8.3K収録・4K合成が1台で完結!? DEFTが編み出したAMD Ryzen Threadripper活用法とは~CGWCC2025(2)
2025年11月23日に開催されたCGWORLD 2025 CREATIVE CONFERENCE。同イベントのセッションのひとつであったDEFTの子安 肇氏によるセッション「企画から8.3K収録・4K合成まで1人と1台で完遂!? DEFTが編み出したAMD Ryzen Threadripperを限界まで使い倒すCM制作術」の模様をお送りする。
本セッションはAMD Ryzen Threadripper 9980Xを搭載したSycom社製ハイスペックワークステーション「Lepton Hydro WSTRX50A」を使用して制作された、同製品のCMプロジェクトのメイキングの講演となっている。8.3K収録・4K合成という高負荷なデータ環境でLepton Hydro WSTRX50Aがどのようなパフォーマンスを見せたかを紹介しよう。
>>Lepton Hydro WSTRX50A 製品ページはコチラ!
イベント概要
CGWORLD 2025 CREATIVE CONFERENCE
開催期間:2025年11月23日(日)11:00~19:00
開催場所:文京学院大学本郷キャンパス
参加費:無料(事前登録制)
https://cgworld.jp/special/cgwcc2025/
オリジナル水冷ビデオカード『Hydro LC Graphics® Plus』搭載 デュアル水冷®モデル 『Lepton Hydroシリーズ』【サイコム公式】
多彩なプロジェクトへの対応を可能にする多種多様なソフト・ツール群
子安氏は、もともとホテルマンとしてキャリアをスタートし食品卸売業を経て、上京後にCG/VFX業界に転身したという経歴の持ち主だ。20年以上にわたり業界に身を置き様々なプロジェクトに携わった後、2023年にDEFTを創業した。同社は2026年で4期目を迎え、現在は5名のスタッフが在籍しており外部の提携スタッフと共に活動中だ。
子安 肇 氏
DEFT 代表取締役
CG/VFX業界で20年以上にわたってTV CMやMV、遊技機、映画など、ジャンルに捉われない様々なプロジェクトを経験。 2023年にDEFTを創業した後は、CG制作以外にも活動の幅を広げており「CGWORLD 2024 CREATIVE CONFERENCE」「Autodesk Day 2024」などに登壇、そのほか専門学校に出向いて特別講義なども行なう。
HP:deft.to
X:x.com/HajimeKoyasu
「弊社は遊技機、プラネタリウム映像、YouTuberのオープニングムービーなど手掛ける案件のジャンルは多岐にわたります。私自身はディレクターとしてプロジェクトに参加させていただくことが多いですね。近頃は3D系メディアであるAREA JAPANでCG技術の連載記事の執筆も担当しています」と語る子安氏。普段からUnreal EngineやStable Diffusionを取り入れたtyDiffusionなど話題
DEFTでは、DCCツールとして3ds Max、Maya、3ds Maxの強力なプラグインであるtyFlowやPhoenixなどを導入している。テクスチャリングツールとしてMudboxやSubstance 3D Painterを、レンダリング用にArnoldやV-rayを使いつつレンダリング管理ツールのDeadlineも取り入れて制作環境を整備。また、PencilにCLIP STUDIO PAINTのほか、Unreal Engine、DaVinci Resolveなど様々なソフトを使いこなす。
8.3KネイティブのN-Rawムービーでも編集サクサク!
