『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』PVメイキング[前篇]ゲーム用モデルとUnityによるリアルタイムレンダリングの活用
武井宏之氏によるシリーズ累計3,800万部突破の大人気マンガを原作とするTVアニメ『SHAMAN KING(シャーマンキング)』が2021年4月より放送中だ。このTVアニメを題材としたスマートフォン向けゲーム『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』のPVが8月に公開された。ゲーム用モデルとUnityによるリアルタイムレンダリングを活用したPVの制作過程を前後篇に分けて紐解いていく。
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※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.278(2021年10月号)掲載の「モーショングラフィックスでマンガと3Dの垣根を越える『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』PV」を再編集したものです。
『ふんクロ』でも、PVでも『SHAMAN KING』らしさが大事
『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』(以降、『ふんクロ』)の開発はStudioZが担っており、3D制作はStudioGOONEYS(以降、GOONEYS)が担当している。「『ふんクロ』の企画が承認されたのは2019年の中頃で、GOONEYSさんにはそれ以前から協力を打診していました」とゲームディレクターの臼井草太氏(StudioZ)はふり返った。StudioZは3Dゲームの開発経験がなかったため、3Dを熟知した会社の協力が不可欠だった。「三面図の完成前でしたが、12月には当社の大山萌依(モデリングスーパーバイザー)の主導で麻倉 葉と恐山アンナの3Dモデルを試作し、2020年3月に真空仏陀斬り(葉の奥義)のイメージ動画もつくりました。このときのデータは、その後のPV制作でも活用しています」とGOONEYSの斎藤瑞季氏(プロデューサー)は語った。なお、このイメージ動画は2021年7月に『ふんクロ』の公式Twitterで公開された。『ふんクロ』の仕様が確定し、量産に入ったのは2020年の中頃で、2021年12月に配信開始となった。量産と並行して、2020年12月にPV制作が決まり、2021年7月に108秒のPVが完成した。
「『ふんクロ』でも、PVでも、僕たちは『SHAMAN KING』らしさを大事にしています。PV制作にあたっては、第1に、3Dの良さを活かす一方で、立体化だけにこだわらずマンガやアニメ的な記号化された表現も活かすこと。第2に、キャラクターたちの葛藤や信念の強さを伝えることを重視しました」(臼井氏)。この方針をふまえ、斎藤氏はモーショングラフィックスの活用と、flapper3 Inc.への発注を提案した。「モーショングラフィックスを使えば、2Dのマンガと、3Dの垣根を越えられるんじゃないかという斎藤さんの提案と、それに応えてくれたflapper3 Inc.の江藤 昇さん(モーショングラフィックスディレクター)のおかげで、突破口が開けました」(臼井氏)。以降では、3社の取り組みの詳細を解説する。
ゲーム用モデルをベースに、PV用モデルを作成
前述したようにStudioZは3Dゲームの開発経験をもたないが、3Dをつくる会社が全力を出しやすい環境を大事にしてくれるクライアントだと斎藤氏は語った。「今回のPVは、StudioZさんとの協業だから実現できました。キャラクターの三面図ひとつとっても、僕らとの話し合いを重ねながら、『SHAMAN KING』らしさを維持しつつ、3D化しやすいものを仕上げてくれたんです。その過程で、三面図の葉が動き出したら面白いだろうというアイデアが浮かび、公式Twitterで公開したりもしました」(斎藤氏)。
StudioZによる三面図と、GOONEYSによる試作モデル
顔の造形に重きを置いたブラッシュアップ
PVの登場モデルは17体で、その中の多くはすでにゲーム用モデルが完成していたため、顔の造形に重きを置いたPV用のブラッシュアップが図られた。ゲーム用モデルの顔のポリゴン数は約1,700だが、PV用モデルは約8,000まで増やされた。さらにフェイシャルリグを新規に実装するため、三角ポリゴンをなくし、四角ポリゴンのみで再構成している。特に繊細なフェイシャルアニメーションが必要となった葉、アンナ、道 蓮、ホロホロに関しては、フェイシャル用のモーフターゲットが一新され、さらに『SHAMAN KING』らしい表情が付けられるようになった。「使える工数をどこに投じるかを検討した結果、視聴者の注目が集まるフェイシャルを一新する一方で、それ以外はなるべくゲーム用モデルをそのまま活用するという方針になりました。あまり表情が変わらず、顔がクロースアップにならない前鬼、後鬼、梅宮竜之介、蜥蜴郎は、ゲーム用モデルをほぼそのまま使っています」(大山氏)。
Unityによるリアルタイムレンダリングの検証と導入
『ふんクロ』の開発にはUnityを導入しており、PV制作にあたっても、Unityによるリアルタイムレンダリングの導入が図られた。「GOONEYSとしても、個人的にも、映像制作へのリアルタイムレンダリングの導入はやりたかったことなので、積極的に推進しました」と澤井郁弥氏(ルックデヴアーティスト)は語った。PVでは、Mayaでモデリング・リギング・アニメーションを行なった後、Alembicキャッシュ(以降、ABC)をUnityに読み込み、ルックデヴ・ライティング・レンダリングを行い、After Effects(以降、AE)でコンポジットするワークフローを採用した。一部のエフェクトは、ABCをHoudiniにインポートして作成し、AEでコンポジットしている。
「導入にあたっては、MayaとArnoldのToon Shaderによる試作モデルのルックを、Unity上で再現することから始めました。顔の造形と同様、ルックも『ふんクロ』と同じではなく、PV用に再設計しています」(澤井氏)。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以降、ユニティ)が公開していた数多くの日本語資料や、Unityを導入済みの同業他社からの情報提供のおかげで、着実に検証を進められたという。
Unityのレンダリングパイプライン(以降、RP)の選択肢は、Built-In RP、URP、HDRPの3つで、今回は最も資料が充実しているBuilt-In RPを採用。同様の理由で、マテリアルやアウトライン表現にはユニティちゃんトゥーンシェーダーを採用した。ライティングはディレクショナルライト1灯で行なっており、シャドウの美しさを最重要視してシャドウカスケードやシャドウディスタンスを調整。Mayaではシャドウマップを使用しないため、慣れが必要だったという。
ポストエフェクトはPost Processing Stack v2を使用し、アンチエイリアシングやアンビエントオクルージョンを設定している。画の書き出しにはUnity Recorderを用いたが、Built-In RPではAOVが出せなかったため、ユニティに相談したところ、同社が開発中のUnity Anime ToolboxのVisual Compositor(以降、VC)をテスターとして使用できることになり、ある程度の素材の書き出しが可能となった。
Built-In RP、URP、HDRPの検証
ユニティちゃんトゥーンシェーダー、ライティングの検証
Post Processing Stack v2の検証
Unity Anime ToolboxのVCの検証
実際のショットワークでは、マテリアルやアウトラインを設定したABCと、各ショットのABCを差し替え
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© 武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京 ©StudioZ, Inc.
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.278(2021年10月号)
特集:『機界戦隊ゼンカイジャー』&『仮面ライダーセイバー』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年9月10日
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)