Unreal Engine(以下、UE)専門のゲーム開発会社として知られるヒストリアはヒストリア・エンタープライズというノンゲーム事業のブランドも展開している。ブランド設立から現在までの事業規模の推移や、今後の展望を取材した。
2020年以降はノンゲーム事業にも本腰を入れて取り組んできた
ヒストリアの設立は2013年10月で、翌年には自動車業界からの発注を受け、以降も堅調にノンゲームの案件数を増やしていった。
「UEを使ったビジュアライゼーションや、シミュレーション、インタラクティブコンテンツの開発について、様々な業界からご相談をいただきました。2020年には自動車業界向けインタラクティブデモのCutting-Edge Test Drive、地球の計測データをビジュアライズするEarth Visualization System、バーチャルギャラリーのMultiplicationなどのソフトウェアを開発し、ノンゲーム事業にも本腰を入れて取り組むようになりました」と代表取締役で、プロデューサーやディレクターも兼任する佐々木 瞬氏はふり返った。
Earth Visualization System
Multiplicationでは隈 研吾氏の建築作品を体感できるバーチャルギャラリーを構築し、その表現力が隈研吾建築都市設計事務所の3Dスタッフなどから高く評価された。「木材が組み上がっていく場面でビジュアルとサウンドを気持ち良くシンクロさせたら、すごく驚いてくださいました。私たちの強みは、ゲーム開発で培った企画・プログラム・ビジュアル・サウンドの力を統合し、魅力的な体験型コンテンツや、高精度なシミュレーションシステム、製品の世界観に合わせたUIなどを提案できることです」(佐々木氏)。
ヒストリアの技術力と実績はUEの開発元であるEpic Gamesにも認められており、UEサービスパートナープログラムのゴールドステータスに国内で唯一選ばれている。このプログラムは、UEの高い専門性を誇り、他者に技術サポートを提供できると判断された企業が選ばれるもので、世界でもゴールドステータスの選出は20件に留まっている。
一方で、ノンゲーム事業におけるヒストリアの強みは、ゲームの開発経験や、UEの技術力だけに留まらないとプロデューサーの小林誠氏は語った。「弊社はお客様との深いディスカッションを通して根本的なニーズを聞き出し、それを満たす製品や機能を提案できます。お客様も自覚していなかったニーズを発掘し、堅実に現場の課題解決につなげてきたので、リピーターになってくださる方が多いです」(小林氏)。
ノンゲーム事業を手がけ始めた当初は、他業界の組織構造や商慣習に対する理解が浅く、的を射た提案ができなかった。過去の苦い経験が、今に活きていると佐々木氏は続けた。「ノンゲーム事業を成功させるためには、業界ごとに異なる現場の事情を把握し、それに寄り添った提案をすることが不可欠です。私たちが “絶対これが良い!”と思っても、目の前にいるお客様が “いらない” と言えば、8割以上の確率でお客様の方が正しいのです。ゲームクリエイターはこだわりが強いので、そこでお客様とぶつかってしまうケースもあります。ゲーム業界からノンゲーム事業に参入する際には、ゲーム業界で良しとされていたスタイルを変えて、お客様から学ぶ努力が必要です」(佐々木氏)。
ヒストリアでは20名程度の専門チームを結成し、ノンゲーム事業を推進している。「ゲーム開発と使う技術は近いですが、もつべき価値観や必要スキルは大きく異なります。少人数・短期間で幅広い知識を駆使してお客様の需要に応えることが求められるため、全体を俯瞰し、打ち合わせにも参加してお客様に提案するスタッフが多いですね」(小林氏)。一方で規模の大きい案件の受注時には、中規模~大規模案件を回し慣れているゲーム事業のスタッフにも手伝ってもらうようにしている。
スケーラブルな事業展開ができることや、技術面の広さと深さの相互補完ができることなど、2つの事業を両輪で回すメリットは多い。
“ゲームエンジン業界” ができればさらに盛り上がりが加速する
ノンゲームの案件数は右肩上がりに増えており、今後さらに盛り上がると佐々木氏は予想している。「私たちが開発したソフトウェアが、ノンゲームのお客様のワークフローや製品の中に、どんどん組み込まれつつあります。例えば自動車業界の場合は、HMIの開発相談が飛躍的に増えてきました。社会に対する影響力が大きく、弊社の表現力と技術力を活かせる領域でもあるので、注力していきたいと考えています。今年はJAXAと月面環境シミュレーションの共同研究にも着手しました。こちらも将来性のある領域で、なによりロマンがあるので(笑)、ワクワクしています」(佐々木氏)。
[JAXAとの共同研究] 月面環境シミュレーション
ゲームエンジンの活用範囲は今やゲーム開発だけに留まらず、様々な業界の、様々な用途に広がっている。多様なニーズに応えるためには、ヒストリアのようなゲームエンジンに精通した “プレイヤー” を増やし、他社も巻き込んで新たな業界をつくる必要があると佐々木氏は考えている。
「ゲームエンジンを使ってノンゲームのお客様の様々な課題解決を支援する、“ゲームエンジン業界” ができれば、さらに盛り上がりが加速すると思います。リアルタイムコンテンツは開発の難度が高く、各業界に対する理解も必要なので、今は供給がまったく追い付いていません。弊社でも採用を強化してはいますが、それだけでは足りないし、全体として盛り上がり切らなければ、その職業を目指す人も生まれてきません」(佐々木氏)。
過去11年間の、ノンゲーム案件数の合計
ノンゲーム案件数の推移
佐々木氏はUEがあまり注目されていなかった時代にヒストリアを設立し、ブログなどを通してUEの技術情報を積極的に公開し、ゲーム業界内のUE開発者コミュニティを盛り上げてきた。その原体験があるからこそ、ノンゲーム事業においても、同じアプローチをしたいと考えている。
「私は “ゲームエンジン業界” に大きな可能性を感じているので、受注側と発注側の双方に対して、積極的に情報を公開していきたいです。リアルタイムコンテンツの開発は、IT業界のツール開発とは勝手がちがうので、発注側にも知識が必要です。お互いの理解が深まれば、日本経済の大きな力になると思います」(佐々木氏)。
求人情報
ヒストリア・エンタープライズ
historia.co.jp/enterprise
▼募集職種
①3Dアーティスト
②エンジニア
③アシスタントプロデューサー
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)、文字起こし_大上陽一郎
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota