ゲーム開発会社は、組織の成長と共にどのように人を育て、学びの文化を築いていくのか。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第6回はロケットスタジオを紹介する。前編では、ハドソンからのスピンアウトを経て組織を拡大してきた同社が直面した課題を起点に、稲船敬二氏の参画を契機として始まった「稲船塾」に焦点を当てる。ゲーム開発の技術だけでなく、社会人としての基礎や考え方を重視する教育の設計思想を紐解く。
※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.332(2026年4月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第6回 ロケットスタジオ」を再編集したものです。
ロケットスタジオ
かつて札幌にあったハドソンからスピンアウトして、1999年に設立されたゲーム開発会社。札幌本社のほか、東京支店・大阪スタジオを展開し、現在のスタッフ数は約90人。東京では医療XRも手がけ、2026年3月19日には自社新作『ケモノミクス Re』を発売。
Webサイト:www.rocketstd.co.jp
組織拡大で表面化した、ロケットスタジオの課題と危機感
CGWORLD(以下、CGW):まずはロケットスタジオさんの成り立ちを教えてください。
竹部隆司氏(以下、竹部):当社は、札幌にあったハドソンからスピンアウトするかたちで設立しました。最初のメンバーは、私も含めたプログラマーが10人と、プランナーが2人。デザイナーはおらず、かなり偏った構成でした。シンプルな組織だった分、会社としてどう成長していくか、どう継続していくかという視点は、正直まだ弱かったと思います。
蒲原 仁氏(以下、蒲原):私もハドソン出身ですが、当社に入ったのは15年ほど前です。ハドソンを離れた後、6年ほど自分の会社を経営していました。小規模な受託開発会社で、受託ならではの課題にかなり直面しました。単価の問題、二次請けの構造、案件管理、人のマネジメント、そもそも仕事を取り続けられるかどうか。規模が小さくても、ゲーム会社が抱える問題はどこも共通なんですよね。結局、自分の会社は畳むことになって、そのタイミングで竹部に声をかけてもらいました。
CGW:当時のロケットスタジオさんの規模感はどのくらいでしたか?
蒲原:30人程度でした。自分の会社は14人ほどだったのですが、抱えている問題はほぼ同じだったから、「ここをこう直せば良くなる」というイメージは、自分の中では明確だった。現場と経営層の間に立って、問題点をひとつずつ整理していく役割を担いました。すぐ結果が出るものではなかったので、最初の5年くらいは、かなり大変でした。
CGW:その「大変さ」は、どこにあったのでしょうか?
蒲原:長く同じやり方でやってきた組織に対して、「こう変えた方がいい」と言うと、どうしても反発が出ます。竹部は理解してくれても、現場はすぐには動かない。だから、小さな成功をひとつずつ積み上げて、「ほら、できたでしょう」と示し続けるしかなかった。5年くらい経って、ようやく会社として回り始めた実感がありました。ただ、その時点でも、「安定した」というより、「次の段階に進む準備ができた」くらいの感覚でした。
竹部:ゲームをつくること自体は続けられてきたけれど、会社としてどう成長するか、人をどう育てるかという部分は、ずっと宿題として残っていた。その延長線上に、後の取り組みがある、という位置づけですね。
CGW:それ以降、さらに人数が増えていったわけですよね。
蒲原:はい。50人を超えたあたりから、チーム編成や組織構造をどうすればいいのか、手探り感が一気に強くなりました。現場を回すだけで精一杯で、このまま人数が増えていったときに、どうやって会社を維持していくのかが、正直わからなかった。100人規模を見据えた会社の姿が、私の中でまったく描けていなかったんです。
CGW:竹部さんは、その状況をどう見ていましたか。
竹部:正直、現場が回っているんだから、なんとかなると思っていた部分もありました。ただ、「もっと大きくしたい」、「100人規模を目指したい」という話をすると、蒲原から「それをどうやって回すのか」という現実的な問いが返ってきた。そこで初めて、成長のイメージが共有できていないことに気づきました。
CGW:人数が増えれば、自動的に強い会社になるわけではない、と。
蒲原:そうなんです。むしろ、危うくなる。特に問題だったのが、中間にいるリーダー層のあり方でした。本来、会社を支える立場にいる人たちが、「頼まれたからやっている」という状態になっていた。自発的に動いているわけではない、ということに、後から気づかされたんです。
竹部:業務自体は回っていました。でも、改善提案や先を見据えた動きが出てこない。こちらが「これをお願いね」と言えばやってくれるけど、それ以上には広がらない。会社としては、かなり危険な状態でした。
CGW:当事者としては、とても重い気づきですね。
蒲原:はい。自分の中では、「こうすれば良くなる」、「こうあるべきだ」というイメージをもって人を集めてきたつもりだった。でも実際は、「言われたからやる」という意識のまま会社が大きくなってしまっていた。これは、単なるしくみの問題ではなく、意識の問題だと、後に気づかされました。
CGW:そのタイミングで、『ロックマン』や『デッドライジング』の開発に携わった稲船敬二さんが執行役員になったわけですね。
