創業以来、数多くの人気タイトルを世に送り出してきたゲーム会社のセガが、昨年12月に新たにセガ札幌スタジオを設立、3月4日(金)に開所式が行われた。今回は、構想からわずか1年で設立に至った旗振り役であり、同スタジオの代表取締役社長に就任した瀬川隆哉氏に、設立の経緯やこれからの開発内容、今後の展望について聞いた。

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    国内2拠点目に札幌を選んだ理由

    CGWORLD編集部(以下、CGW):この度はセガ札幌スタジオ設立おめでとうございます。まずは今回のスタジオ設立の経緯をお聞かせください。

    瀬川隆哉氏(以下、瀬川):僕がセガに入社してからもう30年になります。その中で思うことは、セガの歴史は挑戦の歴史だったということです。色々な取り組みの中で、当然多くの失敗もありました。時代の先を行きすぎて皆さんがついていけないようなゲームを出したこともあります。シリーズ作品で続編を出すときに、前作から開発チームをガラッと変えるなど、イノベーションを生み出す環境があったと思います。

    瀬川隆哉/Takaya Segawa

    セガ札幌スタジオ 代表取締役社長
    1992年、株式会社セガ・エンタープライゼス(現:株式会社セガ)入社。『野球つく』『サカつく』シリーズ等、スポーツゲームのディレクション・プロデュースを経て開発部長、2012年サービス開始のオンラインゲーム『ファンタシースターオンライン2』IPオーナー等を歴任。2021年12月にセガ札幌スタジオ 代表取締役社長に就任する。

    瀬川:こうした経験の中で、セガの考え方を次の世代に伝承していかなければならないと感じるようになりました。そこで、次の世代と共に地域に根付いた環境をつくりたいと考え、セガ札幌スタジオを開設する運びとなりました。

    CGW:ゲームの開発という点で、主要都市としていくつか候補があったと思います。その中で、なぜ札幌を選択したのか、理由を教えてください。

    瀬川:ちょうど今から1年前にスタジオ新設の計画を起ち上げました。僕と秘書のたった2人で調査し、資料を作成してセガの経営陣に説明することから始まった計画は、人事や総務、広報の各担当も徐々に加わり、多くのメンバーが携わって今にいたります。

    実は、計画当時は札幌を含めた4つの都市を候補としていました。札幌は人口約200万人くらいの都市で、都市部から30分離れると豊かな自然に恵まれている。また、住みたい街に関する調査では上位にランクインすることが多く、Uターン、Iターンを希望する人材も見込めるなと感じていました。札幌市は北海道の文化の中心であり、周辺に大学も多くあります。そういった意味で、新卒採用も期待できると思い、札幌を選びました。

    セガ札幌スタジオ エントランス

    瀬川:札幌市に拠点を置くゲーム会社としては、元々ハドソンさんがおられましたが、当時のゲーム黎明期から頑張っておられた方々もデベロッパーの社長となられて、様々な会社が存在しています。このように、ゲームやエンターテインメントに関する活動がとても盛んな街だなと思っています。

    飛行機ですぐに東京と行き来できることも魅力のひとつです。最近ではリモートワークなどもできますが、教育の面での本社からのサポートなども考えると、往来のしやすさはスタジオ設立のポイントとなりました。

    CGW:確かに札幌は東京都へのアクセスが良く、本社とはスムーズにやりとりができそうですね。セガさんのような規模の会社が1年間でスタジオ開設となると、かなりスピーディだなと感じましたが、どのような背景があったのでしょうか?

    瀬川:登記は12月にはしていましたので、実際にかなり早いペースで進んだと思います。僕自身もここ最近、オンラインゲームの開発に携わってきて、スピード感が大事だなと痛感しています。世の中の時流はどんどん変わっていくので、決めてから早めに動かないといけない。また、スタジオ開設には、セガの様々な部門や札幌市さんの協力もあります。そういった意味では、関わっていただいた方々にもスピード感をもってご協力いただいたからこそ実現したのだと思います。

    3月4日(金)に開催された開所式の様子

    開発と品質管理という2つの役割

    瀬川:会社起ち上げの契機となったのは2年くらい前で、『ファンタシースターオンライン2(以下、PSO2)』を海外でサービスすることになったときでした。事業をグローバル展開する中で、アメリカに組織をつくりましたが、組織づくりの観点から会社を考えると、我々ソフト会社の喫緊の課題は、高いクオリティを出せる開発ラインをキープしていくことです。

    今はゲームの種類も爆発的に増えていますよね。ひと昔前までは、様々な開発会社の方が営業に来られていましたが、今では我々から営業をかけないとどこもラインが空いていないということもあります。そういった現状も踏まえて、早めの組織体制の構築が必要だと考えていました。

    CGW:札幌スタジオのクリエイターさんが担当する業務や作品はすでに決まっているのでしょうか?

