アニメーション制作の現場で、クリエイターが長く力を発揮し続けるためには何が必要なのか。各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画、第7回はダンデライオンアニメーションスタジオ(以下、DLAS)を取り上げる。前編では、呼吸や姿勢を起点としたヘルスケア施策と、2026年度から本格導入された新人研修に焦点を当てる。心身のコンディションづくりから、アニメーションの判断基準を共有する育成設計まで、“長く走り続けるための土台づくり”について紐解く。

記事の目次

    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.333(2026年5月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第7回 ダンデライオンアニメーションスタジオ」を再編集したものです。

    ダンデライオンアニメーションスタジオ

    2007年設立、練馬区のデジタルアニメスタジオ。スタッフ数約100名。劇場用長編、配信シリーズ、MV、ゲーム向け映像など幅広い案件を手がける。作画的ニュアンスを重視した表現力を強みとし、大型案件にも対応できる体制強化を進めている。
    Webサイト:www.dlas.jp

    長く走り続けるための土台をつくる、ヘルスケアのセミナーやヨガクラス

    CGWORLD(以下、CGW):近年のDLASでは研修やヘルスケアに力を入れており、代表の西川さん自ら、「ストレスマネジメントメソッド」と題した社内セミナーを実施なさったそうですね。

    西川和宏氏(以下、西川):それほど大げさなものではなくて、自分が実践してきたことを2024年末に1度共有した、というのが実情です。根本にあるのは、制作中でも打ち合わせ中でも、心身共にできるだけ「緊張していないリラックスした状態」を保ちたい、という考えです。もし崩れたとしても、ちゃんと戻せる状態でありたい。それが結果的に良いパフォーマンスにつながるし、長くこの仕事を続けていく上でも必要だと感じています。

    ▲代表取締役・西川和宏氏

    西川氏による「ストレスマネジメントメソッド」セミナーの資料(全46枚)の抜粋

    本セミナーの資料は、身体の緊張状態を客観視するためのチェック項目や、呼吸のながれを図示した解説、骨格の位置関係を示すイラストなど、視覚的に理解できる構成になっている。理論を長く語るのではなく、日々の制作現場で即座に試せるワークを随所に盛り込み、「まずやってみる」ことを促す設計が特徴だ。専門家による外部講義ではなく、代表自身の試行錯誤を基に整理された内容であり、トップ自らが資料化し共有している点にもDLASの姿勢や社風が表れている。

    CGW:その考えにいたった背景は何だったのでしょうか。

    西川:きっかけは個人的な体調の変化でした。45歳頃から、腰や首肩の不調、眼精疲労など、デスクワーク特有の症状が増えてきた。スタッフの平均年齢も上がってきていて、同じような不調を抱える人が目につくようになりました。肉体面だけでなく、気分的に本調子ではない様子の人もいる。医療行為が必要な段階ではないけれど、その手前で何かできないか、と考えたのが始まりです。

    CGW:それがセミナー実施につながった。

    西川:はい。自分でも本を読んだり、ジムに通ったり、ヨガやピラティス、武術など、いろいろ試しました。その中で共通していたのが「呼吸」と「姿勢」だったんです。鼻からゆっくり大きく息を吸い、吐くときに体の力を抜いてリラックスすること、骨盤の傾きや頭の位置を意識すること。これらを整えるだけで、状態はかなり変わると実感しました。だから全社向けに、呼吸と姿勢の大切さや、整え方について解説するセミナーを実施したんです。

    それに加えて、就業時間中にヨガクラスを週2回やっています。水曜は朝帯にオンラインで、金曜は夕方帯に近隣のレンタルスタジオで実施しています。金曜もリモート参加は可能です。ジムも法人契約していて、スタッフが利用しやすい環境を整えています。

    CGW:参加状況はいかがですか。

    西川:参加するメンバーは固定化しやすいです。普段運動をしない人にとって、いきなりヨガクラスに入るのはハードルが高い。だからこそ、まずは呼吸や姿勢といった取り組みやすいところから共有したいと考えました。

    松井一樹氏(以下、松井):私も水曜のクラスに参加することがあります。継続している人ほど以前より元気になっており、日々のコンディションが安定している感じですね。

    アニメーションユニットリーダー・松井一樹氏

    西谷浩人氏(以下、西谷):私はヨガクラスにはまったく参加していません(笑)。その代わり、通勤のときに1~2駅分は歩くようにしていて、それをベースの運動にしています。ただ、クラスに参加している人たちは積極的に楽しんでいる印象がありますね。特に30代は前向きに取り組んでいる人が多い一方で、40~50代は「今さらいいかな」と半分諦め気味なところもあるんじゃないでしょうか。

