創業時からサイコムのデスクトップPCを使い続けるMORIE Inc.が、映像編集に特化したデスクトップPC「Lepton Motion Pro Z690」をレビュー。ヨルシカの『左右盲』のプロジェクトデータを使用した動作検証と使用感、特徴的な筐体デザインやエアフローに到るまでを現場目線で語ってもらった。
創業以来選び続ける、サイコムPCに寄せる絶対的な信頼
CMやアニメ、映画など幅広いジャンルのCG映像制作をディレクションからプロデュースまで手がけるMORIE Inc.。同社は2016年の創業時から一貫してサイコムのPCを使用しており、メンバーが14名に拡大した現在も作業用PCやレンダーファーム用PCなどを合わせて20台以上のサイコム製PCが導入されている。PCを選定する際の基準について、代表の森江康太氏は「購入するときは値段自体の安さが魅力的に映りますが、運用する時間という係数を入れて考えると“長期間安定して使える”方が圧倒的にコストパフォーマンスに優れます。良いものを長く使う目線で考えています」と説明。その森江氏のサイコムの PC への評価は「とにかく壊れない」。実際、創業時に導入した8台は6年経った今でも現役で稼働しており、森江氏自身もプライベートでサイコムのPCを使っているという。
森江康太氏
MORIE Inc./代表取締役、映像監督、CGアニメーター
サイコムがもつ安定性とサポート面への信頼は運用体制にも見て取れる。CGディレクターの柴野剛宏氏によれば、従来は6台で回していたレンダーファームを1台のハイスペックPCに統合したという。一見すると冗長性の面でリスクがありそうだが、「6台それぞれにソフトウェアをインストールしたり、ライセンス管理を行なったりする管理コストがかからないのがメリットです。これまで大きなエラーも発生していませんし、今の1台で回す方が処理速度も速いです」(柴野氏)と、処理速度と運用コスト面を総合した判断をしているという。
柴野剛宏氏
MORIE Inc./CGディレクター
高いデザイン性と安定性を両立、こだわりの映像編集モデル
今回検証に用いたのは映像編集に特化したミドルタワー型モデル「Lepton Motion Pro Z690」(以下、検証機)。取材の際、真っ先に話題に挙がったのが筐体デザインについて。本モデルはサイドパネルがクリア仕様で、フロント部も特徴的なスタイルとなっている。フロント部から空気を取り入れ、背面のNoctuaの高性能CPUクーラー「NH-U125 chromax.black」から逃がすことで圧倒的なエアフローを実現。見た目の良さだけでなく、効率的な冷却によって安定性と静音性が高いレベルで融合した筐体設計と言えるだろう。「デザイナーやクリエイターにとって作業環境の雰囲気は非常に重要で、デスク周りやインテリアのデザインにも意味があります。パフォーマンスが重要なのは当然ですが、こういった近未来的なデザインのPCが手元にあるだけで、気持ちが切り替わって業務に没入できるのではないかと思います」(森江氏)。なお、検証機のスペックはインテル Core i9-12900K プロセッサー、NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti、メモリ64GB にカスタマイズされている。
クオリティアップのためのトライ&エラーの時間は最新マシンで生み出す
検証には、2022年 7月に公開され、すでに850万回再生を超えているヨルシカの『左右盲』の実際のプロジェクトデータを活用。After Effects 2021では3Kでコンポジットしたデータを連番で出力する際の時間を計測し、Premiere Pro 2022では4Kにアップコンバートした連番を、QuickTime出力するまでのスピードを計測した。比較対象は2年前に購入したという柴野氏のメインPCで、インテル Core i9-10900Kプロセッサー、NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti、メモリ64GBという2020年当時のハイスペックモデル。After Effectsでの検証結果は検証機が9時間9分、柴野氏のメインPCが10時間3分と約1時間の短縮。Premiere Pro 2022でも検証機が14分14秒、柴野氏のメインPCが16分56秒と2分半程度短縮できた。この結果について、柴野氏は「わずかでも時間が短縮できるほうがトライ&エラーの回数を稼げます。その時間を生み出すために最新のPCを使う意味があると思っています。特に『左右盲』などのMVは時間との戦いになることも多く、数ヶ月という限られたスケジュールの中であと何テイクできるだろうか、という状況も少なくありません。“クオリティアップのために何回レンダリングができるか”。こういったケースを何度も体験したからこそ、1分1秒の短縮のありがたさを実感します」と語っている。
また、After Effects 2021において映像の特定箇所にシークを合わせた際にプレビュー画面が表示されるまでの時間も約13%程度高速化した。1fでは1秒以下の差だが、これが100f、1,000fとなれば操作のストレスは大きく変わってくることは想像に難くない。また、柴野氏は複数の4Kモニタで作業することが多いが、わずかに感じていた描画遅延なども感じなくなったという。「とにかく細かい部分の反応速度が優れていてストレスがない」(柴野氏)という言葉通り、本モデルのバランス感覚の良さ、選定するコンポーネントの的確さや検証に裏付けされたエアフローなど、サイコムが緻密に積み上げた総合的な性能が制作にもおおいに活かされている。
出力の高解像度化や各種アセットの大容量化に伴い、映像編集を専門とするクリエイターもある一定以上のPCが必要になりつつある現代において、サイコムのPCの「安定性」と「バランス感」はスペック以上に大きな恩恵をもたらすはずだ。
Lepton Motion Pro Z690
- CPU
インテル® Core™ i9-12900K(3.20GHz/16コア/24スレッド)
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 3080 Ti
- メモリ
64GB
最新情報はこちら
www.sycom.co.jp/custom/model?no=000914
柴野氏のメインPC
- CPU
インテル® Core™ i9-10900K プロセッサー(3.70GHz/10コア/20スレッド)
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti
- メモリ
64GB
TOPIC 1 After Effects 2021:3Kコンポジットデータの連番出力
After Effects 2021では、3Kでコンポジットしたデータを連番出力する際の時間を計測した。結果は検証機が9時間9分、柴野氏のメインPCが10時間3分と、約10%の高速化。After EffectsはCPU依存度が高く、特にコア単位でのスペック(クロック数)が重要になる。第12世代のインテル CoreプロセッサーではAlder Lakeアーキテクチャが採用されており、IPCが向上したほかコア設計も一新。「2020年に購入したPC」と言えばまだまだ現役の印象を受けるが、シビアな現場であればあるほど最新世代の活用を検討したい。
TOPIC 2 Premiere Pro 2022:4Kのpng連番のQuickTime出力
Premiere Pro 2022では、4Kのpng連番をQuickTimeで出力する際の時間を計測した。結果は検証機が14分14秒、柴野氏のメインPCが16分56秒と大幅な短縮につながっている。MORIE Inc.では上流工程から最終的な納品までを一括して担当することが多いため、最後の変換工程を短縮できる恩恵は大きい。「映像制作の現場においては、ギリギリのタイミングでのカット追加など不測の事態が発生することもあります。こうした場合、最後の出力にかかる時間が短ければ短いほど修正に余裕をもつことができるので、結果的にはマシンスペックがクオリティに寄与することになります」(柴野氏)
MORIE Inc.
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TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada