ロンドン・NY発の精鋭スタジオ「Golden Wolf」が追求する、メディアを越境するクリエイティブ <Pixel × Pixel 2026特集>
2013年にロンドンで設立され、現在はニューヨークにも拠点を構えるGolden Wolf。特定のメディアにとらわれず、ブランデッドコンテンツからグローバルキャンペーン、没入型体験、エンターテインメント作品まで、領域を横断するアプローチでその名を築いてきた。姉妹音楽スタジオTake Your Medicineとの連携を通じて広告とエンターテインメントの境界をしなやかに行き来しながら、好奇心と大胆なクリエイティブ視点を、カルチャーに残る作品へと昇華させている。本企画では、Golden Wolfの制作の真髄と、カンファレンスPixel × Pixel 2026での講演の見どころを紐解く。
Event Infomation
| イベント名 | Pixel × Pixel 2026 |
| 開催日時 | 2026年10月17日(土)12:00 OPEN |
| 会場 | 寺田倉庫 D Hall / WHAT CAFE(東京都品川区) |
| 主催 | 株式会社SIGNIF / CGWORLD |
| チケット | 入場料:11,000円 Peatixにて販売中 |
| おもな登壇者 |
Cristina Pasquale(illo) Keng-Ming Liu(Bito) Golden Wolf Get It Studio EJ Hassenfratz 他 |
メディアに縛られない、スタジオ立ち上げの原点
GOLDEN WOLF REEL 2026
――2013年にロンドンで設立されて以来、ブランデッドコンテンツからキャンペーン、没入型体験、エンターテインメント作品まで、幅広い領域で活動を広げてきました。あえて特定のメディアに縛られない形でスタジオを立ち上げた、その根底にあった発想は何だったのでしょうか。
Golden Wolf(以下、GW):私たちは昔からあらゆる形態のクリエイティビティに情熱を注いできましたし、自分たちの可能性をひとつのメディアだけに定義されたくはありませんでした。立ち上げ当初から特定のメディアにとらわれないスタイル(メディア・アグノスティック)を選んだのは、ひとつの「アウトプット」ではなく「思考のプロセス」を中心にスタジオを構築することを意味していました。だからこそ、業界の変化に合わせて私たち自身も進化してこられたのです。
ブランデッドコンテンツのあり方が変わり、没入型体験や体験型施策の領域が広がり、トレンドが目まぐるしく移り変わるなかでも、私たちはそのたびにスタジオをゼロから再定義する必要がありませんでした。なぜなら、「物語を伝えるための新しいアプローチを探求すること」こそが、最初からの前提だったからです。設立から13年が経った今も、私たちの軸は変わりません。「何を作るか」ではなく、「人の心を動かす最も面白い方法とは何か」を常に追求しています。
「Remix: The Prelude」において行われた、スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)とアイス・スパイス(Ice Spice)によるサプライズコンサート向けの映像
「型破りなユーモア」「ダイナミックなアクション」「サイケデリア」の間で
The Lords of Water - Launch Film
――Golden Wolfさんの作品はしばしば「型破りなユーモア」「ダイナミックなアクション」「サイケデリア」の間にあると評されます。この独特な感性はどのように育まれ、これほど多様なプロジェクトの中で一貫性をどう保っているのでしょうか。
GW:正直なところ、それについては私たち自身も常に自問自答しているところです(笑)。ただ間違いなく言えるのは、プロセスではなく「人」に起因しているということです。私たちのクリエイティブリードの何人かは、13年というスタジオの歴史のほとんどを共にしてきました。こうした継続性は、どんなスタイルガイドよりも大きな意味を持ちます。同じメンバーが次々とプロジェクトを形作っていくからこそ、私たちが世界をどう捉えているかが、作品にそのまま反映されるのです。