今回のプロジェクトは、Sycom社のCMを制作するにあたり、Sycom社製の検証機Lepton Hydro WSTRX50Aが貸与され、実際にCM制作の現場に投入してレビューするという意欲的な試みだ。
「お貸しいただいた検証機は、CPUが64コア 128スレッドのRyzen Threadripper 9980X、搭載メモリーの容量は128GB、そしてグラフィックボードがNVIDIA GeForce RTX 5080というハイスペックなワークステーションです。性能の高さについては後述しますが、CPUクーラーが驚くほど静かで快適な使い心地でした」と子安氏。
ここからいよいよCMのメイキングについての講演がスタートし、まずは制作フローに沿って作業内容の説明がなされた。企画・絵コンテの作成から着手したそうで、CLIP STUDIO PAINTとKeynoteを用いて作成しており、子安氏自身で撮影したスチルやムービーを切り出したイメージ素材が使われている。できあがった絵コンテでは各カットの内容や流れのほか、撮影する際の色感の参考としてSycom側に提案したそうだ。ちなみに、最後のシーンでは本製品の空冷のイメージを伝えたいと考えて、静音性とデュアル水冷システムでパーツが冷やされている表現を描くことにしたと明かされた。
絵コンテの次に紹介されたのは、3ds Maxで制作されたプリビズだ。DEFTでは実写の撮影機材としてNikon Z8を使っており、20mm、35mm、50mm、135mmのレンズで撮影することが多く、一部Nikonから借りたというフィッシュアイ(魚眼)や大きなズームレンズなども取り揃えている。ショットやコンポジットが複雑になってくると、カラーチャートや銀玉(グレーボール)を置くそうだが、今回は2時間程度とタイトなスケジュールの撮影だったために実施しなかったそうだ。
プリビズの後は、本制作を経てCMが完成となる。今回は本制作時の撮影作業を8.3Kのカメラで行い、データ取り込み後の編集作業ではDaVinci Resolveを使ったとのことで、作業サイズについては基本的に4Kを採用しつつ1カットだけ8Kでコンポジットしたシーンもあったそうだ。カラープロファイルについてはN-Logで作業をスタートし、書き出しはsRGBやACEScgにしたとのことだが、
子安氏は「今回のように実写撮影が絡む制作では、撮影する現実空間とCG空間上のカメラシステム、そして所持しているレンズで想定通りに撮れるのかといった設計を事前に行うことがポイントですね。我々は15年前あたりから徹底するよう肝に銘じています」と語り、撮影にあたってのCGとカメラ機材との適切なパイプライン設計の重要性を説いた。
今回のプロジェクトは検証機のマシンスペックの検証を兼ねていたこともあり、本制作の撮影作業では解像度・FPSはN-Raw 12bitの8.3K・60fpsという形式で収録することを選択。子安氏は「撮影素材を検証用PCに読み込んで編集作業をするわけですが、DaVinci Resolveで8.3KネイティブのN-Rawムービーがサクサク動いたのには驚きました。メディア解像度は8,192pixelとなっていて、そのまま8.
また通常、ジンバル撮影のショットにおいても編集時には毎回素材にスタビラ
本制作ではDaVinci ResolveのほかAfterEffectsも使われており、カット3からカット6にかけての企画開発シーンでのエフェクト・コンポジット作業において導入されている。このシーンではクリスタルのようなルックのグラフィックボードのCGイメージが合成されているが、撮影現場でHDRなどが撮れてなかったため、コンポジット作業のなかでCGモデルの周りにジオスフィアで球体を置いて、 それにカメラマップでフッテージを投映させている。
それにくわえて、カメラのミリ数も合わせてV-Rayのプリセットにあるグラスマテリアルをベースにチューニングしてコントロールするという手法を採用したそうで、このシーンのレンダリングを振り返って子安氏は「レンダリングを走らせると、Threadripperの128スレッドを凄まじい勢いで食い潰していくという光景が見られました。こんな使い方をしてもきちんと動作してくれると、癖になって抜けられなくなりそうですね(笑)」と改めて検証機のパフォーマンスに舌を巻いた。
AMD Ryzen Threadripperの新旧性能比較
今回はCM制作での機材検証とあわせてLepton Hydro WSTRX50AとDEFTの作業用PCでの性能比較も実施された。子安氏が特に注目して検証したのが、AMD Ryzen Threadripperの性能だ。DEFTの作業用PCにはAMD Ryzen Threadripper PRO 7985WX(以下、7985WX)が搭載されたものがあるそうで、今回の検証用PCに搭載されているAMD Ryzen Threadripper 9980X(以下、9980X)とでパフォーマンスにどの程度の差が見られるかを調査した。
以下は、9980X搭載PCと7985WX搭載PCそれぞれでのレンダリング中のDeadlineのキャプチャとなっており、「Sycom CGW DEFT」が検証用PCの数値、「S24A01」がDEFTの7985WX搭載PCの数値だ。搭載しているメモリパーツの違いが影響している部分もありそうだが、同じ128スレッドCPUながらレンダリング時間に30秒程度の差が記録された。
また以前、子安氏が執筆したThreadripperの検証記事では、ほぼメモリを使わない、テクスチャーも使わない、パーティクルだけのデータをレンダリングした際に、かかった時間を比較したところ9980Xが60秒、7985WXが90秒となっていて約1.5倍速くなった感触があったそうだ。
(検証参考記事:投資が節約に変わる時代へ。ハイエンドCPU Ryzen Threadripperが拓く、少数精鋭スタジオのこれから )
単純なレンダリング速度にも目を見張るものがあるとしつつ、子安氏は「コストパフォーマンスの面で考えてみると、より一層実感がわく結果が得られた」と話す。以下の表は、各世代ごとのCPUのレンダリング結果を並べたものだが、左から順に9980X、7985WX、Ryzen7、Corei9、Corei7となっておりワット数の比較がなされている。
Threadripperプロセッサはレンダリングがピークになった時に、ワットモニターで確認すると約350ワットがでており、レンダリング時間が左から順に92秒、118秒、938秒、952秒、5041秒。9980Xでは1分半で出力されるものが、古いCPUになると15分以上もかかるという結果がでている。
上記の結果をもとに、仮に1万フレームをレンダリングする場合を考えると、かかる時間は255時間、327時間、2600時間、1万4000時間といった長さになることが想定される。つまり、古い世代のCPUでは電気代(ワット数)は小さくても、出力に係る時間が非常に長くなるということだ。
さらに子安氏は、経営者目線になるがと前置きしつつ「レンダリング時間の差をPCの台数でカバーしようとしたときに考慮に入れなければならないのは、V-RayやArnold等のレンダリングソフトのライセンス料金です」とレンダリング時間や電力のほか、ソフトとPC台数も併せてコストパフォーマンスを考えるべきと語った。
Arnoldのライセンスを年単位で契約した場合は、月額5,775円。今回の機材であれば、古いCPUの55台分を1台で賄えるため、ライセンスだけで月額約31万円と5,775円の差が出る。V-Rayのライセンスでは月額だと1万4,700円なので、55台分で約80万円ということになり、より大きな価格差となるわけだ。
「少し極端な比較ではありますが、電気料金とレンダーライセンスの合計を表すと、9980X搭載PCでは1台で約2万9000円で済むところ、Corei7搭載PCだと同じパフォーマンスを達成するために約141万5000円もかかってしまうことになります」と子安氏は検証を締めくくった。
講演の最後に、Sycomでマーケティングマネージャーを務める佐藤 明 氏からもコメントがあり、「負荷がかかるとうるさい」というPCのイメージを壊したいと考え、Sycomでは「小さくても静音」「フルパフォーマンスで静音」という点を売りにしてPCを作っているとの同社の開発方針が示された。
また、検証前のAMD Ryzen Threadripper 9980Xの印象について「今回お貸し出ししたマシンLepton Hydro WSTRX50Aは、CPUパフォーマンスについて弊社のマーチャンダイザーと『過去のCPU(AMD Ryzen Threadripper PRO 7985WX)との比較はやめたほうがいいのではないか』と話していました。1世代の交代だと性能面で大きなアップスケールが見られないといった不安がありましたが、DEFT子安氏からご好評いただき、検証面でも大変優秀な結果が示されました」と佐藤氏の予想さえも上回る性能であったことが伺える。
高性能なPCやCPUは高価な一方で、作業手法や求めるクオリティによっては結果的に金銭や時間を節約できる選択肢になり得る。Lepton Hydro WSTRX50Aのハイパフォーマンスぶりは、そんな道筋を示しているように感じられた。快適にクリエイティブ制作に取り組める環境をぜひLepton Hydro WSTRX50Aで実現してほしい。
PCの購入に関するお問い合わせ
株式会社サイコム
TEL:048-994-6070/Mail:pc-order@sycom.co.jp
平日10時~12時、13時~17時(土日祝祭日はお休み)
www.sycom.co.jp
TEXT_真狩祐志 / Yushi Makari
EDIT_小倉理生 / Riki Ogura(種々企画)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota