海外進出を目指し大文字に改名した後、フルCGのMVの公開を続けているMILLENNIUM PARADE。今回は、第3作目となる『KIZAO』の制作の裏側を紹介しよう。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 318(2025年2月号)からの転載となります。
MayaとBlenderを組み合わせたワークフロー
海外の大手レーベルと契約を交わし本格的に世界進出を果たしたMILLENNIUM PARADE。グローバルマーケットを意識してリリースされた『GOLDENWEEK』、『M4D LUV』、『KIZAO』のMVは、KONG TONG TOKYO(混沌東京)というコンセプトが掲げられ、MILLENNIUM PARADEのメンバーが主導してフルCGで制作された。
3rdシングル『KIZAO』は、ラテン音楽の新世代アーティストであるラウ・アレハンドロと、ラテンポップを中心に多くのアーティストを手がけるプロデューサータイニーとの共同作品だが、MVにはラウとタイニーもCGキャラクターとして登場している。

「Khakiでは1stと3rdの制作をメインに、2ndに関してはキャラクターや背景など共通の世界観にかかわる部分で参加しています。企画当初にMILLENNIUM PARADEの佐々木 集さんから直接ご連絡をいただいて、新しい挑戦をしたいということでまずはMVのキャラクターまわりを手伝ってくれないかという相談から打ち合わせを重ね、最終的にはMV全体をKhakiで制作することになりました」(CGスーパーバイザー・横原大和氏)。
スケジュール的にはMVとしては制作期間が長めであったものの、フルCG作品としては非常にタイトなものであった。そのため、本作向けにワークフローを整理して対応していく必要があったという。Khakiでは以前よりBlenderの研究開発を行なっており、主要ツールであるMayaと組み合わせたワークフローを採用し、神央薬品を含めた他社と分業して制作に臨んだ。

「当社には長編アニメなどを手がけるような大がかりなパイプラインはなく、本作に向けてイチから確立していく必要がありました。とは言え、制作期間からも完璧なものを目指すのは難しい状況だったので、人の手でつくる意味のあるもの、見かけ上の品質のみを追わない、表現したものに寄り添ったCGを、といった点を重視して作業の取捨選択を行い、MayaとBlenderを併用したフローを採用しました」(横原氏)。
<1>ワークフローとアセット制作
これまで見たことのない混沌とした世界観の追究
本作の制作にあたり、MILLENNIUM PARADE側からは情熱にあふれた映像を強く求められていた。そのため、本作ではクオリティを追求すること以上に、そうしたアーティスト側が求めるものをいかに表現するかを重視して制作が進められたという。CGツールとしては、キャラクターまわりをMaya、背景まわりをBlender、エフェクトをHoudiniをベースに制作することに決め、これらをまとめていくパイプラインの設計が必要となった。
とりわけ一番の問題となったのがリミテッドアニメーションへの対応だ。「作品は原則としてフルフレームのアニメーションですが、ところどころコマ落ち処理を加えています。通常コマ落ちは2Dコンポジットで行うケースが多いですが、今回は全て3Dで対応しています。ここではプラグインTime Warperを活用しました」(CGスーパーバイザー・岩﨑朋之氏)。
そこで大きく問題となったのが、エフェクトとキャラクターアニメーションとの一致であったという。「そのままフルフレームのエフェクトを重ねては不具合が起きてしまいます。そのため、コマ落ち処理をエフェクトにも適用した上で合わせていく必要がありました」(岩﨑氏)。

本作を含めた3作品の大きなコンセプトである「混沌東京」。その世界観を描く上では、舞台デザインやアセット制作が重要な要素であった。「求められたのは、これまで見たことのない混沌とした東京の世界でした。ディストピアやサイバーパンクといったありがちな世界観はすでに多くの作品で描かれているので、そういったものとは一線を画した新しい混沌世界を目指しています。そこでテーマに据えたのが『レトロフューチャー』で、シンプルな色遣いとオブジェクトを採用して古き東京の要素を残しつつ、未来的な印象に仕上げています」(エンバイロメントスーパーバイザー・田崎陽太氏)。
背景においてはコンセプトアートを基にアセット制作や特徴的なオブジェクト制作が進められているが、そこには社外のBlenderアーティストが力を発揮している。「MILLENNIUM PARADE側も強いこだわりをもっていた部分でしたが、Blenderアーティスト側からも様々な提案があり、新しい混沌というコンセプトを実現する世界観が構築できました」(田崎氏)。
使用されたツールとパイプライン


コンセプトアート・設定図
作初期に準備されたコンセプトアート、設定図など。

ラウ・アレハンドロとタイニーのCGキャラクター
本作ではラウ・アレハンドロとタイニーのCGキャラクターが登場する。そのデザインからルックにいたるまで多くの研鑽が行なわれた。



背景


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▲複雑な構造を持った舞台は、ジオメトリノードを用いてアセット配置して構成されている。なお、こうした大規模シーンの管理において、アドオンToOptimize Toolsが重宝したという…… -
▲「Blenderは複雑なパイプラインに不向きで、大規模アセット管理に弱いというデメリットがありますが、コストがかからず豊富なアドオンを安価で導入できるなど、メリットも多いです。そうした理由から個人で活動している優秀なアーティストが何人も現れてきていて、今回彼らに協力してもらえたことは大きかったですね」(田崎氏)
背景の落書き
「背景には看板や壁の落書きなどが多く登場します。混沌という世界観を描く上で、非常に重要でした」(田崎氏)。大量のロゴやグラフィックアートのデザインは、MILLENNIUM PARADE&Khakiのディレクターが担当している。デザイン要素は背景チームでデカール処理されたが、アドオンStamp It!を活用することで効率的に作業が進められたという。


<2>アニメーションと仕上げ
コマ落ち処理を考慮したカット制作と仕上げ
アニメーション作業は神央薬品が担当。「横原さんからは“パッションを重視” という話もあり、気持ちが込もったアニメーションを心がけていました。その点では担当アニメーターから様々な提案をさせてもらいながら進めていきました」(CGプロデューサー・ノブタコウイチ氏)。MILLENNIUM PARADEが制作主導ということもあり、制作当初アニメーションの方向性をどう示して理解してもらうかが鍵だったようだ。
「通常であればラフなアニメーションでレイアウトを組んで進めるのですが、コマ落ちを用いたアニメーションをアーティスト側により明確に理解してもらうために、最初にほぼ完成クオリティに近いものを作成してチェックしてもらいました。『GOLDENWEEK』の自転車のカットを最初に作成してOKをいただいたので、それが本作においてもクオリティの指針となっています」と『GOLDENWEEK』アニメーションリードを務めた早川翔也氏はふり返る。

『KIZAO』でアニメーションリードを務めた坂井 睦氏も固定概念に囚われず、背景デザインや配置を変えたアニメーションを提案するなど、様々なアドリブを加えていたとのことだ。「本作はクルマのアニメーションもあり、とにかく激しい動きが多かったのですが、誇張も加えながら、日本の古いアニメーションのテイストが感じられる動きをカットごとにつくり込んでいきました」(坂井氏)。なお、『GOLDENWEEK』でレターボックスの黒枠を動かすという斬新な演出も坂井氏の提案によるもの。
先述の通りアニメーションはMaya、背景はBlenderで制作されている。通常であればツールを一本化してレンダラを統一することが望ましいが、制作期間の兼ね合いでそれぞれ別のレンダラで出力し、コンポジットで合わせる必要があった。「1カットごとに追加要素(演出)が多いので、どうしたら基盤のコストを削減し量産できるかとか、どうクオリティを上げていくのかを考えて工夫していきました。それに加え、MayaとBlenderでレンダラが異なるので素材の馴染ませなどが大変でしたね」(コンポジットSV・水野正毅氏)。
作業効率を上げるためにそれぞれのツールでテンプレートを作成し、画のクオリティアップに時間をかけられるように配慮されている。さらにそれぞれのレンダラから出力するAOVを工夫し、コンポジットでなるべくスムーズに調整できるフローが整えられた。そのほか、エフェクトやブラーのコマ落ち処理なども考慮する必要があったため、カットによって変わるコマ落ちオブジェクトやタイミングを都度調整するなどの苦労もあったようだ。
リグ

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▲フェイシャルリグ。ジョイントとターゲットを組み合わせたハイブリッド設計を採用している…… -
▲カットによって表情に大きな変化が求められるため、それに対応するターゲットを作成。ハイブリッド設計により、ターゲットを使って顔全体を変形させた上で、各コントローラで細かい調整を行える仕様になっている
クルマのリグ
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▲クルマのリグ。車両が大きく変形するシーンが多いため、複数のデフォーマを使用し、滑らかで自然な変形を行えるように設計 -
▲スクワッシュ&ストレッチ機能は、上下および前後方向に適用できる。タイヤが足のように動くシーンがあるため、タイヤにも適用

シミュレーション
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▲クロスSIM。アトリビュートペイントにてクロスの硬さ用のアトリビュートを作成し、UVシームをアニメーションガイドとして使うことで原型を壊さずにシミュレーションが行われている -
▲髪のSIM。タイニーの髪はカーブ量が多く重かったため、メッシュを作成し、それをシミュレーションして後でポイントデフォーム。髪先には髪飾りが付いており、その重さもシミュレートするため2種のウェイトが付けられている。全て同じ重さだと全体的に垂れて見た目が悪くなってしまうこともあり、頭頂部のウェイトは軽く、横は重く設定された
顔の誇張表現
顔芸とも言うべき誇張表現。既存のリグやモデルでどこまで誇張した表情を表現できるかという点で、挑戦カットのひとつであったという。最終的には、アニメーターがラフで付けた表情を基に、メッシュを整えたターゲットを用意して対応。


車内カット
クルマが横スピンしている車内カット。横原氏が本作のテーマとして掲げた「パッション」を意識したカットだという。実際にはクルマは反時計回りで横スピンしているため車内のキャラは横に振られるだけになるが、あえて上下左右に暴れさせている。現実的な正しさよりも、作品のエネルギーを伝えることが優先された。

背景モデル


コマ落ち処理



ブラーの処理
ブラーの処理もコマ落ちに対応させる必要があった。上画像がNukeでの作業画面。下が完成カット。


カットの基本的な制作フロー

Nukeによるコンポジット


Flameでの仕上げ例
高速道路から飛び降りるシーンでは、爆発や瓦礫の素材のライトパスは背景やキャラクターとは別で、エフェクトが綺麗に見えるよう分けられていた。キャラとクルマはコンポジットで調整できるように7つのライトが書き出されている。Blenderチームから背景の環境下でのキャラのライティングガイドをもらい、ガイドにライトグループを使っても破綻しないように、キャラを立たせながら光の指向性に間違いが出ないように仕上げられた。

CGWORLD 2025年2月号 vol.318
特集:株式会社萌と『株式会社マジルミエ』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年1月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada