AMD Threadripper ProはCGの仕事をどう変えた? コロッサス澤田友明がCGプロダクションにおける価値を掘り下げる
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CGWORLDが実施した読者アンケート(※)によれば、AMD製CPUのシェアは、2019年の段階ではわずか7%に留まっていた。しかし、2020年には10%に増加し、2021年には21%にまで躍進。2022年3月にはハイエンドデスクトップPC向けのCPU「AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO プロセッサー」シリーズ搭載の新モデルが投入されるなど、今後のさらなるシェア拡大が予想される。
この数年でAMD製CPUに注目が集まり、多くのクリエイターが利用し始めた理由は何なのか。コロッサスの澤田友明氏とAMDの関根正人氏との対談から、その背景や要因を探っていく。
なお、現在、AMDではAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーの導入効果をまとめたホワイトペーパーを配布中だ。2022年4月15日までにお申し込みの方にAMD Radeon™ RX6700 XT,CGWORLD定期購読が抽選であたる。ぜひ下記バナーより申し込んでみてもらいたい。
※CGWORLDが2019~2021年に実施したCGWORLD読者向け特大アンケートより
澤田友明氏
コロッサス レンダリングスペシャリスト。広告業界やB2B関係のCG制作で長年R&Dを担当。グローバルイルミネーションレンダラについても初期段階から様々な検証を行なってきた。現在は専門学校の講師も務めるほか、レンダリング関連の記事なども執筆。自宅ではAMD製CPUを搭載した自作PCを愛用する。
関根正人氏
日本AMD コマーシャル営業本部セールスエンジニアリング担当マネージャー。企業向けプロセッサーを搭載した製品の販売支援並びに技術サポートを担当。AMDが有するテクノロジーの良さをユーザーに伝えるとともに、AMD製品を搭載するサーバーやクライアントPCの購入を支援する。
Threadripper PROを選択するユーザープロフィールと導入効果とは?
CGWORLD(以下、CGW):CGWORLDの調査でも、近年はAMD Ryzen 7やAMD Ryzen 9を中心に、AMD製CPUのユーザーが顕著に増加しています。澤田さんはクリエイターの立場から、AMD製CPUの優位性やここ数年のシェア拡大の要因は何だと考えますか?
澤田友明氏(以下、澤田):私は個人PCのすべてでAMDのCPUを採用していますが、自分が選んだポイントはやはり「コストパフォーマンスの高さ」でした。競合製品とも比較しましたが、コア数は最大64コアまで選べますし、同価格帯でのパフォーマンスもとても優秀だと感じました。こういった評価はアーリーアダプターも同様だったようで、YouTubeなどでもその性能を高く評価する動画を多く見かけました。そのような高評価が口コミで広く伝わったことが追い風となり、安定性を重視するCGプロダクションにもAMD製CPUの導入が加速したのかもしれませんね。
CGW:AMDとしては、3DCGや映像制作での用途でシェアが拡大していることを、どう分析されていますか?
関根正人氏(以下、関根):AMD RyzenやAMD Ryzen Threadripper、AMD Ryzen Threadripper PROなどのプロセッサーは、高性能なx86コア「Zen」アーキテクチャーを搭載しており、マルチスレッドの性能や電力効率の高さが大きな特徴となっています。そして、その特徴が実際のユースケースに合致したからこそ、シェア拡大につながっていると分析します。さらに、澤田氏がおっしゃる通り、アーリーアダプターの口コミによって、AMD製CPUの魅力が3DCGや映像制作の現場にまで伝わったというのも、非常に重要なポイントだったと感じています。
CGW:実際に使った人たちの高評価が口コミとなって広がり、シェア拡大を後押ししたわけですね。では、コンシューマ向けCPUの中ではハイエンドモデルとなるAMD Ryzen Threadripper PROやAMD Ryzen Threadripperの導入事例や検証結果を、いくつかご紹介ください。
関根:まず、映像の企画・制作を手掛けるデジタル・フロンティアが、作業スピードのさらなる向上や効率化を実現すべく、CPUにAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーを採用したレノボのワークステーション「ThinkStation P620」を導入しました。導入に際して、デジタル・フロンティアが唯一不安に感じたのは、作業で利用するMotionBuilderやMaya、Unreal Engineなどのアプリケーションが「問題なく動作するか」という点だったと言います。しかし、実際に検証したことで、その不安はまったく問題ないことが確認できたそうです。
ちなみに、AMDでは専門部隊が主要なソフトウェアメーカーと積極的にコミュニケーションを取っており、マルチスレッド対応などを含むアップデートも定期的に行っています。After EffectsやHoudini、KeyShotなどにもしっかり対応しており、検証でもマルチコアを活かしたパフォーマンスを発揮しています。このように、様々なアプリケーションを安心して利用でき、パフォーマンスもしっかり出せているという点も、シェア拡大に大きく貢献している要因だと考えます。
またデジタル・フロンティアは、AMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーの最大クロック周波数が「4GHz超の高性能である」という点も、導入を決めた理由の1つとして挙げています。実際、Mayaを使ったリアルタイム3Dアニメーションの検証では、処理スピードがFPS値で「倍以上になった」そうです。さらに、コア数の多さも大きな魅力で、Unreal Engineによるリアルタイムキャプチャーの処理スピードは、6コアCPUの他社製PCで30分かかっていた作業が、32コアCPUのP620では「わずか3分で完了できた」と喜んでいました。
>>デジタル・フロンティア導入事例はこちら
CGW:Mayaで2倍、Unreal Engineで10倍も高速化できてたというのは大きなメリットですね。他にはどのような事例があるのでしょうか?