感性というものは完全には言語化できません。それは意思決定を行う人間のなかに生きているものです。だからこそ、その核となるグループを維持しつつ、同じような志を持つ仲間を招き入れ、彼らが自身の直感を存分に押し出せる環境を整えること。これこそが、作品の一貫性を生み出している本当の仕組みなのだと思います。
Golden Wolfらしさを最もよく体現する一本
――Nikeのプロジェクトや『ダックテイルズ』のタイトルシーケンス、Disney向けのMarshmello「Fly」ミュージックビデオなど、これまで手がけてきた作品はフォーマットも観客層もさまざまです。その中で、Golden Wolfらしさを最もよく体現していると感じる一本を挙げるとしたら、どの作品でしょうか。
GW:一つのプロジェクトだけでGolden Wolfの本質を語るのは、実はかなり難しいんです。僕たちは実に幅広いスタイルで、実に幅広いプロジェクトに取り組んでいるので、その中から一つだけを選ぶのは、子どものうちの誰が一番好きかを選ぶようなものです(笑)。あえて言うなら、僕たちの本質を本当に体現しているのは、どんな形であれ、すべてのプロジェクトに注ぎ込んでいる、クラフトの卓越性・エネルギー・ストーリーテリングだと思います。
そんな中でも最近のお気に入りの一本は、伝説的なジャムバンドPhishによる、ラスベガス・The Sphereでのレジデンシー公演のために手がけた仕事です。
バンドのカルト的な人気曲「Gamehendge」を、Sphere内部の16K解像度スクリーン全面に映し出しました。これはクリエイティブな挑戦であると同時に、技術的な挑戦でもありました。あれだけの数のピクセルを、あの規模で、2Dアニメーションで埋め尽くしながら、何十年もの間Phishとそのファンの想像力の一部であり続けてきた世界観に忠実であり続けなければならない。あれほど熱狂的なオーディエンスのために、あれほど没入感のあるものを作り上げる機会を得られたのは、本当に得がたい経験でした。
Take Your Medicineとの協働
――姉妹音楽スタジオであるTake Your Medicineと連携しながら、エンターテインメントと広告の境界を横断されているとのことですが、実際にプロジェクトが立ち上がった際、その協働(コラボレーション)はどのように行われるのでしょうか。
GW:Take Your Medicineは、僕たちの哲学を完全に映し出す存在です。彼らが作る一つひとつの楽曲は、広告のBGMとしてただ「その下に敷かれる」ためのものではなく、それ自体で人を楽しませるものとして作られている。実際、クライアントの広告用に作られた楽曲の中には、TYMのレーベルからストリーミングプラットフォームでリリースされたものもあるほどです。ブランドの広告を支える曲であっても、Spotifyでリリースされる曲であっても、求められる水準はまったく同じなんです。
その「同じ水準」を共有しているからこそ、僕たちのやり方は成り立っています。TYMはビジュアルが固まってから呼ばれるのではなく、クライアントとの最初の電話の段階から、その場に同席している。ブリーフを聞くのも、僕たちとまったく同じタイミングです。ビジュアルとサウンドは、受け渡しではなく、絶え間ないキャッチボールの中で並行して作られていく。僕たちの仕事の中で、この二つを切り離すことは正直できません。二つの部署が協力している、という感覚ではなく、一つのチームが一つのものを作っている、という感覚なんです。
その哲学が最も色濃く出た例が、Web3ブランドDoodlesのための短編映画「Dullsville and the Doodleverse」だ。
Pharrell Williamsがプロデュースし、Lil Wayne、Coi Leray、Lil Yachtyが参加したサウンドトラックに対し、Take Your Medicineがスコアとサウンドデザインを担当。企画立ち上げの初期段階からビジュアルと音楽が一体となって作られた、まさに「Take Your Medicine」との協働を体現する一本だ。
新しい技術を作品に取り入れる基準
――Golden Wolfのアプローチは、クラフトや実験性、新たなテクノロジーと戦略的思考を融合させたものだと伺っています。新しい技術や手法が登場したとき、それを作品に取り入れる価値があるかどうかを、どのように見極めているのでしょうか。