竹部:そうです。人数が増えて、このままではまずいと感じていたときに、稲船さんに声をかけました。大きな会社や大規模プロジェクトを経験されてきた方なので、今の私たちに不足しているものを補完してもらえるのでは、という期待がありました。
CGW:実際に話をしてみて、どうでしたか。
蒲原:かなり率直でしたよ(笑)。「人を増やす以前に、そもそも今もちゃんとできていませんよ」と言われました。こちらとしても、できているとは思っていなかったけれど、改めて第三者からはっきり指摘されて、「ああ、やっぱりそうか」と。
CGW:耳の痛い話でもある。
蒲原:でも、その一言で、問題の本質がはっきりしたんです。組織のかたちや人数の話ではなく、まず人の意識を変えないといけない。そこを変えないまま会社を拡大しても、同じ問題が大きくなるだけだ、と。
竹部:そうですね。これまでのやり方の延長ではダメだと、はっきり認識しました。稲船さんの参画は、何か新しい施策を始めるためというより、「今の状態を正面から見つめ直す」きっかけだったと思います。
CGW:この危機感が、後の稲船塾やリーダー塾につながっていったわけですね。
蒲原:はい。突然思いついた取り組みではなくて、この段階まで積み重なってきた課題に対する、必然的な選択だったと思っています。
ロケットスタジオのオリジナルタイトル『ケモノミクス Re』
「教育」に時間と意識を割くしくみとして、稲船塾を毎月開催
CGW:稲船さんが加わった当初、どんな点に課題を感じましたか。
稲船敬二氏(以下、稲船):率直に言えば、「教育が足りていない」と感じました。ただ、現場が何もしていないわけじゃない。皆さん一生懸命やっている。でも私の見立てでは、教育というより“教えているだけ”に見えたんです。教育って、体系立てて相手が伸びるように関わっていくことですよね。でも実際は、教育を受けていない人が教育している状態になりがちで、「自分が知っていることを教える」だけになってしまう。さらに言うと、ここで言う教育はゲーム開発のスキルの話だけじゃない。もっと手前の、社会人としての基礎や、人としての在り方も含んでいるんです。
竹部:ゲーム会社って、スキルやセンスの話に寄りがちなんですけど、それ以前の土台が揃っていないと、チームでのものづくりができないんですよね。
稲船:象徴的に言えば、「遅刻するな」みたいな話です。当たり前すぎて、抜け落ちやすい。新人教育って、仕事のやり方より前に、決められた時間に会社に来ること、そういう基本が重要だと私は思っています。そこが整って初めて、ゲームづくりにつながっていく。
CGW:稲船塾は、ゲームのつくり方だけを教える場ではない、と。
稲船:そもそも「ゲームのつくり方のコツ」みたいな小手先のことは、時代によって変わるから教えようがない。稲船塾は、考え方や生き方、心の部分を扱う場にしています。ゲーム業界って「突出した能力があれば何をしても許される」みたいな空気が通りやすいけど、会社としてはそういう状態を放置すべきじゃない、という認識もあります。だから私が合流した後、改善策として提案し、稲船塾を毎月開催するようになりました。特にデベロッパーは日々の業務に追われやすく、教育に時間と意識を割きにくい構造があるので、「しくみとして置く」必要があると思ったんです。
CGW:稲船塾の運用はどんな形式ですか?
稲船:基本は座学で、私が話すスタイルです。1回だいたい1時間半。札幌本社で月1回、大阪スタジオでも月1回やっています。大阪のメンバーは札幌開催にもオンラインで参加することが多く、同じ月に2回聞くケースもある。もちろん強制ではありません。
蒲原:稲船塾は自由参加なので、参加意欲が高い人は毎月来る。来ない人は常に来ない。その前提で回っています。
CGW:自由参加で成立させるのは、難しくないですか?
稲船:私は「全員に響かせよう」とは思っていません。会社にはいわゆる“働きアリの法則(2:6:2の法則)”みたいなものがあるという前提で考えています。自発的に動ける人は2割に留まる、という感覚です。だから教育も同じで、10人に教えて2人育てば十分。100人に話せば20人には届く。影響範囲を広げるための行為として、教える相手を増やし、回数を重ねることが大事なんです。
CGW:“届く人に届けばいい”という設計なんですね。
稲船:長く続けていけばテーマの重複は避けられないので、最初に「内容が被ることはある」と明言しています。ただ台本やスライドがあるわけではなく、その時々の感覚で話すので、同じテーマでも話が固定されるわけではない。重要なことほどくり返し語られる。反復される内容が重要事項だという設計で、刷り込みをねらっています。「1回聞いたから終わり」ではなく、毎回参加することが重要だ、という考え方です。加えて私は、相手の変化を“期待しない”姿勢をとります。教える側が相手に期待しすぎると、自分がダメージを負うんです。私の役割は「何回も言うこと」で、努力と変化は相手に委ねる。リターンを求めず、アガペーの心(無償の愛)で接する、という感覚ですね。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.332(2026年4月号)
特集:「にじさんじ」を支えるANYCOLORの技術
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年3月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_小泉まどか/Madoka Koizumi(STUDIO ma_do_k_)