
セル調表現や高度なシミュレーションなど、アニメ制作の現場でHoudiniの活用が広がりを見せている。とはいえ、その実力をフルに引き出すには、作業環境――とりわけPCスペックが大きな鍵を握る。
3DCGアニメーションスタジオ・YAMATOWORKSでは、こうした要件に応えるべく、BTO PCショップ・サイコムの協力のもと、最新のAMD Ryzen™ Threadripper™搭載マシンを導入。実際の現場でどのように活用され、どんな効果を生んでいるのか?
本記事では、同社のエフェクト班でHoudiniを駆使する北居士龍氏、同社広報の森田奈奈氏へのインタビューを通じて、“アニメの現場目線”でのPCの選定基準に迫る。
YAMATOWORKSとは?

CGWORLD(以下、CGW)自己紹介をお願いします。
北居士龍氏(以下、北居):YAMATOWORKSエフェクト班の北居です。Houdiniで、弊社のメインツールであるLightWaveや他のツールではできない複雑な表現、作品固有の特殊なエフェクトやアセットの制作を担当しています。もともとはアニメーターとして入社し、カットのレイアウトやアニメーションも担当していましたが、現在はHoudiniでの業務が全体の6割ほどを占めています。

CGW:なぜHoudiniを使用するようになったのでしょうか?
北居:Houdiniは学生時代から学んでいました。入社後、私がHoudiniで色々なことができそうだということが社内に伝わっていき、今に至ります。
LightWaveは、機能が比較的シンプルなので、役割的にHoudiniとバッティングしないんですよね。それもあって、特殊な処理や複雑なアセット作成、シミュレーションを用いる表現の制作などはHoudiniを使用する私の担当になることが多くなっていきました。

https://cgworld.jp/special-feature/sycom-yamatoworks-cgwcc2023.html
森田奈奈氏(以下、森田氏):最近は代表の森田がコンテを描くときも「ここは北居君に任せてCGでやろう」という感じで、それが演出を広げる下支えにもなっているようですね。
CGW:最近の作例を教えてください。
北居:直近だと、スマートフォンゲーム『モンスターストライク』のプロモーション映像「【獣神化・改】マナ SPECIAL MOVIE【モンスト公式】」ですね。この作品では、破壊表現やエネルギー波といったエフェクトをHoudiniで制作しました。通常の手法では難しいシーンでも、Houdiniのプロシージャルな作業であれば効率的に複雑な表現をつくることができます。
CGW:Houdiniでセル調の表現をするというのは難易度が高く、まだ事例も少ないと思うのですが、作業手順としてはどのように進めているのでしょうか?
北居:いろんなやり方がありますが、基本的には弊社のルック班の協力も得ながら、Houdiniから出力したレンダリング結果をAfter Effectsでコンポジットして、最終的な質感を調整するという工程を踏むことが多いです。
CGW:Houdiniでの作業において、PCスペックで重視するポイントは?
北居:基本的にはCPU性能です。例えば、今回導入したPCに搭載されているAMD Ryzen Threadripper 7970Xは、32コア、64スレッドという驚異的なスペックです。
Houdiniはマルチスレッドでの処理が行えるため、CPUパワーを最大限に活かせます。加えて、メモリは256GB。これもHoudiniでの大量キャッシュや大規模なシミュレーションを見越した構成です。
YAMATOWORKSが今回導入したLepton WS4000TRX50A


- モデル
Lepton WS4000TRX50A カスタマイズモデル
- CPU
AMD Ryzen Threadripper 7970X [4.0GHz/32コア/64スレッド/TDP350W]
- CPUクーラー
Fractal Design FD-WCU-CELSIUS-S36-BK [360mm水冷ユニット]
- MB
ASUS Pro WS TRX50-SAGE WIFI [AMD TRX50chipset]
- メモリ
256GB[64GB*4枚] DDR5-4800 [ECCレジスタード・メジャーチップ]
- VGA
MSI製GeForce RTX 5070 12G VENTUS 2X OC
- SSD
Crucial T700 CT1000T700SSD3 [M.2 PCI-E Gen5 SSD 1TB]
- 電源
SilverStone SST-DA1000R-GM [1000W/Cybenetics Gold]
- OS
Microsoft Windows11 Pro (64bit)
CGW:それだけのスペックが必要だった理由は?
北居:アニメ制作は、フィードバックと修正のサイクルをいかに高速に回せるかがカギなんです。例えば、1回のシミュレーションに10分かかっていたのが、Threadripperで3〜4分に短縮されるだけで、1日に試せる回数が倍以上になります。そうすると演出の精度も格段に上がります。

