フジテレビの深夜枠「火曜ACTION!」で放送されるやいなや、SNS等で大きな反響を生んだ新感覚のSF作品である本作。深夜ドラマならではのVFXの妙味に迫る。
独特な世界観とVFXが絡み合う新感覚SFドラマ
2023年1月18日よりフジテレビの「火曜ACTION!」枠で放送された全3回のテレビドラマ『City Lives』。新感覚SFドラマと銘打たれた本作は、その独特な世界観と引き込まれる演出、VFXを駆使した映像表現の面白さから、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。
『City Lives』
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放送枠:火曜ACTION!
放送期間:2023年1月18日~2月1日
放送局:フジテレビ
fod.fujitv.co.jp/title/116y
物語は、モキュメンタリー(ドキュメンタリー風のフィクション)形式で「世界一巨大な生物〈街〉と、そこに駐在する都市型生物保護機構の保護官」を紹介するところから始まる。2つの〈街〉の接近を通じて再会した男女2人の保護官は、〈街〉に翻弄されながらかつての日々を思い出し、新たにある想いを抱くようになる……。
本作の原作・脚本・監督は、第六回「リモートフィルムコンテスト」でグランプリ大賞を受賞した『viewers:1』の針谷大吾氏と小林洋介氏が共同で務めた。
針谷大吾監督(原作・脚本)
小林洋介監督(原作・脚本)
プロデューサーの青木卓郎氏(東北新社)は、企画当初についてこうふり返った。「はじめにフジテレビから深夜枠を活かしたチャレンジングな作品をやりたいという話があり、『viewers:1』で高い評価を得ていた小林監督に白羽の矢が立ちました」(青木氏)
青木卓郎プロデューサー(東北新社)
これに対し「ちょうど生きた街の発情期のドキュメンタリーの企画を温めてたので、これならこの予算でもできるんじゃないかと。ドラマ用にアレンジして、企画書をつくりました」と小林監督。
VFXは、XORの堀江友則氏を中心に、LILの木村康次郎氏、オムニバス・ジャパンの佐藤信吾氏、近藤晋也氏らが参加し、全90カットのVFXシーンを3週間でつくり上げた。堀江氏は企画を聞いて次のように感じたという。
堀江友則VFXスーパーバイザー(XOR)
「最初小林監督から“街が交尾する”と聞いて、いったい何を言ってるのかと頭を抱えました(笑)。一方で監督陣の『viewers:1』も知っていたので、逆にここまでぶっ飛んでいる監督陣ならきっと面白くなるなとも感じたんです。とはいえ正攻法のVFXでは頓挫するともわかっていたので、多くの人の力を一気に借りて、複数ポジションを同時に進めていく作り方をとりました」(堀江氏)。
木村康次郎氏VFXディレクター(LIL)
低予算かつ短いスケジュールながらVFXを駆使して生み出された本作。その不思議な世界観の魅力と、VFXの舞台裏に迫る。
<1>深夜ドラマとしての企画と物語の背景
素直に信じられる新しい表現の模索
本作の企画が本格始動したのは2022年8月末。1ヶ月後の9月末に脚本の初稿が上がり、撮影は11月下旬から12月頭まで行われた。オンエアは2023年1月17日と決定していたため、VFXに使える期間はおよそ3週間しかなかったという。「8月の企画決定時からこのスケジュールだったので、各所にご相談しながらこの中でできることを考えていきました」(針谷監督)。
本企画では、VFXの作業に入る前に、なんと6時間の打ち合わせを2回も実施したという。木村氏は打ち合わせについてこうふり返る。「6時間の打ち合わせってなかなかないと思うんですけど、監督陣からぽんぽん意見が出てくるので、かなり熱かったですし意味のある時間でした。この濃い打ち合わせがあったからこそ、3週間をなんとかのりきれたと思います。畑がちがう大人たちが、いい意味でぶつかり合えました。」(木村氏)。
小林氏によると、本作のルーツは特撮ものにあるという。「もともとのコンセプトは『怪獣恋愛SFドラマ』なのですが、特撮と言えどファンタジーすぎない、“観ていて素直に信じられる特撮”のような作品をつくりたかったんです。でも怪獣ものはお金がかかるので、背景の街自体を怪獣にしてしまおう、という発想でした」(小林監督)。
物語は、街が生き物という冒頭と、街が交尾するというラストがはじめに決まっていた上で、間を埋めるようにつくられていった。「始まりと終わりからできることを探す感覚でした。アイデアは基本的にはビジュアルが先行して出てきて、脚本に反映させるかたちで進めました」(針谷監督)。
そんな小林監督と針谷監督は大学から18年ほどの付き合いで、5~6年前から仕事を共にしてきたという。「意見が食い違うことは驚くべきことにほとんどないんです(笑)」と語る小林監督に対して、「思考が近いので、思いつかないところをお互いに埋めるように仕事をしています」と針谷監督。
ベースは特撮でありながら新しい表現をねらえたところも、目指す方向がぴったり一致していたからだと言えるだろう。
本作の見どころについて、2人の監督陣はこう語る。「単純に特撮という括りではない、見たことのないリアルな質感の映像が上手く表現できたと思います」(針谷監督)。「低予算映画や深夜ドラマでしかできない質感の物語を、ただただ画の説得力で成り立たせた、そんな作品に仕上がったと感じています。ずっとやりたかったことができました」(小林監督)。
監督によるイメージボード
企画書と絵コンテ
撮影の様子
<2>画像生成AIも活用したCGによる柱状構造
撮影と同時並行のデザインチェック
短期間でのVFX作業は、役割分担が重要だ。スタッフはジェネラリストの集まりで構成されており、使用ソフトはMaya、Blender、Cinema 4D、After Effects、Flame、Nukeと多岐にわたる。堀江氏は、いかに前向きに分担するかが重要だと語った。
「作業が“爆弾投げゲーム”になってしまうと確実に間に合わないので、的を絞ってできることは自分でやろうという精神で作業しました。最低ラインはまずクリアした上で、ギリギリまでいかに手数を増やすかを考えるようにしています」(堀江氏)。
カラーマネジメントは、基本Rec.709でグレーディング済みの素材にCGを合わせていくクラシカルな方法が採られたが、精度が必要な一部カットはLogで撮影したものをACEScg化し、リニアワークフローの下でコンポジットが行われている。「カラー周りははじめに腹をくくって、状況に応じて最も効率が良いであろう手法を採ることにしました」(堀江氏)。
本作の3DCGで最も力の入ったヒーローアセットは、巨大なビルが織りなす柱状構造物だろう。このアセットは、スケジュールの短さから撮影と同時並行でデザインが行われたという。
「撮影現場にいる監督陣と近藤さんを中継しながら、その場でコンセプトを詰めていきました。建物が複雑に絡む巨大な構造物だったので、アニメーションしやすいようにつくるのが一番大変だった部分だと思います。特に柱状構造物が登場するカットはどれも監督のこだわりどころでもあったので、たびたび現場でチェックしつつ進めていきました」(佐藤氏)。
最終的にベースはシンプルなボックスのビルを捻りながら重なるように表現し、カメラが近づく地面付近のビルのみハイポリのディテールモデルを配置することで落ち着いた。ボックスの積み上げ、1メッシュ化まではHoudiniで行い、質感のルックデヴとアニメーションはMaya上で行なっている。
ボックスでつくられたビルのテクスチャには、画像生成AIであるStable Diffusionが利用された。「正面からのビルテクスチャを探しても都合がいいものがあまりなかったので、AIで生成したものを組み合わせて利用しています。自分のマシンで何度も試行錯誤できるので、AIはStable Diffusionを選択しました。テクスチャのアップコンバートにも利用しています」(近藤氏)。
柱状構造物の登場シーンの中でも、夕日に照らされるフルCGのカットは特段手がかかっている。空は近藤氏自らが描いたマット画で、そこに太陽のフレアを足しているという。「描いたマット画の下にHoudiniで地形をつくり、PLATEAUからビルをもってきて広がる街を表現しました」(近藤氏)。
柱状構造物モデリングの様子
マテリアルの構築
街モデルをMayaで配置
Maya上でのシーン全景
見上げカットのコンポジットブレイクダウン
フルCGカットのコンポジットブレイクダウン。
<3>各人の職人技が光るコンポジット
限られた時間で生真面目な処理を
本作では限られた時間を効率良く使うため、なるべく3DCGを使う箇所を減らし、できる限り2D処理にすることで工数の削減を図っている。冒頭、トンネルの先を〈街〉が横切るシーンは、実写で撮影した車窓映像をベースに、Flame上で再構築して表現している。
「CG部には柱状構造物に専念してもらいたかったのと、このショットは冒頭の掴みでとても重要なショットなので、工数を考えると実写ベースの加工の方が時間を稼げると判断し、コンポジットでできることは対応しました。とはいえ素材そのままでは難しいところもあったため、Flameの中でモデリングし、簡易3D的な処理をした部分もあります。できる範囲でなるべく生真面目につくるよう心がけました」(堀江氏)。
木村氏は、時短をテーマに作業を進めたという。街がぶつかり合うシーンは、木村氏自らが撮影した素材を利用している。「一度テストで電車から撮影し合成してみたのですが、監督からもっとスローが良いとオーダーがありました。そこで、フルHDで10倍スローが撮影できるFUJIFILM X-S10をレンタルして撮影しに行きました」(木村氏)。
また、動く標識のカットでは、監督があらかじめラフアニメーションを作成していたため、迷いなく作業が進められたという。「4Kで撮っていただいて、後からハンディ風の動きを付けてもらったカットもあります。ほかにも呼吸カットなど、できる範囲で監督のコンテを基に映像化していきました」(木村氏)。
この街の呼吸は、Cinema 4Dによる呼吸孔の変形に、After EffectsのParticularによる水蒸気を加えて表現されている。
佐藤氏は、主に電柱カットと、人食いケーソンのカットを担当した。「電柱や電線、人食いケーソンのアニメーションは、怖いけど可愛らしさも感じられる演技を目指しました。ガラスの反射など、細かいところを堀江さんがしれっと追加してくれていたので非常に助かりましたし、説得力のあるカットができたなと感じています」(佐藤氏)。
堀江氏は、こうした生真面目な処理をしっかり行おうと心がけていたという。「各カット、これがほしいだろうなと思うものをお土産として入れたくて。どれも集中できない状況にならないように、無言でできる限りのアシストをしようと考えていました」(堀江氏)。
3週間という短い期間ながら、ジェネラリストの連携によってハイクオリティなVFX作品に仕上がった本作。「監督からすごくテンションの高いフィードバックをしていただけることもあって、ヤバイヤバイと言いつつもすごく熱量のある現場だったと思います。また同じチームで何かやりたいですね」と堀江氏は語った。
〈街〉の呼吸カット
冒頭、トンネルの先で〈街〉が横切るカット
電柱が飲み込まれるカット
〈街〉の衝突カット
構造物のカット
標識のカット
腫瘍カット
監督が合成処理を行なっている。
人食いケーソンのカッ ト
怖さと可愛らしさを感じられるアニメーションが目指された。
月刊CGWORLD + digital video vol.296(2023年4月号)
特集:とことん深掘り! ゲームのアニメーション
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年3月10日
TEXT_三宅智之(38912 DIGITAL)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada