持ち運べるハイスペック環境がクリエイティブを変える ――映像ディレクター・高橋 悠が試すMSI「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」の実力
コロナ禍を機にBlenderによる3DCG制作をスタートし、自主制作アニメーション『昭和124年』で大きな注目を集めた映像ディレクターの高橋 悠氏。圧倒的な映像美を生み出す同氏のワークフローに、MSIの最新ノートPC「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」はどのような変化をもたらすのか。ローカル環境でのAI動画生成や、ヘビーな3DCGシーンにおけるパフォーマンス検証を通じ、本機の魅力と実力に迫る。
高橋 悠
映像ディレクター
@nonbit
2015年より実写での映像制作を開始。2021年、コロナ禍で実写の撮影がストップした事をきっかけに、独学で3DCG制作をスタートする。現在は実写やCGを用いた広告、ミュージックビデオ、映画など多岐にわたる映像制作を手がけている。また、短編SFアニメーション『胡蝶之夢』が2025年の経済産業省「クリエイター・エンタメスタートアップ創出事業(創風)」に採択。
クリエイティブゲーミングAIノートPC「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」
- CPU
Core Ultra 9 プロセッサー 386H / 16コア(4P+8E+4LPE)16スレッド
- GPU
NVIDIA GeForce RTX 5070 Ti Laptop GPU
- メモリ
32GB(16GB ×2)DDR5
- ストレージ
SSD 1TB(M.2 NVMe)
- ディスプレイ
16インチ、WQXGA(2,560×1,600)、グレア、240Hz、OLED(有機EL)、DisplayHDR True Black 600、DCI-P3相当
- 本体重量
約1.99kg
3DCG制作はもちろんAI動画生成までローカルで完結できるマシンパワー
CGWORLD編集部(以下、CGW):高橋さんの普段の3DCG制作のワークフローや、使用ツールについて教えてください。
高橋 悠氏(以下、高橋):3DCGはほぼBlenderだけです。以前はキャラクター制作にCharacter Creatorを使っていたのですが、最近方針を変えてゼロからキャラクターをつくることになり、現在はBlenderのみでスカルプトやリトポロジーを行っています。
AIで生成したベースメッシュを使うこともありますが、そこから先は自分でデッサンの勉強をしながら手作業でデザインしています。AIを使うこと自体に抵抗はありませんが、やっぱり自分の手でモデリングするのが楽しいので、今は自分でやっていますね。その他、コンポジットやカラーグレーディングにはDaVinci Resolveを使っています。
CGW:普段お使いのPCスペックは?
高橋:普段はAMD RyzenとGeForce RTX 4090が載ったデスクトップPCを使っています。基本的な考え方は、いちばん使いやすくてパフォーマンスを最大化できる良い機材を使うことです。
CGW:制作時に負荷がかかるのはどんな作業でしょうか?
高橋:BlenderのCyclesを使ったレンダリングですね。都市をつくったり雰囲気を出すために煙などのボリュームを多用するので、とても重くなります。以前、アイドルのミュージックビデオで都市の全景を映す長いカットをつくった時には、一晩中レンダリングを回しても終わらず、結局11時間もかかってしまいました。
CGW:今回、MSIのクリエイティブゲーミングAIノートPC「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」で検証していただきました。まずは3DCG制作での動作はいかがでしたか?
高橋:『胡蝶之夢』のデータから、ボリュームを使った重めのシーンを開いて検証しました。Blenderのビューポートでの再生は全く問題なく、メインのデスクトップPCと比較しても遜色ないレスポンスでしたね。
CGW:作業性は高かったと。負荷が高いCyclesではいかがでしたか?
高橋:完成に近い状態をプレビューで見ながら作業することが多いのですが、ボリュームを含む重いシーンでも、スピード感はデスクトップとほぼ変わらず、しっかりと確認しながら作業できました。正直、驚きました。さすがにプレビュー状態で再生ボタンを押すと厳しいですが、それはデスクトップでも同じです。ノートPCのイメージが完全に覆りました。ファンの音も多少回る程度で、全く許容範囲内でした。
CGW:レンダリング速度についてはいかがでしたか?
高橋:同一フレームをレンダリングして比較したところ、デスクトップが約4秒なのに対し、本機は約14秒でした。やはり速度には差がありますが、セカンドマシンとして捉えれば十分に実用的です。作業や制作自体は本機で全く問題なくできるので、外出先で作業を進め、最終的なレンダリングは家のメインマシンにリモートで投げる、といった割り切った運用をすれば非常に便利だと思います。
ローカルでのAI動画生成を検証
CGW:「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」はAIにも強いということで、今回はAI動画生成についても検証していただきました。高橋さんはAIをいつ頃から制作に導入していますか?