関根:例えば、ゲームのパッケージ化の効率化を検証した某ゲームメーカーの事例があります。この検証では、そのメーカーが所有する大規模ビルドファームと、AMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーを搭載するP620の1台を比較したのですが、P620の方が「倍以上速い」という結果が出ました。AMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーのコア数が威力を発揮したのはもちろんですが、メモリチャネル数が8つあることで大容量のメモリを搭載することが可能になり、その潤沢なメモリ容量が同時実行処理に有益な結果をもたらしたと分析します。
その他にも、Indie-us GamesとEpic Games Japanの事例では、Unreal EngineでのCPUパワーの効果をAMD Ryzen Threadripper 3970Xで検証しました。その結果、エンジンビルドでは他のPCで1時間半から2時間ほどかかった作業が、AMD Ryzen Threadripper 3970Xでは14分程度で完了。また、ライティングビルドでも一般のPCで30分以上かかった作業が、AMD Ryzen Threadripper 3970Xでは1分以内に完了しました。Unreal EngineはGPUの性能が大きく影響しますが、CPUの方が重要になるシーンも近年は増えているようで、この検証ではAMD Ryzen Threadripperによる高速化の恩恵が大きく現れたと感じます。
CGW:CPUの性能でもUnreal Engineの作業効率が大きく変わるというのは、とても興味深い話です。この話を踏まえて、澤田さんはどういった作業あるいはアプリケーションだと、AMD Ryzen Threadripperの恩恵を受けやすいと考えますか?
澤田:私も、関根さんが挙げたUnreal Engineのビルドなどは、特に恩恵を受けやすい作業の1つだと思います。また映像制作の現場では、多くの時間がかかる「レンダリング」が恩恵を受けやすいと思います。例えば、最近ではGPUを使ったレンダラーもありますが、GPUレンダリングの処理性能はGPUに搭載されているメモリ容量に左右されるため、極端に大きなシーンやキャラクター数の多いシーンなどでは性能を十分に発揮できないケースもあり、過信はできません。
一方、CPUレンダリングはコア数が多ければ多いほど処理性能が上がるため、コア数の多いAMD Ryzen Threadripperの恩恵はとても大きいでしょう。実際、数時間かかっていたレンダリング作業がマルチコアによって数十分程度で完了できるようになれば、そのメリットは非常に高いと言えます。
関根:コア数に関しては、64コアのAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーで1つ注意点があります。それは、Windowsだと取り扱えるスレッド数は「1つのプロセッサー・グループで最大64スレッドまでしか利用できない」という「プロセッサー・グループ制限」です。この制限により、Windowsでは64コアのAMD Ryzen Threadripper PROをマルチスレッドで128スレッドにしても、通常では64スレッドまでしか利用できない(=半分使えない)仕様になっています。
そこで、この問題を回避する手段の1つとして、BIOSでNUMAの設定を変更する方法があります。この方法では、NUMAを「NPS2」あるいは「NPS4」に変更することで、128スレッドすべてを利用できるようになります。また、マルチスレッドに対応しないアプリケーションを利用するのであれば、CPUのマルチスレッドの設定をオフにし、物理コアのみの64コアで利用するという方法もあります。このことは意外と知られていないので、参考にしてください。
CG制作における「電力効率」の利点とは?
