こんにちは、パーチ の長尾です。前回(第10回)は、「導入にまつわる問題」 について、モニタを導入して初めて気がつくポイントを解説しました。今回も導入にまつわる問題についてお話しします。導入した機材と、ソフトの調整には「管理」が必要になります。このとき気になるのは、「実際にどんな管理が必要になるのか」で、現場で思うのは「管理に手間を掛けたくない、楽になるポイントが知りたい」というところですよね。今回はそうした部分を解説していきます。それでは、いつも通り 「一番大事なポイントを絞り込んで、難しいことをわかりやすく」 してありますので、最後までおつきあいください。

 

管理するもの《管理は2つの軸に分ける》

カラーマネジメントに必要な機材には、時間が経つにつれて色が変化するモニタやプリンタのような物があります。また、パイプラインの変更に伴った基準の変更や、より効率的な機材や仕組みの導入によりカラーマネジメントの仕組みを変更するケースもあります。この 2 つはそれぞれ管理・調整する箇所が異なりますので、分かりやすく一覧にしてみました。

モニタの違いによる《品質》《調整の手間》の比較

「管理一覧表」 ※クリックで拡大
2 つの軸に分けて、管理するものをまとめたもの(管理内容と管理する頻度付き)。
Ⅰ軸《定期メンテナンス》:使用時間と共に変化するデバイスと、不意に変更してしまいがちなソフトウェアの定期管理
Ⅱ軸《仕組みの変更》:業務内容の変更か、確認用デバイスの変更があった際にのみ行う管理

Ⅰ軸《定期メンテナンス》
使用時間と共に変化するモニタ等のデバイスと、ソフトウェアの定期管理です(モニタの「経年劣化」については、第 4 回第10回 をご確認ください)。現物確認をする方は、確認用に利用する「色評価用蛍光灯」の定期交換が必要になります。ソフトウェアは経年劣化等はありませんが、3DCG ソフトならシーンファイルによって設定が変わる、ポスト処理をするソフトもファイルによって設定が変わることがあります。また、カラーマネジメント関連の設定を間違えて変更してしまうことがあります。これらを防ぐために定期的に設定を確認してください。

Ⅱ軸《仕組みの変更》
業務内容の変更や、確認用デバイスの変更がある場合があります。その際には、カラーマネジメントの設定が必要なケースがあります。主な変更例を表にまとめてみました。ゲームはスマホ・タブレットなどの携帯デバイスの増加、デザインビズ(広告・建築・製品開発など)も色々なデバイスで表示するケースが多くありますので、これらの変更例をまとめてあります。一方で、CM・映画制作は仕組みを変更することは少ないと思います、機材の変更やより良い仕組みに入れ替える場合くらいでしょうか。

基準となるカラープロファイルと、最適なモニタ

「業種別 カラーマネジメント設定の変更例」 ※クリックで拡大
ゲーム開発、デザインビズという業種に分けて、カラーマネジメント設定の主な変更例をまとめたもの

管理責任者を任命しましょう


当社の管理責任者は私です。広告関係の仕事が多いので、モニタ確認・Web・印刷の 3 種類の仕事の度に切り替えています。また最近ではスマホ関連の仕事が増えてきたので、iPad での表示も確認する必要性を感じてきました。
この記事を読んでくださっている方は、会社に勤務されている方や、個人の方など様々だと思います。しかし、カラーマネジメントを利用する人数にかかわらず、管理責任者を 1 名任命しましょう(利用者が100名以上の場合は、複数名の管理者が良いと思います)。これまでカラーマネジメントを導入した多くの会社を見てきましたが、

上手くいったケース = 決まった人が管理を行なっている
×上手くいかなかったケース = 明確な管理者がおらず、制作者に管理を任せている

という状況でした。これには実に顕著な差が出ました。

画面のムラを補正する技術

「カラーマネジメント導入後のクリエイター」 ※クリックで拡大
導入後によく聞く言葉と行動を図示してみた。いずれもカラーマネジメントに対する理解不足と、管理不足から起こる現象である

管理問題で頭が痛いのは、クリエイティブ業務を行っているハード・ソフトを業務中に管理する難しさだと思います。カラーマネジメント導入後によく聞こえてくるクリエイターの生の声をイラストにしてみました。ちょっとコミカルに感じるかもしれないですね。でも導入してみるとこのままの声が聞こえてくると思いますし、皆さん自身もこのように感じると思います。これは、カラーマネジメントのメリットと仕組みについての理解不足が原因で起こる現象ですので、関連スタッフには社内セミナー等を開いて理解してもらいましょう。また、個人で導入する際にはこの連載・書籍・セミナー等で理解を深めると良いと思います。

その他に、制作中にも管理が必要なことが問題となります。モニタ等の色調整を業務中に行うのは難しいという問題です。「Ⅱ軸《仕組みの変更》」 の場合は、いったん仕事の区切りが良い時に実施することが多いので、やりやすいかもしれません。ですが、「Ⅰ軸《定期メンテナンス》」 は、区切りを待っていると数ヶ月経ってしまうことになるので、一定期間で行なっていくことをお勧めします。

管理者には大変ですが、対象となる機材を使うスタッフがいない時間帯を狙うか、少し休憩をしてもらうかして、合間を縫っての管理となります。そのため、管理が行き届かない機材や、長期間管理できない機材などが出てくるケースが多くなります。
モニタについては、自動管理ツールもあります。EIZO ColorEdge CG245W同 CG275W はモニタ本体に測色機を内蔵していて、設定したスケジュールに沿って自動で管理を行ってくれます。例えば、【第 1 週・日曜日の深夜 2 時に実行】と指定しておけば、その時間に測色と調整を行なってくれます。お忙しい皆さんでも、さすがにこれぐらいの時間なら大丈夫でしょうか? ちなみに、深夜作業が押してしまい、カラマネ予定日時の深夜2時を過ぎてしまったとしても、上述した 2 製品の場合は、モニタをスリープした段階からスタートさせるといった設定もできたりします。

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管理を楽にする

なんだか管理責任者になると大変だなあ......という印象を持たれたかもしれません。確かにちょっと大変なので、会社にお勤めの方は上司にしっかりとその価値をプレゼンして、自分の価値を上げるのに役立ててください。個人の方はこの知識を利用して、お客様への付加価値向上に役立ててください。
でも管理が楽になるのは大歓迎! ということで、楽になるポイントをいくつか紹介しますね。

1.管理マニュアルを用意する
最初は少しだけ大変ですが、管理作業をまとめておくと楽になります。管理ミスが減りますし、何より作業が効率的になるので、効果は大きいです。管理項目をまとめましたので、マニュアル作りの際に活用してみてください。

例:アラートを出す期間を設定

「管理マニュアルの項目」
管理項目の一覧。これらの 5 項目をマニュアル化しておくと管理が楽になる

2.色の安定した機材を導入する
モニタを例にすると、購入直後の元々の表示特性がかなり狂っている物から、非常に精度の高い物まで色々あります。あまり精度の良くないモニタで「特性を測定して正しい特性に補正するキャリブレーション」をしても、修正しきれるということはありません。料理も素材が悪いと料理人の腕が良くても不味くなるのと似てますね。やはり元の素材が悪い物は修正しきれないようです。そのため、色の安定した機材、正しい特性を持った機材を導入すると管理が楽になります。
ただし、いきなり全ての機材を入れ替えるわけにはいかないので、当初は今利用している機材を調整して利用することになります。その場合は、個々の機材に特徴があるので、調整時の癖をメモしておくと 2 回目以降の調整が楽になりますよ。

3.制作スタッフの理解を得る
意外に面倒なのが、定期メンテナンスが予定通りに進まないことです。「仕事が詰まっていて後にしてほしい」というスタッフからの要望には答えざるを得ません。そこで、カラーマネジメントを利用している制作スタッフの理解が重要になります。カラーマネジメントの重要性と仕組みが理解できるとスタッフも協力的になります。

制作スタッフがカラーマネジメントの知識を持つ(スタッフ教育)

カラマネを利用するスタッフの教育を行うことで、導入も管理も非常にスムーズになります。「教育なんて面倒」と思うかもしれませんが、導入と管理の手間が激減するのでこんなに楽なことはありません!
スタッフに理解されやすい教育のポイントは、利用するのに必要な知識に絞って教育し、逆に難しい仕組みや理論については説明しないことです。この連載を粘り強く読んで頂いている方に、改めてお礼申し上げます。皆さんはお分かりだと思いますが、時には「カラーマネジメントは難しい」と感じることもあるのではないでしょうか(これでもこの連載はなるべく"わかりやすく"してあるんですよ)。

新しい仕組みを導入するときの人間心理は、不安と猜疑心でいっぱいです。そこに難しいという印象を持たれると、拒否 という行動になりがちです。そこで、なるべく簡単に、必要最小限にして教育していくのが最大のポイントです! 会社であれば、社内セミナーを開くのが一番です。インターネット等で情報を閲覧してもらうという手もありますが、このような新しい仕組みについては対面セミナーが効果的です。全スタッフに聞いてもらう必要もありますし、受講している方の理解度を顔を見ながら理解できるのもメリットです。個人であれば、この連載を読み返しながら、実際に導入をしてみるのが一番です。その上でさらに知りたいことが出てきたら Web や書籍で学習を進めてみてください。

セミナー用の教育コンテンツを作るための資料収集や、カラーマネジメントに関する知識を増やしたいときのアドバイスです。3DCG のカラーマネジメントについては、始まったばかりなので総合的にまとまった資料はほとんど無いと思います。そこで、個別に見てみてください。例えば、モニタの調整についてのみ、プリントについてのみ、3DCG のガンマ合わせのみ、といった感じです。この連載は総合的になっていますので、これをベースにすると他の資料を探すときも楽だと思います。また、セミナーを活用したり、カラーマネジメントが体験できるショールームや、既に導入している企業を訪問すると、効果を体感することができます。私たちの会社でも企業に訪問するセミナーや、公開セミナーを行なっているので、興味のある方は、当社ホームページ をご確認ください。(※現在、本連載の内容を総括したスペシャルセミナーを実施できるよう、企画中です。詳細は次回(最終回)に告知予定です。お楽しみに!)

例:アラートを出す期間を設定

「教育項目と教育のポイント」
制作スタッフの教育内容です。この項目とポイントに沿って教育を行うと効果的です

テレビごとの色の違い

先日もゲーム会社さんに「3DCG のためのカラーマネジメントセミナー」に伺った時に、「家庭用のテレビに色を合わせたい」という質問を頂きました。実は、質問数ナンバー 1 と言ってもいいほどよく聞かれる質問だったりします。
日本の家電メーカーにとってテレビは社の代表選手! ですので各社各様の技術や色作りがされているようです。しかも、部屋の明るさに応じて自動で明るさが変わったり、シネマモードなどのプリセットも変更が簡単になっています。まだ質問はされてはいませんが、スマホも各社各様で同じような状況ですね。ということで、合わせるのは難しいのがわかりましたので、対応策を考えていきましょう。

対応(その 1)は、最も多く利用されている機材に合わせる というものです。もちろん家庭で変更されてしまうという要素を省き、購入直後の未調整状態を対象とします。そして、プロファイルを作成して制作基準とします。ただし、モニタの選定が難しく、決まったモニタについても数年で変更されてしまう怖さがあります。また、そのモニタを購入してマスターモニタにした場合、経年劣化で色が変化するので、徐々に基準が狂ってきてしまいます。

対応(その 2)は、代表的なプロファイル 「Rec. 709」 を活用する というものです。この方法のメリットは、

・特定のテレビという縛りがない
・将来、最も多く売れているテレビが変わっても影響がない
・測色してプロファイルを作る手間がかからない
・非デバイス依存プロファイルなので、おかしな癖も少なく、色の狂いが少ない
・対応ソフトも多いので、パイプラインが楽に組める

......などが挙げられます。

HDTV の標準規格である Rec.709 を利用するので、1 つ目と比べると複数のメリットがあります。先の質問の答えですが、数年で基準が変わるような 1 つ目の対応策は採用が難しいので、「Rec. 709 でパイプラインを組む」の方が良いということになります。

今回は、管理について解説しましたが、管理する内容と楽になるポイントは理解できましたか? さて次回は、いよいよ最終回。これまでの復習をするのも良いと思いますが、実際に導入した企業の手順も気になるのではないかと思います。そこで導入ステップを中心に、重要なポイントをさらに深く解説していく予定です、ご期待ください。

TEXT_長尾健作(パーチ)

▼Profile


長尾健作(ながおけんさく)
広告写真制作会社(株)アマナにて、3DCG制作などの事業立ち上げを行なった後、(株)パーチ を設立。広告業界・製造メーカーに向けて、3DCGによる新しい広告制作手法の導入/制作サポートを手がける。各種セミナーでは、制作業務の効率化・コスト削減を実現するためのノウハウを提供。

パーチのカラーマネージメントの導入をサポートするWebページ
perch-colormanagement.jp/

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この連載は、EIZO株式会社の協賛でお送りしています。

・EIZOがお届けする「カラーマネージメントに関する基礎知識」
www.eizo.co.jp/eizolibrary/index4.html