GW:僕たちはこの10年以上、エンターテインメント・アニメーション・ストーリーテリングの境界線を曖昧にすることに時間を費やしてきましたが、それは一つのメディアや一つのツールを追いかけることでは、一度もなかった。あくまで、好奇心とクラフトの話なんです。好奇心旺盛な人間として、僕たちはピッチから納品まで、制作のあらゆる工程で常に新しいことを試しています。AIもそのプロセスの一部ではありますが、あくまで一部であって、すべてではありません。AIはアイデアを速く探索し、さらに一歩先へ押し進め、遊ぶための余地を広げてくれる存在ではありますが、考えること自体を代わりにやってくれるわけではない。すべては最終的に人の手を通り、方向性と最終判断は、常にチームの側にあります。
こうしたAI・技術活用への姿勢は、姉妹スタジオPsyopとの合弁事業「Active Ingredient」にも表れている。最新のAI・ブロックチェーン技術を用いて、ブランドや映像作家のための新しいストーリーテリングのツールを開発するこの取り組みは、Q5で語られる「AIは思考の代わりにはならないが、探求の速度を上げてくれる」という姿勢を、事業レベルで実践したものといえる。
ロンドンとニューヨーク、2つの拠点が作品に与えるもの
――ロンドンとニューヨークという、性質の異なる2つのクリエイティブシティに拠点を持つことは、Golden Wolfが生み出す作品にどのような影響を与えているとお考えですか。
GW:結局のところ、作品というのは、それを作る「人」の結果です。その人たちが持つ引き出し、その人たちが歩んできた歴史、その人たちが個人的に語りたいと思っている物語。性質の異なる2つのクリエイティブシティに拠点を持ち、異なるバックグラウンドや国籍のメンバーがいるということは、その引き出しの数を、本当の意味で広げてくれます。それは単に「ロンドンの感性+ニューヨークの感性」という足し算ではなく、僕たちのメンバーがどこから来たのか、何を吸収してきたのか、その多様性そのものが、僕たちが作るものに直接流れ込んでいるということなんです。僕たちが望んでいること、そして実際に13年間見てきたことは、全員が一つの部屋に座って一つの共通の参照枠だけを持っているよりも、この形の方が、作品がより豊かになる、ということです。
講演の見どころ ―― 特定プロジェクトか、制作哲学か
――ネタバレにならない範囲で構いませんが、PIXEL × PIXELの講演では、特定のプロジェクトが中心になりますか、それともスタジオ全体の制作哲学が中心になるのでしょうか。
GW:今回は本当に楽しみにしています。まったく新しいプロジェクトをお見せしながら、その裏にある実際のプロセスに踏み込むつもりです。磨き上げられた最終カットだけでなく、そこにたどり着くまでの道のり——最初のブリーフから、クリエイティブな発想、技術的な課題、そして納品に至るまでを。それに加えて、スタジオの日常についても、その舞台裏を少しお見せしたいと思っています。僕たちの理念が実際にはどう機能しているのか、そして何年もかけてGolden Wolfというブランドとコミュニティをどう築いてきたのか、といったことです。
日本で会ってみたい人
――今回PIXEL × PIXELで来日される際、日本のクリエイティブ/アニメーションコミュニティの中で特に会ってみたい人や、見てみたいものはありますか。
GW:アニメーター、モーションデザイナー、新進のアーティストやクリエイターたち——普段なら出会う機会のない人たちも含めて、日本のクリエイティブ/アニメーションコミュニティとつながれることを、本当に楽しみにしています。僕たちは、スタジオを訪ねたり、新しい才能を発見したりしながら、本物の、長く続く関係を築くことが大好きなんです。旅が終わったあとも続いていくような関係を作れたらと思っています。アニメーションやストーリーテリング、クリエイティビティに対する、日本ならではの異なる視点をたくさん吸収して、その一部を「Wolf Pack(僕たちのチーム)」へ持ち帰りたい。こんな機会をいただけて本当にありがたく思っていますし、参加できるのが待ちきれません!
TEXT&EDIT_持田 睦子 / Mutsuko Mochida