高橋:画像生成AIの出始めの頃から少しずつ触っています。現在は業務用のPythonコードを書いたり、LLMを使ってBlenderのテキストデータを整理し、ネーミングルールの統一やリンク切れファイルの削除を自動化させるといった使い方もしています。映像制作の現場でも、AIをワークフローに取り入れる場面は急激に増えています。
CGW:今回、ローカルでのAI動画生成を検証していただいたということですが。
検証用の画像。Ref2VAを使って、上記二枚の参照画像から、下記動画を生成するまでの時間を計測。
高橋:ComfyUIを使って、話題のMiniMax H3をローカル環境で動かしました。Ref2VAを使って、参照画像から動画を生成させるワークフローです。結果として、HD画質で5秒の動画を生成するのに約6分半かかりました。デスクトップPCだと約1分半だったので時間の差はありますが、AI生成は基本的に「ボタンを押して待つだけ」の作業なので、バックグラウンドで回しておけばそこまで気になりません。ノードを組んでブラウザ上で操作している段階では、全く重さを感じませんでした。
CGW:クラウドではなく、あえてローカル環境でAIを動かすメリットはどこにあるとお考えですか?
高橋:やはりコストです。現在、品質の高いクラウドのAI動画生成サービスを案件でガンガン回そうとすると、かなりの金額がかかってしまいます。あるミュージックビデオの制作でクラウドAIのVFXに数百万円の予算を使ったという話も聞きました。ローカル環境であれば、予算を気にせずイテレーションを何度も回せます。また、用途ごとに細かくデプスを取るような高度な処理や、特定の作家のテイストをLoRAでピンポイントに学習させるような場合は、やはりローカル環境に分があると思います。
CGW:AIとの向き合い方について教えてください。
高橋:現実世界をリアルに再現するといった明確な正解がある表現には、AIは非常に向いていると思います。一方で、AIはどうしても学習データから“平均的ないちばん良いもの”を出力する傾向があります。クリエイターの作家性や“平均的ではない魅力”を出すためにはどうAIに指示を出せばいいのか、その点はまだ、自分の中でも答えが出ていません。だからこそ、今は手作業でのスカルプトやデザインを大切にしています。
美しいOLEDディスプレイと、直感的なタッチパッドがもたらす新しい制作体験
CGW:ディスプレイについてはいかがでしたか?
高橋:本当に素晴らしいと感じました。OLEDならではの黒の締まりが非常に良くて、色域も広いです。個人的にカラーグレーディングの作業が好きでこだわっているのですが、フラットで正確な色が出るため、色を厳密に扱うCGや映像制作においては大きなアドバンテージになります。普段使っている業務用のモニタと比較しても全く遜色がありません。
CGW:デザインや本体の重量については?
高橋:ゲーミングPC特有の派手すぎる装飾がなく、落ち着いたデザインなのが良いですね。本体自体の重さは約1.99kgと、このクラスのスペックを搭載した16インチのノートPCとしてはかなり軽量だと思います。リュックに入れて持ち歩いても全く苦にならない重さです。底面を見ると排熱の構造もしっかりしていて、それが静音性やパフォーマンスの安定に繋がっているのだと思います。ただ、フルパワーで重い作業をする前提だと240WのACアダプタも一緒に持ち運ぶことになるので、そこは少し荷物になるかもしれません。
CGW:操作性、特にタッチパッドの使い心地はいかがでしたか?
高橋:個人的に大きな発見でしたが、この大きなタッチパッドと3Dソフトの相性が意外と良くて。ピンチイン・アウトでのズームなど、感覚的な操作がスムーズにできました。普段はマウスを使っていますが、外出先で少しでも荷物を減らしたい時などは、このタッチパッドだけでも十分に作業ができると感じました。
CGW:映像ディレクターの視点から、ハイスペックなノートPCを持ち出せる利点はどこにありますか?
高橋:まず、実写のVFXなどを担当するクリエイターにとっては、撮影現場に持ち込んでその場で素材を確認したり仮合成したりする必要があるので、絶対にハイスペックなノートPCがあった方が良いです。また、モーションキャプチャの現場でも、キャプチャした動きをその場で3Dキャラクターにながし込んで検証するといった使い方ができます。
CGW:持ち運んで使えるのは大きなメリットですね。
高橋:はい。家の中でずっと作業しているとどうしても煮詰まってしまうので、外に出て気分を変えながら作業できるのが嬉しいですね。脚本を書いたり、少し環境を変えてBlenderの作業を進めたり。重いレンダリングはリモートで自宅のデスクトップPCに任せて、外での作業は「Stealth-16-AI+B3WH-2670JP」でするという使い分けをすることで、クリエイターにとって最強のセカンドマシン、あるいは持ち運べるメインマシンになるな、そう思いました。
CGW:場所を選ばず妥協のないクリエイティブができるのは魅力的ですね。本日はありがとうございました!
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TEXT__kagaya(ハリんち)
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充