    瀬川:札幌スタジオは新たな人員をこれから採用するということもあり、セガ社員の何名かが赴任しています。本スタジオには開発と品質管理という2つの役割があり、初期の段階ではセガの作品を一緒につくっていく方針です。まずは『PSO2』の開発とデバッグを行い、近いうちにはスマートフォンタイトルのデバッグまで業務を広げていきます。

    開発面でも、採用を進め規模が大きくなっていけば、セガの他タイトルの業務も担いたいと考えています。セガにはグループ会社が欧米とアジア合わせて8か所あり、そこから仕事を受けることも想定しています。今はプログラマーとデザイナーを募集していますが、これらの仕事に対応するには、セガ札幌スタジオでも将来的にプランナーやサウンドクリエイター、プロデューサーが必要になってくるでしょう。こうした人員が揃ってはじめてオリジナルタイトルにチャレンジできるようになると思います。

    CGW:なるほど。短期的には今必要な人材を採用するということですが、中長期のスパンでどのような目標を設定していますか?

    瀬川:ゲーム業界に関して言えば、これだけユーザーが増える中で、セガも世界に発信するゲームをつくっていきたいところです。今のところ5年で開発部門で60名、品質管理部門で150名の採用を考えています。ただ、これが上限というわけではなく、良い人材が採用できればこれ以上の人員になることもあり得ます。

    また、採用は新卒の学生だけでなく、Uターン、Iターンによる中途採用者も多いですね。今回採用が決まっているメンバーも、以前札幌に住んでいたメンバーも多くおります。こういった札幌に縁のある方も今後採用が増えると思います。

    CGW:確かに札幌出身の方はUターン、Iターン者が多い印象があります。札幌スタジオでの現在までの採用のご状況を教えていただけますか?

    瀬川:現在は東京のセガから赴任した社員を含めて4名程度で、開発部門は中途採用で何名か採用が決まってきています。品質管理の方は、1月11日(火)にスタジオ設立を公表し、そこから現在までで100名以上から応募いただいています。多くの方々は今まさに面接中です。

    セガ札幌スタジオは他社と比べて珍しく、開発と品質管理が同じ部屋で作業しています。品質管理のメンバーがデバッグだけでなくゲームのバランスやレベルデザインにまで手を広げられるよう成長してほしいと考えています。

    また、今後は人の手だけではなくAIなどによってデバッグができるしくみをつくっていきたいと思っていまして、そこは開発と品質管理のスタッフが同時にいないとできないだろうと考えています。

    設立当初のオフィスの様子

    地域に根付いた会社を目指したい

    CGW:セガ札幌スタジオではどのような人材に来てほしいと考えておられますか?

    瀬川:やはり、チャレンジできる方に来ていただきたいと思っています。安易な道を選ぶよりも、困難でも大きなチャレンジになる道をあえて選ぶのが当社の社風です。そういった意味では、仕事ひとつひとつに疑問をもって改良していこう、新しいツールを導入してみようなど、自発的な考えで動ける方を積極的に採用したいです。

    また、当社でもこれから色々な方を採用する中で、会社の武器や戦略、人員体制も変わってくると思います。限られた人員でパフォーマンスを発揮させるためには、「他人の仕事も取ってやろう」くらいの考えをもっていただけるとありがたいです。

    CGW:自発性や積極性を重視されておられるのですね。また、札幌スタジオということで、他のスタジオとは違う人材育成のビジョンなどはおありですか?

    瀬川:セガ札幌スタジオは地域に根付いた会社になっていくべきだと思っています。その一環として、セガでは高校などに社員が出向き、『ぷよぷよ』を使ったプログラミング講座を実施しています。北海道では千歳市の高校でこのような講座を実施しており、これからは北海道全域でも講座を運営していく予定です。また、大学や専門学校の講師としてゲーム開発の知識を教えるといった取り組みもできるようにしたいところです。このような取り組みを通して地域でクリエイターを育成し、最終的にはセガ札幌スタジオに入社してくれたらいいなと考えています。

    CGW:現在募集されている職種としては、Webサイトに掲載されているモデラー(3Dキャラクターモデラー、3D背景モデラー、3Dモーションデザイナー)とプログラマー(クライアントプログラマー、クライアントプログラマー、サーバープログラマー)だけでしょうか?

    瀬川:今はそこだけ募集していますが、当然アートができる方も欲しいですし、今後もさらに採用する職種を広げていくかたちになります。

    当面はこの組織で『PSO2』の開発を試しつつ、きっちり開発ができるとなれば、セガ内の他の事業部にも声をかけていき、様々なタイトルに携われるようになると思います。そうして現場が育っていけば、ようやくオリジナル作品もつくることができるようになるでしょう。

    CGW:ありがとうございました。最後に、今後の意気込みについてお聞かせください。

    瀬川:我々はグローバルにコンテンツを発信するという目標があります。日本でつくったゲーム、このセガ札幌スタジオからつくったゲームを世界の1人でも多くのユーザーに届けたいと願っています。

    セガ札幌スタジオでは、まだ社内のルールもあまり決まっていません。逆に言えば、皆さんの意見があればスピード感をもって色々な物事が決まっていきます。これから世界に向けて発信するコンテンツを、そのスピード感をもってつくり出していきたいと思っています。

    TEXT_江連良介 / Ezure Ryosuke
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)