妥協なき光の計算から生まれる「光で磨く、ジュエリーCG」。元フォトグラファー inbetween 林 一喜が引き出す「HP Z2 Tower G1i Workstation」の表現力
アートディレクションからCG制作まで幅広く手がけるクリエイティブスタジオ・inbetween。本稿では、Houdiniを用いたフォトリアルなジュエリー作品の制作プロセスを紐解きながら、現実特有の微細な歪みや光の屈折までも再現する途方もない演算処理に応える、強靭なハードウェアについて考察していく。
今回、彼らが要求する高性能PCとして、日本HPの「HP Z2 Tower G1i Workstation」(以下、HP Z2 Tower G1i)を投入。本機のパフォーマンス、筐体の魅力など、クリエイター目線での率直な評価を語ってもらうと同時に、同機の設計思想からサポート体制までを明らかにした。
今回検証したHP Z2 Tower G1iのスペック
- CPU
Intel Core Ultra 9 285K
- GPU
GeForce RTX 5080
- メモリ
192GB
- SSD
2TB
- OS
Windows 11 Pro
フォトグラファーからHoudiniへ――異色の経歴を持つinbetween・林氏
ハイエンドな3DCG表現を最大の武器とし、CMやMVなど多岐にわたるプロジェクトを次々と手がける気鋭のプロダクション、inbetween。その代表を務める柳生大志氏は、アートディレクターおよびCGスーパーバイザーとして、プロジェクト全体を強力に牽引する立場にある。彼の活動領域は単なる映像制作に留まらない。
「プロジェクトのリーダーとして進行管理を行うのはもちろんですが、自分でも常に手を動かしています。作品全体のクオリティラインの維持や、スタイルフレーム(静止画)を作成してコンセプトを固める作業などが多いですね。他にも、映像だけでなくロゴのデザインや、企業さんのブランディングに関わるグラフィック周りの事業も幅広く手がけています」(柳生氏)。
inbetween代表、アートディレクター
www.taishiyagyu.me
inbetween.jp
そんな柳生氏と共に動くことが多いのが3Dデザイナーの林 一喜氏。林氏のキャリアは非常にユニークだ。CG業界の一般的なルートである専門学校や美大からのストレートな道のりではなく、建設業界からキャリアをスタートさせ、その後は日本やロンドンでフォトグラファーとして活動していた。まさに異色の経歴の持ち主と言える。
「でも、コロナ禍に突入したことで、写真の現場が一気に止まってしまったんです。その後、ニューヨークで仕事をする機会があったのですが、そこで『今はCGがすごいぞ』という話を聞き、完全に独学でHoudiniを触り始めました。
当時所属していたニューヨークのフォトグラファースタジオは、ハイブランドなどのプロダクト撮影に非常に強く、シズル感のある質の高い表現を極限まで追求する環境でした。写真という強力な表現手法を超えるためには、シミュレーションの力が必要不可欠だと感じて、最初のCGツールとしてHoudiniを選びました」(林氏)。
inbetween CGデザイナー
そのニューヨークのスタジオでは、所属するスタッフ全員がフォトグラファーという環境の中で、新たなCGチームが立ち上げられた。
「周りはCG未経験者ばかりでしたが、フォトグラファーは現実世界の光の性質やライティングの原理原則を熟知しています。だからCG空間でも、リアルなスケール感や物理的な光の挙動を頭の中で正確に組むことができます。そこがスタジオの強みでした。他のCGソフトの経験が全くなかったので、『Houdiniは難しい』という先入観や変な思い込みに左右されることなく、まっすぐにツールと向き合えました」(林氏)。
現実世界の光を捉え続けてきたフォトグラファーとしての深いバックボーン。リアルを知り尽くしているからこそ生み出せる説得力のある画づくりが、林氏の大きな武器となり、inbetweenに唯一無二の彩りを与えている。
Houdiniによる超フォトリアルなジュエリー制作
今回のハードウェア検証にあたり、林氏は現在個人的なプロジェクトとして進めている、Houdiniを用いたジュエリーのショートフィルムを題材にした。テーマは「蛇の滑らかな動きと、ダイヤモンドのまばゆい輝き」だ。
「以前からずっと、ジュエリーに特化したCG作品をつくりたいと構想していました。化粧品などのコスメ系は業務でも経験がありましたが、ジュエリーのフルCGとなると、トップクラスのスタジオしか手がけていない印象があります。その理由は明白です。プロダクトの美しさはライティングの質に極めて大きく依存するため、実写写真の方が圧倒的に有利な領域だったからです」(林氏)。
映像作品においては、カメラワークやエフェクトなどの「演出」によってある程度の粗をごまかすことができる側面もある。しかし、プロダクトの美しさをストレートに伝えるルックデヴにおいては、一切のごまかしが効かない。
