 こずえさん

    Before
    作品そのものより世界観こそ伝えたい......という気持ちが伝わるアイデアは良かったのですが、中央の円や周囲の枠の方が目立ってしまった印象です。本来の主役であるはずの、名前やタイトルが完全に背景に溶け込んでしまっています。さらにその円が、画面に対して微妙にセンターを外しているのも気になります。ある種の悪目立ちではないかと思います。


    After
    中面に良いロゴがあったので......これを使わない手はないだろうと思いました。

    背景は雰囲気を醸成するのみならず、単なる飾りでもありません。主役となる要素を引き立たせるように意識的に配置することが重要です。元PDFが編集不能だったのでレタッチで文字類を消しています。作業がちと荒いですがこちらも勘弁してください。

    レイアウトとしてもっとできることはあると思いますが、ひとまずここまで。デザインコンセプトにまで踏み込んでしまうのは今回の趣旨から外れてしまうので、あくまで参考例として受け取ってもらえれば幸いです。

    次回予告

    いささか駆け足でしたが、これにて全員分のコメント終了です。次回はポートフォリオの中面です。今回のように全員総まくりは難しいとは思います。またおそらく細かいツッコミになってしまうと思いますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。



    今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
    (第11回の公開は、2018年12月以降を予定しております)

    プロフィール

    • 斎藤直樹(グラフィックデザイナー)
      株式会社コンセント

      神奈川県横浜市生まれ。1987年東京造形大学造形学部デザイン科I類卒。広告企画制作会社、イベント企画運営会社を経て、1991年株式会社ヘルベチカ(現コンセント)入社。HUMAN STUDIES(電通総研)、日経クリック、日経パソコン(日経BP社)などの制作に関わる。東洋美術学校ではグラフィックデザインの実習を担当。

    Information

    • 採用担当者の心に響く
      ポートフォリオアイデア帳

      発売日:2016年2月3日
      著者:中路真紀、尾形美幸
      定価:2,000円+税
      ISBN:978-4-86246-293-0
      総ページ数:128ページ
      サイズ:B5判


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