デジタル作画PCはなぜ128GB必要なのか――AMD×旭プロが導き出した最適解
PCのスペック不足が、クリエイターの表現の幅や挑戦の機会を奪ってはいないだろうか。現場のリアルな声とシステム担当者による徹底した検証から生まれたAMD×旭プロ TSUKUMOコラボモデルは、クリエイターに「新しい表現へ挑戦するための余白」をもたらすBTOパソコンだ。
前編ではその設計思想を掘り下げ、5つのモデルを紹介したが、後編では作画モデルにフォーカスし、アニメ監督によるリアルな体感も交えながらコラボモデルの真価に迫っていく。
変化・進化を続けるデジタル作画のリアルなワークフローと、それを裏打ちするハードウェアの密接な関係性、そしてアニメ制作環境の現在と未来像をつまびらかにしていこう。
▼前回記事
「なぜPC更新は「3年サイクル」なのか? AMD×旭プロ TSUKUMOコラボモデルに宿る"現場的"設計思想」
「AMD × 旭プロダクション アニメーション制作 デジタル作画 使用スペックモデル WA7A-B255XB/AP」TSUKUMO BTOパソコン
・AMD Ryzen™ 7 7700
・NVIDIA® GeForce RTX™ 5060 Ti
・128GB (32GBx4枚) DDR5-5600 ※DDR5-3600認識
・1TB SSD (M.2規格 / NVMe Gen4接続)
・ASUS ProArt X870E-CREATOR WIFI (ATX)
・Windows 11 Pro
数多くのアニメーション制作を手がけるスタジオ『旭プロダクション』、高性能なプロセッサーを開発する世界的半導体開発企業『AMD』、長年のパーツ販売による豊富な実績と経験を持つ『TSUKUMO』の3社による連携のもと、『どのようなアニメーション制作の依頼がきてもストレスを感じず作業に集中できるPC』をテーマに徹底検証を行い、制作現場にて実証されたPC構成を制作業務用途・デジタル作画用途・撮影処理/VFX用途・3DCG制作用途・VFX/レンダリングの作業工程別に5モデルご用意。
作業効率と生産性を追求する制作スタッフの方や、新たにアニメーション制作業務に携わる方、アニメーション制作を学ばれている方まで、幅広いユーザーにオススメのラインナップです。
負荷の大きさに幅がある、多様な「デジタル作画」の工程
――前回はAMD×旭プロ TSUKUMOコラボモデルのスペック構成意図を中心に掘り下げました。今回はアニメーションの作画現場について、鈴木監督に伺うところから始めていきます。まず、現在の「デジタル作画」とは何でしょうか。
鈴木理人氏(以下、鈴木):「デジタル作画」という言葉はアニメ業界で長く使われていますが、その定義はかなり広いです。基本的には、鉛筆と消しゴムと紙の代わりに、パソコンやタブレットを使って行う業務の全てをひと括りにして「デジタル作画」と呼んでいます。
旭プロダクション 制作管理部作画スタジオ
演出・アニメ監督
2010年、旭プロダクションにおけるデジタル作画導入の黎明期より、第1期生として宮城県の白石スタジオにてデジタル作画環境の立ち上げに携わる。アニメーターとして動画・原画・デジタル作画を経験した後、制作進行、演出を経て現職。主な監督作品に『魔法少女にあこがれて』、2026年7月放送予定の『令和のダラさん』など。作画作業に留まらず、3DCGや映像編集ツールなども駆使し、新たな映像表現を追求し続けている。
asahi-pro.co.jp/creator/suzuki-masato
アニメ『魔法少女にあこがれて』
2024年放送、dアニメストア、ほか各配信サイトにて配信中
原作:⼩野中彰⼤「魔法少⼥にあこがれて」(⽵書房刊)
監督:鈴木 理人・大槻 敦史
アニメーション制作:旭プロダクション
©小野中彰大・竹書房/魔法少女にあこがれて製作委員会
アニメ『令和のダラさん』
2026年夏放送予定
原作:ともつか治臣「令和のダラさん」(KADOKAWA刊)
監督:鈴木理人
アニメーション制作:旭プロダクション
©ともつか治臣・KADOKAWA 令和のダラさん製作委員会
鈴木:アニメーション業務で「絵を描く」仕事というと、アニメーターによる原画を指すことが多いのですが、それ以外にも動画工程だったり、演出における絵コンテ作業、あるいはチェック工程である動画検査などでもPCが使われています。
――一般的な想像よりも様々な工程が含まれますね。
鈴木:そうですね。作業内容としては、パソコンを使って線を引く作業と言ってしまえばそれまでですが、関わる範囲は非常に広いです。現在、描画にはCLIP STUDIO PAINTを使うことが多いですが、より良い画をつくるための補助として3DCGソフトや編集ソフト、撮影関連のソフトを並行して使うことも増えています。
本田拓望氏(以下、本田):システム側としては、「デジタル作画」と一言でまとめるのは結構乱暴だなと感じています。監督から後工程の動画スタッフまで、様々な職種の人たちが同一のマシンを使う、いわば「デジタル作画」というカテゴリに押し込められているような状況ですよね。
実際には監督や演出、作画監督など複数の職種が同じPCを使うため、必要とされる処理能力も一様ではありません。
旭プロダクション 管理本部人事総務部システム班 マネージャー
制作進行としてキャリアをスタートし、様々な職種の経験を経て約11年前にシステム担当へ転身。現在は制作現場から経営層まで、会社全体のシステム環境最適化を一手に担う。
asahi-pro.co.jp/creator/honda-takumi
本田:時代の変遷と共に3DCGを使うのは当たり前になっていますし、今後はAIが入り込んでくる可能性もあります。環境の変化とともに、現場がPC上でやることはどんどん増え続けています。
――PCにかかる負荷は、工程によってどのようなちがいが出るのでしょうか?