CGW:冒頭で関根さんは、AMD製CPUの特徴として「電力効率」も挙げていました。高性能とともに電力効率の優位性を生み出すハードウェア設計について、簡単に教えてください。
関根:AMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーは限られた電力制限のなかで最大64コアをサポートしていますが、それを実現するためにはいくつかポイントがあります。まず1つ目は、AMD製CPUが採用する「Zenコアアーキテクチャーのデザイン」です。このコアアーキテクチャーは最新のユースケースを考慮してデザインされており、「L3キャッシュの容量が非常に大きい」といった点がアプリケーションの処理速度の向上に大きく貢献しています。2つ目は、単位面積当たりにより多くのトランジスタを投入できる「超微細化加工技術」。これにより、電力効率を高めることができています。3つ目は、複数のシリコンダイを密にパッケージングする最新の「パッケージング技術」です。この3つを掛け合わせることで、圧倒的な性能と優れた電力効率を実現しています。
CGW:なるほど、他にはマネのできない最新技術が詰まっているわけですね。その点を踏まえて澤田さんは、プロダクションあるいはクリエイターの目線で、電力効率の優れたCPUを選ぶ利点は何だと思いますか?
澤田:プロダクションの場合だと、自社が入居する場所で利用できる電力は当然限られるため、その範囲内で作業用のPCを導入する必要があります。しかし、電力効率の悪いPCでは、導入できる台数が少なくなるうえに作業効率も落ちることになります。そのため、会社としての生産性を考えるのであれば、電力効率は「しっかり考慮すべきポイント」なのです。また、これは個人のクリエイターなどでも同様で、例えば自宅だと「レンダリング中に電子レンジを使ったらブレーカーが落ちた」という話はよく耳にするだけに、PCの電力効率は意外と無視できないのです。
関根:ちなみに電力効率に関連する話として、CPUには熱暴走を回避するために、一定の温度になるとクロック周波数を下げる(=性能を落とす)機能が備わっています。例えば、AMDのCPUはワークロードや温度、電力量を計測するセンサーがシリコン上に内蔵されており、ミリセックオーダーで常に監視しています。そして、CPUが高温になり過ぎた場合は、自動でクロック周波数を下げるようになっているわけです。ただし、最近のCPUは25MHz刻みで細かくクロック周波数を調整するなど、パフォーマンスが急激に下がらないような工夫が施されています。
CGW:ここまでの内容を踏まえて、CPUを選ぶ判断基準はどういった点が挙げられるでしょうか?
澤田:CGプロダクションの観点でいくと、社員1人に割り当てられるPCの価格は決まっているので、最終的には全体のバランスを押さえつつ、その中でもっともパフォーマンスが高いものを選んでいくことになると思います。一方で、R&Dのような部署であればパフォーマンス重視の選択も可能になるため、64コア搭載のAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーも選択肢に入ってくるでしょう。あとは作業内容によってCPUを重視するか、あるいはメモリを重視するか、またはGPUを重視するかという感じで、業務内容に応じて選んでいくことになると思います。
関根:使用するアプリケーションや作業内容にもよりますが、マルチコアの性能を十分に引き出せるアプリケーションであれば、やはりコア数の多いCPUを選ぶのが得策でしょう。最近のOSはジョブのスケジューラーが非常に優秀なので、並列処理の多い作業であれば64コアでも十分に価値はあると思います。
一方で、アプリケーションによってはメモリ容量に影響を受けるものもあり、映像制作の現場ではそういった作業が多いと感じています。例えば、今後8Kのデータを扱うようになれば、CPUの1コアが必要とするメモリ容量も増えてくるため、1コア当たりに割り当てられるメモリ容量を増やしたいのであれば、あえてコア数の少ないCPUを選ぶのも1つの手だと思います。
それと、これはやや特殊なケースですが、2つのCPUで構成されるハイエンドなワークステーションを利用している人には、AMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーがお勧めです。なぜなら、例えば2つの16コアCPUを使って処理を行う際にはCPU間でもデータのやり取りが発生するため、そこが処理速度のボトルネックになるケースもあるからです。このような場合、32コアのAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーであればCPU間のやり取りが発生しないので、パフォーマンスが上がる可能性は非常に高いでしょう。さらに、コストや電力効率の面でも優れているはずです。
CGW:確かにそういった選び方もあり、作業内容や費用がポイントになる感じですね。それでは最後に、今後のAMD製品のロードマップや展望を教えてください。
関根:2022年3月に、最新の「Zen 3」アーキテクチャーを採用したAMD Ryzen Threadripper PRO プロセッサーが登場しました。その最新CPUを搭載したP620の後継機もレノボから発売される予定です。また、AMDではクライアント製品とサーバー製品ともに、明確なロードマップをすでに発表しており、それに則って最新製品を投入していく予定です。もちろん、さらに進化したコアアーキテクチャーのデザインや超微細化加工技術、パッケージング技術の開発も進めており、さらなる作業効率の向上を可能にする製品をお届けできると自負しています。今後のAMD製品にご期待ください。
TEXT_近藤寿成(スプール)
INTERVIEW&EDIT_池田大樹(CGWORLD)