『天穂のサクナヒメ』は、小規模開発タイトルでありながら世界累計出荷本数が100万本(※2021年6月4日時点/世界累計出荷本数には、パッケージ版の出荷確定本数と、ダウンロード版、およびSteam版 PCの販売数を含みます)を突破し、メディアにも多く取り上げられました。ゲーム開発者たちからも「こんなゲームをつくりたい!」といった羨むような声さえ聞こえてきます。PART1に続き、本作がどのようなプロセスでつくられたのか、現場の声をお届けします。
※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.272(2021年4月号)掲載の「キャラつく!『天穂のサクナヒメ』 PART 2」からの転載となります。
『天穂のサクナヒメ』
企画・開発:えーでるわいす
販売:マーベラス
リリース:2020年11月12日(木)
価格:Nintendo Switch パッケージ版(BEST PRICE)、ダウンロード版 2,980円+税
PS4 パッケージ版(BEST PRICE)、ダウンロード版 2,980円+税 /デジタルデラックス版 3,980円+税
プラットフォーム:Nintendo Switch、PS4
ジャンル:和風アクションRPG
※Steam版(PC)はXseed Gamesより配信中
www.marv.jp/special/game/sakuna
登場人物はみんな序盤でポンコツっぷりを発揮する
安堂ひろゆき(以下、安堂):そもそもの開発のながれについてお聞かせください。パブリッシャーはXSEED Games、Marvelous USA、マーベラスの3社になっていますが、どのような関係性でしたか?
なる氏(以下、なる):当初から、つくるものに関しては、こちら側が納得できない状態のものは出さないという話をしていました。その点はマーベラスさんたちも理解してくださっていて「納得いくまでやってください」というかたちでしたね。
安堂:前作までは、どういったながれだったのでしょうか?
こいち氏(以下、こいち):完成してからパブリッシャーを探すって感じでした。
なる:そうですね。えーでるわいすは同人ゲームのサークルとして活動を始めて、徐々にパブリッシャーなどの概念や比重が上がってきました。前作の『アスタブリード』(2014)の場合は、初めは同人ゲームとして出して、その後にパブリッシャーを探すみたいな感じでした。
安堂:『天穂のサクナヒメ』では、最初からパブリッシャーが付いて開発に入ったという感じでしょうか?
なる:いいえ。開発はもう開始していて、どこから出すか、パブリッシャーを探しながらつくっていた感じですね。
こいち:XSEED Gamesさんから声をかけていただいたのがきっかけで、マーベラスさんたちに決まったのは、2016年あたりだったと思います。
なる:開発が始まって、しばらくしてからですね。
安堂:「マーベラスさんたちから依頼があって開発した」と書かれた記事をどこかで見て違和感があったのですが、従来通りの同人サークルらしい感じですね。
こいち:ほかのパブリッシャーさんにもお声がけいただいており、検討を重ね、マーベラスさんたちに決まったというながれでしたね。
安堂:開発には5年半ほどかかったとのことですが、当初の予定はどれくらいでしたか?
なる:ゲーム制作者は、ほとんどの人が「2年」って言うんですよね。3年っていう見通しをあまり聞いたことがなくて。僕らも初めは「2年」って言っていましたが、終わらないので延長戦に突入した、みたいな感じでした。
安堂:ちなみに前作の『アスタブリード』はどれくらいの期間がかかりましたか?
なる:前作は2年半でした。
安堂:前作に比べると、キャラクターが走り回ったりすることで、モーションなどの物量が増えた感じでしょうか?
なる:モーションも増えたのですが、物量の面でキツかったのは、ステージの数や、イベント専用の背景・小物の数とかですね。
こいち:モーションは、くろろさんだからなんとかなったっていうのはあります。普通の人だったら、3倍の期間がかかっていたでしょうね。
なる:Excelのリストだと、そんなに要素の数が多いようには見えなかったし、イベント数のリストも「30行くらいしかないな」って感覚だったのですが、「つくってみたらすごく大変」っていうのがよくありました。それ以上に驚いたのが、普通に遊んでみたら、かなりボリュームが多かったことですね。ひと通り全部の要素が揃った段階で、通しプレイをやってみて、「ボリュームが多い!」と思いました。
安堂:僕も取材前にできるだけ進めておこうとプレイしていたのですが、かなりボリュームがあると思いましたね。話は変わりますが、開発中に「これはマズいぞ」って場面はありましたか?
