世界をリードするゲームエンジン「Unity」。産業分野の現場でも実際に広く使われていることが注目されている。本稿では、Unityでシニアアカウントエグゼクティブを務める中村 匠氏を迎え、産業分野向けのプランである「Unity Industry」独自の機能からUnityの最新アップデートまで、その全貌を明らかにする。
中村 匠氏
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社
シニアアカウントエグゼクティブ
インテル株式会社にて約5年間3D深度カメラ事業に従事したのち、2024年にユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社に入社。ROS(Robot Operating System)の開発者会議である「ROSCon」の日本ローカル版、「ROSConJP」の企画・運営にも携わる。
Unity Industryでできること
――産業分野向けのプラン「Unity Industry」には、どのような機能が搭載されていますか?
中村 匠氏(以下、中村):Unity Industryには、Unityの一般的な機能全般に加えて、産業用途でUnityを使う方のための機能やサービスが追加で含まれています。
中村:例えば、既に持っているCADやBIMなどの3Dデータを、階層やメタデータを保持したままUnityで使うことができる Unity Asset Transformer Toolkitが使用できます。
中村:「ツール間のデータ移動」は、新しいツールを導入する際にまず課題として挙がるケースが多いと思います。変換の過程で、部品の階層構造やマテリアル、図面には見えない部品情報やメタデータといった大事な情報が抜け落ちてしまうことも少なくありません。結果として、せっかくのデータを活かしきれず、イチから作り直して時間とコストがかさむ、これは多くの現場が抱える悩みです。Asset TransformerToolkitは、この課題を解決するための機能です。
また、製品設計で使うCADデータは正確で緻密なぶん重く、リアルタイム3Dが求める「軽さ」とはギャップがあります。Unity Industryにはポリゴン数を簡単に減少させる機能があるので、3Dデータの専門家がいなくてもUnityでの作業にすぐに集中することができます。
「Unityを使うスキル」と「Unityのためのデータを用意するスキル」は異なるものなので、橋わたしをするためにこういった機能が準備されています。
中村:Unityにデータを取り込んだ後の課題として考えられるのは、「そのデータは、チームの全員にしっかり活用されているか」です。せっかく整えた3Dデータも、個人のPCや部署ごとのドライブにバラバラに眠っていては、どれが最新版か分からなくなったり、同じものを何度もつくり直したりと、宝の持ち腐れになりがちです。CADやBIMのような大容量データは、共有するだけでも一苦労です。ファイルが重くてメールでは送れない、開くには専用ソフトが必要などのこうした小さな不便の積み重ねが、データの活用を妨げてしまいます。
Unity Industryではこういった「共有」の課題を解決するため、3Dデータを管理できるクラウドサービス「Asset Manager」を利用することができるようになっています。重たいデータの共有をよりスムーズに行えるようにすることで、3Dデータを用いたUnity開発やチーム間での情報共有をより円滑にすることがねらいです。
中村:さらに、Industry Viewer Templateを活用することで、Asset Manager上に保存してある3Dデータにランタイムでもアクセス可能になります。Industry Viewer TemplateはUnityが無償で公開しているテンプレートで、使用するために追加の費用等は発生しません。Industry Viewer Templateを使うことで、限られたメンバーや部署でしか扱えなかった3Dデータが、例えば営業やマーケティングなどのチームにおける製品レビューにおいても活用できるようになります。
中村:どんなに優れたツールでも、「うちのチームだけで本当に使いこなせるだろうか?」という不安はつきものです。Unity Industryは、その不安に寄り添い、導入の最初から現場に定着するまでの過程をしっかり支える仕組みを整えています。 Unity Industryライセンスには専門担当者によるサポートのサービスも付帯されているほか、一定のライセンス数をご契約いただいた企業向けの専任アドバイザー制度を設けております。Unity Industryの販売代理を行なっているボーンデジタルでは、独自のオンボーディングや、各種機能のマニュアルのご提供など、初心者の方向けにサポートも行なっています。
Unity Industry 導入についてのお問い合わせはこちらからよりシームレスに、より手軽にUnityを活用するための機能拡充
――Unity Industryにおける、おもしろいアップデート情報はありますか?
中村:直近のアップデートですと、やはりUnity Studioでしょうか。これまではUnityをすでに使っているユーザーの方向けのアップデートが多かったのですが、Unity StudioはUnityを今まで使ったことがない方も対象にしたソリューションです。簡単に言ってしまえば、「Webブラウザ上で動く、簡易的なUnityエディター」です。先ほど紹介したAsset Managerと連携しており、クラウド上に保存した3Dデータを用いてレイアウトを検討したり、コンフィギュレーターなどのアプリを作成したりできます。
中村:Unity Studioで作成したウェブアプリは、URLを共有するだけで社内外の人と簡単に共有することができます。この機能によって、例えばオンライン会議中にURLを共有し、同じ3Dデータを見つつ調整していくことが可能になります。3Dデータを活用した共創やコラボレーションなどをさらに簡単にするためのツールです。
また、Unityで使えるAI機能群「Unity AI」のオープンベータ版もこの5月にリリースされました。自然言語によるチャットでコーディングやプロジェクト作成を手助けする機能や、画像データから3Dオブジェクトを生成する機能などを備えています。
中村:チャットでコーディングをサポートしてくれる機能は、Unityでつくりたかったものをかたちにするうえで非常に役に立つと思っています。単にプログラミング言語をサポートするだけではなく、Unityプロジェクト内に格納してあるデータなども理解してサポートするので、幅広い作業に活用いただけると思います。画像から3Dオブジェクトを生成する機能も、上手く使いこなせれば今まで3Dデータを用意するために要していた初期工程の工数を下げることに効果的だと思います。
また、UIデザインツールFigmaとの直接連携の機能も搭載されています。Figmaプロジェクトのリンクを共有するだけで、必要なアセットを取り込み、レイアウトの構造を解釈してくれます。
Unity以外のツールでつくったあらゆるデータとの連携がよりスムーズになることによって、Unityがより短期間で、より多くの方の開発・制作工程を支えるツールに発展していくことを期待しています。
建築・製造・産業分野のユーザーのための「Unity Industry」
――Unityには複数のプランがありますが、Unity Industryはどのようなユーザーのためのプランなのか改めて教えてください。
中村:Unityを使用して、産業系のアプリやソリューションを開発・作成されているお客様にご契約いただいています。言い換えると、主にゲーム&エンターテイメント以外の分野に従事している法人・ユーザーが当てはまります。Unityでは、自動車/建築/製造/医療/教育テクノロジーなどの用途で開発を行う法人を「Industry Customer(産業向け顧客)」と定義しています。これらのお客様は、基本的にはUnity Industryライセンスが適格なライセンスです。
中村:ゲームエンジンとして磨かれてきたリアルタイム3Dの力は、いまや製造や建設をはじめとするあらゆる産業の現場で、紙や数値の中に閉じ込められていた情報を、誰もが直感的に「見て、触れて、共有できる」ものへと変えつつあります。
設計データがそのまま動き出し、部署や立場の垣根を越えて、同じ3Dを囲みながら議論する。そんな働き方が実現されつつあります。Unity Industryは、これまで積み重ねてきたデータと経験にさらなる可能性を与える、これからのものづくりや現場のコミュニケーションをさらにアップデートするための選択肢のひとつになると考えています。
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)
PHOTO_Yohei Onuma/大沼洋平