「実写のプロダクト撮影では、完璧な一枚に仕上げるために、何枚もの写真を重ね合わせるような緻密なレタッチ作業が必須です。しかしCGであれば、特定のオブジェクトに対してだけ光を効かせるといった魔法のような選択が、ソフト内部で完結できます。
今回、外部の素材には一切頼らず、HoudiniからRedshiftで書き出したレンダリング素材をコンポジットして作品をつくっています。この挑戦に、どこまで写真と同等、あるいはそれ以上のクオリティまで詰められるかという実験的な意味合いも持たせたんです」(林氏)。
林氏が特に心血を注いでいるのが、プロダクト特有の「冷たい質感」と、工業製品としての「わずかなノイズ(不完全さ)」の表現である。
「フォトグラファー時代は、ポスターサイズの巨大な画像をピクセル単位で拡大して確認していました。本物のプロダクトには独特のシャープさがある一方で、CG特有のカクカクした不自然さを消すためには、工業製品特有の製造のムラやわずかな歪みをあえて意図的に入れる必要があります。
全体を引いて見ると直線に見えるけれど、極限まで寄るとハイライトの入り方がわずかに歪んでいる。さらにそこに、微小なカラーノイズが乗っている。リアルなプロダクトは絶対に“直線的すぎる”ことはありません。そういった、近づかないとわからないレベルの歪みを仕込むことで、初めてフォトリアルな説得力が生まれるんです」(林氏)。
ダイヤモンドの内部反射の計算などは非常に負荷が高く、現状でも4K解像度1枚のレンダリングに約5時間を要しているという。さらに光の計算を精細化すると7〜8時間かかる見込みだが、林氏は輝きの質について、一切妥協するつもりはない。
「業務上のプロジェクトであれば、時間的・コスト的な制約から絶対にやらないようなレベルの計算を、今回はテストも兼ねて限界までやっています。どこまで光の計算を詰められるか。柳生さんからは『無駄にレンダリング時間をかけたら怒るよ』と釘を刺されていますが(笑)、極上の綺麗さのためなら時間を惜しむつもりはありません」(林氏)。
「全ソフト立ち上げっぱなし」を可能にするHP Z2 Tower G1i
細やかな光の調整と高精度なレンダリングを要する制作環境において、今回導入検証を行った日本HPの「HP Z2 Tower G1i」は、文字通り驚異的なパフォーマンスを発揮した。本機はCPUにIntel Core Ultra 9 285K、GPUにGeForce RTX 5080という最新鋭のパーツを搭載しているだけでなく、192GBという広大なメモリ容量をも備えている。
「実際の業務では、私のようなシニアのポジションになると、ジュニアメンバーが作成した複数の重いシーンデータを取りまとめ、コンポジットまでを一手に引き受けるジェネラリストとしての動きが求められます。
限られた時間内でそれらをさばくためには、複数の重いソフトを同時に立ち上げておく必要があります。Houdiniを起動したまま、Nukeを開き、DaVinci Resolveも動かし、さらにリファレンス用のWebブラウザのタブは常に20個以上開きっぱなしという状態です。
普段の環境ではメモリがカツカツになってしまうのですが、今回は192GBもあるので、全くソフトを落とす必要がないばかりか、まだ空きメモリ容量が残っているぐらい余裕がありました」(林氏)。
レンダリング速度はCPUまたはGPUの性能に依存しがちだが、日々の作業時の快適さや待ち時間の少なさを決定付けるのはメモリ容量に他ならない。ソフトの切り替え時にもたつくイライラがないことは、クリエイターの思考を途切れさせず、結果として作品のクオリティ向上に直結する。
また、ネットワークの足回りが最初からプロ仕様に整えられている点も、林氏は高く評価した。
「オンボードで10GbEのLANポートが標準搭載されているのは非常に大きいです。当社では社内NASのアクセススピードを重視していますが、NAS側が10GbEや25GbEに対応していても、PC側のポートが2.5GbE止まりだと、結局そこで速度が制限されてしまいます。
最初から10GbEが使えることで、タイムアタックのようにギリギリの納品を迫られる場面や、大容量のプロジェクトデータをやり取りする際のスピードが劇的に変わります。クリエイターが『こうしたい』と思う理想のスペックが、最初からパッケージングされているのは本当に頼もしいですね」(林氏)。
実は柳生氏も先ごろ偶然、HP Z2 Tower G1iを譲り受け、そのポテンシャルに驚いたところだったという。
「つい先週、知人から2台譲り受けたんです。メモリ64GBとRTX 5090で今回のテスト機とは構成がちがいますが、コンパクトな筐体サイズで強力なパワーが出るマシンだなと感じて重宝しています。メモリについても最大256GBまで積めるというのは大きな魅力ですね」(柳生氏)。
ここで話題は生成AIの活用にも及ぶ。inbetweenでも、生成AIがワークフローに採り入れられているプロジェクトに携わるケースが増えているという。
「先日行われたファッションブランド「SEVESKIG」様のショーでは、映像やインスタレーションの制作に携わりました。最近では、発注元のクライアントやデザイナー自身が生成AIを使って事前のコンセプトデザインやリファレンスを作成し、それをもとにわれわれとイメージのすり合わせを行うケースが増えています」(林氏)。
「その点、HoudiniはAIとの相性が非常に良いツールだと感じています。TOPsを使ってマルチタスクで大量のデータを処理させたり、Pythonとの連携も強力です。今後は、機械学習のアルゴリズム構築や、大規模言語モデル(LLM)の生成プロセスにおいてHoudiniを介在させるような、より高度なR&Dにも挑戦していきたいと考えています」(柳生氏)。
こうしたローカル環境でのAI活用や機械学習を見据えた際にも、大容量メモリと強靭なGPU、そして安定した電源供給を持つ高性能PCの存在意義は、ますます高まっていくと言える。
クリエイターの高負荷作業を支える考え抜かれた筐体設計
NVIDIA GeForce RTX 5080という巨大で発熱量の多いハイエンドGPUを搭載しながらも、HP Z2 Tower G1iの筐体サイズは驚くほどコンパクトだ。この物理的な取り回しの良さも、実際のオフィス環境においては重要なファクターとなる。
「私は自宅では昇降デスクを愛用しています。フルタワーの巨大なPCだとデスクの上に乗せられず、かといって床に置くとデスクを上げた際にモニタや入力デバイス類のケーブルが引っ張られてしまうという悩みが常にありました。
柳生さんが使っているPCケースは20kg以上あるので絶対に無理ですが(笑)、HP Z2 Tower G1iのサイズ感であれば、昇降デスクの上にすっきりと配置できます。しかも、金属の質感が素晴らしく、曲線を取り入れたデザインにはしっかりとした高級感があります。安価なペラペラのケースとは全く違う、剛性の高さを感じました」(林氏)。
HP Z2 Tower G1iの筐体上の特長のひとつに、綿密に設計されたエアフローがある。フロントのメッシュパネルは従来モデルから改良されて空気の取り込み効率が約60%向上しており、設計段階から熱流体解析ソフトを用いた高度なエアフロー設計が行われている。
RTX 5080などのハイエンド構成時には1,200Wの大容量電源が搭載され、サイドパネル内側や底面にも追加ファンが配置される徹底ぶりだ。熱を確実かつ強力に外部へ排出する機構が、過酷な連続レンダリングを支えている。
クリエイターの歩みを止めない充実のサポート体制
そして、プロがハードウェアの基本性能以上に重視するのが、万が一のトラブル時のサポート体制である。日本HPは、高性能PC専任のサポート窓口を設けており、深い知識を持った担当者が直接対応する体制を構築している。
「我々クリエイターもある程度PCの知識はありますが、納期に追われる業務のまさにその一瞬、自分たちで原因を切り分けてトラブルシューティングに時間を割くのは絶対に避けたい事態です。
専任の詳しいサポート窓口にすぐ繋がり、ノウハウを持った担当者が対応してくれるというのは、時間の節約という面で非常に心強い。これはBTOパソコンにはない、メーカー製の高性能PCを選ぶ最大のメリットです。絶対的な安心感に繋がります」(林氏)。
また、CGプロダクションやクリエイティブスタジオの経営的な視点では、昨今のPCパーツ、特にAI需要によるGPUとメモリの価格高騰は深刻な課題となっている。一括での機材リプレイスが企業のキャッシュフローを圧迫する中、日本HPが提供している残価設定型のファイナンス(リース)プログラムは、非常に合理的な選択肢となる。
月額での平準化された支払いにより初期費用を抑えつつ、税務上の経費処理としてのメリットも享受できる仕組みは、機材の陳腐化が早いCG業界において、常に最新の環境を維持するための強力な後押しとなるだろう。
クリエイターにとって、メーカー製の高性能PCとは?
総評として、本機はどのようなクリエイター、どのような制作環境に最も適しているのだろうか。
「Houdiniをはじめ、複数のDCCツールや映像編集ソフト、ブラウザを同時に立ち上げて、ソフト間を絶えずまたぎながら作業するようなジェネラリストにこそ、強くお勧めしたいです。
メモリ不足を気にしてソフトをいちいち落とさなくて良いというスムーズさは、作業上のイライラを完全になくし、結果的に画づくりのクオリティや試行錯誤の回数に直結します。これ1台あれば、インディからハイエンドなプロダクションワーク、そしてこれからのAI開発まで、あらゆる過酷な要求に余裕で応えてくれるはずです」(林氏)。
圧倒的なスペックと、現場の切実なニーズを汲み取った堅牢な筐体設計、そしてクリエイターの歩みを止めない充実のサポート体制。HP Z2 Tower G1iは、inbetweenのような最前線で妥協なき作品づくりを続けるクリエイターの創造力をどこまでも拡張し、さらに高みへと押し上げてくれる1台だと言えるだろう。
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充
EDIT_中川裕介(CGWORLD)