次世代の映像制作のワークフローを支えるため、オートデスクから新しい映像チェックバックツール「Flow Capture」がリリースされた。
本稿では、2025年6月に開催されたリリースイベント「新製品 Autodesk Flow Capture で実現する次世代映像制作ワークフロー~映像チェックバック新ツール~」で語られた内容をベースに、Flow Captureの開発背景から多彩な機能、AIを活用した未来の展望、そして熱の入ったQ&Aまでたっぷりお届けする。
プロフィール
Paul Jefferies(ポール・ジェフリーズ)
Senior Director – Growth & Operations
Autodesk, inc.
オートデスク メディア&エンターテイメント部門で、日本を含むアジア太平洋地域の営業開発とパートナーエコシステムを統括するシニアマネージャー。映像、ゲーム、アニメーション業界における深い知見を持ち、顧客の成功を支援するための戦略立案と実行をリードしている。
Hugh Calveley(ヒュー・カルベリー)
Moxion Founder / Senior Director – Product Management
Autodesk, inc.
Flow Captureのプロダクトマネージャー。かつてポストプロダクションの現場で働いた経験から、制作ワークフローの非効率性を解決すべくMoxion社を共同設立し、「Camera to Cloud」技術を開発。Moxionがオートデスク社に買収された後も、PIX社との技術統合を主導し、Flow Captureの開発を牽引している。
Flow Captureの開発背景と搭載機能
Autodesk Flow Capture(旧 Moxion)は、クラウドをベースとするレビューのためのデジタルツールで、安全な映像制作ソリューションを提供するために開発された。「オートデスクと皆さんで共に質の高い仕事をしていけたらと考えています。日本のクリエイターの皆さんにはこれからも期待しています」(ポール・ジェフリーズ氏)。
ヒュー・カルベリー氏(以下、カルベリー氏)は2009年、ハリウッド映画『30デイズ・ナイト』で制作アシスタントを務めた頃の自身の経験を振り返った。当時の映画制作は、まさに物理的なフィルムを扱う作業であり、彼が現場で常に直面し、フラストレーションを感じていたのが「カメラログシート」だったという。カーボン紙3枚綴りの紙で、重要なカメラ情報を手書きで記録する用紙だ。
「本来、カメラログシートは整然としているのが理想ですが、実際の現場ではコーヒーがこぼれていたり、ヴァンパイアの血がついていたり、とにかく散らかった状態になることが常でした」(カルベリー氏)。
カルベリー氏は、カメラログシートに書き出されていく情報がカメラ内部にメタデータとして存在していることを知っていた。そのためよりいっそう、この手書き作業が大きな無駄に感じられたという。この問題を解決するため、彼は親友のマイケル・ロンズデール氏と共にMoxionを共同で設立した。
Moxionは、QTAKEと連携し、「Camera to Cloud」技術を開発。この技術は急速に成長し、『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』シーズン1といった撮影現場でも採用されるに至った。
さらに、Moxionにとって特に重要な2つの機能が追加された。ひとつは、Zoomのような形式でチームが集まってライブレビューを行える「Flow Capture Rooms」機能、そしてプロダクショントラッキングツールFlow Production Trackning(当時のShotGrid、以下Flow PT) との連携機能も追加された。このFlow PTとの連携をきっかけに、オートデスクはMoxionを買収する運びとなった。
Flow Captureは、Moxionと、同じくオートデスクが買収したレビューツール「PIX」の優れた点を融合させて開発された。
カルベリー氏は、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の「映画を撮るのは簡単だが、良い映画を撮るのは戦争そのものだ」という名言を引用しつつ、Flow Captureが安全で使いやすいワンストップショップとして、あらゆるレビューや承認の要件を満たすことを目指していると語った。「個人レビューからグループレビュー、ライブストリーミングレビューへと切り替える際に、毎回異なるプラットフォームを使用するのはとても面倒です。Flow Captureは、この手間を解消します」(カルベリー氏)。
Flow Captureは、映画やゲームの制作に注ぎ込まれる計り知れない努力を踏まえて、製品レベルでデジタルライツマネジメントを標準搭載。セキュリティに徹底的にこだわっている。このセキュリティはApple、FireTV、ブラウザなど様々なプラットフォームで展開されており、今後Androidにも対応する予定だ。「セキュリティがなければ、それ以外の機能性は全く無意味だと思います」(カルベリー氏)。
Flow Capture 活用ガイド
Flow Capture内の「Folder」セクションにはプロジェクトグループとフォルダが配置され、アセットをクリックすると再生できる。SDRから4K Dolby Visionまで、多様なファイル形式に対応している。再生中にはタグ付けやコメントの追加が可能で、これらのメタデータは全て検索できる。
