Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、第3期7週目のお題から、「痛い」というテーマでのポーズの添削をします。
「痛い」というお題は、感情表現ではないので普段のポーズよりも表現の幅が広くなりますが、アニメーションはある意味で観客とのコミュニケーションなので、ひとつのポーズから「痛い」という雰囲気を正確に伝えないといけません。その意味では、今回はとても難しいお題だったと思います。どのような要素を使って「痛い」雰囲気を具体的に作ることができるか、というのが今回のテーマのポイントと言えます。
作品01:「痛い」
投稿作品痛いという表情はかなり繊細な表現が必要になりますが、そのあたり良くできていると思います。また痛い箇所にもしっかりと目線の誘導ができていてどこを怪我しているのか、どこが痛いのかがはっきりわかるポーズの作り方になっています。また、キャラクターの座り方もとても具体的で、キャラクターらしさやその場のシチュエーションなどを良く表現できていると思います。
一見してアイデアがよくわかるポーズになっているので、このままでもほぼ完璧と言えます。なので、今回は伝えたいアイデアをさらに明確にシンプルに表現するにはどうすれば良いかというポイントについて解説していきます。
Point 1:力の方向
まずキャラクターの表情を見てみます。苦痛だという雰囲気がとても伝わり、お題に沿った印象がしっかり作れていると思います。表情の種類自体は良くできているので、ここからさらに力の方向について手を加えると、もう少しわかりやすくできるかもしれません。
個人的には、上下のまぶたのデザインが少し気になりました。今は両方のまぶたがちょうど半分ぐらい閉じている位置にあるので、力がどこからどこに向かって動いているのかが少し不明瞭になってしまっています。今回は歯を食いしばるような表情なので頬が上がり、その頬に押されて下の瞼が上の瞼を押すような力の方向が生まれると考えます。そうすると、まぶたは全体的にもう少し下から上の向きの流れが見えるようなデザインにすると、力の方向がわかりやすいポーズとなります。
同じく口の形も、アイデアやポーズの作り方は合っていると思いますが、口は目に比べて形が少し複雑なので、少しだけわかりづらいポーズになってしまっているかもしれません。個人的に口の形は台形をイメージして、これも同じく力の方向を考えるとより具体的なポーズになると思います。
Point 2:力の方向とシルエット
次は、表情だけでなく身体全体を使って観客の目線を誘導する方法を考えてみます。キャラクターのポーズを作るとき、綺麗で明確なシルエットを作るというのはアニメーションの基礎だと思いますが、今回はそれを若干応用して、ただ見やすいポーズを作るだけでなくシルエットを使ってキャラクターの一番見せたい部分を見せられるようにデザインしてみます。
それでは、今回の場合は一番見せたい部分はどこになるでしょうか? 一番はキャラクターの表情、そして次に大事なのは怪我をした箇所である膝の部分です。これもアイデアを観客に伝えるという観点から考えると、怪我した場所も伝えるべき要点のひとつになると思ったからです。
体のポーズも表情と同じようにアイデアはしっかりと伝わるのですが、シルエットを使うことでもう少し視線の誘導ができると思います。
腕を使ってこのように想像上のラインを作ることで観客の目線を自然と膝に集めることができます。
Point 3:複雑と視線の誘導
一方、指に関しては、逆にデザインが複雑すぎるせいで不必要に視線を集めてしまっています。指のポーズが重要な場合にはこのように複雑にすると効果的なのですが、この場合は一番大切なのは指ではないので、なるべくシンプルにしておいた方が良いと思います。
「単純と複雑」というのは、この連載でも何度かお話していますが、ポーズを作る上でとても大事な考え方のひとつです。片方を単純にしたら片方を複雑にするというのが基本的な考え方ですが、もうひとつ覚えておいてほしいのが、「観客の目線を集めるのは常に複雑な方」ということです。つまり単純と複雑というコントラストを使ってポーズを作るときにも、 どちらが大事なのかというのを考えてバランスを取らないといけません。そして視線を集めるときにはより具体的なポーズを、そこまで不必要な情報であれば単純でシンプルな形に押さえておくことがポイントになります。
添削前のポーズ
添削後のポーズ
今回のポーズでは、演技の面でキャラクターの表情や全体的な体のポーズはとても良くできていたと思います。なので今回は特に、どうすればそのアイデアをより明確にわかりやすく観客に伝えることができるかという観点からいろいろなアイデアやコツなどについて解説できたかなと思います。アニメーションやポーズを作るときにはどのようなポーズにするのか? どのような動きにするのか? というWHAT?の要素と、そのWHAT?をよりわかりやすく伝えるためにどのようにすれば良いのか?というHOW?の要素の両方が大事になってきます。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com