
従来のゲームの枠を超えたエンターテインメントを創造し続け、世界のゲーム業界をリードしている小島秀夫監督率いるコジマプロダクション。その同社がソニーの開発した画期的なモバイルモーションキャプチャー「mocopi®」を採用し、大規模なキャプチャースタジオを必要とせずに、手軽に高品質なモーションデータをキャプチャーしてプリプロにおいて使用しているという。今回は現場のゲームデザイナーとアニメーターによるmocopiの活用方法について話を聞いた。
Information

株式会社コジマプロダクション
mocopiを使うことで開発早期でも手軽にテストできる
コジマプロダクションでゲームデザイナーを務める倉持信人氏は、現在のゲーム開発において、初期段階で専門のアニメーターだけでなく企画側のゲームデザイナーがアニメーションを入れてゲームの全体的な雰囲気を確認することは、非常に重要な意味があると語る。同社内でも、開発の早い段階でアニメーションの入ったアセットを手軽に用意したいという要望が出ており、簡易的なモーションキャプチャーのシステムを探していく中、リードゲームデザイナーが興味を示したことがmocopiを使ってみるきっかけだったという。

倉持信人氏
ゲームデザイナー
コジマプロダクション
「まずはコストをかけずに仮の動きを付けたいと思ったとき、専門職ではないわれわれがテストデータをすぐに作成できるという点でmocopiを重宝しています」と倉持氏はゲームデザイナーからの視点でmocopiの活用方法について説明してくれた。
mocopiのような手軽なモーションキャプチャーツールの登場は、まさにこうした初期段階での試行錯誤を容易にし、クリエイティブなプロセスをより豊かにする可能性を秘めているという。また、後から専門のアニメーターやプログラマーが企画に参加する際も、具体的なビジョンを共有し、ゲームの仕様を完成していく助けになっている。
専門家であるアニメーターの宇佐美景太氏も、mocopiの手軽さを評価する一人だ。特に、センサーが12点となるプロフェッショナルモードにバージョンアップしたことで、大きくデータ精度が向上したと語る。

宇佐美景太氏
アニメーター
コジマプロダクション
アニメーションはプログラマーやデザイナーとの対話を通じて方向性を探りながら、まずは仮のバージョンを制作していく。そのときにmocopiのモーションデータは、簡単にゲームエンジンやDCCツールに取り込めるので、気軽にトライができる。従来の方法では数日かかっていたプロセスが、mocopiでは数時間に短縮され、エンジン上での簡単な確認なら30分から1時間程度で完了。短期間で10個から20個ものバリエーションを作成し、「こちらの方が良くない?」といった具体的な提案をプログラマーやデザイナーと議論できるようになったという。
一方で、アニメーションのプロフェッショナルとしては、今後は12点以上のセンサーを使って最終的なアニメーションに使えるような、より精度の高いモードが欲しいとも。しかし、その分手軽さは失われてしまうので、メリットとデメリットのトレードオフのバランスをとりつつ、さらなる精度の向上を望んでいると語ってくれた。
プロフェッショナルモード概要
mocopiのプロフェッショナルモードは、クリエイター向けに設計された高度なモーションキャプチャーの仕様だ。2セット、計12個のmocopiセンサーを組み合わせて使用し、高精度なトラッキングで詳細な動作をキャプチャーすることが可能になった。既存のmocopiユーザーも追加機材を購入することでプロフェッショナルモードにアップグレードすることができる。
手軽さはそのままに、精度が向上したプロフェッショナルモード
mocopiは、独自のアルゴリズムにより6個のセンサーとスマートフォンやPCのみで高い精度のモーションキャプチャーを実現し、VTuberや、ゲーム開発、2Dの映像・アニメ制作に携わるクリエイターに活用されている。さらに今回のバージョンアップで、専用アプリのmocopi PCアプリ、またはXYN Motion Studioを使えば、PC接続用の専用レシーバーを使って12個のmocopiセンサーと接続し、高精度なモーションデータのキャプチャーが可能なプロフェッショナルモードが使用可能となる。
実際にアニメーターの宇佐美氏がmocopiを装着し、プロフェッショナルモードでのモーションキャプチャーのデモが行われた。場所はコジマプロダクションの一室で、キャプチャー用の設備がある専門の部屋ではなく、普段はスタッフが休憩したりヨガをしたりしている「フレキシブルルーム」だ。
mocopiは普段着の服の上からマジックベルトで小型のセンサーを取り付けられるので、12個のセンサーでも装着が非常に手軽なのが特徴だ。実際に取り付けるところを見ても、各センサーは腕時計をつけるような感覚だった。
センサーの装着
mocopiのセンサーの装着は他のキャプチャーシステムに比べて圧倒的に簡単で、衣服の上からベルトで固定するだけ。装着位置も、そこまでシビアな位置決めは必要ない。プロフェッショナルモードは、通常の倍の12点のセンサーを用いることで精度を高めている
キャリブレーションも簡単で、気をつけのポーズから数歩前に出るだけで、1人でも手軽に設定できる。専用のスーツも複数のカメラのセットアップも必要ないという点で画期的なシステムだ。センサーからの情報をBluetoothで受けるレシーバーもUSB Type-Cで繋げられるため、延長コードを使用すればPCから3メートルほど離れた場所でも収録可能だ。
キャリブレーション
キャリブレーションはセンサーを設置したのち、気をつけの状態から数歩前へ歩くだけで設定完了だ。1回で上手くいかない場合でも、キャリブレーション時間が短いので数回くり返せば簡単に設定できる。センサーも専用のレシーバーを使い、受信感度も向上している
センサーが12点と倍になったプロフェッショナルモードは、上下を含めたその場でのアクションの収録がしやすくなった。例えば椅子に座っている状態から立ちあがり、机の上の物を掴んで投げるというようなアクションは、手付けだと仮組みでもかなりの時間がかかってしまう上、アニメーターの熟練度によって品質に大きく差が出てしまう。
mocopiを使えば、アニメーションを収録してすぐにDCCツールやゲームエンジンに読み込み、動きのチェックができる。しかも一度セットアップしてキャリブレーションすれば連続して撮影ができるので、一度に数を多く撮れば撮るほどコストパフォーマンスは上がっていくという利点もある。
ゲームモーション収録

実際のキャプチャー風景。Unreal Engineなどでリアルタイムに確認しながらの収録が可能だ。専門のアニメーターや特殊な設備を必要とせず、だれでも数十分で検証用のリアルなアニメーションがつくれてしまうのは驚異的。初期のコストを抑えて、ゲームの仕様をつくるための雰囲気をつかむには最適解だろう。 ※画像のアセットはデモ用に用意されたサンプル
倉持氏は「mocopiはこれからもまだまだ発展していくツールだと思います。現場の意見もどんどん採り入れてもらっていますし、より精度や使い勝手が良くなってツールとしての立ち位置が高まっていけば、ゲーム開発の様々な工程で使われるケースも増えていくでしょう」と今後に期待を寄せている。
異なる職種の両者とも、mocopiの従来の手軽さはそのままに、さらなるキャプチャーの精度が向上したプロフェッショナルモードに確かな手応えを感じているようだ。コジマプロダクションのクリエイティブにmocopiがどのように寄与していくのか。これからも目が離せない。

お問い合わせ
ソニー株式会社
www.sony.jp/mocopi
TEXT__石井勇夫(ねぎデ)
EDIT_藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)
PHOTO_大沼洋平/Yohei Onuma