チームメンバーのアクセス管理面ではデジタルライツマネジメントのタグが強調され、ウォーターマークや電子透かしの利用、再生やダウンロード時の出力解像度の変更なども可能だ。ウォーターマークについては、シーンやテイクといったメタデータを直接ウォーターマークとして利用することもできるという。また、アップローダアプリケーションには、アプリケーションがアップロード前に問題点を事前に分析するというユニークな機能も搭載する。
他者と共有できるアセットのコレクション「プレイリスト」は、共有単位でウォーターマーク、メンバー、プレイリストの内容を変えることができる。「制作現場にいた際は、過去に複数のグループや期間ごとにプレイリストをコピーして再編集する手間がありましたが、Flow Captureはその煩雑さを解消します」(カルベリー氏)。コメント機能の有効化や、IPアドレスによるアクセス制限、視聴回数の制限といったセキュリティ設定も共有オプションに含まれる。
Flow Captureにおけるオンラインミーティング機能「Rooms」では、参加者はアップロードされたアセットやライブストリームを同時に視聴できる。ライブストリーム中のアセットに対しては、レーザーポインターを使って修正箇所を明示しつつレビューが可能だ。Roomsのコントロール権は参加者間で受け渡すことが可能で、コメントやアノテーションも追加できる。
クラウドベースの制作プラットフォーム「Flow」の構想
オートデスクでは、クラウドベースの制作プラットフォーム「Flow」の実現に向けて開発を進めている。Flowが目標とするのは、プロダクションマネジメント、レビュー、クリエイティブなコラボレーション作業を全てひとつの中心ハブに集約し、効率化と迅速な作業を実現することだ。
Flowは、Mayaや3ds Maxだけでなく、Houdiniなどのサードパーティ製ツールとも接続可能になる予定だという。最初に接続される予定の2つのツールは、Flow PTとFlow Captureだ。
カルベリー氏はFlow PTで作成されたプレイリストがFlowを介してFlow Captureに共有されるデモンストレーションを実施。第二段階では、アノテーションとコメントの双方向共有を目指すという。
Rooms機能も今後拡張を予定しており、録画機能の追加と自動書き起こし機能が追加されるという。さらに、FlowのAIがこの書き起こしを分析して、箇条書きでアクションアイテムを抽出。これらのアクションアイテムはコメントとして保存され、Flow PTにメモとして送り返すことが可能となる。
また、Roomsの録画には話者の映像とそれに対応するタイムコード表示の2つのビデオトラックが含まれ、単語やコメントをクリックするだけで、動画の該当箇所に瞬時にジャンプできる。「各単語がタイムコードにひも付けられている点がクールです」(カルベリー氏)。
さらに、Flow CaptureはAvid Media Composerとの連携も可能となった。カルベリー氏は、Media Composer内にドッキング可能なパネルとしてFlow Captureが組み込まれる様子を紹介。
Flow Captureから直接Media Composerのビンにドラッグ&ドロップでメディアを移行できるほか、Media Composerのタイムラインをフラット化してFlow Captureに戻し、プレイリストやRoomsで共有してレビューに使用することも可能だ。さらに、レビュー中に発生したコメントを再びMedia Composerに送り返し、タイムライン上のマーカーとして表示することもできる。
Q&A
Q:世界的に最も多くリクエストされている機能、特に他ツールとの相互運用性やカメラメタデータの改善点について教えてください。
A: カメラメタデータをポストプロダクションの最終段階まで保持できる機能が最も多いリクエストのひとつです。使用されたレンズの種類や焦点距離といった情報をすぐに取り出せないと、大きな時間の無駄になってしまうため、非常に要望が高い機能となっています。
Q:Flow Captureはオートデスク独自のクラウド上で運用されるのですか、それとも別途クラウド契約が必要ですか?
A: 両方に対応しています。既存のAutodeskクラウドサービスとの連携も可能ですし、ユーザーが現在使っている別のクラウドサービスがあれば、そちらを利用することも可能です。ストレージサービス市場は競合が多いため、我々が直接その分野に参入する意図はありません。
Q:Flow PTのクライアントレビュー機能のように、ライセンスを持たないクライアントとコンテンツを共有することは可能ですか?
A: ある意味イエスともノーとも言えます。Flow Captureで作成したプレイリストのリンクを送った場合、受け取った方が映像を確認するだけであればライセンスは不要です。しかし、その方にFlow Captureのホームページやインボックス機能まで使ってもらいたい場合は、ライセンスが必要になります。
Q:Flow PTとFlow Captureは完全に別ライセンスですか?
A: はい、別ライセンスです。
Q:複数のクリップを並べて再生する際に、カチンコの部分など先頭の数フレームを除外してシーケンシャルに再生することはできますか?
A: 非常に良いご質問で、多くの方から同様のリクエストをいただいています。EDLやXMLなどを使ってクリップの再生範囲を指定する機能はまだありませんが、ぜひご期待ください。
TEXT__kagaya(ハリんち)
EDIT_kagaya(ハリんち)、Mana Okubo(CGWORLD)