森田:5年前初めてThreadripper搭載のPCを導入したのですが、導入前は、アニメスタジオにはオーバースペックなモデルではないかという印象でした。ただ、その時北居というHoudiniのスペシャリストが現れて、その高スペックマシンを使いこなしてくれたんです(笑)。
アニメ業界全体としても、どんどんHoudiniを使うようになっているので、今はどこのアニメ会社にも1台はHoudini用の高スペックマシンが必要だという状況になっているようです。
CGW:After EffectsやLightWaveなど、ソフトによってPC選定の基準は変わりますか?
北居:変わります。After Effectsはマルチフレームレンダリング対応になったことで、ThreadripperのようなメニーコアCPUでも恩恵がありますし、メモリも多いに越したことはない。
一方でLightWaveはシングルスレッド処理がメインで、メモリもあまり使わないので、そこまでのスペックは必要ありません。使用しているツールごとに最適な構成を選ぶべきです。
CGW:サイコムのPCを選んだ理由は?
北居:前述した5年前に導入したサイコムのThreadripper搭載PCも、今でも現役で動いています。フル稼働の現場でも安定して動き続ける信頼性が決め手でした。
それに、パーツ構成の透明性も魅力です。マザーボードやGPUのメーカー名まで明記されていて、構成に対する信頼が持てます。
CGW:北居さんは、個人でもサイコムのPCを使っていると聞きました。
北居:はい、自宅ではAMD Ryzen™ 9 7950X搭載のPCを使っています。これもサイコムさんで購入しました。クリエイターにとってPCは“相棒”みたいなものですから、信頼できるメーカーのものを使いたいという思いがあります。

CGW:サイコムのサポート体制についてはどうですか?
北居:とても丁寧ですね。以前メモリの不具合が出た時、PC本体を送らずにメモリだけ交換対応してくれました。仕事を止めずに済む配慮がありがたかったです。だからこそ、10年近くのお付き合いになっています。
CGW:佐藤さん(サイコム/マーケティング担当マネージャー)から見て、YAMATOWORKSのPC選定はどのような印象でしたか?
佐藤 明氏:用途に応じて最適な構成を選ばれていると感じます。たとえばLightWaveの書き出しにはGPU不要と判断し、グラフィックボードを積まない構成でコストを抑えるといった工夫もされています。今回のHoudini専用マシンに関しては、処理負荷を見越してCPUやメモリにしっかり投資されていました。
CGW:実際の使い勝手はいかがですか?
北居:もう敵がいないという感じですね(笑)。レンダリングやキャッシュ生成が圧倒的に速くなって、作業ストレスがほとんどなくなりました。
CGW:今後、このPCにどのような期待をされていますか?
北居:とにかくスピードがクオリティに直結するので、サイクルを多く回せるという点に期待しています。短期間で多くのカットを仕上げられるようになれば、全体の制作効率も上がりますし、演出や表現の幅も広がる。高スペックマシンは、クリエイティブの質を押し上げる最も重要な投資の1つだと思っています。
CGW:ありがとうございました。今回は、YAMATOWORKSの制作現場で求められるPCスペックと、その背景をお届けしました。次回は、より技術的な観点から、具体的な検証結果をお届けします。シミュレーションやレンダリング処理がどれだけ高速化されたのか、実際の数値とともに深掘りしていきますので、どうぞご期待ください。
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①モデリングディレクター(中途)
②アニメーター/ルックデブアーティスト(新卒・中途)
③制作進行(新卒・中途)
TEXT_オムライス駆
PHOTO_弘田 充
INTERVIEW_阿部祐司(CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)