今回から連載合計200回記念の特別企画がスタート! 第1弾となる今回は、普段からお仕事でよく手がける実写合成の手法をメインにご紹介します。カメラは「HASSELBLAD(ハッセルブラッド)」さまからご厚意で貸していただき、撮影しました。おかげさまで、とても贅沢な作品になったと思います。ご協力いただいたみなさま、本当にありがとうございました!
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 256(2019年11月号)からの転載となります。
TEXT_早野海兵(GARYU)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
Method 1:弐百連載にあたって
連載回数があと少しで計200回になります! 現在連載中の『画龍点睛』は今月で110回目を迎えましたが、前身の連載である『必殺・テクスチャイリュージョン(2000~2006年)』、および『Texture Illusion(2006~2007年)』と合わせると、まもなく計200回となります。実に19年間、まさかこれほどの長期連載になるとは思ってもいませんでした。連載を始めた当初は最年少の新人でしたが、今や最長老になってしまいました(笑)。
Method 2:実写合成の楽しさ
今回の作品を制作するまでの過程をちょっとフランクに解説させていただきます。ことの発端は1年前に迎えた連載100回記念(vol. 246「Wooden Boar ~2019~」)の頃にさかのぼります。お仕事にトラブルは付きものですが、問題は「それを次にどう活かせるか」。連載合計200回記念の構想は、この頃から頭の中にありました。しかし、なんとなく数ヶ月が過ぎ去り、アイデアは「消えては消えて」のくり返し。そんな中で101回目の掲載(vol.247「銀杏木馬」)では連載初となる実写合成作品を制作することにしました。仕事の大半は実写合成をしているのに、これまで一度も連載で取り上げたことがありませんでした。最近は実写系CGの人気がなく「リアルな実写合成のCG制作の楽しさをみなさんに知ってほしい!」、「なぜ、みんなゲームやアニメ制作に行くんだろう!?」、「実写系CG制作の楽しさを伝えられたら!」との思いから今回のアイデアに至りました。確かに派手なアニメやゲームとはちがい、日本のVFX業界はとても地味です。大ヒットする映画もなかなか少なく、マスク抜きやトラッキングなど地道な仕事ばかりに見えますが、それは本質ではなく「単なる作業」です。実写合成の醍醐味は、自分でデザインしたものがあたかも現実にあるかの如く創造することができる点にあります。コラボレーション作品は取り組んでいて楽しいし、人気もあります。今回はそうした現場の熱意をぜひお伝えしたいと思いました。
以前、とあるコスプレショーのプロジェクトで人物合成を手がけたことがあります。その仕事はとても楽しかったのですが、版権の許諾を得るのが難しいということもあり、今回はオリジナル作品を制作することに。たまたま講演で伺った東京工芸大学 アニメーション学科の城戸孝夫先生のご協力により、同校の素晴らしいスタジオをお借りすることができました。そして、そんなときに「HASSELBLAD」のカメラが借りられるという朗報が! 以前から高精細な素材を使った実写合成には興味がありました。さて被写体はどうするか? これまでまったくやったことのない新しいことはどんなことだろうと考え、連載に一度も人物が登場したことがないことに注目。モデルはすぐにひらめき、以前からいつかコラボレーションしてみたいと思っていた佐藤まりなさんにご協力いただきました。ここまで、怒涛の10ヶ月。そして撮影の日を迎えました。
▲東京工芸大学の素敵な白ホリスタジオ
Method 3:ゼネラリストの強みを活かしたシーン作成
1:撮影とCGによる衣装制作
▲時間があったのでたっぷりと撮影しました。後から仕分けが大変なくらいのショット。
▲撮影の醍醐味のひとつであるフォトグラメトリーも同時に撮影。
▲ガイドを基に、3ds Max上で3Dシーンを構築。ここで照明などのテストも行います。
▲モデルを配置して、ガイドと同じポーズに合わせていきます。繊細な作業です。
▲全身を大きく覆う巨大なマント。
▲ファンタジー作品の皇帝のような立派な冠に手作業で装飾を施します。
2:衣装の再デザイン
▲全身の衣装にも一筆ずつ手作業で装飾を施し、ハンドメイド感を出していきます。
▲ひと通り作成したのですが、どうにも気に入らず、ボツにしてしまいました。
▲全体のシルエットをもう一度考察。和のテイストを入れつつ新しいデザインに。
▲装飾も手動からベクターに変更して、より複雑に密度感を出していきます。
▲ベクターからのパーティクル作成には新しくtyFlowを採用しました。
3:仕上げ
▲かなり細かい装飾を施しています。部分的にモデリングをばらしながら作業を進めました。
▲アナログ的な細かい装飾はBlenderのグリースペンシルを使って、さりげなく付けていきます。
▲マテリアルにはVRscansを使用。あれこれと悩まずに手早くファブリックの質感が出せます。
[[SplitPage]]Generalist Style 10
ゼネラリスト向けの情報を掲載する「Generalist Style」コーナー。3DCGソフト以外の連携で使えるソフトやプラグインなどの情報をご紹介します。ゼネラリストは様々な仕事ができないといけません。あらゆる方法で楽しみながら作品のクオリティアップをしていきましょう!
ゼネラリストは撮影までこなす!
実写系ゼネラリストのお仕事で多いのは「背景制作」であると以前もお話しましたが、それと同時に「実写合成」も本当に多いです。実写合成というからには、当然、カメラを使用した作品の制作になり、実写と3DCGの間にはいくつものプロセスが存在します。コンポジットや編集も作業者によって様々な手法があり、方法はひとつではありません。今回は、そんな実写合成のながれを追ってみましょう。ちょっと面倒くさい作業ではありますが、下 記のような事前工程で実写合成の環境を整えておくと、後の合成作業がとてもスムーズになります。過去には適当に撮影して目合わせで最後に調整する、という無謀な手法が主流だったこともあります。
1.スタジオとカメラ
▲今回は東京工芸大学のスタジオをお借りし、HASSELBLADのカメラ「H6D-100c」を使用して撮影します。通常はこんな贅沢できません(笑)
2.露出を変えて銀玉(シルバーボール)を撮影
▲露出を変えた素材を複数枚撮影します。ちなみにこの写真はCanon EOS M5で撮影したもの。
▲HDR自体はPhotoshopで自動合成。これは昔からある機能です。作成したHDR素材(OpenEXRでも良い)、V-Rayなどのミラー設定のテクスチャに適用。
3.環境撮影と360度撮影
▲HASSELBLADでの環境撮影と、抑えとしてRICOH THETAによる360度撮影も行いました。最近、新しい高解像度機種が発売されて、ますます便利になっています(theta360.com/ja)。
▲普通に環境素材を撮っても格好良い。
▲CGに関しては、同じスタジオの環境を再現するため、同じように銀玉やカラーチャートを配置してシーンを作成します。
[Information]
-
株式会社画龍 早野海兵 監修
3DCGベーシック講座[3ds Max]
3ds Maxを本当にゼロからスタートする方のために作成したオンライン講座です。本講座は画づくりと技術アップの両面を重視しています。また、3ds Maxの様々な実践的な機能を動画で収録しているため、後々機能のリファレンスとしても使用可能です。ぜひ、この機会に3ds Maxを通してCGの世界に!
online.dhw.co.jp/course/3dcg
[プロフィール]
早野海兵
日本大学芸術学部卒業後、(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント、(株)リンクス、(株)ソニー・コンピューターエンタテインメントを経て、フリーランスで活動。2007年(株)画龍を設立。
www.ga-ryu.co.jp
www.kaihei.net
Twitter:@Kai_ryu_Kai
[credit]
モデル:佐藤まりな
撮影協力:プロデューサー・城戸孝夫氏(東京工芸大学・准教授)/ライティングマネージャー・加藤英彦氏/アシスタント・齋藤友世氏