鈴木:純粋に「絵を描く」だけの原画や動画、仕上げといった作業はそこまで重くありません。PCのスペックが求められるのは、撮影、3DCG、コンポジット、そして映像編集などですね。
「16GBで十分」は過去の話――OSとツールの重さがもたらす課題
――今回はその中の「デジタル作画」モデルに焦点を当てていきます。作画用PCの業界での認識はどうなっていますか?
本田:作画モデルは業界的にまだ「線を引く作業がメインだから、そんなに高いスペックはいらないだろう」という認識が根強く、軽めのスペックのPCが基準になっていることが多いです。多くの企業ではまだWindows 10環境に合わせてつくられたPCがWindows11にアップグレードされて現役だったりします。
――スペック基準としてはどの程度ですか?
本田:Windows 10環境では、メモリは16GB、GPUもGeForce RTX 2060など、下二桁が60番のローエンドクラスで十分とされていました。しかし現在は、Windows 11への移行やアプリケーションの高度化により、同じ作業でも必要な余力が大きく変わってきています。
私が独自に計測したデータや、現場のクリエイターの声を聞く限り、メモリは128GB以上必要ですし、ストレージもNVMe M.2 SSDでなければ速度が出ません。
――128GBですか。
本田:ええ。CLIP STUDIO PAINTなどの描画ソフト単体だけを起動しているPCというのは現場では非常に稀です。
佐藤:Windows 11登場以降はメモリの使用率は上がっていて、AMD Ryzen™もより高速なDDR5メモリに対応したAM5プラットフォームに移行しています。
日本AMD株式会社
コンポーネントチャネル プリセールス
本田:WebブラウザやExcel、Word、Teamsなど、複数のアプリケーションを同時に立ち上げているのが当たり前です。さらに3D素材や動画データも同時に扱うため、メモリ容量の余裕がそのまま制作スピードに直結します。
作画現場の実務から設計されたPC構成
――そのほか、今回の構成でこだわったポイントはありますか?
鈴木:最近の液晶ペンタブレットはUSB Type-Cケーブル1本で接続できるものが主流になっています。しかし、デスクトップPCでは映像出力対応のUSB Type-Cポートがないことが多く、ノートPCでしか使えないという問題がありました。
今回の作画モデルは背面のUSB Type-Cポート1本で液タブを接続できます。
本田:作画現場では、とにかく高速でシングルスレッド性能が高いCPUが求められます。
――マルチコア性能ではなく?
本田:多くの描画系ソフトは、マルチコアを十分に活用できず、特定のコアに負荷が集中する傾向があります。そのため、単一コア性能が非常に重要になります。旭プロの作画環境でAMD Ryzenを採用している最大の理由も、まさにその単一コア性能の強さです。
もし他のアプリケーションも使用する場合でも、すべて同一コアで構成されているAMD Ryzenであれば、安定性が高く安心できる環境と言えます。
――新しい作画モデルの使用感はいかがですか?
鈴木:一番は「とにかく困らない」ということですね。以前は30分のコンテの動画書き出しに20分から30分かかることもありましたが、今は5分もかかりません。処理が速くなることで試行回数が増え、より良い選択肢を選べるようになります。
制作環境がクリエイターを自由にする
鈴木:今回の環境で一番感じているのは、「スペックを気にせず作業できる」ということです。現在のアニメ制作は、CLIP STUDIO PAINTなどの元データではなくJPEGの連番画像で納品するなど、紙時代の名残を残した仕組みが多く、表現の幅が制限される部分もあります。
しかし今は、スペックの高いPCと各種ソフトがあれば、アニメーターひとりでも色を塗り、動かし、撮影効果までつくることができます。制作環境が整えば、新しい表現に挑戦できる可能性は確実に広がると思います。
本田:非常に良い話ですね。発展や進化というのは、そういった現場の積み重ねから生まれるものです。システム側の人間としては、クリエイターが新しいことに挑戦しようとしたとき、それを妨げない「選べる環境」を提供し続けることが使命だと考えています。
環境構築は一度つくれば終わりではなく、更新を止めれば現場はすぐに陳腐化してしまいます。だからこそ今回のコラボモデルも第2弾、第3弾と継続していくことが重要です。クリエイターがやりたい表現に集中できる環境を用意すること。それが結果として、新しいアニメーション表現を生み出す土台になるのだと思います。
佐藤:ハードウェアメーカーとしても、旭プロダクションさんのような最前線の現場に選び続けていただけるよう、最先端の技術を提供し続けていきたいと思います。このコラボレーションから得られる現場のフィードバックは、PC開発にとっても非常に大きな価値があります。ぜひAMDのハードウェアを限界まで使い倒して、新しいアニメーションを生み出してほしいですね。
――アニメーション制作環境の進化が、これからの表現をどう変えていくのか。今後の展開がますます楽しみです。本日はありがとうございました。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)