    映像制作室 室長・西谷浩人氏

    CGW:忙しい現場の中だと、参加時間を割くこと自体が難しいでしょうしね。

    松井:そうなんです。余裕があるときの方が参加しやすい。でも、本来は忙しいときこそ必要なんですよね。そこはジレンマです。

    西川:健康を仕事の外側に置くと、「ヨガクラスもジムも、余裕があるときに行くもの」になってしまう。でも本来は制作の前提条件なんです。自身の状態が安定していなければ、どんな技術も活かせませんし、チームでつくる以上、1人の状態は周囲にも影響します。予算やスケジュールといった外的ストレスは避けられないからこそ、自分で整えられる部分は整えておきたい。ヘルスケアも、そのほかの研修も、全ては長く走り続けるための土台づくりだと思っています。

    属人化を超えて基準を共有する、アニメーションユニットの新人研修

    CGW:続いて、現在のアニメーションユニットの体制を教えてください。

    松井:2026年3月時点では、21名体制です。そのうち1名が作画、残り20名が3DCGのアニメーターという構成になっています。年齢層は20代から50代まで幅広く、ボリュームゾーンは30〜40代ですね。新卒は毎年必ずというわけではありませんが、ご縁があれば採用しており、直近では2024年に2名入社しています。中途・新卒ともに常時募集していて、大型案件を社内で安定して回せる体制をさらに強化したいと考えています。

    CGW:業務の幅も広いのでしょうか。

    松井:メインはMayaを使った3DCG映像制作です。ただ、モーションキャプチャ(以下、Mocap)案件ではMotionBuilderも補助的に使いますし、ハイエンドなプリレンダー作品だけでなく、アプリやゲーム向けのモーション制作も継続的に行なっています。ショット単位でのカメラ設計やキャラクターの動き・表情付けが基本業務ですが、ヒーローショット以外のクロスシミュレーションは、アニメーターが仕上げまで担当することが多いですし、スキルのあるメンバーはエフェクトのフィニッシュまで手がけることもあります。アプリのMV案件ではVコンテ制作から入る場合もあり、手描きの補足を入れながら演出指示をまとめるなど、プリプロ的な役割を担うメンバーもいます。

    能力と意欲次第では「アニメーター」という枠を超えて、技術面でも演出面でも深く関われる環境です。だからこそ、初期段階でどんな基準や考え方を共有するかが重要になってくる。そこが、新人研修の見直しの出発点でもありました。

    CGW:2026年度から、3ヶ月間の新人研修カリキュラムを本格導入されるそうですね。

    松井:はい。これまでは基本的にOJT中心で、いわば“弟子制度”に近いかたちでした。メンターを1人決めて、その背中を見ながら覚えていく。もちろん、それで育ってきた人も多いですし、先輩たちの面倒見の良さは今も大きな強みです。ただ一方で、教え方や重視するポイントが人によって異なり、どうしても育成が属人化していました。加えてコロナ禍にフルリモートを経験したことで、その課題が顕在化しました。

    画面共有で操作は教えられても、「なぜこのニュアンスにするのか」、「何を重視して判断するのか」といった核心部分は、現場の空気感の中で伝わっていた側面が大きかった。コロナ禍後は出社とリモートを併用する働き方に移行したこともあって、そこを意識的に言語化しなければ、DLASらしさは継承できないと感じたんです。

    2026年度 アニメーションユニット 新人研修カリキュラムの概要 (※内容やスケジュールは、年度ごとに見直している)

    CGW:配属されたプロジェクトごとの、“学びの偏り”も課題だったとか。

    松井:最初のプロジェクトが例えばフェイシャルのないギミック中心の案件だった場合、人型キャラクターの芝居や表情付けをじっくり経験しないまま1年が過ぎてしまう可能性もある。もちろん、どんな案件にも学びはあります。ただ、初期段階で一度は通ってほしい基礎があるのも事実です。

    だからこそ、最初の3ヶ月は原則プロジェクトに入れず、研修に専念してもらう。ここで“最低限の土台”を共有してから現場に出す設計にしました。これは技術をひと通り教え込む期間というよりは、「DLASの基準」にローカライズする期間だと考えています。

    CGW:ローカライズ、というのは?

    松井:社内特有のパイプライン、ワークフロー、用語への適応はもちろんですが、それ以上に「アニメーションの組み立て方」の基準です。例えば、Mocapデータを機械的に整えるのではなく、どこを削ぎ落とし、どこを誇張するのか。リアルな動きをどうアニメへと“翻訳”するのか。その判断軸を共有することが重要だと考えました。

    カリキュラムのPhase 2では実案件のショットを教材に、演出役のメンターとの間で、実際に近いやり取りを疑似体験してもらいます。ここで学んでほしいのは、修正をこなすことではなく、「なぜそのフィードバックが出たのか」を考える姿勢です。実際のところ、何を重視するかは演出家によって変わってくるんです。各演出の意図を汲み取り、自分なりの解釈を返す。その往復を楽しめる姿勢が、現場で本当に必要とされることだと思います。

    第7回 ダンデライオンアニメーションスタジオ 後編は5月29日(金)公開です。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.333(2026年5月号)

    特集:CGインディーズ仕事術

    定価:1,540円(税込)

    判型:A4ワイド

    総ページ数:112

    発売日:2026410

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota