『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』PVメイキング[後篇]モーショングラフィックスでマンガと3Dの垣根を越える
武井宏之氏によるシリーズ累計3,800万部突破の大人気マンガを原作とするTVアニメ『SHAMAN KING(シャーマンキング)』が2021年4月より放送中だ。このTVアニメを題材としたスマートフォン向けゲーム『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』のPVが8月に公開された。ゲーム用モデルとUnityによるリアルタイムレンダリングを活用したPVの制作過程を前後篇に分けて紐解いていく。
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※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol.278(2021年10月号)掲載の「モーショングラフィックスでマンガと3Dの垣根を越える『SHAMAN KING ふんばりクロニクル』PV」を再編集したものです。
2Dのマンガ・モーショングラフィックス・3Dが混在するキャラクター紹介パート
PVの制作決定後、2021年3月からVコンテ作成が始まった。「StudioZさんとの打ち合わせでおおまかな方向性を確認した後、“各キャラクターの戦う理由が伝わるPV”というコンセプトを提案し、Vコンテをつくりました。制作が本格始動してからは、タスクやスケジュールの管理を担当してきました」と矢代 慧氏(制作進行)はふり返った。矢代氏のVコンテは福原裕矢氏(レイアウター)に引き継がれ、レイアウトや映像内のセリフが磨かれていった。「マンガの『SHAMAN KING』を読み込んでイメージを膨らませ、内容を精査しました。マンガを知らない方でも楽しめて、ファンはより深みを感じるPVを目指しました」(福原氏)。
PVは、2Dのマンガ・3D・モーショングラフィックスが混在するキャラクター紹介パート、大判の2D美術と3Dによるバトルパート、フル3Dのエンディングパートの3つで構成されており、キャラクター紹介パートの制作の舵取りはflapper3 Inc.の江藤氏に委ねられた。「Vコンテの段階ですでに構成はできていたので、平面的なマンガのコマからキャラクターが飛び出してくるような立体的な演出と、文字もオブジェクトとして活用することでキャラクターの戦う理由を表現する演出を提案しました」(江藤氏)。さらに、2Dのマンガから3Dへの転換をスムーズに観せるための手段として、カートゥーンエフェクトとテクスチャで3Dに手描きのような加工を加える演出や、キャラクターの動作とカメラワークに合わせてブラシのストロークが回り込むように画面を彩る演出も提案された。
「2Dのマンガ・3D・セリフの吹き出し・擬音(オノマトペ)・ブラシや集中線といったエフェクトなど、多くの要素が入り乱れるので、各要素の動きにメリハリを付ける必要がありました。Vコンテでは3Dで動いていたけれど、あえてStudioZさんに2Dのマンガを描き起こしていただき、止め画にしたショットもあります。快く承諾してくださったStudioZさんとGOONEYSさんには感謝しています」(江藤氏)。複数の人が意見を言うのではなく、flapper3 Inc.が自由に羽ばたけるように決定権を委ねた方が、良い映像に仕上がるだろうと判断したと斎藤氏は補足した。
麻倉 葉と阿弥陀丸による真空仏陀斬りのショット
道 蓮がマンガのコマから飛び出してくるショット
ホロホロがサンサンシャイン60からスノボで飛び降りるショット
ホロホロと麻倉 葉が対峙するショット
大判の2D美術と3Dによるバトルパート
キャラクター紹介パートの後に続くバトルパートでは、大判の2D美術とUnityでレンダリングしたキャラクターをAE上でコンポジットしている。美術は、GOONEYSがMayaでつくった原図を基に協力会社に発注しており、最近のアニメで多用されるつくり方が採用された。エンディングパートだけはフル3Dになっており、Unity上で背景を含むシーン全体を制作している。「マンガから飛び出してきたキャラクターが、アニメの世界を経て、フル3Dのゲームの中に入っていくというながれです。PVの構成自体も『ふんクロ』とシンクロさせることを意図しました。そこも含めて楽しんでいただければと願っています」(斎藤氏)。
猪口浜外国人墓地での麻倉 葉とエリザ・ファウストのバトルショット
麻倉 葉と道 蓮のバトルショット
フル3Dのエンディングパート
エンディングパートは、松木紫葵氏(アニメーター)がレイアウトからアニメーションまでを一括で担当することになった。「いくつか条件が決まっていたものの、ほかは自分で決めてよく、作業も任せてもらえると斎藤に言われたので、カッコイイものをつくることを最優先に取り組みました。結果、6ショットに膨らんでしまい、自分で自分を苦しめることになりました(笑)」(松木氏)。
今回のPVでは、高負荷の処理をしてでも、綺麗な画をつくることが優先された。例えば、コンポジットは1,920×1,080pixelで行なっているが、Unityからの書き出しは3,840×2,160pixelで行うことで、画がさらにシャープになる効果があったという。それでも、まったくストレスのない作業ができたと、上田穂高氏と岩坪里実氏(共にコンポジター)は口を揃えた。「13体のモデルを配置した終盤のショットでも、ライティングの調整結果をすぐに確認できました。これまでは1枚あたり数分~数時間かかっていたレンダリングも、再生とほぼ同じスピードで書き出されたので、チーム全員が感動していました」(岩坪氏)。
キャラクター14体が集結するエンディングパート
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© 武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京 ©StudioZ, Inc.
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.278(2021年10月号)
特集:『機界戦隊ゼンカイジャー』&『仮面ライダーセイバー』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2021年9月10日
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)