2023年3月4日(土)、Webメディア・ゲームメーカーズ(株式会社ヒストリア)主催のイベント「ゲームメーカーズ スクランブル」が大崎ブライトコアホールにて開催された。
本記事では全10講演のセミナーの中からToo Kyo Games 小高和剛氏による「世界観とキャラクターの作り方」の模様を一部レポートする。
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Information
ゲームメーカーズスクランブル
開催日程:2023年3月4日(土)
開催時間:本編10:00-18:30/懇親会19:00-21:00
会場:大崎ブライトコアホール
参加費:無料(事前予約制)
主催:ゲームメーカーズ(株式会社ヒストリア)
gamemakers.jp/scramble2023
主観=「自分が好きかどうか」を軸に
小高氏は全世界累計売上570万本を超えるヒット作『ダンガンロンパ』シリーズの企画・シナリオをはじめ、オリジナルTVアニメ『アクダマドライブ』のシナリオ原案、実写ゲーム『デスカムトゥルー』、メディアミックス企画『トライブナイン』と、幅広い媒体で作品を送り出してきた。
ゲームを中心に据えながらも、小説の執筆やマンガの原作を手がけるなど活動は多岐にわたるが、それは「(他のメディアの)良いところを奪って、自分のゲームに採り入れたい」と思っているからだと話す。
オリジナルタイトルを手がける上では、それぞれのメディアの強みを理解することが欠かせない。
例えばゲームであればプレイヤーとのインタラクティブ性がメインになるし、アニメであればキャラクターの魅力がより伝わりやすい。マンガはアニメに近い表現だと思われがちだが、より主人公にスポットが当たる傾向にあるため、群像劇などはアニメの方が適しているという。
実写の場合は役者そのもののパワーが非常に強い。「『デスカムトゥルー』には本郷奏多君、森崎ウィン君、栗山千明さんに出演してもらいましたが、あの人たちが演じれば何とかなると感じました。そこが大きくちがいます」とコメント。
役者の良さを打ち消してしまわないように、変な設定を大量に盛り込むといったことはせず、足を引っ張らないことを心がけたとふり返る。
小高氏がゲーム制作において最も重視しているのは「全てのゲームシステムは、鮮烈なストーリー体験をつくるための演出」と考えることだ。
世の中に存在する大量のゲームの中からユーザーに選んでもらうためには、自分たちしか出せない味で勝負をする必要がある。小高氏の場合はストーリーであり、「あらゆるシステムはストーリーを感動させるためのもの」と見なして全力を注いでいる。
そしてゲームは、システムとストーリーの両方がキャラクターを通じて表現されるメディアである。キャラクターの行動にプレイヤーがどう介入するのかがシステムになり、キャラクター同士の会話の連なりがストーリーになっていく。ゲームを面白くするためには魅力的なキャラクターが必要不可欠なのだ。
小高氏がキャラクターづくりの拠り所にしているのは「主観的な愛」。つまり判断基準は「自分が好きかどうか」ということ。
オリジナルタイトルが既存IPのゲーム化とちがうのはゼロからのスタートになることで、決めなければいけないことが多く、途中でプロジェクトの存続が危うくなることも珍しくはない。そんなときに「これがつくりたいんだ!」というワクワクする気持ちが、ゴールにたどり着くための原動力になる。
そんなパワーをもつ「好き」を増やすためには、いろいろなゲーム、マンガ、アニメ、映画を楽しんだり、面白い人と出会って話したりすることが重要だ。そういった経験によって好みの幅が広がって、ゲーム制作のヒントにできる作品やキャラクターがどんどん増えていく。もし1つの作品だけを参照すればパクリになってしまうが、多くの作品から面白いと感じた部分を採り入れれば、自分の色が自然と出てきてオリジナリティが生まれるだろう。
またキャラクターはストーリー、セリフ、デザイン、ボイスと、全ての要素が揃わないと命が宿らない。そのため制作中にキャラクターの魅力をスタッフ同士で共有するのは非常に難しい。
しかし多くの作品に触れていて、他のスタッフと共通言語をたくさんもっていれば、「あの作品のあのキャラっぽく」といった説明もできる。そういった点においても、様々な作品に触れておくメリットがあると伝えた。
キャラクターに愛情をもつための工夫とは?
セミナーの中盤では『ダンガンロンパ』シリーズ第1作『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』を例に、キャラクターの作り方を具体的に紹介した。
大量のキーワードを用意して、バックボーン、見た目、性格を決める方法論や、それによって生まれたキャラクターに意外な出来事を組み合わせて深みを出すテクニック、さらには制作中の裏話も披露。シリーズのファンにとっても貴重な時間となった。
質疑応答のコーナーでは、キャラクターに愛情をもつ方法についての質問が複数飛んだ。現役のシナリオライターからは「他社IPの場合は問題ないが、オリジナルだとキャラクターが形作られていく解剖図のようなものを知ってしまっているので愛情がもちにくい」という悩み相談が。
小高氏は、キャラクターを知りすぎているから愛情がもてないのはよくあるパターンだという。自身も似た悩みとして「プロットをシナリオに落とし込むときに、自分が書いたシナリオがつまらなく思えて仕方がない」と感じてしまうそうだ。
その解決法は何度も書き直すこと。小高氏は第20稿ぐらいまでシナリオに手を加えており、そこまでやると他人が書いたもののように客観視できると、粘り強く書き続ける大切さを説いた。
キャラクターのネーミングについての質問では「名前の響きを大事にしている」と回答。「小高和剛(コダカカズタカ)という僕の名前がすごく呼びづらくて、全然気に入っていないんです」と会場の笑いを誘い、スムーズに呼べる名前を心がけていると語る。
思い入れのあるキャラクターには自分のルーツを忍ばせるという遊び心を加えることもあり、「『ニューダンガンロンパV3』の主人公の赤松 楓という名前は、僕が通っていた小学校が由来なんです。それもキャラクターを好きになるための要素になるんですよ」と打ち明けた。
「大勢のキャラクターをつくると、どうしてもキャラ被りが起きてしまうのでは?」という問いには、バックボーン、見た目、性格をきちんと決めておけば、全てが同じになることはないと断言。
シナリオの段階では文字情報しかないため、ほかのスタッフから過去作と似ていると指摘されることもあるが、完成に近付いてデザインやボイスなどが入ると、まったく違うキャラに変貌することが多いという。
「キャラ被りを恐れて無理に離そうとするのも問題で、キャラクターへの愛がなくなってしまうんです」とコメント。自分の好きという気持ちをどうやってゲームづくりに昇華させるのか。その秘訣を垣間見える1時間のセミナーは大盛況の内に幕を閉じた。
講演動画
TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
PHOTO_島田健次 / Kenji Shimada
EDIT_柳田晴香 / Haruka Yanagida(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)