なる:一番厳しかったのは「イベントのボリュームがかなりあるぞ。モーションが全然足りない」って話になったときですね。
こいち:モーションの発注はなるさんの担当だったんですが、かたくなにイベントモーションのリストをつくろうとしない時期があって、くろろさんからも「恐怖を覚える」って指摘が入って、リストをつくってみたら案の定あふれていました。
くろろ氏(以下、くろろ):なるさんは、最初はイベントも汎用モーションだけでつくるって考えていたようですけど。
こいち:僕は「専用モーションが必要」って言い続けてました。
なる:リスト作成の段階で意見が分かれていて、僕は「こいちさんは専用モーションを入れすぎ。汎用モーションだけで、ある程度はのりきれる」って思っていたんです。
くろろ:最終的には、イベント専用モーションだけで200個以上になりましたね。
なる:全然のりきれてなかったですね(笑)
安堂:くろろさんが救世主だったんですね(笑)。キャラクターに関しては、田右衛門が格好良くて好きですね。プレイ前の印象は頼りになる兄貴だったんですが、実際は初手から失敗したりで、かなり頼りないですね。
こいち:田右衛門に限らないんですが、登場人物は、みんな明確な欠点や嫌なところをもっているというのがコンセプトとしてありました。そういう人たちが、どうやってまとまっていくのかを見せたかったので、序盤では、みんなポンコツっぷりをどこかしらで発揮するようになっていますね。
安堂:序盤は特にキャラクターの嫌な面が見えるイベントが多いですよね。
こいち:そこはコンセプトとして、しっかり嫌なやつにしたので。本当に嫌なやつに見えるように、村山(竜大)さん(※)にデザインを依頼したときにも「なるべく美形キャラは描かないでほしい」と伝えました。
※2Dアーティスト。『天穂のサクナヒメ』のメインアートを担当
安堂:田右衛門って、ゲーム中にはあまり何もしてくれない印象があります。
なる:田右衛門はチュートリアルのキャラクターで、大変な作業を受けもってくれたりしていますね。
こいち:農作業をスケーリングする役目を担っているんです。プレイヤーが稲作をする田んぼだけでは一家を養えないので、どんどん外に田んぼを増やしているんです。田右衛門は、それらの田んぼのいくつかを担当しています。ゲームでも、最初は村の下の方にいくつも田んぼをつくっていたのですが、パフォーマンスなどの理由で削除したんです。その結果、田右衛門は田んぼの横にずっと立っているだけの人みたいにも見えますね。
キャラクターが果たすべき役割が何かを考える
安堂:最後に、これからインディーゲームをつくりたい人たちに向けて、その中でも特に、キャラクターをつくって動かしたい人たちへのメッセージをお願いします。
なる:「ゲームをつくる」という意識であってほしいというのがあります。キャラクターもゲームの中のひとつの要素なので、キャラクターだけで完結するものではなく、ゲームの中でそのキャラクターがどのように効果的に映るか、キャラクター以外のセクションについても考えるべきだと思います。特にインディーゲームの場合は、自分の担当外も含めたゲーム全体を意識したキャラクターづくりが大切だと思います。
こいち:僕も、キャラクターに限らず、ゲームの中の要素は全体を構成する一部分に過ぎないと思っています。インディーゲームの場合は、「自分の好きな一点だけに力を入れて、ほかは力を抜く」みたいなつくり方をする人もいますが、あまり良い結果につながらないように思います。そういうゲームのプレイヤーは、「力を入れた一点」以外が原因で、プレイを止めてしまうことが多いです。ある一定のレベルまでは全体をつくり込まないと、トータルの印象が悪くなったりもします。そこを意識した上で、キャラクターが果たすべき役割が何かを考えてつくってもらいたいなと思います。
くろろ:インディーゲームだと、モーション担当をプログラマーやモデラーが兼任して、クオリティが足りないということもありますが、モーションがいまひとつだと、キャラクターに生命が宿りません。モーションを担当してくれる仲間を探してみるのも良いと思いますね。自分でモーションの実力を身に付けたい場合は、実写やクオリティの高いゲームの動画をコマ送りで見たりして、観察力を鍛えることが大切だと思います。ゲーム業界では、いつも「モーションの人手が足りない」みたいな話を聞きますが、僕はモーションが一番楽しいです。モーションは楽しいですから、みんなでつくりましょう。
Kir氏(以下、Kir):自分がつくったものが、ゲームの中でどう動いているのか、実際に確認することが重要だと思います。自分が良いと思ったものでも、「本当に大丈夫か?」という確認をチームメンバーと一緒にやっていけば、上手く回ると思います。自分が担当するデータを仕上げた後、ゲームの中で動いているところを確認しないまま、ほかの人からダメ出しをされるのは嫌だろうと思うんです。ちゃんと自分の目で確認して、チームメンバーの意見をどんどん聞いて、チーム全員が納得できるものをつくってほしいと思います。
安堂:CGWORLDでも「ゲームモーション」の扱いはあまり多くなくて、映像作品や、ゲームのカットシーンのアニメーションに寄ったものが多いと感じていたので、今後は目指す人が増えてくれたら良いなと思いました。
くろろ:かつてゲーム会社に入ったときに、「モーションをやりたいです」って言ったんですけど、背景に回されてしまいました。その後モーションに配属されたんですが、また背景に戻されたりして、いろいろ勉強になって良かったです。
Kir:そうやって、なんでもできるくろろさんが形成されたんですね。
安堂:僕もドッターとしてゲーム業界に入って、モーションや企画まで、いろいろやらせてもらいました。あの頃のゲームづくりが一番楽しかったという感じは多少あります。
Kir:「ゲーム全体を、こういう風につくりたいんだ」って言える人がいるチームは、やっぱり楽しいですね。「クライアントからの要望」的なふわふわしたものしかないチームに所属するのは厳しいですから。
インタビューを終えて
昨今のゲーム業界はコアメンバーだけでつくるような、小さなチャレンジが成り立ちにくい環境になっているように感じています。大規模でないとつくれないコンテンツもありますが『天穂のサクナヒメ』の成功を受けて、小規模なプロジェクトも起ち上がっていくと良いなと思いました。しかしながら、今回改めてお話を伺って感じたのは、5年半の開発期間と、その下地となる10年以上の「同人サークル活動」の集大成が本作であり、一朝一夕には成し得ない成功であったということでした。米づくりも、ゲームづくりにも近道はないようです。
黄泉火産霊の攻撃モーションのラフスケッチ
サクナヒメの汎用モーションのラフスケッチ
モーションのポーズ案
食事モーションの作成
© 2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.
Information
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.272(2021年4月号)
特集:大解剖『進撃の巨人』The Final Season
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年3月10日
INTERVIEW & TEXT _安堂ひろゆき(フライトユニット)
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
EDIT(CGWORLD.jp)_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada